ガーネット(なんで裸…?)
シャーリュース(…なんか見下されてる気がする)
ガーネットは人混みの真ん中を、誰にぶつかることも見つかることもなくスルスルと歩いていく。
この〈えらんてる〉という都市は三重の壁に囲まれており真ん中に倉庫が集まり、一番外側が兵士の詰め寄り所のような場所で、その間に人が住む家が集まる都市であった。
店の看板を見るに、この世界の文字は日本語や英語といった
街の構図や周辺の地理を知ろうと探すも、街の地図などは見当たらず、ようやく見つけた本屋らしき店を覗いてみても地図が載ってる本はなかった。
本屋には魔法の本や経済の本などもあったが、主に多いのは宗教の本であり、四大神という宗教がこの世界のメジャーな宗教らしい。天使という言葉が使われているのを見ると、現実の宗教とも関係があるのだろうか。宗教が誕生してから数百年しか経っていないようで、現実と比べて文明が進んでないように見えるのも単純に歴史が少ないからかもしれない。
このまま本屋の本を全て読破していきたかったが、他にも覗きたい場所もあったのでまた後日来ることにする。
盗賊のスキルによってこっそり本を持ち出すことはできるだろうが、代わりに置いていく金もない。周囲のやり取りを見る限り買い物に使われる硬貨は銅貨や銀貨といったお金がほとんどで、ユグドラシル金貨は使用されていないようだった。
(せめて金が使えたらなぁ、気にせず欲しいもの買えるんだけど……)
本屋で物色してようやく気付いたことであったが、ガーネットはこの異世界で使える金も換金する手段もなく、例え金があっても話せないから買う事すらできなかったのだ。
金のない観光が空しいものになるのは自然の摂理であったが、いつか買い物をする手段を得た時のために気になったほんのタイトルをメモしていく。
道で売買してる異世界の住人の会話を盗み見ていると、口が妙な動きをしており実際話している内容と口の動きが違うことに気づく。この世界の言語がなぜか日本語に聞こえているのか、それとも全く未知の喋り方で日本語を喋っている可能性もまだあるが、彼らには彼らの言葉があるのだろう。どおりで店の看板の文字すら読めないわけである。
また〈振り子の羅針盤〉の針が揺れる先を見ると、冒険者たちと呼ばれる人たちを幾人か再び見つける。指針が強く反応する場所に向かうと似たような武装をしている人間が多く集まっているお店があり、いくつかの皮鎧や剣に盾、杖にナイフに一点モノとして全身鎧が並んである。しかし忍者が使うような
確かに彼らの多くは戦士や魔法詠唱者、弓使いなどが多い印象を受け、忍者はいそうにない。もしかしたらそのような人たちはオーダーメイドや個人で取引しているのかもしれない。ゲームと違って需要と供給の関係が成り立たなくては商売にならないのだから、使い手が少ない武器を店頭に並べないのだろう。まぁ剣も投げれないことはないのでガーネットにも使えないことはないのだが。質的にガーネットが扱う武器はないとして、店を出る。
期待してたほどいい物が見つからなかったガーネットだったが、彼がこの街でまだ期待してる見たいものは二つある。それは
なぜなら取引には今まで見たことのない金貨のようなものを使っており、街での商売と巻物の取り扱い方を比べて高級品という印象を受けたからだ。
(……いや、表に出ている魔法はフェイクで、国の上層部とかが情報を止めているんじゃないのか?)
ゲームを基準に考えると低位の魔法が多いのは馬鹿みたいである。しかし現実的に考えたらどうだろうか。
高位の巻物を間違って外で使ったら嵐を呼び大地は穿ち、山は割れる。町で間違えて使ったら家が吹き飛ばされて道も壊されるだろう。データでできたユグドラシルではないのだからそんな危険なものを流通させようとするなどあり得ないと言える。それに店員の説明の際に、生活魔法という言葉を使っていた。
つまりは一般に出回っている巻物は生活魔法という区分で、それ以外の価値ある魔法は国の中枢に隠している可能性もあるのだ。
その生活魔法で括られた巻物は、ユグドラシルでは見たことのないもので、生活に役に立ちそうな魔法も収められている。
例えば
そうやってある程度の都市のめぼしい店を覗き終わったガーネットは、人が行き来する残りの時間を大きな食堂で過ごしていた。
観光の結論から言うと、ガーネットが
この都市にくるまでの冒険者の影に潜んでる時、ガーネットは野営中に影から抜け出して野生の猪を狩って料理をしたことがあった。村でつまんだ猪の肉をまた食べてみようと探し、勢いのまま狩ってみたまではよかったのだが、そこからが大変だった。
動物の捌き方や保存方法など、技術どころか知識もない。誰かに教えを請いたいと思うが教えてくれる人間がいるとも思えない。
まともな料理を食いたいのならバフ付きの食事がイベントリにあるのだからそれを食えばいいのだが、また手に入るかわからない以前に、ガーネットは食いたいと思えない理由があったのだ。
なぜならユグドラシルをまともに遊んだのは数年前のことであり、つまりこのイベントリに入っている料理は全て数年前のものである。ユグドラシルの頃は、いつ作ったものだとしてもゲームなので気にせず食べれた。しかし、設定が現実になった今賞味期限がどうなってるかわからないものを食う気にはならなかったのだ。
つまりガーネットはこの世界で生きる為に、新しい食材の調達方法を確保する必要があった。もしかしたらフランケンシュタインの顔を恐れない亜人などを雇って料理や保存の指導を受けるのが最善かもしれない。
この間出会ったナーガのシャースリャーを訪ねて森に行ってみるのもいいかもしれないなと思いながら、青果店を眺めていたガーネットは香ばしい匂いに誘われてこの食堂に辿り着いたのだった。
そんなガーネットは今、食堂の厨房の天井に張り付きこの世界の調理の仕方を学んでいる。食堂に入ったガーネットは、教えを請うよりも実際にこっそり見て学んだ方が早いと気づき、こうして厨房に潜入して料理の光景を眺めているのである。
そこで見る食材は元の世界で見たことのないものも多く、特に野菜は名称すらよくわからない。食器を洗う音が鳴り響き食材を切る音が鳴り止まない中、ガーネットは彼らの一挙手一投足を記録していった。
やがて夜も更けて客が帰り始め、メモ書きで埋めた手帳を満足気にしまいながらシェフ達も帰り始めたし自分も都市外のどこかに穴でも掘って寝ようかと考える。
しかし、比較的若い人間達が明日使う準備を始めているのか食材を並び始め、どうやら明日の準備の為に下拵えをするらしい。
明日もまた見学にこようか、そんなことを考えてガーネットが裏口から外に出るとそこには氷水に漬けられた大きな猪が入っている樽が外の小屋に運ばれていくのが見え、若い料理人の一人がナイフを持って入っていく。どうやらこれから解体を始めるようだ。
ガーネットは仕舞ったメモ帳を再び取り出して小屋へと向かうのだった。
◆
朝になり慌ただしく活気が溢れはじめ、朝日を浴びながらガーネットは体のこりをほぐしていた。ゲームのキャラクターの体になりニンジャの職になっても一日中天井に張り付くのは肉体を酷使するらしく小気味よい音が鳴り響く。
どうやらここの食堂は商人から買い取った食材だけじゃなく冒険者が狩ってきた予定のない食材が回ってくる度にここで解体するらしく、冒険者組合と繋がっていることがこの食堂が大きな要因らしい。
まさか一日徹夜して彼らの解体作業を見ることになるとは思わなかったが、知識として学ぶことは多かった。そしてどうやらこの前自我流で適当に解体した肉が不味かったのは、冷却作業をしていなかったからだろうと考察できるほどガーネットは学習できていた。これは何時間も何度も彼らの解体や会話を見て考察した結果である。
猪だけでなく、蛇や鹿に似た動物を捌く手順もメモに残したのでこれからの旅路に非常に役に立つことだろう。 ガーネットは肩を回し眠気を振り払いながら一仕事終えた気分で小屋を離れた。
これから先どうするのか、
強い勢力のある組織と話しをして味方につけるためにこの都市まで来たのだがそのような存在がいるようには感じなかった。振り子の羅針盤だけでなくスキルも使って
国の上層部、王様や行政のトップ、もしくは軍組織のトップにまで近づけばガーネットが満足できる強さをもつ存在は現れるのだろうか。この都市の冒険者組合長のアインザックとやらに話をして上層部に繋がるという案も悪くはないが、顔も見せないまま話を聞いてもらえるかも疑問である。説得を続けているうちにナザリックに見つかったり騒ぎになる可能性もあり、この都市に来るために
(やっぱ行くとしたらこの国の首都かな? 首都に行けばこの国の強さの上限がわかってこの世界の強さもある程度わかるだろうし。でもどうやって行くかなんだよなぁ、そもそも場所がわからないし)
この都市は割と大きな都市らしく、<聞き耳>で話を盗み聞く限りここを起点にさまざまな場所へと行く交易都市らしい。なのできっとこの国の首都にも交易は繋がっているだろうが、どの商人の馬車がいつどこに行くのかはわからない。都合よくわざわざこの国の首都に行くと宣言していく親切なゲームキャラクターのような存在もいなかった。それにここは複数の国の中心らしくて聞いた名前がここの国の都市なのかも判別できない。人がごった返すこの中から真っ直ぐに王都へと向かう人を探すのは至難の技だろう。そんなことを考えていると少し離れた場所から怒鳴り声が聞こえる。
「この馬鹿野郎! さっさと冒険者組合に至急の護衛依頼出してこい! 言われたこともできないで商人名乗ってんじゃねぇぞ若造が! 」
どうやら若手の商人が冒険者組合に依頼を出し忘れて怒られたらしい。モンスター退治だけでなく護衛なども冒険者はやるんだなぁ、と呑気に考えていると、一つ思いつくことがあった。
(……護衛依頼? 商人が仕事として冒険者組合に頼むのなら、書類があるんじゃないか? その中から首都に行く依頼を探し出してそれを受ける冒険者の影に入ればそれだけで到着するんじゃないか?)
そう考えたガーネットは眠気を押し殺しながら、先程走り出した若手の商人を追って冒険者組合へと向かって行くのだった。
◆
冒険者組合に到着して辺りを見渡していると、ここの職員だろう人が羊皮紙をボードに張っている。この中から仕事を見て選ぶシステムなのだろうか、文字読解のアイテムを使い羊皮紙を読み始める。
薬草採取やモンスター退治などがあり、知らない街までの護衛依頼もある。その中から根気よく目的の依頼を探していると“王都 リ・エスティ―ゼ”までの護衛依頼をようやく発見した。この羊皮紙をとる冒険者についていけばいいだろう、思惑が当たったガーネットはそう考えて天井に張り付いて待つ。
やがて幾人もの冒険者たちが依頼書を持っていき減っていくがなかなか目をつけている依頼を取る冒険者は現れない。日も暮れ始め夜になった頃、ようやく王都と書かれた依頼書を取り受付へと持っていこうとする男が現れ、人の視線が交差しない瞬間を見極めその男の影めがけて飛び込むように入り込む。この男の影を今日の寝床にしようかと考えてガーネットは影の中で寝る準備を始めた。
この男の影に潜んでいればいずれ王都へ辿り着くだろう。そんな呑気なことを考えていると男が冒険者組合の扉を開けて外に出ると同時に、片手に持っていた〈振り子の羅針盤〉の針が一気に動き始める。
(──────っ!)
ガーネットはすぐに振り子の羅針盤を
ガーネットは〈振り子の羅針盤〉が反応した影の外へと目を向ける。そこには漆黒の
大学で習ったことなんですが、出版の歴史は宗教系が最初に来て、教養などはあとかららしいなので、オバロの世界の本屋とかにある刷られてる本は大抵宗教系なのかなっていう
魔法とか物語系は手書きのものが多くて少なそうだね的に思いました。
でも現実と違って魔法あるので、手書きで写した本だけじゃなく、魔法で写したりできそうなので冒険譚とかも割とある気がしますね
ガーネットは四大神がプレイヤーだとかは思ってません。教義とか信仰の違いとか、魔法との関連性とかの本をパラパラ読んでへーこんな信仰してるのねーとか思っただけです
時間経ってカルマ値が0に戻ったので、万引きとかは基本的にしないです。前回はカルマ-100のままなら少ない肉を盗ったと同じように金だけ置いて万引きしてたかもしれないです
次回から原作絡むぞー。さて、物語に関係ないチームを生かすか見殺すか悩み中。
ハムスターに乗った漆黒の鎧は誰なんだ…?答えは原作2巻で!
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!