[PR]

 日本そして世界を覆うコロナウイルス禍は、感染症の恐ろしさを正しく認識し、様々なケースを想定して対策を講じておく必要性を改めて痛感させた。

 この状況が収束する前に、大きな水害や地震が起きたらどうなるか。考えたくはないが、先回りして検討・準備しておかねばならない課題の一つだ。

 特に心配なのが避難所だ。

 感染拡大のリスクが高いのは、換気が悪く、人が密集し、近距離での会話がある環境だと言われている。体育館のようなところに、多くの人が集まり、生活を共にする避難所は、まさにそれに当たる。

 内閣府の避難所運営ガイドラインは、留意事項として室温、換気、発症者用の個室の確保、医師の巡回などをあげている。だがこれは、インフルエンザノロウイルスを念頭においたものだ。治療法が確立されていないウイルスの蔓延(まんえん)を防ぐには、より入念な準備がいる。

 まず考えるべきは、多数の被災者が集中するのを避けることだ。内閣府は今月1日、指定避難所だけでなく、民間の旅館やホテルなどにも協力を求めて避難場所を確保するよう、各自治体に通知を出した。高齢者ら災害弱者の利用を想定したものだが、急場の際にどこまで協力を得られるかは不明だ。あらかじめ施設側の意向を確認して取りきめを結ぶことや、自治体の境を越えた広域避難を検討しておく必要があるだろう。

 かねて避難所の環境については、1人あたりの面積が狭く、プライバシーへの配慮も不十分との指摘がある。これを見直していくきっかけにもしたい。

 心配なのは症状のある人への対処だ。避難勧告や指示が出ている状況で、路頭に迷うようなことがあってはならない。

 南海トラフ地震の際、1日に約43万人が避難所に身を寄せることが想定される静岡県では、インフルエンザなどの感染者は別室に隔離することを県のマニュアルで定めている。学校の空き教室の利用や、自宅で安全が確保できる場合には「在宅避難」も選択肢となろう。

 阪神大震災では避難所でインフルエンザが流行し、多くの関連死を招いた。手洗い用のせっけんや消毒液、マスクの確保が必須だ。いまはどの自治体もコロナ対策に追われ、備蓄していたマスクなどを医療機関に配布したところもある。補充の手当てを早めにしておきたい。

 梅雨の季節が近づく。昨年の台風19号では、一時、27都府県の約8200の避難所に24万人が避難した。あらゆる複合災害に完全に備えるのは無理としても、「想定外」を減らすことで減災につなげることはできる。

連載社説

この連載の一覧を見る
こんなニュースも