ナザリックの潜伏者   作:塩梅少年

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前回のあらすじ

守護者「モモンガ様ー!」
モモンガ「こいつらまじか」
ガーネット「あいつらまじか」
シズ「なにもきこえない」


1ー3 ナザリック地下大墳墓

 ガーネットがナザリック地下大墳墓第九階層の自室に引きこもってから既に幾日か経過していた。しかし、用もないのだから誰も来るわけがないと考えていた自分の部屋という名の要塞(幻想)は、ここに引きこもってから初日に破壊(ぶち殺)されていたのだった。

 

 ナザリック引きこもり生活初日。空中からアイテムを取り出せるということに気づきガーネットがイベントリの中の整理をしていると、複数のメイドのNPC達が突然部屋に襲来し嵐のように掃除をして去っていったのだった。

 突然のメイドの襲来に、隠れてるのがバレたのかと心臓が爆音を上げたガーネットだったが、どうやらほかの部屋も同じように毎日掃除しているらしく、日に二度は掃除をしにやってくる。

 幸い彼女らメイドの殆どが1レベルしかなく、ガーネットの隠密を看破するほどの感知能力も幻術を解く能力も持っていなかったが、もしこれが転移初日に見た守護者アウラなどだったら確実にばれていただろう。

 部屋に来たメイド達は床から天井、そこ掃除する必要なくない? というような場所まで掃除をする。しかし、ガーネットがこの部屋で生活する限り汗や老廃物は生きてる限り出てきてしまう。それ以来食事をするとこや寝る場所などに幻術をかけて綺麗なままと偽らざるを得なくなり無駄にMPを消費する羽目になっており、現状を維持するだけだった幻術が細かい箇所までも自分の想像通りに創造できることに気づけた。

 

 ゲームの世界でも腹は減るらしく、ガーネットは飲食必須のアバターを使うプレイヤーにはご用達のアイテム【木のみ(N(ノーマル))】をポリポリと食べて過ごしている。何のバフも特殊効果もない空腹というバッドステータスを解消するためだけのアイテムだが、単純に圧迫せず多く持てるのでユグドラシルでは人気の食材だった。しかし流石に飽きてきて、そろそろバフつきの食事を食べてみたいという欲求に駆られるが万が一戦闘になった時に必要なので我慢している。そうしてぱさぱさした木のみばっかり食べていると、気兼ねなく食べてた現実(リアル)の液状食糧の喉越しが恋しくなってくる。

 

 引きこもり生活二日目。意を決してメイド達が出入りする時にこっそり部屋から抜け出し散策してみるとナザリックの警備が変化しているのがわかった。どうやらモモンガさんがナザリックの防衛配置の転換をしたらしいので、それを把握するための調査をして一日が終わった。

 

 引きこもり生活三日目。現実世界からの助けはなく、冷静に考えれば現実世界の自分はそろそろ餓死しているのではないだろうかと考えてしまう。もしくは自らにそれほどの価値があるとは思えないが、何らかの装置で延命措置が行われているかもしれない。

 せめて、モモンガさんと二人きりの状態を作り直接聞ければいいのだがモモンガさんの部屋の前には蟲の門番が陣取っており、常に複数の護衛を引き連れている。感知能力の高いものも多く、容易に近づくことができないのでもう暫く様子を見ようと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 ユグドラシルというゲームで謎の異変に巻き込まれてからついに一週間が経ったが未だにガーネットがナザリック地下大墳墓に潜んでいることはバレていなかった。木のみだけの食事や今自分にできることの確認という単調な日々だったが、今日はナザリックに何かがあったのか複数の高レベルのモンスターが動き回り朝から廊下の気配が慌ただしい。

 

 

(……かなり多くのNPCやモンスターが動いてるし、今日は一対一で誰かと接触できるんじゃないか?)

 

 

 一週間も過ぎ現実の自分の体の生き死にがもう絶望的なんじゃないかと考え始めたガーネットは、モモンガさんがこの異変の首謀者だろうと、そして首謀者じゃなかろうともさすがに話し合いにいくべきなのだろうと考えていた。

 前者なら現実世界の身体を助けてもらえるように命乞いを、後者なら異変に巻き込まれた友人として解決の相談に。

 

 しかしモモンガさんと二人きりで話すのは物理的に難しく、向こう側に敵意があった場合即GAME OVERになる。故にモモンガさんと話す前にNPCと接触し話を通しておきたかった。

 〈伝言〉の巻物を使って連絡をすることを考えたが、却下する。もし、万が一モモンガさんやNPCがこちらに敵意を持っていた場合、見えないところで指示を出されたら罠にハメられるかもしれない。戦闘に振ってない構成で後手に回ることは避けたいので、できれば直接会って話して見極めたい。

 

 部屋にやってきては生き生きと掃除をするNPC達には自我意思というものが見え、一つの生命体として動いているのが見て取れる。モモンガさんに盲目的に従っているのならばこのナザリックに対して勝ち目はないし逃げることすら難しい。だが、NPCに自分の意思というものがあるのなら味方、もしくは中立の立場として接してくれるかもしれない。

 

 あれからモモンガさんの部屋を訪れるものを観察し続けた結果、初日の第6階層に集まっていた階層守護者たちが現状の幹部のような立場で動いてるのがわかった。また、モモンガさんと違って必ずしも護衛のようなものがついているわけではないので、このゴタゴタの間に一対一で話すことも可能なのではないだろうか。

 

 その場合、誰に話しかけるのが適切かを考える、第一の条件として万が一の時に逃げることのできる相手だろう。

 まず論外なのは闇妖精(ダークエルフ)の二人である。アウラは索敵能力から、マーレはえげつない範囲攻撃から戦闘になった時に無傷で逃げ切るのは難しい。

 次に候補から外すのはペロロンチーノさんが作ったシャルティアである。たしかNPCでも珍しいガチビルドだったし、初日の様子から話が通じるかわからない懸念もある。

 その次に候補から外れるのはコキュートスとアルベドだ。コキュートスの冷気には耐性が高いし、アルベドは防御重視なので逃げることはそう難しくないだろう。だが彼らの武器は剣やバルディッシュであり、現実となったゲームの世界であれらと敵対し鋭利な武器で襲い掛かられるなど考えただけで身震いがする。

 

 よって狙うのはデミウルゴスだ。戦闘能力も低いし、段階的に変身するのでその隙に逃げやすい。主な戦闘スタイルも殺傷能力が高いものじゃなかった覚えがある。

 

 そう考えてデミウルゴスを探しに盗賊のスキル〈開透〉を使って扉を開けずに部屋を出る。朝と比べて落ち着いているが、ナザリック全体の戦力が大きく移動してるのがわかった。

 

 感知能力の高い獣系モンスターの多い第六階層をなるべく避け──ようやくデミウルゴスを発見できたのは第五階層であった。フランケンシュタインの怪物という種族はエリアペナルティ無効という種族的特殊能力を持っているので、冷気ペナルティを与える第五階層の吹雪や冷気は苦にはならない。

 

 デミウルゴスがいたのは第五階層の、タブラさんなどの性格の悪い、いや、人の嫌なことを考えるのが得意な面々が集まって作った氷結牢獄への道であり、ニューロニストやニグレドなどの精神的に見た目のよくない存在が多く作られている場所だった。ナザリックの中間地点として外部の様子を見たりするなど、1500人が攻めて来た時には前線作戦会議室のような扱いだった記憶がある。

 鼻歌でも歌いそうに歩くデミウルゴスの数歩後ろをついていき、ストーカーのスキル〈不報侵入〉によって同時に部屋に入りこむ。感じる気配からすると中には低レベルの存在しかいないので危険はないだろう。

 

 暗視などの種族的能力を持たず、今は隠密系スキルに多くリソースを割いているためにそのようなスキルや魔法も使っていないので視覚的には薄暗い。しかし、色の付いていない様子が頭に流れ込み思わず目を見開いた。目が慣れるにつれて着色するかのように部屋の()が見えてくる。

 

 腕を引っ張られ鋭い木馬で股からじわじわと裂かれている人間。拷問の悪魔(トーチャー)によって身体を抑えられながら四肢を捻切られてる人間。体中から血を噴き出して動かない人間。まるで綺麗な標本のように骨から内蔵から脳みそまで身体を文字通りバラバラに腑分けされた人間だったものたちが並んでいた。

 

 ゆっくりと横目でデミウルゴスを見るといい笑みを浮かべて気さくに目の前の化け物に話している。話しかけた相手は、たしかここに配置されていたニューロニストとかいうNPCだ。

 

 

「やぁ、ニューロニスト。モモンガ様の慈悲を拒んだという哀れな愚物達の様子はどうだい?」

 

「あらん、ようこそいらっしゃいませ、デミウルゴス様。魔法的な手段での情報収集が悪手と分かったので、いまわ肉体的な方法でお話ししてるところですわん」

 

 

 口から伸びた細長い管を人間の頭から離したニューロニストは朗らかに返答する。そのリアルな、どこまでも現実な赤い光景をただ黙って見ているしかなかった。目の前からは猿轡をされながらも、救いを求めてもがく声が耳に入る。

 

 

「それは素晴らしい。我らが敬愛なる()()()()()()()()()しっかりと仕事を果たしてくれたまえ。そうそう、死体はモモンガ様が引き続き実験に使うそうなので他の死体と混ざらないように気をつけてくれ」

 

 

(……こいつらは何を言っているんだ? 

 

 この人間たちはなんだ? 

 

 なんでゲームに人間がいるんだ? ナザリック外のNPCか? 

 

 それならお前らと同じ意思のある存在じゃないのか? 

 

 それとも本物の人間なのか? ゲームの世界に? 俺とプレイヤー? 

 

 こいつらはなんだ? モモンガさんは何をしてるんだ?)

 

 

 ニューロニストが再び管を人間の男に伸ばし、男の身体が大きく痙攣する。そしてのけぞった男の目と視線が合い、そこにリアルの自分の姿を重ねて幻視する。

 ガーネットは当初の目的も忘れて、静かに、そして逃げるように去っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 9階層の自室に戻ったガーネットは体に空気が触れないように布団に包まってどれだけの時間が過ぎたのだろう。空気に触れていると先程の生暖かいような、冷やりとした空気を思い出してしまう。

 この部屋の扉が開けられて化け物たちが雪崩れ込み捕まる想像をするたびに冷や汗があふれ出す。

 

 

(……殺される。ここに居続けたら確実に殺される)

 

 

 ガーネットは自室に戻り先ほど見た光景を思い出していた。何度思い出してもあの悲痛な表情をする人間がただのゲームのデータだとはとても思えなかった。例えデータだとしても、データが現実化した今では、目の前で見てしまったらもう笑えない。

 そしてガーネットにはアレが他人事だとは思えなかった。もし見つかった時に自分がああされないという保証はどこにもないのだから。

 

 

(……逃げよう。ここに居続けたら命がない。アレを見て平然としていられる精神は俺には、ない)

 

 

 この一週間、モモンガさんがこの出来事の首謀者だと本気で思っていたわけではなかった。モモンガさんが首謀者ならまだ、この事態に説明ができて安心できて理屈がつけられるからそう考えていたのだ。だから、半ば安全だと思ってナザリックに居続けた。

 しかしNPC達はモモンガさんの為にやっているような口ぶりで、つまりはモモンガさんの指示でやっているのだろうか。そう考えるとついすぐ近くの部屋にこの一週間居た人物が酷く恐ろしく感じる。当たり前に話せていた友人の顔がひどく恐ろしい化け物として思い出される。もはや首謀者だろうが首謀者じゃなかろうが関係なく、ただ怖い。

 

 持てるだけのバレない範囲で荷物を回収して早くここから逃げだすべきだと考えるガーネットだったが、逃げ出すための勇気が湧かず自室に戻ってからずっと布団に包まっていたのだった。

 

 そうしていると突然、廊下から多くの強い気配がやってくるのを感じる。片手で数えられる数はすぐに超えてぞろぞろと規律正しくやってくるその気配は、すぐに高レベルの化け物の集団となっていた。

 ガーネットは先ほどまでとは違い俊敏に布団から飛び出しベッドの下に潜り込み、彼らがこの部屋に入ってきたとしても少しでもバレないようにと願って声を抑える。

 しかしそんなガーネットの行動とは裏腹に、突如第九階層にやったきた彼らはそのまま第十階層へと消えてしまう。その百を超える大名行列のような集団は瞬く間に消えていった。

 

 足音も気配もしなくなると、飛び跳ねるようにガーネットはベッドの下から這い出た。机やクローゼットに入れっぱなしだったアイテムを手当たり次第に入れ、取りこぼしがないか確認する。少なくとも今持てるアイテムは全て持ったようだ。

 

 高レベルのNPCやモンスターが第十階層にいったということは上の階層に強者が少なくなったということ。今が脱出のまたとない機会であり、侵入の警備が薄くなることはなくとも内部の警戒網はかなり薄くなっている筈である。

 

 一体自分は何から身を隠すのか、そもそも何かと敵対しているのか、何一つわからないままガーネットは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんっだよこれ……」

 

 

 ナザリックの外の光景を見てガーネットは憎らしげに呟いた。なぜならナザリック地下大墳墓を抜けた先に感じるのは輝く夜空と草原であったからだ。

 ユグドラシルの頃にあったナザリック周辺の薄い霧も、ツヴェークも、毒の沼地も見当たらない。ナザリック内でNPCが人間を痛めつけていたのを見た時は全く意味がわからなかったが、なんとなく理解できた。

 

 ガーネットはゲームの世界に閉じ込められたのだと思っていた。もしくはゲームが現実になったのだと。だが目の前に広がる光景は草原でナザリックの前にそんなものはない。輝く星が散らばる純粋な夜空の光が、遠くからくる緑の匂いが否応なく認識を改めさせる。

 

 ここは数字で構成されたユグドラシル(ゲーム)ではない。荒廃した現実(リアル)でもない。全く異なる別の世界(異世界)であった。




原作の「フランケンシュタインの怪物」というお話

醜い怪物を作り出したフランケンシュタイン博士は、自ら創造した怪物を拒絶し、怪物は出会う人間全てから迫害されました。
その後、旅路の末に怪物はフランケンシュタイン博士の親族を殺してしまいます。
怪物はフランケンシュタイン博士に対して、創造主として己を幸福にする責任があるとし、寂しくならないよう同族を作るように頼みこみ人間に危害を加えないことを約束します。
博士は怪物の言うことに納得し怪物の同族を作り始めるのですが、人間に害を及ぼす怪物を増やすことは、人間への義務としてあってはならないとして約束を反故にしました。
結果、怪物は憎悪に心を染め、博士の家族を殺します。復讐を誓った博士は怪物を追い北極まで追いかけて命をと落としました。


まぁ何が言いたかったのかというと、この怪物はもともとは綺麗な優しさに憧れる普通の心を持っていたのですが、周囲から迫害されることによって復讐するしかできることがなかった感じで、最後まで正しくあろうとはしていました。
まぁ読んだ感想としては別に悪ではないよなぁと思ったので「フランケンシュタインの怪物」のアバターのオリジナル設定はカルマ値-50(中立)で、種族的特性として人間種に攻撃されるとカルマ値が一時的に悪に傾くかんじです。原作でも人助けとか結構してるし。なのでカルマ値によるコンボや攻撃には使いづらいイメージ。あ、タイトル変更しました(小声)



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読んでくれてありがとう!

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