絵・富永商太

宣教師・キリシタン

外国人宣教師から見た戦国時代のニッポン 良い国?悪い国?鴨ネギな国?

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外国人宣教師・戦国時代
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家康の評価が変わってくるのは、これまた【宗教改革】の影響です。

辛口評価となるのは、カトリック教国民。
絶賛はプロテスタント教国民です。

秀吉の死後、家康は悩んでおりました。

「西洋由来の武器や技術は欲しい。けれども、切支丹を許すわけにはいかんよなぁ。なんだか危ない気がする」

そんな風に頭を抱える家康の元へ、こんな西洋人がやって来たのですから、まさに好機到来です。

「技術も武器もありますよ。布教? ノーノー、そんな野蛮なカトリックと一緒にしないでくださいよ。プロテスタントの我々は、あくまで貿易目的ですので」

それがウィリアム・アダムスはじめ、イギリスやオランダの人々の考えでした。

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背景には、当時イギリスを支配していたエリザベス1世の考えもあったことでしょう。

宗教改革のゴタゴタ、姉・メアリ女王の大失敗をじっと見ていた彼女は、こんな本音がありました。

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「宗教ってめんどくさい。エネルギーを使う割には、ろくな結果にならない」

彼女の両親は、ローマ法王を無視して結婚していました。

カトリックの教えに戻りますと、エリザベス1世は王位継承権のない私生児扱いとなるのです。これを認めることだけは、立場的にはできません。

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かといって、カトリックを弾圧したらしたで、スペインを刺激してしまう……という厄介な状況です。

そんな彼女の選択は【静観と放置】でした。

宗教は二の次で、それよりも金儲けと海洋進出を頑張ってみようかなと考え、イギリスの出した答えが【海賊でメイクマネー!】なのでした。

早い話、宗教より金儲けの時代っすな。

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この史実をふまえて、イエズス会士は家康にこう強く主張しました。

「あんな海賊ども、相手にしちゃいけませんよ!」

しかし、家康には通じません。

こうして世界の西にある島国と、東にある島国の統治者にとって、方針がピタリと一致したのです。

この状況が、カトリックにとってどれほど腹立たしいものか、わかろうというものです。

後発である憎きプロテスタントが、家康に取り入り、のうのうと威張っている。カトリックがいかに残虐であるか、嬉々として吹き込んでいるように思えるのですからね。

しかも、徳川幕府が切支丹弾圧をしようとすると「まぁ、いいんじゃないですかね。あいつらはそれに値する野蛮な連中ですもんね」で終わります。

カトリックが踏みつけられない踏み絵だって「こんなの踏むの、どうということはないでしょ。カトリックじゃあるまいし」と平然と踏む。

江戸時代に来日をしている外国人は、ほぼプロテスタント一色。かつ、楽々と踏み絵をクリアしているのです。

踏み絵/photo by Chris 73
wikipediaより引用

そんな家康の庇護のもと、アダムスは日本生活をエンジョイします。

・帝(家康のこと)は、私を厚遇し、イギリスの大貴族のように扱うほどです

・神に感謝します! こんな素晴らしい暮らしを与えてくださって、ありがとうございます

・日本人は温和で、礼儀正しく、それでいて戦いにおいては勇猛果敢です

・法律はよく守られています。違反者への罰則はしっかりとしたものなのです

・今の日本は平和です。内政の優れていることは、他国は及ばないほどなのです

大絶賛ですな。
むろん、アダムスの置かれた状況と関係が深いもので鵜呑みにはできません。

イギリスにいた頃は、ごく当たり前の船員に過ぎなかったアダムス。それが日本のおかげで、貴族並の大出世を遂げられたのです。

このあたりは、ザビエルとはある意味真逆と言えますが、アダムスもハイテンションな言葉ですので冷静に考えた方がよいでしょう。

前述の通り、アンチ家康といえば豊臣方とカトリックです。

両者は「大坂の陣」で結びつきます。

明石掃部全登(洗礼名ジュスト)は熱心なカトリックであり、徳川を倒せば信仰を取り戻せると信じ、馳せ参じました。彼の配下には、カトリック信者の武士が集まっています。

そしてその願いを打ち砕いだのは、プロテスタント国の武器でした。

イギリスから大砲はじめ武器を買い込んでいた家康は、情け容赦なく大坂城を砲撃したのです。

戦国の世の終わりを告げる砲声の背後には、宗教改革の余波があったのでした。

 

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    世界史的に見ると中国大陸>>>>>日本

    最近、ともかく日本こそが世界の楽園であると言いたげなテレビ番組や関連本を見かけます。

    MAGI』のレビューにも、こんな酷評があって驚かされました。

    「日本食を不味いと外国人が言うなんて信じられない!」

    「俺たちの好きなカッコいい信長像と違う!」

    「西洋人が信長に文句を言うなんて見たくない!」

    いやいや、ちょっと冷静になりましょう。

    歴史を眺め、日本が世界から憧れの国だった時代がありますか?

    いや、誰が訪れようと「ここは天国だ」と思い込むような国なんて、そもそも存在しないでしょう。

    ここで取り上げた西洋人にしたって、各人で状況が異なります。

    ・時代背景
    ・宗教
    ・身分や立場
    ・出身階層
    ・教育環境や性格
    ・日本で出会った人々、目撃した事件

    「日本スゴーイですね!」という番組にしたって、白色人種の欧米人が圧倒的に多いんだから恣意的です。

    これがもし、人種、国籍、性別、年齢層、立場、職業が異なる外国人であれば、皆それぞれ意見が違うことくらい、想像がつくはず。

    そしてもうひとつ、ここは冷静になりたい事実があります。

    世界史的に見て重要性としては
    【中国大陸>>>>>>日本】
    ということです。

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    答えは明らか。
    中国大陸の方が、資源、人口、面積、ありとあらゆる点で日本を大きく上回り、魅力があると思われたからです。

    日本が明治以降、侵略されなかったことを誇りとすることは、止めはしません。

    ただし、リスクとリターンを秤にかけて、侵略よりも別の道の方がよいと判断したことは、否定できません。

    イギリスは際立って露骨です。

    明治政府に介入し、ロシアの足止めとすることを意識していたと思われる部分が濃厚にあります。日露戦争の背景には、こうしたイギリスの思惑が見え隠れしています。

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    このことを明治政府も理解していました。

    だからこそ日本では、長いことアーネスト・サトウら来日外国人の記録を人々の目から遠ざけておりました。

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    2018年大河ドラマ『西郷どん』では、このあたりを誤魔化していました。

    当時世界でもっとも狡猾であり、自国利益を第一に考えていた大英帝国の外交官が「薩摩スゴーイですね!」と笑顔で浮かれる観光客のような描かれ方をされていたものです。

    そんな単純バカなワケないんです。

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    カトリックとプロテスタントを混同するなかれ

    日本がアジアの中で特別だ――という誤解もあります。

    現実的に、世界大半の地域において【日本・中国・朝鮮半島】という東アジア圏のことを見分けることはできません。

    「アジア人は差別するけれども、日本人は別」ということはありえません。

    差別主義者は、アジア人をまとめて差別します。みんな「イエローフェイス」です。

    日本から見た、世界各エリアだって同じではありませんか?

    アメリカ大陸、アフリカ大陸、アジア、オセアニア、ヨーロッパ……この出身者を、見分けられる自信がありますか?

    例えばヨーロッパ人は、国ごとに大まかに見分けられるなんて話がありますが、私には絶対に無理です。

    多くの日本人にとっても無理でしょう。

    なんせ日本のフィクションですと、どこの国の出身者であろうと、欧米出身者であれば金髪碧眼に描きがちです。

    しかし現実に、金髪碧眼の人が大半を占めるのは、せいぜい北欧くらい。アジア系欧米人を見ると「なんか思っていたのと違う!」と言い出したりしますよね。

    それにもっと重大な、ありがちなミスがあります。

    カトリックとプロテスタントを混同していることです。

    これは『MAGI』をご鑑賞いただければ、どれだけトンデモナイ間違いであるかご理解いただけるでしょう。

    両者は全く違います。
    同じ宗教どころか血で血を洗った関係。このあたりに無理解だと、世界規模で考えると大きな誤ちをしでかしそうで怖いです。

    歴史というのは、知ることによってなんだか気持ちよくなる、そんなものではありません。

    深く知れば知るほど、苦悩が増してもおかしくはないもの。そのことを踏まえてみれば、『MAGI』はかなり骨太で、見る価値のある辛口歴史劇であるとわかるはずです。

    あのドラマは、世界同時配信です。

    日本人だけの顔色を伺っていて、成功できるはずもありません。反対に、カトリックの不都合を消し去る布教用ドラマにすることも、愚行に他なりません。

    そういう偏りのない歴史劇が、『MAGI』なのです。

    さて、最後に考えたいことがあります。
    私たちには「日本スゴーイ!」と外国人に言わせる手立てはないのでしょうか?

    あります。
    前述の通り、来日外国人はそこでよい人と出会い、親切に接してもらえれば、これはよい国だと思うものなのです。

    日本を天国にすることはできなくとも、来日外国人に対して差別なく、親切にふるまうことはできるはずです。

    そのことを地道に実現していこうではありませんか。

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    文:小檜山青

    【参考】
    渡辺京二『バテレンの世紀』(→amazon
    内藤孝宏『異人たちが見た日本史』(→amazon

    MAGIアマゾンプライムビデオで放映中

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