権力保持のための改憲だと言わざるを得ない。プーチン・ロシア大統領の続投に道を開く憲法改正案が固まった。変化を封じ現状維持を図れば図るほど、社会の歩みは停滞する。
プーチン氏が年明けに打ち上げて以来、改憲は見る見るうちに具体化した。議会審議を経て二カ月ほどで改憲案はまとまり、四月二十二日に設定された国民投票で承認されると見込まれていた。
ところが、プーチン氏の目算に狂いが生じた。コロナ禍の悪化で国民投票が延期になったのだ。新たな投票日は定まっていない。
改憲内容をめぐるプーチン氏の考えも揺れが目立った。
改憲の柱は大統領、政府、議会の権力構造の見直し。プーチン氏は当初、大統領が持つ首相の任命権を下院に移して強い大統領権限を縮小する考えを示した。大統領任期を通算二期までとして、二〇二四年の任期切れ後に再登板する可能性を否定した。
一方でプーチン氏は「ロシアは強い権限を有する大統領がいる国であるべきだ」とも主張した。
議会審議の土壇場になると、大統領経験者は過去の任期数をゼロにリセットすることが決まった。これでプーチン氏が任期制限を気にすることなく続投できる余地が生まれた。
世界初の女性宇宙飛行士として知られるテレシコワ下院議員が、国の安定のためだとして提案した修正案だが、実際は政権中枢が描いたシナリオだったのだろう。
大統領権限と任期の問題をめぐるプーチン氏の姿勢のぶれの背後には、プーチン体制の変化を望まない既得権益層の影がちらついている。
プーチン氏が実権を握って二十年を超える。スターリンに次ぐ長期政権だ。ソ連崩壊後の混乱を収めて安定をもたらしたプーチン氏への国民の支持は底堅い。逆に、いずれ訪れる「プーチン後」には、不安が先に立つ。
それでもプーチン氏に過度の権力集中を許した長期政権の弊害は根深い。政権中枢が有力企業の多くを支配下に置き、利権を分け合う構図が出来上がった。メディア統制で異論を封じ、腐敗の蔓延(まんえん)も改善しない。
都市部の若者にはそんなよどみが耐え難い。政権側は若者の変化への期待を力で抑え込んできた。今後もその姿勢を変えようとしないだろうが、プーチン氏が向き合うべきは社会の閉塞(へいそく)状況である。
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