大林宣彦監督が映画に託す、“自由”と“未来”
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【Tokyo cinema cloud X by 八雲ふみね 第809回】
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信する「Tokyo cinema cloud X(トーキョー シネマ クラウド エックス)」。
自主製作映画の先駆者として、CM草創期を支えたCMディレクターとして、そして映画監督として、日本の映像史を常に最先端で切り拓いて来た“映像の魔術師”、大林宣彦。
ご自身の故郷である尾道を舞台にした『転校生』(1982年)、『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)は“尾道三部作”と称され、世代を超えて多くの映画ファンに親しまれています。
そこで今回は、尾道三部作だけじゃない! 大林宣彦監督が世に送り出した名作4作品をご紹介します。
映画は未来を変えられる…大林宣彦監督 魂の4選
中年のシナリオ・ライターがある事件をきっかけに、12歳のときに交通事故で亡くなったはずの両親と再会。その不思議な体験を描いた『異人たちとの夏』。
第1回山本周五郎賞を受賞した山田太一の小説を、市川森一が脚色。大林宣彦監督が演出した異色作です。
死んだはずの両親の元に通う主人公・原田英雄役に風間杜夫、両親役に片岡鶴太郎と秋吉久美子、英雄と同じマンションに住む謎の美女・桂(ケイ)役に名取裕子と、実力派キャストが顔を揃えています。
大林映画の特色のひとつでもある、“死者との交流”がベースにある本作。なかでも、主人公と両親の別れのシーンは秀逸で、何度観ても号泣することしきり。親子の情愛と慈しみの心は、時空さえも超える永遠のものだということに改めて気付かされます。
私、八雲にとっては、これまで観た映画のなかで「好きな日本映画ベスト5」に入る作品です。
いつかは訪れる最期の日。“その日”を宣告されたものと、それを見守る人々の姿を描いた『その日のまえに』。重松清の同名小説を大林宣彦監督が映像化した人間ドラマです。
南原清隆と永作博美が夫婦役で共演。筧利夫、今井雅之、原田夏希、柴田理恵、風間杜夫、宝生舞ら、豪華俳優陣が脇を固めています。
大林宣彦監督自身、“70歳の新人監督”という気持ちで撮ったという本作。いわゆる“難病もの”でありながら、むしろ当時流行していた“難病&泣ける映画”に対するアンチテーゼとも取れるような作風が印象的。
生きることの素晴らしさにあふれた感動作です。
檀一雄の純文学「花筐」を原作に、戦争の足音が迫る時代を懸命に生きる若者たちの友情や恋を赤裸々に映し出した青春群像劇『花筐/HANAGATAMI』。
本作は、大林宣彦監督のデビュー作『HOUSE/ハウス』(1977年)より以前に書き上げられていた幻の脚本によるもので、40年の時を経て奇蹟の映画化。『この空の花』『野のなななのか』と並ぶ“大林宣彦的戦争三部作”の1作で、その最終作にあたります。
第二次世界大戦前の高揚感や絶望感。ありとあらゆる感情が入り乱れる、混沌とした当時の日本の様子を描き出す映像力には、圧巻の一言です。
「反戦」と「平和」への願いを込めて映画を作り続けて来た大林宣彦監督の最新作となるのが『海辺の映画館-キネマの玉手箱』。
20年ぶりに故郷・尾道で撮影した本作は、戦争の歴史を辿りながら、無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルとさまざまな映画表現で展開して行く、誰も体験したことがない究極のエンタテインメント作品です。
映画は未来を変えられる。大林監督が新しい世代に託したメッセージが、アバンギャルドに炸裂する1作です。
「第32回東京国際映画祭」では長年にわたり日本映画界を牽引して来たその功績が認められ、特別功労賞を受賞。贈呈式では「あと3000年は生きて映画を作り続けます」と宣言した大林監督。
がんで余命宣告されながらも、いまなお「映画を作る」という責務と向き合っているエネルギーが伝わって来る1作です。
<作品情報>
■異人たちとの夏(1988年公開)
Blu-ray&DVD発売中 デジタル配信中
監督:大林宣彦
原作:山田太一「異人たちとの夏」(新潮文庫)
脚本:市川森一
出演:風間杜夫、片岡鶴太郎、秋吉久美子、名取裕子、永島敏行
■その日のまえに(2008年公開)
DVD発売中 デジタル配信中
監督: 大林宣彦
原作: 重松清「その日のまえに」(文春文庫)
脚本: 市川森一
撮影台本: 大林宣彦、南柱根
主題歌:クラムボン「永訣の朝 抄」
出演:南原清隆、永作博美、筧利夫、今井雅之、勝野雅奈恵、原田夏希、柴田理恵、風間杜夫、宝生舞、寺島咲、村田雄浩、窪塚俊介
■花筐/HANAGATAMI(2017年公開)
Blu-ray&DVD発売中 デジタル配信中
監督:大林宣彦
原作:檀一雄「花筐」(小学館 刊)
主題歌:門脇麦「月地抄」
出演:窪塚俊介、矢作穂香、常盤貴子、満島真之介、長塚圭史、山崎紘菜、柄本時生、門脇麦
(C)唐津映画製作委員会/PSC 2017
公式サイト https://hanagatami-movie.jp/
■海辺の映画館-キネマの玉手箱(近日公開)
監督・脚本・編集:大林宣彦
脚本:内藤忠司、小中和哉
出演:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲(新人)、成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子
(C)2020「海辺の映画館 キネマの玉手箱」製作委員会/PSC
公式サイト https://umibenoeigakan.jp/
八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。
機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。
初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。
トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com