2000年問題とキリスト教

米国のキリスト教コミュニティの中には、2000年問題で警鐘を鳴らしているところがある。「聖なる恐怖」とでもいうべきものだ。

Joe Nickell 1998年10月26日

米国のキリスト教コミュニティにおける最新の論点は、聖書の解釈とはまるで関係がない。所詮聖書には、西暦2000年のコンピューター・ソフト欠陥問題についての神の啓示は見あたらないのだ。

西暦2000年が近づくにつれて、世界中の企業や個人パソコン・ユーザーに脅威を与えているこの技術問題は、キリスト教コミュニティにおいてもきわめて党派色の濃い論争の火付け役になった。

「私は、『最後の審判の日の予言』から『現実にほおかぶりを決めこんでの否認』に至るまで、ありとあらゆる話を耳にしている」と語るのは、カトリック社会科学者協会(Society of Catholic Social Scientists)会員のローレンス・ロバージ氏だ。ロバージ氏は、近く開かれる同協会の今年の年次総会に、キリスト教社会内部における、2000年問題の脅威をことさらに強調するような言動を問題にするレポートを提出する。「神学上の問題と、世俗の問題とを混同している人がたくさんいる。彼らは、この技術上の問題を通じて神からの預言を見出そうとしている。水と油を混ぜるようなことをしているのだ」

しかも、ロバージ氏のようなキリスト教会の穏健派指導者たちに言わせると、神の預言を求める人たちは、少なからぬ恐怖心を信徒たちの間にかき立てようとしているという。

たとえば、約200万人の信者を擁する全米最大規模の保守的キリスト教団体『クリスチャン連合(Christian Coalition)』は、ウェブ・サイトに次のような予言を含む論文を掲載している。「クリントン大統領は非常事態宣言を出すだろう。彼はわれわれがまったく想像もしないような行政権を行使するだろう。彼はまさにわが国初の独裁者となるだろう。彼は公益事業と産業を支配するだろう。彼は州兵を連邦正規軍に編入するだろう。食糧やガソリンなどは配給制になるだろう。あなたがたの財産は不法財産と宣告されるだろう……」

クリスチャン連合理事のビリー・マコーマック師が執筆したこの論文は、そのような事態を最悪の場合のシナリオと言いながら、最善はおろか、次善のシナリオさえ提示していない。この論文の結論は、キリスト教徒はただちに、食糧、水、衣服、22口径弾薬、金銀貨の備蓄を開始すべきだというものだ。

クリスチャン連合は、この論文についてのコメントの求めに応じなかった。

パット・ロバートソン氏のクリスチャン・ブロードキャスティング・ネットワーク(CBN)社は、同社のオンラインサイトの『2000年問題の見通し』のページ上に、これと似通った不安をかき立てるような意見を掲載している。ここには「西暦2000年:災いに遭う日」といった見出しが並び、サバイバリスト情報を広める団体、『カサンドラ・プロジェクト』の企画者のインタビューなども掲載されている。

『2000年問題の見通し』サイトを作成するドリュー・パークヒル氏は、「われわれは、最悪のシナリオから、いちばん平穏なものまで、あらゆる見方を提供するように努めている。それこそがことさらに脅威をあおることになるのだと言う人もいるが、私はすべての答えを知っていると言うほど傲慢ではない。だからこそこのサイトにさまざまな意見をのせるのだ」と語る。

ニューヨークに本部のある『インターフェイス・アライアンス(Interfaith Alliance:諸宗派同盟)』の広報担当、アンバー・カーン氏によれば、CBN社の2000年問題関連のテレビ番組やウェブ・プログラムは「控え目に言っても、少々恐ろしい」という。

「クリスチャン連合とCBN社は、人々に恐怖心を吹き込んで危機感や切迫感を醸成しながら、極端に保守的な政治路線への支持の確立だけに打ち込んできた組織だ」とカーン氏。同氏が属している諸宗派連合組織は、全米で50以上の宗派から信者が集まっているのを誇り、中道路線を進めている。「あの人たちが2000年問題を口にする真意を、ぜひ知りたい。行き届いた、有用なことだと思ってやっているのだろうか。それとも、信仰厚い人々の心のなかに恐怖心を吹き込むことで、なにか別の問題をあやつろうとしているのだろうか」

ロバージ氏によれば、彼らの真意は明確だという。

「これらのにせ予言者たちは……自分の財布の実入りや信者数を増やそうとしているのだ。わが国には、2000年問題とは何なのかいまだに知らない人がかなりいる。私が恐れるのは、そういう人たちがパット・ロバートソン氏の本を読んだり、その他の組織が出す最後の審判を予言するような御託を聞いたりして、煽動されてしまうのではないかということだ。なにしろ彼らに入ってくるのはその手の情報だけなのだから」

ロバージ氏は、宗教界においては、この問題はやっと表面化したばかりだと確信している。「私の直感では、これから1年半の間におかしな連中がぞろぞろ現れて、2000年問題と神学の問題をごっちゃにするのが見られると思う。危険なのは、もしみんなの恐怖心があおられた場合、彼らの言葉が、みんなが予言どおりに行動して自動的に実現してしまうような予言、終末論タイプの予言になるということだ」

もっと実用的な展望を提供しようというキリスト教団体もある。

アトランタに本部を置く『ヨセフのプロジェクト2000』は、キリスト教社会の意識を高め、2000年問題対応策を支援する諸宗派間ネットワークを構築するために設立された。

このプロジェクトの実行責任者、ケート・アレン氏は次のように語る。「われわれはキリスト教徒として、人々の物質的な求めにも、精神的な求めにも応じる準備をする必要があると感じている。この事態は、実は問題の仮面をかぶった1つのチャンスなのだと考えている。人は困難な状況に追い込まれると、光を当ててくれる存在としての神にたよりはじめる……キリスト教徒にこの備えができていなければ、問題が起こったとき、彼らは信仰を持たない者と同じような混乱に陥るだろう」

アレン氏は、自分の宗派も信者たちに食糧などの必需品の備蓄を勧めていると言うが、自分たちの促していることと、他の人たちがあおっていると思える現実逃避願望とは別物だと考えている。

「神は、われわれは自分の属する共同体のために、愛し、与え、働くべきだと言われる。それこそが私たちが進めていこうとしていることだ。イエス・キリストの霊の証しを、堕落して滅びゆく世界に顕すことの大切さが、強調されなければならない。たとえその道程でわれわれ自身が苦難に遭い、死を迎えるような事態に陥ってもだ」とアレン氏は語った。

WIRED NEWS 原文(English)

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スープとダイヤと独占と

米マイクロソフト社に対する反トラスト法違反訴訟の公判で、弁護士は専門用語をトーマス・ジャクソン裁判官に伝えるのに四苦八苦している。時には極端な比喩が使われることもある。


ワイアード・ニュース・レポート 1998年10月26日

米マイクロソフト社に対する反トラスト法違反訴訟の公判は第1週を終えたが、弁護士が直面した最も深刻な問題は、難しい専門的な概念を、どのようにトーマス・ペンフィールド・ジャクソン裁判官に説明するかだった。

10月20日(米国時間)の弁論の中で、マイクロソフト社側のジョン・ウォーデン弁護士は、ネットスケープ社のジム・バークスデール最高経営責任者(CEO)の言う「独占的製品」の定義を明らかにさせようとして、スープとダイヤモンドのたとえを持ち出した。

以下の法廷でのやりとり記録が示すように、この比喩はあまりうまく機能しなかった。

ジョン・ウォーデン弁護人:独占的製品とは何ですか。

ジム・バークスデール証人:ええと、私にとっては、いや、私は法律家ではありませんが、私にとっては、市場で明らかに支配的な地位にある製品、この製品を使うかどうかについて市場がもはや自由に選択することができない程度まで支配的になっている製品のことです。

弁護人:あなたの定義で、例えば、原料を押さえていることによるダイヤモンドの独占と、えー、そうですね、みんなが買いたがるために独占的地位にあるスープの缶詰とは区別されますか。

証人:少なくともお店のスープの陳列棚に競合品が並んでいて、私がいずれかを買うことができれば、そう……スープの中に欲しくない具が頼みもしないのに入っていることのないようなものを買うことができれば、これは開かれた市場だと思います。

弁護人:何かを無理矢理入れることと独占が何か関係がありますか。

証人:その点については言葉を付け加えようと思っただけです。

弁護人:ええ、そうだと思いました。この部分は回答に当たらないので、記録から削除していただきたいと思います。

ジャクソン裁判官:無効にします。

弁護人:もう一度、質問します。

証人:ダイヤモンドの質問については何もわかりません。スープはわかります質問の意味を理解したかどうかは定かではありませんが。

弁護人:それではここで仮にキャンベル社のスープが、米国の食料品店で売っている缶入りスープの8割から9割を占めると仮定してください。これは単なる仮定です。

証人:はい。

弁護人:もう1つ、世界で産出されるダイヤモンドの販売の9割を、デビアス社の中央購入オフィスが握っていると仮定して下さい。

証人:はい。

弁護人:あなたは次の2つの区別しますか、つまり、デビアス社の統合購入オフィスの持っている独占力と……いや、どうでしょう、あなたもキャンベル社が独占力を持っているとは思わないかもしれないですよね。

裁判官:質問は何ですか。

弁護人:私の質問は、証人が独占力という言葉を使ったわけですが、その意味を知りたい。そこで2つの例を示そうとしているのです。

裁判官:証人はその言葉を1回定義したと思いますが、弁護人は証人にもう一度定義をしてもらうことはできます。

弁護人:ありがとうございます。

弁護人:キャンベル社のスープが米国の缶入りスープの8割から9割を売り上げているなら、キャンベル社は独占力を持っていることになるのでしょうか。

証人:高い比率を占めているから独占、ということではありません。違います。比率が独占と何か関係があるとは言いませんでした。

弁護人:手に入る製品が他にない、というようなことを言いましたね。

証人:違います。そうではなくて、どの製品にするかの選択ができない、と言ったのです。消費者が自由に選べない、ということです。

弁護人:わかりました。独占とは、もし消費者に選択の自由がなければ独占的である。これで正しいですか。

証人:あなたは私の定義を尋ねたのです。

弁護人:……あなたの定義として、正しいですか。

証人:私は法律家ではありません。

弁護人:いえ、これはあなたの証人尋問なんです。

証人:それは、正しいです。

WIRED NEWS 原文(English)

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