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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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直感と分析

 俺はラフタリアの話を聞いて呆れていた。


 なんとも……予想通りというか。

 あれだよな。初日はデート感覚だったんだな。

 市場でショッピングをしつつ観光名所を巡り、夕日が綺麗な時間に海を渡ってプレゼント。

 夜になったら手料理をご馳走し、酒場で酒を飲む。

 で、次の日は自身がイケメンでカッコいい所を見せ付けるために戦うところを見てもらったと。

 一応、どれくらい強いのかは分析していたみたいだけど、ソレよりも俺の配下への引き抜きアピールが凄いな。

 ラフタリアやフィーロには通じなかったみたいだけど。


「というか『君の瞳に乾杯』って昭和か! もう少し気の効いた台詞は無かったのか?」

「この世界じゃ、ちょっと古いくらいの方が女の子は喜ぶんだよ……」


 ああ、経験則だったわけか……どっちにしても相手を考えろ。

 俺の所為だろうが、ラフタリアは効率主義だ。リーダーシップを見せた方が評価は高かったと思うぞ。


「お姉ちゃん槍の人に一杯文句言ってた」

「へー……」

「アナタは何の為に戦っているんですか? ここには女の子を口説く為に来たのですか?」


 しょぼんとしている元康にラフタリアは追い討ちを掛ける。

 それって元康の存在その物を否定していないか?


「そんな事をしていると、自身が相手に出来ないほどの強敵と遭遇した時、仲間に助けてもらえませんよ!」


 そう言い放って、ラフタリアは戻ってきた。


「次の交換は明日ですか?」

「あ、ああ……」


 すげえな。ラフタリアをここまで怒らせるなんて……。

 俺、ラフタリアが本気で怒ってるのを見たのなんて今まで一度しかない。

 出来レースの一騎打ち以来だ。

 ま、それも相手は元康だったわけだけど、元康があそこまで落ち込むって。


「そういや、ビッチ達は何処いったんだろうな?」


 話を聞いていた女1は、さあ? とでも言うかのように肩を竦めて元康を慰める。


「にしても、経験値が増えているのに一日を無駄にしたとか……」

「すいません……」

「いや、ラフタリアに言った訳じゃない」


 活性化の話を聞いた時、感極まって叫んでいた癖に随分と余裕があるじゃないか。

 それともアレか、Lvとは関係無い、波に勝てる勝算でもあるのか。

 ん?

 女1がこちらにやってきて言った。


「あの暗殺者は今も見ているのよね?」

「多分な」

「じゃあ、補足するわ。モトヤス様は夜に隠れて一人で狩りに行っているのよ」

「…………」


 俺は非常に嫌な顔をしたと思う。

 つまり、ラフタリア……女の子達が眠っている中、夜間に一人で魔物を倒してLv上げをしていた訳か。

 普通にかっこいい努力家のイメージが湧く様な気もするが、ここまで来ると人知れず努力している俺かっこいいに見えてくるから不思議だ。


「それ位影も把握しているんじゃないか?」

「かもしれないわね」


 ふむ、どちらにしても仲間より自分が強いのを見せる場合悪い手じゃない。

 確かに普段からあんな戦い方をしていれば上がる物も上がらない。

 何より元康のデートプランには事前の調査が必要だろうし、時間が足りないだろう。

 悪い手では無いが、それをラフタリアに見せた方がよかったな。

 という事はコイツだけLvが上がっているんじゃないか。ふざけやがって。


 そもそもこの手段には最大の難点がある。

 仲間のLvが上がらないし、俺にはできない。

 防御力しか無い盾の俺には仲間が必須だ。

 だから仲間のコンディションなどにいつも気を使わないといけない。

 ましてや疲労が溜まる夜間戦闘なんて可能な限り避けたい所だ。

 無論、夜にしか現れない魔物がいればその限りでは無いが。


「ああ、そうだ。ラフタリア」

「なんですか?」


 俺達は元康達に聞こえない位の小声で話をする。


「元康の戦った後はどうだった? 俺とは違う特別な作業とかしていなかったか?」

「はい、魔物を解体せず、そのまま武器に……あと、ナオフミ様と同じように道具を吸わせていました」


 ふむ……あんまり、というか俺より手抜きって感じだ。

 それであの強さか……Lvが全てなのか?

 そういうネットゲームもあるよな。


「ただ……槍から道具を出す事がありました」

「道具? 槍に吸わせたとかではないのか?」

「はい。吸わせた道具とも全く違う物でした」


 槍から道具ねぇ……どうやったんだろう。

 やっと今回の趣旨にあった、まともな情報が出てきたぞ。


「元康、ちょっと聞きたいことが――」


 そこには放心していたはずの元康が姿形無く消えていた。

 ついでに女1もいない。

 聞こうと思ったらもういねぇ!

 いつの間に消えた!


「槍の人なら女の人と帰るって言ってたよ。なんかお姉ちゃんの事謝ってた」

「そ、そうか」


 早いな……情報交換の時に聞こう。

 元康がやっているという事は、錬や樹も同じ事をしているだろうし。


 まあデメリットも多いが、メリットも多いよな。

 何より元康を初めとした勇者共は情報の塊みたいな存在だ。

 活性化で調子に乗っている今こそ、奴等の秘密を暴く時かもしれないとは、話を聞いた時から思っていた。


 少なくとも元康が俺の知らない何かを握っているのは把握できた。

 当てがあるからこそ、元康がここまで遊んでいられるんだしな。

 俺が元康だったら人員交換を拒否して活性化中、Lv上げに勤しむ。


 効率を考えれば断るのは簡単だ。だけど、ここでしか知りえない事もある。

 乞食みたいに経験値経験値ってがっついても、何か違うような気配があるんだ。あの三人には。

 それこそ、断る事の方が間違っていると俺の直感が告げていた。


 何かある。


 勇者三人は、Lv以外に何か隠している物が必ずあるはず。

 それを見極めないとLvが高いちょっと強いだけの冒険者になってしまう。


 これは俺が今まで経験した事やネットゲームの知識に裏打ちされた物だ。

 こう言ったイベントがあるネットゲームはリアルの腕前とかも強く関わっていたりするし、Lv以外の要素が強く絡んでくる。財力とかレアアイテムの所持とかもそうだ。

 Lvが高いだけで中身が無いって奴に何度遭遇した事か。


 ネットゲームは長くプレイさせる為に運営側が試行錯誤して装備やレアアイテムが重要になってくる事が多い。

 最初の頃は1Lv1Lvが重要だが、後半になるとドングリの背比べになる。

 そこで登場するのが組織力と資金、レアアイテムだ。


 この世界はゲームじゃ無いが、少なくとも勇者三人に未だゲームだと思わせる何か強い理由がある、というのも気になる。

 よくあるのはこういう活性化イベントって特定のLvまでとかだったりするんだよなぁ。

 初心者救済やクラスアップ促進とかな。ゲームによっては転職か。

 Lv限界に到達している奴等はギルドに入っていた場合、メンバーのLv上げを手伝ったりする。


 元康がこんなにのんびりしているのだから、似た様な感じだと思う。

 となるとアイツ等の目的は情報収集と仲間の底上げか?

 交換が終わった残り6日で上げられる範囲である可能性も考えられる。

 でなければ、元康のこの余裕が説明できない。

 あ……。


「影」

「なんでごじゃる?」

「活性化には何か法則の様な物がないか? 噂とか、学説とか、信憑性が低い物でも良い」

「……カルミラ島の活性化に参加した、クラスアップ後の冒険者の体感ではLv80前後から入りが悪くなるそうでごじゃる。無論、その後も普段よりは沢山入るでごじゃるが、ここに生息する魔物にも上限はあるでごじゃる」


 当たりか。

 つまり、それを見越しての行動だった訳だな。

 上限がある……まるでゲームだ。

 俺に奴等と同じくゲーム知識があったら、この世界はゲームの世界だと錯覚するかもしれない。


 ここから逆算すると連中のLvが大まかに把握できる。

 勇者を70~80に想定して、仲間が40~70の間か。

 最低でも数日で全員が80に届く範囲と取るのが無難だな。

 その後は、上げやすい狩場に移動って所か。この島の魔物は80以上だとおいしくないのだろう。

 知っているゲームはなんでも計算で動く様になるからな。

 本来だと行きたかった狩場に行けるまで時間が掛かったが、この活性化を利用してショートカットしたと考えるのが妥当か。

 まるでネットゲームの攻略サイトでも見ている様な気分だ。


 しかし、更に謎が深まった。

 つまり元康を初めとした錬、樹は最低でも70近くLvがある事になる。

 そんな奴等がラースシールドを使っていたとはいえ、俺と同等?

 ラースシールドが特別強いのは事実だが、俺はLv44。奴等より20以上低い。

 それなのに、教皇との戦いで同等以上の能力だった。

 謎が尽きないな。


 そんな思考を俺は元康がいなくなった宿で深く考え込んでいたのだった。

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