東京電力・福島第一原発で生じている汚染水を浄化処理した後、なお放射性物質のトリチウムが残る水をどう処分するのか。その方法を決めるにあたり、政府が福島市で地元の意見を聴く会を開いた。
政府が掲げる海や大気への放出案について出席者の賛否は分かれたが、風評被害への根強い懸念は共通する。トリチウムに関する情報発信が不十分との指摘も相次いだ。政府は結論を急がず、丁寧な説明と対話を尽くさねばならない。
事故を起こした三つの原子炉では、溶け落ちた核燃料を冷やす注水や地下水の流入により、放射能で汚染された水が出続けている。浄化装置ではトリチウムを取り除けず、敷地内に設けたタンクにためており、すでに1千基に達した。東電によると2022年夏ごろに用地がなくなるという。
処分方法について経済産業省の小委員会は2月、薄めて海に流す案と蒸発させて大気に放出する案を現実的な選択肢とし、特に海洋放出を有力とする姿勢をにじませた。それを受けて開かれた会合に、県や市町村、産業界から10人が出席した。
海へ流す場合、再び浄化処理したうえで海水で薄めるが、福島県漁連は「若い後継者の将来のためにも海への放出は反対」とした。水揚げがなお震災前の約14%にとどまるだけに、拒否の姿勢を貫くのも当然だろう。
一方、県旅館ホテル生活衛生同業組合は、海への放出を認める立場をとった。その上で、放出で予想される観光業への悪影響について「風評被害ではなく故意の加害行為による損失だ」として、放出が終了するまでの補償を求めた。
自然環境への放出に賛否の違いや温度差はあるにせよ、多くの出席者が風評被害への心配を口にしたのは見すごせない。
放出による新たな風評被害を、どう防ぐのか。被害が生じた場合、どう補償するのか。国や東電が対策の全体像を具体的に示さない限り、議論は深まらないだろう。
会合は地元からの出席者が意見を語る場面がほとんどで、政府側とのやりとりはほぼなかった。市民や消費者の代表も呼ばれていない。来週も福島県内で意見を聴く会が開かれるが、対話をおろそかにしたまま、放出の手続きを前に進めるための儀式に終わらせてはならない。
「海に県境はない。他県の漁業者の意見も聴くべきだ」「安全というのなら、県外での処分も検討してほしい」。今回の会合では、全国の声を聴くよう求める発言があった。処理水の処分は福島だけの問題ではない。そのことを肝に銘じたい。
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