ああ・・・休みが終わる
ナザリック食堂
食事時間とずれているため静かなこの場所を改めて見ると『こんなに広かった?』と感じる。食事中も本を読んでいた自分はこの部屋をきちんと見ていなかったのかもしれない…それともとりとめのない高揚感がそう思わせているのだろうか?
自分に問いかけてみるが答えは何も見つからなかった。
インクリメントは目の前に有る転送ゲートを見つめて立ち止まり
「朝はとっても素敵、その日に何があるかわからないから想像の余地があるわ…」
アンのセリフを呟く。
「違う…これだと嫌なことがあるかもしれないって感じる…」
インクリメントは自分に不安があることを自覚し、もっと前向きな言葉がないか少しの間おもいだす。
「こんな朝にはただただ世界が好きでたまらないって気がしない?」
心のなかで今回の機会を作ってくれたアインズ、アルベド、メイドのみんな…そしてマーレへの感謝が浮かぶ。
「…今日は絶対いい日になる!」
インクリメントは顔を上げ転送ゲートに入っていった
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慰安旅行幹事の朝は早い。
マーレはアウラの用意した机を日当たりを考えながら並べていく。その机に合わせてトレントに移動してもらい、心地よい場所かどうか自分で座り確認していく、日差しの方向を考え1日中丁度いい感じになるだろうと確信する。
「つ…次は気温かな?」
マーレがシャドウ・オブ・ユグドラシルを構え魔法を発動すると心地よい気温に変わっていき、続けて湿度も調整される。
「あっそっそうだ…今のうちに練習しておこうかな?」
マーレは赤く染まり始めた空に背を向け効果範囲と威力を丁寧に設定し、まだほの暗い空に雨を降らせる。その雨は弱々しい日の出前の明かりを受けて空間を朱に染まっていく
結果を確認する前に転送ゲートが動作したのを感知する
「あっあれ…まだ早いよね?」
マーレはゲートに目を向けた。
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インクリメントがゲートをくぐると匂いも空気も何もかもが変化した
周りを見渡すと、昇りゆく太陽に染められた木々が刻々と朱に染まっていき変化を止めることはない。想像していた以上の風景に圧倒されながらも今感じている全てを記憶に焼き付けようと目を見開き、やがてその瞳はマーレが降らせた雨で止まる。
「…あれが虹?」
弱々しい朝の光で作られたぼやけた赤い虹は太陽が登るに従い輪郭をはっきりとさせつつ色と鮮やかさを増していく。インクリメントはただ立ちすくみ虹が消えるまでそれを見つめていた。
インクリメントは我に戻ると横に誰か居るのに気づき顔を向ける
「マーレ君…」
「あ…あの…僕何かしましたか?」
マーレに心配されて自分が涙を流していたことに気づく
「そうね…したわ…」
マーレの顔が曇る
インクリメントは精一杯の気持ちを表情にのせ、マーレに体を向けると着ているワンピースの裾が広がる
「マーレ君…こんな素敵な朝をくれてありがとう…私は今日の全てが好きになれるって思う」
マーレはインクリメントと目を合わせて微笑む
「よ…良かったです。服も…その…似合ってます」
「あ…ありがとう…」
昨夜アインズから貸し出された服の中からインクリメントはえんじ色のワンピースと麦わら帽子を選んでいた。今日この場所がグリーンゲイブルズになる予感があったからかもしれないがインクリメントは赤毛のアンをなぞっていた所があった。
だけどそうじゃない
「マーレ君…今日一緒に楽しもう」
「でっでも僕幹事だから」
「なんでも一緒にすれば楽しいと思う」
「そ…そうだね!」
少し離れた所ででるに出れなくなったアウラが二人を観察しながら
「あ~~もう、見てるこっちが照れるわ…声かけづらいからそろそろ仕事に戻ってよマーレ」
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「インクリメントありがと~おかげで準備が早く終わったよ」
「いえ…アウラ様、私はテーブルクロスとかのセッティングしただけです」
「それがめんどくさいんだよね、マーレと二人であーでもないこーでもないってやってたらまだ終わってないよ」
「そ…そうですよ、適材適所ですよ」
「ところでさ~インクリメントって今日一日マーレの手伝いなんだよね?」
「はい」
「それじゃ宝探しできないだろうから今行っておいでよ」
アウラはニコニコと1枚の地図をさしだす
「お言葉に甘えます。」
インクリメントは差し出された地図を受け取りマーレの方を見る
「?」
マーレはインクリメントの意図がわからずただニコニコとしている
『あんたね~今日一緒に楽しむって約束したんでしょうが!察しなさいよ!』
マーレにげんこつを入れたいのを我慢してインクリメントに聞こえないように伝える
「あ…ああ…うん一緒に探そう」
「はい」
歩き始めた二人が離れてからアウラは頭を掻きながら溜息をつく
「はぁ…今日一日この調子だったらどうしよう…マーレもかなり耳年増だと思うんだけどなぁ」
二人の部屋は創造主のぶくぶく茶釜と、餡ころもっちもち、やまいこのナザリック女性陣が御茶会を開いていたこともあり、二人は意味の分からない会話も含めていろいろ聞いていた。当然その中には猥談もあった。とは言え耳年増だからといって聡くなるわけではないとアウラは思いいたる。
「いっか、取り敢えず見守ろう」
アウラは能力を使い二人を言葉通りに見守りという名の覗きを始めた。
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「マーレ君ここじゃない?」
開けた…と言う程ではないが十分な広さの広場を小川が横切り木漏れ日がキラキラと川面を照らす。周りを見回すと地形は地図の絵と一致していた。
「う…うん、ここだと思う」
「よし!ん~~~っと」
組んだ指を頭上に持ち上げ伸びをする
「疲れはないけれど、こういう所を歩き慣れないせいか少し足が痛い」
「そ…それなら、川に足を入れると…気持ちいいらしいですよ!」
この話はナザリックが転移する何年も昔に部屋で聞いた会話の知識でしかない、それでもそれを思い出せたのはマーレにとっては僥倖だった。そして周りを見渡せば川辺に座りやすく作られた二人掛けの椅子がおいてある。
「らしい?マーレ君もしたことない?」
「あっう…うん…ないかな」
「そっか、じゃあ行こう!」
インクリメントはマーレの手を引っ張り走り始めるとマーレはそれに合わせて動く。ほんの数十メートルの距離でしかないが、楽しそうに走るインクリメントの顔を見るだけでマーレは楽しくなり笑いがこみ上げる
「あはははは」
笑い声を聞いたインクリメントは立ち止まり振り返ってマーレを見つめる
「マーレ君…私、もう宝物見つけたよ!」
「すっすごい僕もまだ見つけてないのに」
「ふふ、アウラ様が隠したものとは違う。私だけの宝物」
「な…なんですか?」
「マーレ君の笑い声」
「そ…それ宝物…なの?」
「うん。マーレ君優しくてずっと私のこと気遣ってくれてたから楽しめきれてないかもって思ってた。だけど今マーレ君も楽しんでくれてるって分かったから」
「ぼ…僕インクリメントさんが楽しそうなのを見たら笑ってたんです…だ…だから一緒です」
「ふふふ」「あはははは」二人の笑い声がハモる
二人は笑いながら靴を脱いで足を川に入れて椅子に座る
「気持ちいい…それに色んな音がしてる」
小川のせせらぎ、木々の葉擦れの音…耳に聞こえるすべての音がインクリメントには楽しい
そんなインクリメントを楽しそうに見ているマーレ
「…ねぇマーレ君!あそこ!あそこでなにか光ってる!」
スカートの裾を持ち上げ小川の中をパシャパシャと走り対岸の石の間から小さな箱を取り出す。
小さな箱には男性のレリーフの入った金貨が一枚入っていた。
「マーレ君…これ貰ってもいいのかな?」
「う…うん。アインズ様のご許可は頂いてるから…えと…えっとこれ旧金貨かな?アインズ様はこちらを大切にしてるらしいよ、えと思い出の品なんだって」
「アインズ様の思い出の金貨…そんな大切なもの勿体無くてもらえない」
「だ…大丈夫、それがアインズ様の気持ちなんだよ!」
インクリメントは少し考え頷く
「わかった…大切にする」
「うっうん!」
二人はしばらくその場に留まりいろいろな話をし、覗いているアウラを十二分に疲れさせ帰路についた。
ごちそうさまでした
お腹いっぱいでもう書けません(違