かつて爆発的な人気を誇った一つのDMMO-RPGの最終日、そのゲームのギルドの一つ、アインズ・ウール・ゴウンに所属していたプレイヤー“ガーネット”はヘルヘイムの世界で、彼らが所持する拠点、ナザリック地下大墳墓へと走っていた。
ナザリックの入り口近くのグランベラ沼地の島の一つには、ここまでの道中で見たものと同じであろう花火がぎっしりと引き詰められているのが見てとれる。
ガーネットは転移の指輪リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの転移先一覧から第九階層の欄を選び転移する。
そのまま
数時間前にユグドラシルにログインしたガーネットは、かつてのギルド長である“モモンガ”と幾何か話した後、一人お祭り騒ぎのユグドラシルの世界を散策していたのである。
しかし、もうそろそろサーバーが落ちる時間だと気づいたガーネットは、「他にも来るかもしれないメンバーがいるかもしれないので私はナザリックにいます」と言ったギルド長の言葉を思い出し、せっかくだからまだいるかもしれないモモンガさんと一緒に最後の瞬間を楽しもうと再びナザリックに戻ってきたのだ。先ほど見た入り口付近の花火もモモンガさんが用意したのかもしれない。
そんなガーネットの職業構成は戦闘に特化していない隠密に特化した構成になっており、そんな彼の視界の片隅に浮かぶ地図にはこの先の
魔法職なら組み合わせや戦術で、戦士なら現実世界の運動神経がプレイヤーの実力に大きく影響するが、自分のような戦闘を視野に入れていない盗賊系の忍者職のプレイヤースキルは、変動する様々な情報をどこまで把握できるかによって決まる。悪く言えばごちゃごちゃした表やグラフに波紋などが示された画面を読み解く理解力が求められる。周囲の気配やターゲティングの方向や、温度変化に音や空気の変動、魔力の波動に空間のゆがみなどが画面に細かく表示されており、それらを同時に理解して動かすのが盗賊の動かし方であった。
(……誰が来てるんだろう? 懐かしい顔に会えるかもな)
ユグドラシルを疎遠になってからおよそ二年。このゲームに飽きて疎遠になっていた自分だが、彼らと顔を合わせ遊んだのは楽しい思い出だった。合わせる顔は化け物の顔であるのだが。そんなかつての思い出を思い返し、やや駆け足で
しかし部屋にたどり着く前に反応のうちの一つが消えてしまった。どうやら会う前にどちらかがログアウトしてしまったらしい。
ガーネットは梯子を外された気分になり自然と足取りも遅くなる。まぁ笑い話として受け止めようとして、そのまま
「――ふざけるな!」
その手は思わぬ怒号によって止められることになった。反射的に周囲から隠れようとして、かつてユグドラシルで行っていた隠密系のスキルをすべて解放させるショートカットを押し周囲と同化する。
「ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんで皆そんなに簡単に棄てることが出来る!」
壁越しでも聞こえるその声にガーネットは身を竦ませる。
「……いや、違うか。簡単に棄てたんじゃないよな。現実と空想。どちらかを取るかという選択肢を突きつけられただけだよな。仕方ないことだし、誰も裏切ってなんかいない。皆も苦渋の選択だったんだよな……」
空中で止まった腕を下げ、そのまま扉の横で壁に寄りかかるように座り込んだ。穏やかな目覚めと共に泥水を背中にかけられた気分だった。なぜならガーネットは今でも他のゲームをかつてのユグドラシルと同じように遊んでいるのだから。
ユグドラシルを簡単に棄てたし、現実と比べたわけでもなく、苦渋の選択でもなかった。ただやりたいことをやり終えたから、飽きた空想から次の空想に移っただけ。間違っているとは思っていないし“裏切った”なんて微塵も思っていない。
確かにユグドラシルというゲームは楽しかった、しかしただそれだけで特別視するものではなかった。なぜなら他にも楽しいゲームはいっぱいあるのだから。
しかしギルド長のモモンガさんの立場になって考えれば彼の気持ちも
俺達――モモンガさん以外のギルドメンバーからしたら自分の使った時間とお金である。ゆえにそれに対して満足も納得も後悔もしてゲームを辞めることができた。
しかしそれをギルド長として任された側からしたらどうなのだろうか? けして仲の悪くない友人と少なくない金や時間をかけて作った集大成。
人は自分一人のものは捨てることも終わらせることも決断できるだろう。だけど自分以外が関わったものを気軽に捨てることも終わらせることもできないのではないだろうか。
いつか誰かがモモンガさんを悪い意味でギルド長に向いていると言っていたが、悪い意味でもギルド長に向いてなかったのだろう。
モモンガさんがユグドラシルを大事に思っていたのは知っていた。それを知ってなお、自分を含めてなんとなく籍を残していた三人とモモンガさんを除けば四一人中三七人が、彼らなりに何らかの終わりを作ってこのゲームをやめたのだ。
自分を含めて皆、モモンガさんも何かしらの終わりを作るんだろうと考えて、だから誰も何も言わなかった。なぜならそれはモモンガさんが決める問題だし、自分達には何の責任もないのだから。
――しかし友人として彼を思うのならば何かしてあげるべきだったんじゃないかとも思ってしまう。
そんなことを考えていると
その後ろ姿を追いかけることも声をかけることもせずにただ、見送る。
そう思い一人床に座り込みなんとなく終わりの時を待つ。贖罪するつもりなんてないし、悪いとは思っても悪いことをしたなんて思っていない。この嫌な気分のまま逃げるようにログアウトしたら、楽しかった思い出まで否定される気がしたから。だから帰ったらモモンガさんにお疲れ様のメールでも送ろうと考えてガーネットは座り続けるのだった。
(ナザリックではやりたいことやって、楽しかったよな。今やってる戦車げーも極めつつあるし、今度は内政ゲームでも始めたいな……でもマスターバッジまだ全部揃ってないんだよなぁ……ん?)
これといってやることもなくかつてのナザリックを振り返って座っていると、いつもごちゃごちゃしていた大小さまざまな地図やグラフが画面から消えたことに気づく。こんなに綺麗な画面になったのは
サービス終了の瞬間を見るのは初めてだったがこういう感じに終わるんだなと思っていると、世界が――変わった。
それはまるで背中に目ができたかのような万能感。皮膚がすべて耳に変わってしまったかのように周囲の静かな音が全身に突き刺さってくる。今までなかった器官が全身に生えたかのような違いに倒れるかと考えるが倒れるない身体。足が八本に増えた人間が、足を動かすことができてもどの足から動かせばいいかわからないように、いま身体を正しく動かせているのかがわからない。
そんな気分が良いのか悪いのかわからないような身体を動かして、ガーネットは少しでも気分が良くなる場所を求めて歩く。
そうしてアインズ・ウール・ゴウンが一人、フランケンシュタインの怪物ガーネットは
ガーネット 異形種
創造主のいない創造物
属性――中立――[カルマ値:-50]
種族レベル
ホムンクルス――――――――――――10lv
改造人間―――――――――――――― 5lv
フランケンシュタインの怪物――――― 5lv
職業レベル
シーフ―――――――――――――――15lv
ハイシーフ―――――――――――――10lv
アンチトラッパー―――――――――― 5lv
ランナー―――――――――――――― 3lv
ダイバー―――――――――――――― 3lv
ストーカー――――――――――――― 5lv
アサシン―――――――――――――― 5lv
幻術士――――――――――――――― 5lv
ニンジャ――――――――――――――10lv
カゲツカイ――――――――――――― 3lv
口寄せ師―――――――――――――― 5lv
カシンコジ―――――――――――――10lv
マスターニンジャ―――――――――― 1lv
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとう!