マーレとインクリメント   作:めいどすきあき

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 休み前に書き終わるとは思っていませんでした。
よろしくお願いします。

前回アルベドがアインズ様を押し倒したと書いてしまったため、ペストーニャは謹慎中と相成りました・・・わん

追記…少し変更しました。やはり初めてあったような書き方は良くないと思い、今の関係になれたというニュアンスに変更しました。


マーレとインクリメント 後編  ~幸せ~

 6階層は基本樹海ではあるが表情は豊かだった。闘技場だけでなく巨大樹に廃墟といった多くのオブジェクトが配置され、また至高の1柱ブループラネット渾身の空だけでも見応えのある景色だった。ただし一部地区はおすすめできるものではなく間違ってもそちらに入り込まぬようにアウラのシモベが周りを固めていた。

 そんな6階層にある湖畔の草原を会場としテーブルなどは日差しを避けるために少し離れた木陰に設置されていた。

 

 普段のメイド服とは違う服…セーラ服やナース服、ブルマに着物にウェディングドレスにしか見えないもの…みんな色々な服を着て楽しそうに並んでいる前でアウラが話をしていた。

 

「そんなわけで、ただ見て回ってもつまらないだろうから宝探しにしました!お宝はアインズ様が用意してくださった金貨です!」

 アウラの説明にメイドたちの間から喜びの声が上がる

「し・か・も、ナザリックの宝物殿ではなくアインズ様が個人的に所有し大切にされていた旧金貨です!」

 

 アインズが金貨を用意した理由は簡単だった。人数+予備で50個の提供を頼まれた際に“隠せるサイズで数のあるもの”というリクエストを考慮に入れた際、真っ先に金貨に思い至っただけであり、多少の後ろめたさから思い入れのある旧金貨を提供したという単純なものだったが、アインズ所有の思い入れのある金貨というフレーズはそれだけで天井知らずに価値を押し上げた。

 

「地図はみんなバラバラにしようかとも思ったんだけど、せっかくだから同じ物を4枚づつ用意しました。で地図は箱のなかに入れてあるのを引いてもらうからね」

 チーム分けは謹慎中のペストーニャ…アインズはペストーニャも参加すると思っていたが、謹慎を続けると回答した…から提案された“姉妹でグループになリ易いのであえてバラけさせたい”という意見を取り入たものだ。

 

「後、ぶっちゃけ歩いて目的地に行ったら1日で帰ってこれないから移動は私のシモベに乗ってもらいます。きちんと椅子つけてるから安心してね、そんなわけで時間はお昼ぐらいには帰ってこれると思います」

アウラの説明が途切れるとメイドの中から手が上がった。

「は~~い!アウラ様!質問です」

「なに~?」

「ペンギンも一緒ですか?」

メイドたちはほぼ全員がその質問に相槌を打つ中アウラは想定通りといった顔で応える

「残念ながら別!流石にエクレアに密林はきついだろうから水温を適温に調整した湖で遊んで貰う予定です。エクレア?宝物は湖底だからがんばって探してね」

「おお、アウラ様お気遣いありがとうございます。大変楽しみですな」

「アウラ様!ありがとうございます!!」

皆の利害が一致した。

「湖はエクレア好みに設定しちゃったから、泳ぐのは出来ないけど又の機会ということで、他に質問がなければみんなくじ引いて~」

 マーレとインクリメントが地図を入れた箱を持ちみんなの所を回っていくと、マーレには感謝の言葉が送られ、インクリメントには要約すると「うまくやってるわね、後で報告しなさいよ幸せもの」というやじうま魂が降り注いだ。

 

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 アウラのシモベが各班に付いていることもあり、皆を送り出してしまうとすることがなくなったマーレはインクリメントのところに走り寄る

「あっあの…インクリメントさん!いっ一緒に本読みませんか?」

「うん!読む!読みたい」

インクリメントは準備の時から目星をつけていた吊るし椅子のベンチを指差す

「あそこで読みたい…いい?」

「はい!あっぼ…僕飲み物取ってくるので…あの…何がいいですか?」

「ん…紅茶がいい。冷めても美味しいものが嬉しい」

「あっわ…わかります。本読んでると飲み忘れるんですよね」

「そうね…何度も苦くなった紅茶を飲んだわ」

「い…いってくるね!」

「お願い。マーレ君」

 

 インクリメントは手を振ってマーレを見送り、本を持って吊るし椅子に座る。

風に揺れる木の葉でふるいにかけられた日の光がキラキラと降り注ぐ、体を動かすと揺れる椅子が心地よい。

「私とても幸せ」

 それはアインズに仕えることの幸せとは別に新しい幸せを見つけられた喜びの言葉だった。それでも…もしアインズにマーレと会うなと言われればそれに従うだろうということも理解していた。それでも幸せと感じるのが不思議で、インクリメントは本を開かずに木漏れ日を浴びながら考えていると以前食堂で誰かが言っていた言葉を思い出す

『なんで一緒にいるのかって?難しいこと聞くなー…んーアインズ様にお仕えするのが当たり前みたいに一緒にいるのが当たり前だからかなー?姉妹とは違う…んー友達だからって感じ?』

「ああ…フォアイルだ…友達か…そういえばもしアインズ様がお休みをくださらなかったら?」

 アインズが仕事をしない日を作れと命じた時、インクリメントを含め全メイドが反対した。自分にとって最も幸せな行為を禁止されれば誰でも怒るだろう。それでも魂を揺さぶられるほどのアインズ様当番という対価によって受け入れたものの、仕事一筋だったメイドにとって休みの日は持て余すものだった。それでも休みがなければ今に至る出会いはなかったかもしれない。もしそうであるならばインクリメントにとってマーレとの出会いはアインズに与えられた祝福に思われた。

 

「アインズ様感謝いたします…」

落ち着いいた心はインクリメントを眠りに誘った。

 

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「マーレ様ーインクリメントーもう夜だよー終わりだよー帰るよー」

 つり椅子を揺らされ棒読みで何度も呼びかけられインクリメントは目を覚ます

「え…夜?」

 ゆっくりと目を開けて周りを確認するが初めての空のもとで時間がピンと来ないものの、声をかけたのがフォアイルとわかり嘘だと気づく。

「夜か、残念…フォアイルはもう帰るんだ」

 寝ぼけながらも見え透いた嘘に突っ込む

「わわわー嘘だよー嘘ーそれよりお昼ごはんの準備はできてるから、マーレ様起こしてねー任せたよーあとこれ濡れタオル」

 濡れタオルを渡され、周りを見渡すがまだ頭がはっきりとしないが膝に何かが乗っているのを感じ下を見る

 

「マーレ君???」

 一気に頭が冴える。マーレはインクリメントの膝に頭を乗せ気持ちよさそうに寝ていた。柔らかそうなほっぺたを指でつつきたいという衝動に駆られながらもそれを…仲間たちのひやかし対策のために…抑える。それでも幸せな気分で顔が緩むのは抑えきれず、このままでいたい欲求を押し殺し勤めを果たそうとすると

「インクリメント!よだれよだれ!」

 仲間の声でフォアイルに渡されたタオルの意味を察し慌てて顔を拭く。少なくともマーレに見られなかったと自分を慰めてから、マーレの肩をゆする

「マーレ君、起きて、マーレ君」

「ん…もう少し…」

ぐずるマーレの意外な一面を見て可愛いなと思いつつもメイド魂がそれを許さない

「起きなさい!マーレ君!幹事でしょ!」

 マーレは飛び起きる

「は…はい!!おはようございます」

「おはよう、マーレ君」

「ご、ごめんなさい!寝ちゃいました」

「私もごめんなさい。心地よくて寝てしまったみたい」

 

 お互いに謝り始める二人をアウラが制する

「もういいからご飯食べよう、みんなお腹へってるよー」

 

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 午後から、アウラといく6階層探索ツアー、マーレの図書館体験、マーレの龍によるドラゴンライド、そしてインクリメント担当の休憩所が予定されていたが、午前中にアウラのシモベで密林を駆け抜ける恐怖に心が折れたものが多かったことでアウラのツアーはより刺激を求める精鋭のみの先鋭化したものとなり、かわりに図書館ツアーの後に予定されていたドラゴンライドが前倒しされ、インクリメントが担当を任された。

 とは言え別にドラゴンに騎乗して何かするのではなく、受付時にコースの希望をまとめてそれを竜に伝えるだけの仕事だった。というのも全員のリクエストを竜が直接聞いていては収集がつかなくなるからで、インクリメントの指示のみを聞く様にマーレが命じたからだ。

 

 インクリメントは仲間たちがあまりひやかしに来ないことに安堵と恐怖を覚えていたが、周りからすれば恥ずかしがるのをからかうことは面白いが、気持ちが定まったものにちょっかいを掛けてもあまり面白くないというのが本音であった。またどうせ話を聞くなら明日からの娯楽にしようという思いもあり、インクリメントは忙しいながらも平穏な午後を過ごしていた。

 

 そして日が傾き始めた頃予定通り全員が戻ってきた。

 

 今から始まるのはアインズ様にお姫様抱っこされる券争奪椅子取りゲーム。

マーレはアインズ様に抱っこされるために参加したいと本気で望んでいたが、自分が出場すれば勝つのが確定しているし、それを理由にアルベドが参加しかねないと思っていた。そしてアルベドが参加してしまえばこちらの攻撃をカウンターされそのすきに座られてしまい勝てないと判断している。もしかしたらマーレが参加するのをはじめから期待されているのかもしれないと深読みしてしまう。それでも同じことを何度も考えてしまうほどアインズ様に抱っこされるのは魅力的だった。

 ただ、それ以上にアインズに任せられた仕事を成功させたいという思いが強く、そしてそれは自分が願った結果であることも衝動を抑える要因だったが、それはマーレに複雑な感情を抱かせた。

自分の中でアインズの命令と並べたくなる感情があるということが自分で許せない。アインズの命があればインクリメントの命を奪うことも出来る。しかしそれは想像したくなかった。そんなアインズに反する気持ちがあることにマーレには耐えられず、マーレはインクリメントの顔を見れなくなっていた。

 

 マーレが深い思考の檻に入り込んでいる間に椅子取り合戦は終わり勝者が決まった。

勝者はインクリメントだった。

 

「あ~~こまったなぁアインズ様まだ戻ってこれなさそうなんだよね…マーレどうしよう?」

「しかたないから、マーレ様が抱っこしてあげてください!」

「やっちゃってくださいマーレ様」

「わーうらやましいなー私もだっこされたーい(棒)」

「マーレ様頑張れー」

「う…うるさいわよ…何を言っているのあなた達は!」

「きゃーインクリメントが怒った~マーレ様~たすけて!」

 

 マーレの思考が正常ならゲームの最中に出来レースだったことに気づいていただろう、仮に気づかなくても今気づいたはずだった、しかしマーレの気持ちは病んでいた

「ぼ・・・僕がアインズ様の代わりなんて・・・ふっ不敬です!…出来るわけないじゃないですか!」

 

 あまりにも予想外のマーレの哀しい剣幕に皆が引き微妙な空気が流れ始めた時転移ゲートが開く

「すまない、思ったより用事が長引いて遅くなってしまった」

ゲートをくぐったアインズは周囲を見渡し察した

「なっ…」

 

◆◆◆

 

数日前

「アインズ様先程はお話を合わせていただきありがとうございます」

「…理由を聞かせてもらおうか」

「はい。アインズ様これは出来レースです。目的はマーレにインクリメントを抱っこさせることです」

「(抱っこって…なんかアルベドのノリが変なんだけど…)そこまで炊きつけて大丈夫なのか?」

「インクリメントはわかりませんが、マーレは大丈夫でしょうね。」

「(わからないって・・・おい!)…どういうことだ?」

「あの年頃の子が41人もいてこんなおいしい話煽らないわけないじゃないですか?」

「…ア…アルベド?」

「実はこの話はメイドたちからの依頼なんです」

「…ん?」

「アインズ様への感謝は日々の仕事で返せますが、マーレには機会がないのでこういう形にしたいそうです」

「(それでアルベドが参加しないと言い切ったわけか)そういう事なら当日は私は忙しい方がいいな(いたら俺に気を使うだろうし)」

「ご配慮感謝いたします。ですが挨拶だけはされたほうがよろしいかと?」

「(急いだが間に合わなかったという形がいいかな)わかった最後に顔を出そう。…そういえば他の守護者は参加しないのか?」

「アウラはマーレの手伝いとして参加しますが、一般メイドの慰安旅行に参加する守護者はおりません。シャルティアは『のんびりした一日を約束するでありんす』といっていましたわ。プレアデスのメンバーも不参加と聞いております」

「わかった…取り敢えずスケジュールが決まったら教えてくれ」

「分かりました」

 

◆◆◆

 

「(スケジュールずれてた?それにしても最悪のタイミングだろこれ!?えーとえーと)…なんとか間に合ったようだな、約束を果たそう」

アインズは場に流れていた微妙な空気を自分が原因――ある意味その通りなのだが――と考え何とかするべく建前の計画通りインクリメントをお姫様抱っこで抱き上げる。インクリメントは望外の喜びに魂が抜け声も出ず、他のメイドだけにとどまらずアウラにまで嫉妬の輪が広がる。

「マーレ」

「あっはい…」

「受け取れ」

「わっわかりました」

アインズは優しくインクリメントをマーレに委ねる。マーレは思考の檻から飛び出しアインズの命に従う。

「私が本当に守りたいのはナザリックではなくお前(NPC)たちだ、アウラ、マーレ皆を守ることは私の想いを守ることと知っておいて欲しい」

マーレ、アウラに視線をうごかし全体を見渡す

「どんな場所であっても汚れた場所に誇りも威厳もない。ナザリックはお前たちの献身により荘厳さを維持しているのだ。私はその仕事に満足している…今日は私の感謝を受け取ってもらえ嬉しく思う…マーレ」

「はっはい」

「私は食事を不要とするためディナーは付き合えないが最後までよろしく頼む(よ…よし乗り切った)」

「わっわかりましたアインズ様」

 

 アインズはインクリメントを抱きかかえるマーレを見る。マーレは嬉しそうに、インクリメントは魂の抜けた顔で自分を見つめているのに『二人共見るのが俺でいいの?』という感想を抱きつつも逃げるように転移していった。

 

 いまだ体が硬直したようにアインズの消えた場所を見つめているメイドたちに対して、アウラとマーレは平静なままだが魂の抜けたインクリメントをどうして良いかわからずマーレも固まっていた。

「マーレ!インクリメントを抱っこ出来て嬉しいのはわかるけど、そろそろ動いてもらえないかな?」

 

アウラの声はフリーズしていた皆を現実に引き戻し笑いの花を咲かせた。

ただ一人マーレだけが思い悩んでいた。

 

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 会場の片付けはそんなに時間がかからなかった。

というのも仲間たちが片付けのついでとばかりに掃除を終わらせてくれたからだ。

それは微妙な空気をまとうマーレ達に時間を作るためでもあった。

 

「インクリメントさん…」

「なに?マーレ君」

「えと…んと…」

 

 インクリメントはマーレの考えがわかる気がした。インクリメントにはお気楽な姉妹が答えをくれていたから深く悩まずにすんだが、マーレが悩んでいるなら自分が支えようと決める。その決意は彼女の表情を優しくやわらかなものに変えた。

 

「マーレ君、アインズ様と私を比べた?」

マーレは体をビクッとさせ恐る恐るインクリメントに視線を向ける

「私もそうだった。不敬なのかとも思った。でも違う…アインズ様にご奉仕する喜びは何物にも変えられない。でも…より綺麗に掃除できた時はもっと嬉しい。それは自分の満足感も加わったからだと思う。それは不敬?」

「ち…違うと思います。僕もよりうまくアインズ様のご命令を実行できれば嬉しくなります」

「うん。私はお休みというものを頂いた時試練だと思った。ずっとなんのための試練かと考えたけど答えは分からなかった、でも今ならわかる」

マーレはインクリメントの言葉を聞いている

「アインズ様から頂いたお休みがあったからマーレ君と今ここにいる…。」

インクリメントは膝をついて目線をマーレにまっすぐに向ける

「私達の感じる幸せはアインズ様のご意思だと思う…私はアインズ様にご奉仕できることが一番の幸せ。でもマーレ君がいてくれればもっと幸せになれると思う…アインズ様は本当に素晴らしいお方ね」

マーレの顔から緊張が崩れていく

「マーレ君、友達になろう」

「はっはい…」

 

返事をしたマーレの目が潤む、インクリメントはマーレを優しく抱きしめ、マーレもそれを応える。共に心のなかでアインズへの感謝の祈りを唱えていた。

 

ブループラネットの作り上げた星空はそれを祝福するかのように流星雨を二人に降り注いだ。




 読んでいただきありがとうございます。
雰囲気をぶっ壊しますが、ラスト近辺の脳内BGMはあらいぐまラスカル

アインズ様ありがとう、僕(私)にともだちをくれてて
マーレ君に合わせてくれて
インクリメントさんに合わせてくれて
うんたらかんたら

 ところでインクリメントには見た目の描写がないため容姿が不明なのであえてその辺りは書かないようにしています。ですが一応イメージしている容姿があり、それは”黒髪のペリーヌ(スト魔女)”です。ある方の書かれたイラストには魂が撃ちぬかれました。

あとはエピローグ。黒いので行くか白いので行くか悩み中です。
終末には完結の予定です。

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