村人&冒険者「人類を舐めるなよ、化け物が!」
ガーネット(イラっ)
【ー50 (中立) → ー100(中立〜悪)】
ガーネットは森司祭の男が伸ばしただろうツルを使って冒険者達の手足を縛り、荷物を漁る。盗賊のスキルでも隠れた魔法的収納スペースを探すが魔法的収納空間を持つのは一人しかおらず、ユグドラシルプレイヤーのような収納は持っていないようだった。
彼らのポケットや収納にあったのは主に簡易食材や武器、青い液体を入れたポーションのような容器や、武器を手入れする道具ばかりで、ガーネットが求めてる地図のようなものはなかったし、本や手記といったものも特に見つからなかった。
先程この冒険者たちが使った魔法といい、ユグドラシルによく似たモンスターがいることといい。ユグドラシルと何かしらの関わりがある世界なのは間違いはないようだが、しかし確実に何か違う世界とも感じる。
そして今回わかったことは、人間に対してフランケンシュタインの怪物の顔は完全な敵対対象であるということだった。兜などで隠せればいいのだが、フランケンシュタインの怪物というアバターは顔を隠すことができず、兜や面などの装備をできないデメリットがある。それに先ほど幻術で自分を作った時に顔を変更することもできなかった。
装備箇所が少ないことから属性に対して完全耐性を作ることはむずかしい種族だったが、主なメリットとして隠密上昇や基本物理攻撃優遇や明確な弱点がないこと、攻撃への電撃系の付属効果や人間種にたいしての与ダメ・被ダメ2割増がある。もしもフランケンシュタインの怪物で戦闘職でガチビルドを組むならば狂戦士のような短期決戦型モンクが定石だった。
そうやって何かないかと冒険者の持ち物を探し続けていると先程からこちらを見ていた蛇のような化け物が、背後で冒険者の武器を拾って縛った男に振り下ろそうとしている。不可視化を使い、こちらが背を向けてるから見えてないと思っているのだろうが、〈空間把握〉のパッシブスキルで最初からガーネットには見えていた。ので、刃を振り下ろされる直前でその手首を掴む。
「なッ! お主ワシが見えていたのか!?」
「遠巻きに眺めてるだけだったから無視していたけど、お前、喋れたのか? ……いや、そもそもお前は俺の顔は怖がらないのか?」
「……儂はお主と敵対する気はないよ、ただそこで転がってる人間たちに生きて帰られたら困るだけじゃ。お主は亜人の一種じゃろう? 確かにお主のその速さは凄まじいが、まぁ、顔は普通なんじゃないか?」
そう言って手に握っていた武器を落として抵抗のなさを示される。服も着ずに森にいたからただのナーガのモンスターだと思っていたが、会話できる知的生物だったとは。しかもこちらの顔を見ても恐れたり攻撃しようとしない。つまりはこの世界で出会った初めての貴重な情報源である。だがその前に聞くことがあった。
「なぁ、なんでお前はこいつらを殺そうとするんだ? 殺したほうがあとあと厄介になるんじゃないか?」
「ふん、お主はこの人間たちを無傷で返そうとしてるんじゃろ? 手加減して拘束してることから見て取れる。だがの、このまま生きて帰せばお主を討伐しようと人間どもがやってくる。しかしお主はこの森の住人でもないし、たまたま、今ここにいるだけなんじゃろ? お主を倒そうと人間が更に徒党を組んでこの森にやってこられたら儂が仲間を率いて倒さなければいけなくなるんじゃよ。単純に人間は食いたいしの」
「……お前はこの森に住んでるのか、いや、この森の奥にナーガの国でもあるのか? お前はその国の警備隊だったりするのか?」
「儂はこの森の西部分を支配してるリュラリュース・スペニア・アイ・インダルンじゃ。儂は人間と違って徒党を組まないと生きていけないほど貧弱ではないから国なんかもっておらんよ。国なんてものは集団に属さないと生きていけない生き物がつくるものじゃと思うからな。……まぁこの森が儂の国とも言えるが」
どうやらこのナーガは人間を然程の脅威と思っていないらしい。チラリと羅針盤に目を向けると色は黄色を指していてlv30前後あるらしいので、この倒れている人間たちがこの辺りの強者だと仮定するならば虚勢ではないだろう。lv30近く程度で森の支配者を名乗れるのはさすが始まりの村(仮)周辺といったところだろうか。
未だこの世界がどんな仕組みかわからないし、このナーガに迷惑をかけたくはない。だからと言って人間たちを食糧として渡すほど人間の冒険者に迷惑をかけたいわけでもなかった。
「……で、主は何者じゃ? まるでそこに何もないかのような存在感のなさで強さはわからぬが、速さは一級品じゃ。できればわしとしては殺り合いたくはないんじゃがな」
「俺は……なんなんだろうな。まぁ、帰る場所のない怪物、だな。ところでお前はこの辺りの地理とか知ってるか?」
「……儂が知ってるのはこの森の支配図ぐらい、じゃな。主は周辺の国を知りたいのじゃろうが、生憎儂は森から出ないからの」
(情報は得られそうにないな。……どうするかな。俺のせいでこの人たちが殺されたくはないし、でもこのまま返したらこのナーガに迷惑がかかる。問題は何だ? 俺の情報か? 俺を見たこの人間たちの記憶をどうにか出来たらいいんだけど、……ん? 記憶?)
剣呑な空気を出すナーガから手を離してイベントリーに手を突っ込み、目的のものを探す。昔モモンガさんから貰った
取り出したのは〈
この異世界で役に立ちそうにない魔法であるが、ユグドラシルでは予め決めていた外装を展開したり何も変化を起こさないという幻術が、この世界に来てから細かいところまで自分で想像した通りの幻術になったりしている。もしこの魔法も名前のような効果に変化しているのだとしたらやってみる価値はあるかもしれない。それにこういう機会でないと異世界でゲームのログを書き換える魔法なんて使おうとしないだろう。
「〈
「なぁこの世か……森に
「普通におるが、それを聞いてどうするつもりじゃ?」
「これからこの冒険者達の記憶を書き換える。俺の姿を特殊なオーガと戦ってギリギリ勝った。みたいに変えるからこいつらから手を引いてくれないか?」
ナーガが一瞬狂人を見るような目でこちらを見る。しかし、後ろの方──瓢箪蝦蟇を口寄せした方をチラと振り返り、答えた。
「それだと死体の問題がでるぞ。人間の冒険者は倒したモンスターの一部を持ち帰るらしいからな」
「……そうか。あー、なら空を飛んでて
「
「だったら、彼らは特殊なオーガと戦って敗北。しかし突然上空から来た
「……証拠は残らんし、お主という怪物がいたという情報も意味がなくなる、か。まぁ色々と粗はあるがそれでいいじゃろう」
そう言ってナーガは冒険者たちから完全に離れる。一応信用してくれたみたいなので早速魔法を使ってみるがMPがガンガン削られていくのがわかる。全員に〈
アイテムで眠らせた冒険者たちに、死なないように程よくダメージを与え、周りの木々を殴って武器を痛める。ポーションみたいなアイテムを持っていたしある程度攻撃しても大丈夫だろう。そんな隠蔽工作をしていると黙ってこちらを見ていたナーガが問いかけてきた。
「お主はこれからどうするんじゃ? まさかこの森に住むつもりじゃないだろうの?」
そう言われて改めて考える。ここはゲームでいえば始まりの町のような場所、と思われる。森に住むモンスターのレベルも弱く、村人も弱い。
人の多い、実力の高いものが集まる場所に行きたくてもこの辺りの地理がわからない。このナーガも森のことしか知らないらしいし。そう考えていたガーネットはふと、目の前の冒険者たちの存在を思い出した。
「とりあえずこの冒険者たちにこっそりついていくかな、あとのことはそれから考えるとするよ」
彼らが傷を治すにしろ帰るにしろ、拠点に行くならば人や情報も多くなるだろう。そこに行けばこの辺りの地図や地理がわかるはずだ。
とりあえずの計画を立てたガーネットは冒険者たちが目を覚ます前に、彼らの
★
記憶を操作した冒険者たちを並べて、彼らが起きるのを待つこと数刻。ようやく起きた冒険者は、少しの間ぼーっとしたかと思うととんでもないことがあったかのように叫び出した。その叫び声に反応して周りに傷だらけで倒れていた仲間たちも次々と意識を取り戻し始める。
『仕事で訪ねていた村人の異常なほどの願いにより、村人の言う森に逃げた化け物の姿を確認して即撤退するはずの仲間たちがなかなか戻らず、様子を見に来た彼は、倒れてる仲間に
他の10人の倒れてる冒険者たちは、そんな熱く語る彼をポカンとした顔で眺めている。彼らにはその間の記憶を全部消させて貰ったのだから、そんな反応になるのも当然だろう。
その後、落ち着きを取り戻した少年と村人の協力によって村へ運ばれ治療が始まった。彼らの持ち物の中には色が違うがポーションっぽい液体がいくつかあったので容赦なく痛めつけたが、何故か彼らは村に置いていたのだろう薬草を塗り包帯を巻いて治療をしていた。あれはポーションではなかったのか、それともこの世界の住人はポーションでは治りにくいのか。どうせポーションを使うだろうと思い
改めて村の中に入ったガーネットは、一人の冒険者の
先程は見そびれた村で、この世界の住民はどのような生活をしているのか覗いていくと、建物や家財道具から見るに電気製品などはないのがわかる。それに一見何に使うかわからないものもあるが、魔法的な道具も少ないようだった。そしてどうやらこの村は布製品を作っているようで、どの家にも裁縫道具や糸があり、服が纏めて収納されている倉庫もあった。中世のような世界に思えるが、冒険者の中には魔法を使っていた者もいたので簡単に決めつけるのは早計かもしれない。
その晩、村では凶悪な化け物を死んだことを祝う宴が開かれ、猪を二頭ほど捌いて焼いた肉がメインに置かれて酒が振舞われていた。村の茂みでは男女が繋がり、冒険者たちには子供達が群がる。そんな彼らの楽しそうな笑顔を見るとガーネットも笑顔になるようであった──これが自分を死んだ祝いでさえなければ、の話だが。
ガーネットは焼けた肉の匂いに誘われて、冒険者に出されている分厚い肉を一枚つまむ。噛みしめるごとに肉汁があふれ、肉の持つ熱が身体を熱くする。ここ最近木の実だけの生活だったのでこの嚙み応えは素直に美味しいし自然の荒廃した
翌日、治療も終えて村を出発する冒険者達の馬の影に入り込み村を出る。下の影から彼らの話を聞いていると、どうやら彼らは冒険者組合とやらに所属しているモンスターの難度とやらを調べたり依頼を尋ねる役員のようなものらしい。どうやって報告するか、組合長に真面目にいうべきか否かを話し合っていた。
彼らが所属する組織は〈えらんてる〉という場所にある冒険者組合らしく、トップの人間はアインザックというらしい。彼らがこの辺りの治安警備隊のようなものだろうか。
野宿を繰り返し村を転々とすること数日。ガーネットは彼らの会話からこの世界の常識を学ぼうとしていた。途中、村で食べた猪を自分でも捕まえたいと思い抜け出して
そうして数日かけて馬が進み、ようやく目的地である彼らの拠点エ・ランテルへとやってきたのだった。そこは高い城壁に囲まれた都市で、言うならば城塞とでも呼べる都市であった。
今まで見てきた村のように、木の壁や土の塀で作られた都市だったらどうしようかと考えていたが、これならばこの国の実力も期待できるかもしれない。
影に潜ませてもらっている冒険者たちは門の横手の検問所に入るようで列に並び始める。さすがに都市の検問所となれば、熱感知や魔力感知、隠密を看破する罠などが多数仕掛けられているだろう。ガーネットもある程度の罠ならば解除できるが、解除することが罠という二段構えの罠とかになると異世界の知識がない今は難しい可能性が出てくる。それに周囲にはここまで付いてきた冒険者達の他にも、いくつもの商人のような人たちが並んでいる。もしここで見つかれば、フランケンシュタインの怪物のデメリットによってかなり大きな騒ぎになるだろう。
(この都市の権力者や上位者と交渉するためにわざと見つかるとしても、せめて人目のある場所じゃない方がいいよな。ここまで連れてきた冒険者達に迷惑はかけたくないし)
見つかる覚悟と、見つかったらどう交渉するかを決めたガーネットは影から抜け出てランナーという職業のスキル〈壁走り〉を使い城壁塔の壁を登る。壁自体にギミックが仕込まれてることを警戒して忍者の〈水面走り〉を併用して壁に触れないように駆け上がった。
そのまま頂上まで一気に駆け上がったガーネットは迎撃射撃や死角からの襲来に備えて
緊張しながらもその場に座り込み、
ユグドラシルと似た魔法の世界で初見の街に侵入してもバレる気配がないのだ。ユグドラシルの都市拠点ではあらゆる対策を講じて侵入を防いでくる。だからギルド拠点や都市などを、隠密系特化だとしても初見で一人で攻略できるなどほぼないだろう。基本は情報の読み合いと騙し合い、トライアンドエラーの繰り返しであった。
ここまで無警戒だと一つの懸念が生じてしまう。それは『この世界に強者はいないのかもしれない』という懸念だ。もしかしたら索敵が得意な強者がいなかったり、魔法はあっても防壁や罠などの発展がない世界なのかもしれない。もしくは気づいていて放置をしている可能性もあるが、この世界の人間のフランケンシュタインの怪物への反応を見る限り、見つかり次第すぐに攻撃を仕掛けてきそうではある。もしくは人間ではない存在がこの国を支配しているのか、それともこの国や強者にとってこの都市はさほど重要ではないのか。
ガーネットは思考を止め一息つき、下に広がる都市を眺める。そこには三重の壁に囲まれた都市があり圧巻と言える景色が広がっていた。風が運んでくる新鮮な空気が全身に当たって気持ちよく、空を見上げれば遮るものもは一切ない。
この都市に強者がいなくとも、この国のトップや首都にはいるかもしれない。それに知りたいことや補給したいものは山ほどあるのだ。
都市ならば
それにこの都市に来る途中影に潜んだ冒険者たちがゴブリンを倒していたが、ユグドラシルのようにデータクリスタルやお金をドロップすることはなく、そのモンスターは現実に生きている存在だった。データクリスタルが手に入らないならば武器の作り方もユグドラシルとは根本から違うことになるだろう。
ガーネットがよく使う
投げて一定期間後に発光したり、黒い煙幕を撒き散らしたり、電撃で足止めしたりと、基本的に逃走を補助するための使い捨てで投げるのがほとんどであり、ガーネットが本来戦闘に使うメイン武器は別にある。
このような消耗品の補充がこの世界の都市でできるのかも確かめなくてはならない。
これからやるべきことを考え、思考を整理したガーネットは半ば観光気分でワクワクした気持ちを胸に、壁城の上から飛び降りるのだった。
やばいモンスターが村を次々襲って助けを求める間も無く滅び続けたら、それだけで国がお終いになっちゃうよねっていう。
冒険者組合って依頼待ちだけじゃなくて村への聞き込みや調査もしてるのかなと思いこうしました。
なので最初に出会った冒険者たちは難度やモンスターを調べるための実力者たちってイメージです
戦う気はさらさらなくて、なんか村人にすげえ頼まれたからモンスターの姿確認して逃げる予定だったけど、ガーネットの醜い顔みて本能で倒さなきゃ!って挑んだ感じですね
最初はクラルグラとか天狼とか虹とか出そうと思ってたけど、容姿の描写探すのめんどくさくなってモブキャラにしたとかじゃないと願いたい
物語に関わる変更点といったら前話のあとがきの〈振り子の羅針盤〉の設定付け足したぐらい?一話のあとがきの職業構成付け足したけど、本編には特に関わり合いはないです
前書いた時も思ったけど、会話相手いないと寂しい!全部独り言だから地の文多くなっちゃうのキツイ!
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!