医療技術

2600年前の人間の頭蓋骨「脳が無傷」で残ってた!なぜ?英研究

 東京・上野の国立科学博物館で開催中の「ミイラ展」は、日本をはじめ、本場エジプトや南米、ヨーロッパ、オセアニアから集められた43体のミイラが展示されていて連日大盛況だ(〜2月24日まで)。

 

 人が死んだ場合、最初に脳や内臓から腐敗が進行するため、古代エジプトや南米アンデスでは、脳や内臓などを摘出したあと、人為的に防腐処理や乾燥させてミイラにする技術を発達させた。しかし2008年、英国北部で鉄器時代の男の頭蓋骨が発掘され、内部にほぼ無傷の脳が見つかったことから研究者たちが驚いた!

斬首した頭?古代の生贄か

 2600年前の脳が見つかったのは、ノース・ヨークシャー州の町ヨークだ。2008年、地元大学の依頼を受けた考古学チームがヘスリントン地区の畑を調査中、鉄器時代の遺跡を発見。

 

 頭蓋骨は、首を絞めて殺された後、刃物で斬首された痕跡があり、首から下の骨はなかったが、周囲からシカの角や石飾りなどが発掘されたことから、考古学者は古代の儀式で生贄として殺された犠牲者である可能性が高いと推測している。

26〜45歳の男

 しかしもっと驚いたのは、考古学者が見つかった頭蓋骨を洗浄中に、頭蓋骨の中から土にまみれた黄色い脳組織が見つかったことだ。放射性炭素年代測定法によって頭蓋骨は、紀元前673〜482年の間に死亡した、26〜45歳の男であることは判明したものの、2600年もの間、腐敗せずに残った脳の謎は謎のままだ。

 

 そこでユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの脳科学研究所のアクセル・ペツォルド准教授らのチームが10年余りに及ぶ研究の末、とうとう結論を導いた。

分解酵素が働かなかったのは

 今月8日に『Journal of the Royal Society Interface』に発表した論文によると、「ヘスリントンの脳」には、脳組織を腐敗させる酵素がほとんど活動しなかったため、タンパク質同士が寄り集まって塊となった(凝集体)ことから、ほぼ無傷で保存された可能性が高いという。

 

 ペツォルド博士は長年、脳細胞を保持する足場としての役割を果たす「グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)」と「ニューロフィラメント」という神経細胞の研究を続けてきたが、ヘスリントンの脳にはこれらが多く残っていた。通常なら脳の内側の「白質」部分に多いニューロフィラメントが、外側の「灰白質」にまで広がっていたことから、分解酵素の働きを食い止めた可能性が高いと見ている。

 では酵素が働かなかったのはなぜか?博士によると、男性は死ぬ前か死んだ直後に、リン酸のような酸性度が強い液体が脳内に染み込んだために、酸が酵素の働きを止めたと話している。これを裏付けるために再現実験を行った結果、分解酵素が働かなければ、わずか3カ月でタンパク質が凝集することも判明した。

 

 博士は、この研究成果がアルツハイマー病の解明に貢献するかもしれないと期待を寄せている。アルツハイマー病は原因がまだ完全に解明されていないが、長い時間をかけて、脳内に沈着した異常なタンパク質によって、神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮すると考えられているからだ。

 

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