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【コラム 撃戦記】

さらば2階級制覇の粟生隆寛 引退会見で肉声が聞きたかった【山崎照朝コラム】

2020年4月8日 16時33分

2018年3月の復帰戦で勝利した粟生隆寛、会見で生の声が聞きたかった

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 ボクシングの日本ライト級王者高橋悠斗(27)=白井&具志堅=が3日に王座を返上し、その3日後には元世界2階級制覇の粟生隆寛(36)=帝拳=が引退を宣言した。高橋は昨年10月に王座を獲得したが新型コロナウイルス感染拡大の影響で初防衛戦が決まらず、実現のめども立たないことから決意。粟生も長引くウイルス対策の不安から決断したようだ。

 2人とも引退はSNSなどでの告知だけ。感染防止へ密接、密閉、密集の“三密”を回避するため、従来のような会場を設けての引退会見ではなかったことが残念だ。

 特に粟生は名門・習志野高でアマ6冠に輝き、プロ入りする時には会見が開かれたほどのエリート。WBC世界フェザー、同スーパーフェザーの2階級制覇でファンの期待に応えた。今回のようなウイルス禍がなければきっと記憶に残る引退会見になっていただろう。

 東日本ボクシング協会は1日、首都圏の各都県からの外出自粛要請を受け、加盟ジムに対して土日の一般会員への営業を自粛するよう伝えた。7日には緊急事態宣言が出たことで4月いっぱいの自粛を追加要請した。

 沈静化の兆しが見えず、中には閉鎖する中小企業や商店も出ている。ボクシング界でも長期自粛のつらさを感じているのは選手だけではない。「例年と比べて入会者も少ない」(業界関係者)とのことで、ジム経営にも影響が出ているようだ。

 このため日本プロボクシング協会(JPBA)は試合を中止したプロモーターには15万円を補てん、加盟全ジムに一律10万円の助成金給付金を提案しているが焼け石に水。毎年3、4月は入会者が増える時期だけに、諦めムードが拡散している。

 白井・具志堅ジムの滝田通子マネジャーは「辞める会員もいるから体力のないジムは大変。ジムを閉める人も出てくるかも」と話す。試合会場自体の自粛も重なり、興行もできない現状を憂うのだ。

 国内が駄目なら海外で、という選択肢も今回ばかりはない。今月、米国・ラスベガスでWBO王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)と3団体統一戦を予定していたWBA&IBF世界バンタム級王者井上尚弥(大橋)。世界4階級制覇の王者サウル・アルバレス(メキシコ)との対戦を目指し、前哨戦を6月ごろに予定していたWBA世界ミドル級王者村田諒太(帝拳)。ともに厳しい調整を強いられている。

 

 先が読めないだけに打つ手がない。帝拳ジムに続き大橋ジムも4月いっぱいは閉鎖することを決めた。最高のコンディションで最強のパフォーマンスを見せようとする選手と、それを期待するファン。それがここまでウイルスに翻弄(ほんろう)されるとは。一流になればなるほど待つ不安は高い。いまは集中度を維持する踏ん張りに期待するほかない。(格闘技評論家=第1回オープントーナメント全日本空手道選手権王者)

 

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