米・麦・大豆の安定供給は?【種子法の廃止】

食卓を守っている「種子法」
誰のための廃止なのでしょう?

4月の国会で1952年に制定した主要農作物種子法(種子法)を廃止する法律が自民党などの賛成多数で可決されました。民間参入による「農業競争力強化支援」の一環だとされていますが、廃止により外国企業を含めた民間の参入による影響を懸念する声も多く、消費者団体なども強く反発しています。
主食の種子開発とその安定的な供給は国にとって食料安全保障の根幹です。
種子法廃止により種子の需給ミスマッチや品質低下、価格上昇が生じないよう、種子の生産・供給体制を維持していくことが重要です。

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 種子法は稲、麦、大豆の種子の開発や生産・普及を都道府県に義務付けています。主食の種子は国・都道府県の農業試験場が、地域の気象や土壌条件などに合った品種を開発。「奨励品種」に指定して生産の向上を図るほか、生産ほ場を指定し混ざりのない原種や原原種の生産管理、種子の審査など重要な役割を果たし、種子を通じて農業の生産性の向上と、消費者などが求める品質と安定供給に大きく寄与しています。ところが首相の諮問会議である規制改革推進会議は「種子法は民間の品種開発意欲を阻害している」と主張し、国会は衆参両院あわせてわずか12時間の審議で、来年4月廃止を決めてしまいました。
 しかし、種子法では民間の参入を制限しているわけではありません。種子法があるおかげで農家は安い価格で不安なく安定的に品質の高い種子を買うことができるのです。また、種子を生産するために、一般栽培面積に対して米で100倍、麦・大豆で30~40倍のほ場が必要であり、民間の参入が難しいのは本格的な普及に必要な種子の生産体制を確保することが難しいうえに種子価格が採算ベースに合わないからです。
 また、奨励品種については気候など地域の条件のもと安定した収量・品質が得られる品種であるかだけでなく、消費者などの需要動向に合っているかも検討し、生産性とニーズをふまえて決定しています。
 種子法に基づく品種開発、良質な種子の安定供給は公益性の高い業務であり、JAグループでは、種子法が廃止された後も都道府県を中心とした現在の種子の供給体制が継続できるよう、国・都道府県への働きかけを行っています。
 種子法廃止にあたり政府は、民間企業の参入を支援していくといいます。ところが、稲・麦・大豆の種子を開発している民間企業は外国資本の多国籍バイオ化学企業で、買収・合併を繰り返し世界の遺伝子組み換え種子の寡占化を進めています。大豆やとうもろこしはすでに遺伝子組み換えの除草剤耐性品種がアメリカで約95%を占めており、種子による世界の食と農の支配がすでに現実となっています。そして今、多国籍バイオ化学企業は、小麦の遺伝子組み換えをすすめており、さらに稲の品種開発にも着手しています。
 これまで種子が注目されることはほとんどありませんでした。種子は農業や食料のあり方を決める大事なもの。種子生産が民間に移行すると、美味しくて安全な米が手ごろな価格で買えなくなるかもしれません。種子法廃止のメリットは誰にあるのでしょうか。

“なるほど”情報

全農開発米「はるみ」が民間開発初の「特A」を獲得!
「湘南の晴れた海」にちなんで名づけられた「はるみ」は、JA全農 営農・技術センター(神奈川県平塚市)で1995年に開発がスタートし、2014年に品種登録されました。現行種子法の中で15年に民間が独自に育成した稲として全国初の奨励品種に指定され、神奈川県で生産されており、県内の学校給食で多く使われています。
2016年産米の食味ランキングでは初出品で神奈川県として初めて、さらに民間開発初の「特A」を獲得。はるみはつやがあって冷めても美味しいのが特長です。食味の分析や試食を重ねながら、収量や栽培しやすさも並行してテストし、試験栽培にこぎつけたのは08年。民間参入が難しいのは育種にかかる長期間の開発コストが採算ベースに合わないからです。
食味ランキングで特Aの評価を得て、17年の作付面積は一気に拡大しました。こうした地域に根差した種子開発が、農家の所得向上や生産の励みになり地域農業の活性化につながっています。

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2017.08更新