新型コロナウイルスの感染拡大が雇用情勢に深刻な影響を及ぼし始めている。解雇や雇い止めが広がり、暮らしが立ちゆかない人々も激増している。今は官民が一致協力して働く場を守る時だ。
政府が発表した二月の雇用情勢判断で六年九カ月ぶりに「改善」の文字が消えた。今後、新型コロナによる打撃が、失業率や有効求人倍率の急激な悪化となって顕在化するのは間違いないだろう。
事態がより深刻化しているのは中小事業者だ。裾野が広い自動車メーカーが相次いで工場の操業停止に踏み切り、その影響により下請け企業での雇い止めが増えるのは確実だ。
とりわけ全体で38・3%(二〇一九年)に上る非正規労働者へのしわ寄せは自動車関連に限らず一層厳しさを増すだろう。正規と比べて法的に守られておらず、真っ先にリストラの対象となる恐れがあるためだ。
経営悪化で休業手当を出す企業は雇用調整助成金が受けられる。ただ手当の一部負担を嫌がり、あえて助成金の申請をせずに非正規切りに踏み切るケースも出ている。正規、非正規の区別なく制度を活用するよう政府が事業者に強く促す必要がある。さらに制度を熟知していない経営者がいる可能性も否定できず、改めて周知徹底を図るべきだ。
宿泊施設や旅行業者、飲食店などでは自粛により客自体がおらず、アルバイトの解雇や派遣切りが激増している。劇場などエンターテインメント関連や遊興施設でも同様で、雇用危機は全産業に広がったとみていい。一部企業で他社を解雇された人を再雇用する動きがあるが、こうした企業には税の減免などで報いてほしい。
内定取り消しが依然続いていることも心配だ。このままだと来年春採用にも甚大な影響が及ぶ。
円安や株高を背景に高収益を続け内部留保を増やしてきた大企業は多いはずだ。若い世代の雇用維持に向け積極的な採用姿勢を続けるようくぎを刺しておきたい。
政府は今週にも大規模な緊急経済対策をまとめる。雇用については検討中の助成金拡充を超える大胆な休業補償を実現してほしい。中小支援だけでなく、企業経営を支える信用金庫など地域金融への手厚い配慮も忘れてはならない。
雇用の喪失は収入だけでなく人々の尊厳も奪う。「年越し派遣村」が再現しては元も子もない。強い覚悟で財政出動を求めたい。
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