前回は、白黒思考の元のところにあるものとして「万能感」のお話をしました。今回は、万能感そのものについてお話したいと思います。
万能感とは
万能感は、「自分は、やろうと思えばなんでもできる」という感覚です。
小さい子どもはみんな持っています。
成長するために不可欠だからです。
実際は小さい子は、ひとりでは何もできません。
何もできない子が「自分は何もできない」と思ってしまうと、本当に何もできるようになりません。
だから「やれば何でもできるんだ」という気持ちを持ち、何にでも挑戦するのです。
その結果、人間として社会で生きるスキルを身に着けていくわけです。
この万能感を、もう少し詳しく見てみましょう。
万能感の中身
万能感には、次の傾向があります。
●「できる自分」と「できない自分」を別々のものと感じる。
そして、「できない自分」は見ない。
●「できる人(親)」と「できない人(自分)」の区別をしない。
つまり、自分が望んだことを他人(親)がすると「できた(自分がした)」と思える。
このため、無意識で相手を自分の思い通りに動かそうとする。
ここまでくると、万能感を持っている人にとって、何がストレスになるかが見えてきます。
「自分の思い通りに動いてくれない」とき、強いストレスを感じますね。
相手を思い通りに動かそうとする
(「相手を思い通りにしたい気持ち」については、「怒り」の深層(11)「予定が狂ってイラッ!②相手がいる場合」でもお話しました)。
赤ちゃんは、周囲の大人が自分の思い通りに動いてもらわないと命にかかわります。
お腹がすいたら、すぐにでもおっぱいが欲しいのです。
おっぱいが口にふくまれると、赤ちゃんは「自分の力」と感じます。
どこか痛いところがあったら、今すぐに取り除いてほしいのです。
取り除いてもらうのは、赤ちゃんにとって当然のことですから、お礼の必要はありません。
大人たちは、必死になって赤ちゃんの要求を理解して、思い通りに動いてあげます。
こうして赤ちゃんは無事、命を繋いでいくのです。
しかし、
赤ちゃんは、だんだん大きくなっていくプロセスで、「大人は思い通りには動いてくれないこともある」ことを学び、「できない自分」を受け入れ、全能感を手放していきます。
ところが大人になっても万能感を持ち続ける人がいます。
なぜ万能感をもったまま大人になったの?
●親が過保護だったり、過干渉だったりしましたか?
●親に否定されたり、認めてもらうことなく大きくなりましたか?
●親に愛されてないと感じてきましたか?
●きょうだい間で差がありましたか?
●子どもの頃、なんでも思い通りになりましたか?
●挫折の経験はありますか?
さまざまな理由により、万能感を手放す機会がなかったのです。
大人になっても万能感を持っている人はイライラすることが多く、とても生きづらくなります。
大人の万能感
現実には、相手は自分の思い通りには動かないのが普通です。
わかっているのに、思い通りに動かないとイライラする人は多いのです。
その人は、無意識に相手をコントロールしようとしていた可能性があります。
意識はしていません。
無意識なんです。
意識できるのは、相手に対する「イライラ」や、「ストレス」だけです。
万能感が強ければ強いほど、「イライラ」は激しくなり、ときに爆発します。
赤ちゃんは、この世の終わりかと思うほど泣き叫び、周囲をあたふたさせます。
大人も、突然キレたりして、周囲をあたふたさせます。
でも、赤ちゃんの万能感は、(繰り返しますが)成長の過程で徐々になくなっていきます。
ところが、大人になって全能感を持っている人は、簡単ではありません。
大人まで持ち続けた万能感ですから、「万能感が傷つく」ことは恐怖になっています。
そのため、
失敗しそうなことには手を出しません。
「何もしない」、「本気でしない」、「一生懸命しない」ことによって、万能感を維持させます。
もちろん、これも無意識です。
挑戦して、もし失敗した時には「本気じゃなかった」と言えばいいのです。
これで万能感は維持されます。
なかなか万能感を手放すのは困難なのです。
万能感を手放す
相手を思い通りに動かそうとするのは、無意識だと言いました。
キレる大人は、無意識でキレるのです。
キレる人がよく「覚えてない」と言うのは、無意識だからですね。
大人が万能感を手放すには、まずは、「意識する」ことが大事になります。
「他人をコントロールしようとしている」ことを意識するのです。
「相手にイライラしたとき」がチャンスです。
ただ、ひとりで気づくのはとても難しいのですが、やってみる価値はあります。