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 人口1100万人の都市を封鎖するという異例の感染防止策が続いて2カ月半。中国・武漢市と域外との往来を禁じる措置が解かれた。

 武漢は新型コロナウイルスの感染が最初に確認された都市とされ、2500人超が亡くなった。中国でもっとも感染が深刻化した街で、ふだんの市民生活の回復に向けた一歩が踏み出されることになる。

 ただ、多くの疑問と謎が今も残されたままだ。

 昨年来、武漢でいったい何が起きたのか。都市封鎖によってどんな事態が生じたのか。

 感染源の調査や分析には時間がかかるとしても、当局が行った防止策の詳細と感染被害の変遷、社会でおきた影響などは把握しているはずだ。

 都市封鎖を終えても情報封鎖は続けるという姿勢では、国民も国際社会も納得できない。中国政府は都合の悪い情報も公開し、新たなウイルス禍と闘う教訓を共有すべきである。

 感染情報をめぐっては、当局の発表より早く発信した地元医師が「デマを流した」として警察から処分を受けた。情報を抑え込もうとしたケースは、それ以外にも報じられている。

 こうした隠蔽(いんぺい)は感染の拡大に重大な影響を与えた可能性がある。対応の遅れの責任をとる形で湖北省や武漢市のトップは更迭されたが、当時の詳細は今も明らかにされていない。

 それどころか共産党政権は人々が自らの情報や考えを自由に発信することを抑え込んだままだ。武漢の医療現場をSNSで伝えようとした弁護士らは行方不明になっている。封鎖生活をつづった著名作家の日記もネット上で削除された。

 自由な情報交換がなければ、感染対策の発展もない。中国政府は「感染のピークを越えた」とするが、根拠となる統計にも不信の目が向けられている。

 李克強(リーコーチアン)首相は最近、「(統計で)隠蔽や漏れがあってはならない」と警告を発した。中国政府は感染封じ込めと共に、経済活動再開の指示も出している。現場は難しい対応を迫られているに違いない。警告よりも必要なのは、強権的な統治手法の見直しではないか。

 未知の感染症にとどまらず、中国政府が発する国内情報は、経済、軍事、司法など、多くの分野で疑問符がつきまとう。その不透明さのなかで、どれほど国民の人権が害され、国際社会に不安を与えてきたことか。

 コロナ禍は、中国の閉ざされた言論空間が、世界にとっての脅威であることを示している。中国がグローバルな課題に取り組む責任を果たすには、まず情報公開から始めるべきだ。

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