空気に支配されてはいけない。「日本一感染症に詳しいヴィッセル神戸のサポーター」岩田健太郎教授に聞くJリーグ再開の方策【ほぼ48時間無料】
前回のインタビューで、「日本一感染症に詳しいヴィッセル神戸のサポーター」としてサッカークラスタ界隈にその名を轟かせた神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授。再開日程が白紙となり、開催の見通せないJリーグについてどのように考えているのか。7都府県に緊急事態宣言が発令され、シリアスな状況が続くなか、再開のための道筋はあるのか、じっくり話を聞きました。
(企画・取材・構成/阿波万次郎)※岩田教授のお話は取材を行った4月2日時点の情報に基づいています。
(4月10日(金)18:59頃まで無料公開予定です)
■観客を入れて試合をするのは、今年に関しては現実的なシナリオではない
―Jリーグは4月末から段階的に再開となっていましたが、今朝(取材時4月2日午前)の報道では選手に感染が相次いだことで実行委員会では3度目の延期を検討すべきとの意見が出ました(その後、夕方に再開日程は白紙と発表される)。再開時期について、岩田さんの考えを聞かせてください。
J3から3段階の開催というのは慎重なやり方で、良いアイデアだったと思います。
ただ、なかなか難しいのは、もし選手に感染者が出たという理由が再開を延期する判断のひとつとなると、今後も同じ根拠でどんどん延期が続いていくことになります。ここで悪い前例を作ってしまわないかちょっと心配ですね。
Jリーグを延期することの最大の根拠は、Jリーグを開催することによって感染が広がることであるべきです。つまり、観客の間で感染が広がらないことがポイントです。
選手に感染者が出ることと、Jリーグをやることで感染が広がることは同義ではなく、まったく違うと言ってもいい。
そもそも、Jリーグをやっていないときに選手に感染者が出たからJリーグをやらないというのは論理的に正しくないんです。極論すると、単に雰囲気的に問題だというだけの話です。選手間とかスタッフの感染対策はしっかりやりましょうとか、感染がわかった選手については試合に出さないというのは当然のことですが、感染者がチーム、もしくは選手に出るからJリーグができないというのは論理的には間違っています。
―ただ、これだけ感染が蔓延しているということで、雰囲気的にはどうしてもそうなってしまう。
まず、雰囲気でモノを決めるのは良くない。大事なのは科学的な判断です。それから論理的に整合性がとれていることも大事です。非合理なモノの決め方というのは良くありません。
―ある記事によると「選手から感染者が出てしまった以上、再開前に全員がPCR検査を受ける必要がある」のではないかというクラブ関係者の声もあると……。
陰性確認のための検査は科学的には全くの間違いなのでやってはならないです。PCRはしばしば間違えます(編注/ざっくりいうと陽性なのに陰性と出たり、陰性なのに陽性と出たりする可能性がある)。PCRを根拠にして感染していないという証明にはなりません。むしろ、もしやるのであれば抗体検査をやって、過去に感染していたかどうかを確認するという手もありますが、それもそんなに生産的ではありませんし、個人的にはおススメしません。
ほとんどの人は、いまの段階では感染していないと思います。だから、どちらにしてもそうした目的で検査をやる必要はありません。
―ザスパクサツ群馬のケースでは1人の選手が感染して、他の選手や関係者にも濃厚接触者が多いので選手は全員自宅待機になりました。そうするとチーム運営自体も難しいのではないかと思います。
そうです。感染者が出ると、そのチームが崩壊する、あるいはチーム運営の規模を縮小する、もしくはトップチームが試合に出られないというようなことがあり得ます。
―たとえば試合の前日にチームから感染者が出た場合に翌日の試合を中止にするのか?
そういう判断の基準を決めておく必要がありますね。試合が中止になった場合の勝ち点の数え方とか、そういうものまで全部考えておかないといけないかもしれないです。
―その辺の判断は難しそうです。
おそらくは、練習中に感染する可能性は低いと思っています。
―知り合いと食事をしていたのが原因とされる選手もいるようです。
それも報道なのでわかりませんが、一般論では“3つの密(密閉・密集・密接)”を避けるということを言います。屋外のフィールドでサッカーをして感染するリスクはゼロとは言わないまでも非常に低いです。ですので、感染者が出たら練習中止というのは理にかなっていますが、感染者を出さないために練習をしないというのは合理的ではありません。
―開催にあたって、Jリーグはいろいろと対策を発表していました。
観客の間隔を広げる、ということですが、それは感染の程度によります。アウェイの人を規制するのは良いアイデアだと思いましたが、東京とか大阪だと感染者がすごく増えているので、無観客試合の可能性を考えておく必要があると思います。
現代のように映像の技術が発達しているときの無観客試合というのは、昔と違って毒の少ないやり方だと思います。DAZNからたくさんお金をもらっていて、興行的に失うモノは相対的には少なくなっているからです。
それでも失うモノがたくさんあるのは理解していますが、観客から感染者が多発して、もっと失うモノが増えることを考えると必要な痛みなのかもしれません。無観客試合にすべきと主張しているわけではありませんが、「無観客試合はこういうときに行う」という条件を作っておくべきだと思いますね。
―科学的知見に基づいて、そういう条件をしっかり作っていく。
常に科学的にやるというのはすごく大事です。非科学的なモノの決め方は絶対に良くないです。
ムードや空気でモノを決めるというのは、日本あるあるです。空気とか雰囲気でサッカーの戦術を立てるのは、きっとロクなチームではありませんよね。大事なのは論理や計算で、空気に支配されるサッカーチームは絶対に弱いはずです。
ワールドカップのドイツ大会(2006年)とブラジル大会(2014年)で、ちょっと点を取られるとボコボコにやられてしまうとか、ああいうのは空気が支配するチームの典型像だと思います。
そうではなくて、たとえ1点を失っても、それは0-1という数字にすぎない。だから、ちゃんと立て直していこうというような、事実に忠実なチームというのは、多少の逆境になっても取り戻すことができます。逆に空気が支配するチームは1点を失うと、萎縮してしまって一気に崩れてしまう。かつての日本代表のあるあるパターンですよね。
―混乱した場合に収拾がつかなくなる。
もうパニックになってしまう。前回も言いましたが、要するに非理性的、非論理的なモノの考え方、あるいは落ち着きを失うというのは大体が失敗に直結するパターンです。これはすべての領域においていえることです。
酒井高徳選手が感染したとか、あるいは他のチームで感染が出たからとパニックに陥るというのは、サッカー協会も、Jリーグも絶対にやってはいけないことです。必ず冷徹に数字を見て、何百何千といるJリーガーとその関係者の中から数人しか出ていないわけです。いまはそれが現実です。ちゃんと現実を見ることが大事です。
そして、未来を見据えることも大事ですね。日本は前例がないことをやるのが苦手で、それゆえか前例を作ってしまうと、それを延々とやり続ける傾向にあります。繰り返しますが、ここで良くない前例を作ってしまうと、未来もずっとグタグタになってしまうので、何を基準にするのかというのはしっかりと決めておく必要があります。
―試合開催にあたって、Jリーグが発表した対策以外にこれをやると良いというのはありますか?
現状を考えると無観客試合が良いと思っています。なぜかというと、スタジアムの中もそうですが、スタジアムに行くまでの移動が結構人混みになります。
―それは感染拡大が懸念されている地域でという話ですよね?
もちろん。感染者が出ていない地域ならば良いのですが、Jリーグには感染者が多い関東や関西のチームも少なくない。だから基本的には無観客試合が一番リーズナブルだと思っています。
前回お話したときは、そこまで感染が広がっていなかったので、観客を入れるという選択肢もあったと思いますが、いまの段階では、もう患者さんがどんどん増えていますので、観客を入れてJリーグの試合をするのは、今年に関しては、あまり現実的なシナリオではないと思います。
―無観客であれば、いまのJリーグの再開日程でも問題がないですか?
問題がないかはわかりませんが、それが一番現実的だと思います。
―K1の問題がありました。自治体が自粛要請をする一方で、補償もないので開催に踏み切る主催者。そういうケースは、これから続いていくと思います。
こういう状況なので、誰も損をしないというのは難しい。バルセロナだって給料が70パーセントカットですよね。みんなで痛みを分かち合っている。
だからといって、何も補償はしないけれど「やめてくれ」というのは辛いので、行政は自粛と補償をセットで発信するべきですね。
確かFIFAは補償すると言っていましたね(各国連盟やクラブの財政難を支援するために緊急救済基金の設置を検討中)。
■感染したからといって謝る必要はまったくない
―プロの大会もそうですが、少年サッカーや社会人の大会なども中止になっているようです。
感染が広がっていない地域においては、サッカーの練習はやっても良いと思います。広い空間でボディコンタクトの少ないサッカーや野球って、そんなにコロナウイルスと相性が悪いスポーツではありません。逆に相性が悪いスポーツというのは、狭い密室で空気の循環が悪いところでやるもの。卓球、バドミントン、あとは空手、柔道、レスリングなどの格闘技系ですよね。要するにオリンピックの競技は残念ながら相性が良くないんです。
―つまりオリンピック自体が新型コロナウイルスと相性が悪いということですね。
そうです。スポーツを全部やめてしまうというよりはサッカーやプロ野球から始めてみて、比較的感染が起きない形で維持できれば、それを良いモデルにして少しずつバレーボールはどうなんだという形で開いていくことができるかもしれません。リスクの低いところから始めて段々と広げるというのは理にかなっていると思います。
―アマチュアの大会で人数が集まってしまう試合はどうですか?
やはり観客が問題だと思います。少年少女のサッカーだと親ですかね。前回の部活のお話のときも言いましたが、いま近所で野球部が再開しているのを見かけるのですが、やっぱり親が危ないと思います。親同士の距離がすごく短い。いろいろとおしゃべりをしているので、あれが実はヤバいです。
―観客を入れなければ大会自体は?
観客を入れないでやるというのが良いですね。僕は春の甲子園は無観客にして開催しても良かったと思います。当時の兵庫県は感染が起きていましたが、クラスターはデイケアとか病院とかで、甲子園とは全然関係のないところでしたからリスクはそんなになかったと思っています。そういう意味でもリスクをちゃんと評価して、高いか低いかを吟味してクールにやるのかやらないのかを決めるというのが大事です。雰囲気や空気で決めるというのがとにかく日本は多いのです。
―ただ、甲子園とかJリーグでも、試合のためにチーム、つまり人が移動する。それを嫌がる相手チームや自治体もいると思います。
そこが一番の問題でしょうね。チームが移動しないと試合はできませんからね。そこのリスクを飲みこむ覚悟ができるかどうか。
―仮に選手とスタッフが40人ぐらいで移動した場合、その手段は新幹線、飛行機、バスとかになりますよね……。
最少人数で移動してもそのぐらいでしょうね。選手にとってもバス、電車、飛行機は当然リスクになります。リスクをゼロにするのは無理なので、どこまでのリスクであれば許容できるかを決めないといけません。
幸いにしてJリーガーは健康で若い人たちなので死亡のリスクが極めて低い。百歩譲ってCOVID-19(新型コロナウイルス)にかかっても、ほとんどの人は助かるわけです。
リスクが高いのは高齢者や血圧が高い方や糖尿病の方で、要するにほぼJリーガーではないタイプの人たちですよね。仮にかかっても軽症で治ってしまうので、そのぐらいのリスクが許容できるかどうかってところです。それが許容できないのならばやめた方が良いですね。
―チームが移動するとき、岩田さんならどのようなアドバイスをされますか。
チーム編成は若い選手だけにします。例えば監督が高齢であれば、それこそテレワークにして、若いコーチが現場で指示をするとか、普段はやらないようなことも必要になってくる。ラグビーもそうですが、監督が無線で指示を出すというのは、よくある話ですよね。必ずしも、スタジアムのみんなの輪の中にいないといけないとは限らない。
―海外からの帰国者が全国に散らばって感染を広める一因になっています。人の移動はどうしてもリスクがともないます。
京都産業大学は集団でのパーティー(ゼミの送別会)をやって学生に感染が広がり、そこから帰省などをして四国や北陸に散らばりました。チームが同じところから別のところに移動するだけであれば基本的には散らばらない。神戸の選手が東京に移動して試合をして神戸に帰って来るというようなケースですね。
―気をつけながらやればという感じでしょうか…。
ただ、どんなに気をつけてもダメなものはダメですから、それでも感染するというのはあると思いますよ。酒井高徳選手もすごく気をつけていたと聞いていますが、それでも感染してしまう。どんな人でも感染するリスクはあります。
感染するのは油断をしていたからとか、やり方が間違っていたという空気がありますが、感染した人を責めるという発想そのものが非常に良くないと思います。感染者が謝罪をしないといけない空気は間違っていると思いますね。
―でも、感染した選手は全員が謝りながら、申し訳なさそうにコメントしていますよね。
謝る必要なんか全くないです。病気になったことを理由に謝るなんていうのは論外で、あまり論理的とは言えないです。
―謝らないといけない空気が絶対にあるんだろうなって思います。
それは空気がモノを決めるからですよ。空気なんかにモノを決めさせたらダメなんです。空気っていうのは謝る根拠でも何でもないですから。
―ウイルスにかかってしまったことで周りに迷惑をかけてしまっているとか、そういう発想になっている気がします。
結果的にはそうかもしれないですけど、世の中に病人なんて何十万、何百万、何千万人といるわけです。僕らは患者さんが来るたびに「何でこんな病気になるんですか、ちゃんと謝りなさい」なんて言わないですよね。何でコロナウイルスのときだけ謝らないといけないんですか? 酷い話です。
それはスタンダードとしては非常にバラバラで、彼らは別に反社会的な行動をとったわけではありません。ご飯を食べるとか、歩くとか、乗り物に乗るとか、一般的な社会生活をしていただけです。
京都産業大学だって、僕はそんなに責める気にはならない。大学生ならば誰でもやりそうなことじゃないですか。たまたま京都産業大学で感染があっただけで、他の地域でも同じようなことをやっている人はたくさんいると思います。そうすると、もしパーティーをやったり、海外に行ったりすることが処罰や罵ることの原因になるのであれば、感染が起きなかったところも全部罵るべきです。感染が起きたのは偶然にすぎないわけですから一貫性がありません。
―いかに私たちが空気に支配されているかということですね。
空気に支配されるというのは一番良くないことです。
―選手の感染が相次ぎましたが、練習だけではなくて、長時間の移動を共にするとか、食事を一緒にとる機会が多いと思うのですが、それは基本的には濃厚接触になるということですか?
それはわからないです。やり方次第かもしれないですね。
―感染者が1人出たら、しばらくは練習もできない、当然、試合もできないとなってしまうのは仕方がないですか。
そうです。それは病院で看護師さんが感染したら、周りの看護師さんも仕事を休まないといけないのと同じですね。それで病院が閉じたりすることもあります。基本的に、スポーツクラブだからといって特別なやり方はありません。
―いま、この状況で東京や大阪のチームは通常通りの練習をしてもよいですか?
通常のように練習をしてはダメですね。大阪と東京はちょっと特殊な状況にあるのでコメントがしにくいのですが、感染の広がりがそれほどないような地域であれば、普通に練習をしても構わないと思います。
ただ、街のロックダウンが必要なくらい感染の広がりがある地域では、そもそも家から出てはいけないので――ヨーロッパの多くのチームが、いまそういう状態ですが、そうなると、もうチームの練習なんてもってのほかとなります。
■医学的にロックダウンが必要であれば絶対にするべき
―東京はロックダウンをするべきですか?(取材時4月2日)
大阪もそうですが、かなりリアルな選択肢だと思います。
―ただ日本のロックダウンは海外とは強制力が違いますよね。
まずロックダウンは感染を抑えることを目的としてやります。ざっくりいうとロックダウンには原則が2種類あって、その都市から出入りしないということと、家の外には出ないという2つがあります。もちろん細則はありますよ。食料品を買いに行くのはOKとか、朝の散歩はOKとかいろいろと例外はあります。
ロックダウンが日本でできるかというと、もちろん可能です。ただロックダウンはやるかやらないかという問題よりは、「程度の問題」ですので、何をどこまで制限するのかというのを議論することが何より大事です。
―経済への影響が大きいということで慎重論もあります。
経済は全く関係ないですね。ロックダウンというやり方でなければ感染を抑えられないかどうかが基準になります。なぜなら、感染がものすごく広がってしまったら飲み屋も企業も立ち行かなくなり、経済もへったくれもなくなるからです。いまのニューヨークはまさにそういう状態です。
ですので、経済的な理由を根拠にロックダウンをするかしないかを決めるというのは、実は経済的な理由で間違えています。
―思いっきり、健康リスクと経済リスクの二軸で考えていました…。
違います。これは両方のリスクが相反するジレンマなのではなくて、医療リスクを無視することが経済リスクなのです。だからアメリカもヨーロッパも医療のリスクをヘッジすることに全力を挙げて、経済政策もそこに注力するわけです。
それはつまり医療リスクをヘッジできないと経済も立ち行かないからです。逆に医療リスクがどんどん膨らむと株価が下がるようなことが起きるわけです。
医療リスクをヘッジしない限りは、経済リスクはヘッジすることができない。なので、医学的にロックダウンが必要であれば絶対にするべきです。
―選手たちが普段の生活で気をつけることはありますか?
集団を作らないのは大事ですね。ドイツがやっている3人以上は集まらないというのは理にかなったやり方ですね。集団でのご飯とかはやめた方が良いです。
―マッサージルームも危険だったりしますか。
うーん、マッサージをしないでも死なないですから、現段階ではやらない方が良いと思います。回避できる接触は避けたほうが良いです。そもそも2メートルは離れなさいと言っているわけです。2メートル離れながらマッサージってできないですよね。だからマッサージはすごく相性が悪い。基本的に2メートル離れるとか、密閉された空間を避けるとか、たくさんの人が集まらないようにするとか、こういう基本的な原理原則があって、そこから逆算すると何が良いのか悪いのかを導き出すことができます。
―監督の話を聞く試合前のミーティングは?
それもなるべくやらない方が良いと思います。円陣を組むのもやらない方が良いですね。
―ロッカーでの会話とかも2メートル離れないと。
むしろグラウンドでやった方が良いですよね。ミーティングもアップしているときにやってしまうとか、作戦は事前にメールで送るとか、前日のうちにオンライン会議をやるとか。いまは自宅でディスカッションをするのは技術的には全然可能ですので、やれば良いと思います。監督と何回もオンラインでディスカッションすれば良いんです。
我々も人が集まるような会議はできるだけやめてテレ会議とかにしています。授業とかも全部Zoomでやります。やってやれないことはありません。
―試合中ベンチに座っているサブの選手たちは、距離を空けた方がいいですか?
それも距離は2メートル以上空けた方が良いですね。
―試合前の整列や集合写真での肩組みとかは?
ああいうのもやめた方が良いです。やらなくても良いことは一切やらない方が良いです。整列も(スタンドへの)お辞儀もやらない。みんなパッと出て来て、散らばって、試合開始でいい。そもそも握手そのものが良くないですからね。
―アホな質問で恐縮ですが、さすがに試合中は2メートル離れるのは無理ですよね。守備がスカスカになります。
それは仕方がない。そこのリスクは飲み込むしかないです。そもそもサッカーそのものがケガをすることもあるので健康リスクなんです。だからリスクをゼロにするという発想からするとサッカーそのものを全否定しないといけない。コロナウイルスもケガもどっちもリスクなんですよ。
生命リスクで言えば、頭を強く打って死んでしまうかもしれないし、心臓が止まることもあります。最近はヘディングの害が言われていますけど、サッカーは必ずしも健康に良いスポーツではないです。ですので、健康になりたい方がサッカーをするというのは矛盾していて、健康リスクを飲み込んだ上でやるしかないんです。
―では、こんなプレーは避けた方が良いというのを○と×でお答えください。まずピッチにツバを吐くというのはどうでしょうか?
やめた方が良いです。
―ドリンクの回し飲みはどうですか?
やめた方が良いです。
―交代のときのハイタッチは?
やめた方が良いです。
―ユニフォーム交換は?
やめた方が良いです。
―国歌斉唱はどうでしょう?
うーん、やり方次第ですけれど、多分やめた方が良いですよね。そもそも整列はやめた方が良いので。
―審判に顔を近づけての抗議。
やめた方が良いです。顔を背けてやる。
―普段なら侮辱していると思われそうですが、いまは紳士的行為ですね。噛みつくとかキスをするなどは?
絶対にやめた方が良いです。噛みつくのはあまりいないと思いますから、そこはあまり心配ないですよね。スアレスぐらいですからね。
―ピッチにツバを吐いても、ウイルスはピッチに落ちているだけじゃないですか。でも、それを触ると危険ということですよね。
ピッチにツバを吐く行為は問題にはならないのですが、その後でそこにスライディングをしたり、倒れたりする選手が出てくる可能性があります。ツバなんて飲み込んだら良いのでやめた方が良いです。
―よくありますが、コーナー付近での執拗なボールキープというのは?
まあ、そこまで言うとキリがないので……しょうがないと思います。
―飛沫を避けるという意味では試合中ムダに喋らないことも大事かと思いました。コーチングするときも距離を空ける。
そうです、2メートル空ければ大丈夫です。
―サッカーが新しいスポーツに生まれ変わりそうですね。スタジアムでいうと、よく公衆トイレが危険だと言われます。便座とかに菌が付着しているとか。
ほとんど関係ないです。トイレに行って便座に座った後で自分のお尻を触ったりしますか?
―あんまりしないですかね。ただフタの開け閉めで触ることがあります。
フタに触ったら手を洗うのが大事ですよね。
―手洗いをすれば、そんなに気にする必要はないんですね。
基本的には手指消毒が一番大事です。手をキチンと洗っていれば、手で触るモノは問題ありません。ウイルスがついた手で目や鼻や口を触るのが問題で、手に傷などがなければ基本的に手から感染はしませんので。
便座に座っても、お尻に微生物がくっつくかもしれないですけれど、コロナウイルスが付いている可能性はほとんどないですね。コロナウイルスはお尻には感染しないですからね。
―子どもをスタジアムに連れて行くのはどうでしょうか? 子どもはいろんなところに触ります。
うん、それはリスクになりますね。何歳の子どもかにもよります。あちこちベタベタと触って言うことを聞かないような子はやめておいた方が良いですね。
―入場の際のサーモグラフィはそんなに意味がないとおっしゃっていました。
意味がないと思います。サーモグラフィで熱がなくても、コロナウイルスの感染がない証拠には全然なりませんので。むしろ、ちゃんと約束事を守って自己申告をしっかりできるような文化を作ることのほうが大事です。咳やくしゃみや喉が痛いというときは出歩かないというのを徹底しておきたいですね。
―入場ゲートの混雑は当然避けた方が良いですよね。
うーん、まあでも、そう言うともう無観客しかないなって気がします。僕はいまとなっては、どちらかというと無観客派です。日本のシチュエーションが段々変わってきているので、この4月の段階では無観客の方がより合理的だと思います。
―それはもう開催できなくなるよりは、そうやって開催した方が良いってことでもありますか。
もちろん開催するのであればですよ。開催しないのも一つの選択肢ですけれどね。
―NBAは7月まで延期だそうです。
それも一つの考え方ですけれど、7月まで延期したとこで、何が起こっているのかはわかりません。正直言って、この問題が収まっているとはあまり思っていません。さっきも言ったように、どこかでリスクを背負う決断をするのも一つの考え方だと思います。
―そんななか昨日、各家庭にマスクを2枚配布するという方針の発表がありました。マスクについての考え方をもう一度教えていただけますか。
マスクは感染予防という意味では基本的にあまり役に立たないと思います。ウイルスはとても小さくてマスクの隙間から入り込んできますからね。自分に咳やくしゃみなどの症状がある場合にマスクをつけて飛沫を飛ばすことを防ぐことには一定の意味があるとは思いす。
ただ布のマスクは、どちらにしてもあまり効果がないと思われています。各世帯に2枚送るというのは何の冗談かと思いました。
―2枚だけでもありがたいと、少しは安心できる人もいるようです。
税金の無駄使いですよね。薬局の前に開店前から行列ができていますが、あの行列の方が感染のリスクは高いと思います。大事なのは「安全」で、「安心」なんて求めてはダメなんです。安心を求めるというのが、まさに空気を求めることです。空気とか安心というのは、大体において効果を発揮しません。そういうのは目指さない方が良いんです。
―その辺のマスクの効果に対する説明をもっとちゃんと伝わるようにアナウンスした方が良いと思います。
日本政府はリスク・コミュニケーションが全然できていないですよね。
―それがパニックの一因にもなっているように思います。
でも、そこは個々人が自分で判断できるリテラシーも大事です。政府に「何とかしてくれ」というような発想はそもそもやめるべきです。これはサッカーと通じるところですが、自分で状況判断をして、自分で決断をする習慣を作るべきで、上の人に何とかしてくれと言い続ける幼稚な発想は捨てるべきだと僕は思います。
―どんな謎采配でも、監督の言う通りにしたら負けましたというのではダメだと。
そんなのは言い訳にならないと思います。
―2月からずっと瀬戸際と言われていて、多くの人が疲れてきていると思いますが、まだまだ長期戦になると言われています。
うん、もっと疲れると思います。力の抜き方も考えた方が良いですね。ずっと力を入れていると疲れてしまうので、僕もそうですが、できるだけ抜くときは抜くようにしています。そうしないともたないです。昔のサッカーコーチのように、ずっと「走れ! 走れ!」というのはナンセンスです。ケガもしやすくなって、疲労も蓄積する。
サスティナビリティ(持続可能性)ってすごく大事です。一年間しっかり試合に出られたとか、そういう発想が大事です。そのためには消耗し過ぎないようにメンテナンスをする。だからスタミナもパワーも気力も維持しつづける。それが非常に重要です。
―戦争を知らない世代ですが、本当にウイルスとの戦争中のようになっています。
戦争だったら、なおさらサスティナビリティが大事です。気力も体力も保持しないと、一気に枯渇したら戦争は絶対に負けますよ。とにかく根性論で何とかなるという時代ではないので、そういう昭和の発想は絶対に捨てるべきです。
―日本の感染症対策は進んでいるのか、遅れているのか。
感染症と言っても幅広いので一概には言えないのですが、感染症のサークルの中よりも外ですよね。政治家や役人にありがちなのですが、専門領域に対するリスペクトが非常に低いです。プロに対するリスペクトが低いと言うべきですね。
だから、素人判断みたいなのが、いくらでも跋扈してしまう。スポーツで例えると、居酒屋なんかで「こうするべきだ」というような意見が結構通ってしまう。
(※岩田教授のお話は取材を行った4月2日午前中時点の情報に基づいています)
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岩田健太郎(いわた・けんたろう)
1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。島根医科大学(現島根大学)卒業後、ニューヨークで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。帰国後の2004年より亀田総合病院(千葉県)に勤務。感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任する。2008年から現職。『予防接種は効くのか?』『1秒もムダに生きない』『「感染症パニック」を防げ!』(いずれも光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『絵でわかる感染症with もやしもん』(講談社/石川雅之氏との共著)『インフルエンザ なぜ毎年流行するのか』(ベスト新書)、『新・養生訓 健康本のテイスティング』(丸善出版/岩永直子氏との共著)など著書多数。
心のクラブはマンチェスター・ユナイテッドとヴィッセル神戸。
Twitter:@georgebest1969