突如異世界へと飛ばされたナザリック地下大墳墓、しかしその場所は王国ではなく――
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ユグドラシル最終日。AOGのギルド、ナザリック地下大墳墓の最奥のWIに腰かけたギルド長モモンガは、途中で見つけたNPCを付き従わせ待機させたあと、かつての思い出を懐かしみながらユグドラシル最後の時を迎えようとしていた。
「明日は四時起きか……」
楽しかった空想の世界は終わり、楽しくない現実の日々に備えなくてはならない。サーバーの終わりが近づくと共に目を閉じて最後のカウントダウンをしていたモモンガであったが、世界が揺れたかのような衝撃に驚き思わず目を開けた。
「な、なんだ!?」
ゲーム終盤ギリギリにナザリックの最奥まで攻め込む物好きなプレイヤーが来たのか、それとも鈴木悟がいる現実世界で震災でも起こったのか。
完全に気を抜いていたモモンガが半ば反射的に辺りを見回すと、驚きの光景が目に入ってきた。
モモンガが連れてきたセバスとセバス率いるNPCチーム〝プレアデス〟それに玉座を守るよう配置されていたNPCのアルベドがまるで玉座に座るモモンガを守るかのように瞬時に編成を組み、それぞれ武器を構えスキルを発動し臨戦態勢に入っていた。
その見事な動きは、モモンガが臣下に守られる本物の王様であるかのような印象を与えた。
かつてナザリックに侵入してきた敵と戦うNPCの動きは幾度か目にした事はあるけれども、侵入者を滅ぼさんと動き出した彼らの動きは見た事がないほど俊敏で、まるで生きているかの如くであった。
モモンガはナザリックの最奥を守るNPC達に、いや細かな組み立てを施したかつての
ナザリックの最奥まで侵入者が来た時に備え、誰かが時間をかけてこのように動く精密な行動AIプログラムを作っていたのだろう。
最後の最後に、今は去った友人が残した痕跡を見ることができ、モモンガは素直に感動する。
そして悪名高きナザリックのギルド長として、ユグドラシルの最後の瞬間までAOG
しかし、モモンガが予期していた侵入者はどこにも見当たらずモモンガが入ってきた扉も開いていない。
確かに盗賊職のレベルを持つプレイヤーならば音も立てずに、扉も開けずに侵入することはでき、魔法を発動していないモモンガに発見されないことも容易だろう。しかしギルドの守護者であるNPC達が、特にこの場を守るよう設定されている
なぜなら
先ほどの音の原因が、侵入者による攻撃ではなく現実世界によるものかと考えるが即座に否定する。なぜならその場合NPC達が動き出す理由がないからだ。
水を打ったような静寂が場を支配する。やがて戸惑いが落ち着くほどの時間が経った頃にようやくモモンガは気づいた。
(……あれ?)
モモンガは左手首の時計盤に目をやる。そこに表示された時間は0:01:38。とっくにサーバーダウンの時間は過ぎている。
そしてようやくモモンガは、先ほどの振動が現実世界の現象でも侵入者による攻撃でもない可能性があることに気づいた。
「……一体何が起こってるんだ?」
たとえ返事が返ってこないとわかっていても、説明を求めるかのようにモモンガは呟く。
しかし返事を期待していなかったモモンガに対して、まるでモモンガの質問には全て答えるのが当たり前であるかのように、目の前で
「ご安心くださいモモンガ様! 例え何事が起きていようとも、このアルベドが御身をお守りいたします!」
真剣な顔でそう叫ぶ女性の声が聞こえたと同時に、モモンガは己の常識が崩れる音が聴こえた気がした。
◆
帝国より与えられ希少金属で作られた
そして彼女が走るこの場所は帝都アーウィンタルからおよそ馬で二日かかる場所にある、小高い丘に囲まれた見渡せるほどのゴツゴツした広い平原であり、彼女が皇帝ジルクニフから任されている領地であった。
皇帝との取引で、彼女が四騎士として仕えることの本当の代価が貰えない代わりとして渡された一つであり、また彼女の貴族であった経験からこの土地を任されているのである。
しかし彼女は土地を任され運営しているが既に貴族ではない。なぜならこの地には彼女以外の人間──すなわち被支配層がいないからである。モンスターを討伐する義務はあるかもしれないが──守るべき人々がいないこの地を他国から守る軍事的責任を持つわけでもなく、それ故に政治的な権利を持っているわけでもない。
なぜこの地には被支配層、彼女の他の人間がいないのか。それはこの地には人のみならずモンスターも生物もいない、いや生きられない土地だからである。なぜならここは特殊環境変化地域、通常なら起こりえない現象が起こる場所であり、なぜか生物が生きるには必要不可欠な水が全く存在しえない地であったのだ。川も池も湖も地下水すら存在しない。
この地域の周辺は水によって生きるモンスターが住む普通の自然で囲まれている故に砂漠に住むモンスターも現れず、生命がいない故に死も存在しえないことからアンデッドも現れない。そして人が暮らすには外から水を持ってくるかマジックアイテムを使うしかないが生命も植物も育たないこの地にはそこまでしてやってくるメリットがない。
しかしこの地を支配する帝国としては、アンデッドを信奉する有名な邪教集団や知恵のあるアンデッド、それに犯罪組織などに人知らず支配されないように実力のある誰かにいてもらいたいという思惑がある。
そのような理由から四騎士の一人である〝重爆〟にこの地が与えられ、とある理由から人目を避けたい彼女は誰に見られることのない自宅、別荘を持ち四騎士としての休日にはたまに帰り羽根を伸ばしている。そして普段は余っている土地の一部に作った倉庫を、騎士団などに貸すことで収益を得ているのであった。
生命が生きられないとはいえ土地とは資産であり価値があり、同時に無くならないものであり、手放すのが惜しいものである。それを与えることで重爆が四騎士をやめることになったとしても帝国との繋がりを容易く切れないようにする皇帝の策略──ともいえない手段の一つであった。
そして彼女が月夜の照らす平原を駆けている理由──それはこの地にモンスターがいないかを警戒してである。
この地は帝国領土内ということもあり、皇帝から頂いた際に、モンスターが隠れる場所もないことから帝国騎士団の力を借りて全てのモンスターが掃討された。
しかし、一度モンスターがいなくなった場所にもモンスターは現れることがある。例えば空を飛ぶモンスターがやってきて居つくこともありえるし、傷ついた亜人が安全な地を求めてやってくることもありえる。
そして彼女が今最も危惧している可能性、それは先ほどの地響きの原因が、蟻人の襲撃、もしくは蟻人の巨大な集落による地面の崩壊によるものである可能性である。
蟻人──それは人類の、帝国の明確な敵対種族であった。奴らは地下に都市を作り、ゴブリンや人などを奴隷とし静かに領地を拡張する。そして気づいた時には数百を超える軍隊を作り上げ地響きと共に襲いかかってくるのだ。帝国の歴史を紐解けばそうして消えた村や町はいくつもあり、その度に帝国は蟻人を叩きのめし撃退していった。
しかし一見強大な脅威に聞こえる蟻人という種族だが、実際の所は大したことがない。帝国騎士団にとっては蟻人の軍隊は敵ではなく、強力な広範囲系武技を習得しているレイナースにとっては数百を超える軍隊も敵ではないのだ。村や町が消えるのは大抵力を持つ者がいない場合のみである。しかし先ほどの大きな地響きが本当に蟻人の襲撃であった場合、その数が数百どころの話ではないかもしれず、例え帝国四騎士のレイナースであったとしても帝国騎士団に助けを求める必要があるかもしれない。故に彼女はこうして馬で走り領地の安全を確認しているのであった。
しかし今の所蟻人の大群が現れた形跡も他の亜人やモンスターが現れた気配もない。彼女は警戒を緩め、馬の走らせる速度を落とそうと考え始める。
一人で夜の平原を女性がいるのは、人間が劣等種であるこの世界では愚か極まる行動といえるだろう。
しかし彼女は人間として強者に位置する人物であり、全速で走る馬に追いつけるモンスターもそうはいない。そう、本来いるはずがないのであった。
「そこの女性、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
しかしそんな馬に乗って走る彼女に対して
レイナースは即座に走る馬から飛び降りて、背負った槍を声が聞こえた方向に突きつける。そこにいたのは大貴族の執事でもしていそうな老人と、金髪の縦ロールをした内から湧き上がる嫉妬が抑え切れないほど美しい顔立ちをしたメイドのような女性であった。
舌打ちをして、声をかけてきたであろう二人を観察する。
──彼らの息は切れておらず汗ひとつかいていないことから、馬を追って走ってきたわけではないだろうと推測できる。
──二人とも武器を持っていないことから
つまりは先ほどの声も、魔法やマジックアイテムを使った結果であると考えられ、他にも仲間がいるかもしれないと警戒心をあげる。
「そこで止まりなさい」
一息で槍で攻撃できる距離まで老人が近づいてきたところで声をかける。
こちらの発言を聞き入れ止まったので彼らに戦闘の意思はないと感じるが、武器を突きつけられても平然とする彼らの姿は、戦闘をして敵わないから止まった、というわけではない事を暗に伝えてくる。
周囲には馬車も馬も、食料や水を入れた荷物すら見当たらない。この水が手に入らない地域でそれは命に関わることであるし、もし最初から持っていないのであればこの地域のことを全く知らないことになる。
横目で周囲にも何もないことを確認して──〈
旅の途中で野盗に襲われ荷馬車を奪われた貴族かと疑うがそれもおかしい。馬車も武器もないにも関わらず、人が支配する時間帯ではない夜間に全く恐れを抱いていない表情から弱者ではないことが理解できるからだ。そして弱者ならば馬車を奪われることもない筈である。チグハグな印象を感じる彼らについて考えているうちに執事風の老人が喋り始めた。
「私の名前はセバス・チャン。夜分遅く、そして突然で申し訳ありませんが、私達の主人に会うためについてきてくれませんか?」
「……その質問に答える前に聞きます。私が誰だかわかりますか?」
「……申し訳ありませんが、存じ上げません」
今着用している鎧は希少金属であるアダマンタイトで作られた四騎士のためだけに作られた鎧であり、帝国で多少教養のある人物ならば見たことがなくとも見るだけで察しがつく代物である。
それがわからないということは帝国に住む者ではない可能性が高い。レイナースは警戒心を更に一段と上げた。最悪の場合他国からの暗殺の可能性を警戒して。もしかすると最善の場合、彼らはただの伝令役で、その主人とやらのレイナースへの勧誘という可能性もあるかもしれないが。もし、彼女の夢が叶う可能性が増えるのならば帝国を裏切ることもありえるだろう。
「あなたの主人がいる場所はこの近くですか?」
「ええ、ここから少し歩いたあそこの丘のところです」
薄暗くて見えないが、老人が指差した場所はこの特殊環境地域を囲む丘の一つであった。そこは建物も洞窟も何もないただの丘である。もし彼らが暗殺するために来たのであればわざわざ完全武装をした状態の時に声をかえる意味もない。しかしその主人がすぐそこにいるのならばこちら側に降りてこない理由もわからない。
「来てくれるのであれば、貴女が望む事を約束することもできます」
その発言を聞いた瞬間に起こった衝動を唇を噛んで抑える。なぜならそんな台詞は本当に欲しい者が手に入らない人間に対して言っていい言葉ではないからだ。
「あなたの主人に私の望むものが出せるとは思えませんわね」
私が望むものがそんな簡単に手に入れられるなら苦労はないという怒り、そしてもしかしたら本当に手に入るのかもしれという希望。
そんな希望と絶望の狭間で踊る痛みを跳ね除けようと、虚勢を張る。しかし、それに対する返答は彼女を更なる狭間へと押し込むだけであった。
「いえ、我が主人に不可能なことはありません」
そう発言した老人の表情に思わず唾を飲み込む。なぜなら悟ったからだ。それは経験により主人を信じているからでもなく、事実を見て知った知識ゆえに出た言葉でもない。ただ確信しているという狂信にも近い得体の知れない
「それで、私達と共に主人に会ってくれますか?」
その
連れてこられた見慣れたはずの丘の中腹には、まるでその丘の中に遺跡のようなものが突然現れたかのような、途轍もなく大きな遺跡を思わせる入り口がぽっかりと空いていた。
たかが四騎士という立場では手に余るなにか途轍もない事に巻き込まれた予感を感じていると、ここまで連れて来た執事とメイドの二人が突然立ち止まり頭を下げ始める。
「モモンガ様、ご命令どおり連れてきました」
二人が頭を下げたその先。魔界の入り口と見間違える入り口から、帝国の絶対の支配者を遥かに超える、絶対なる
はい、というわけで【終わりと始まり(帝国)】でしたー
もし王国ではなく帝国に転移したら〜、というIF短編、冒頭のみ
原作とほぼ同じ展開だと流石につまらないかな?と思ったんで転移がズレた影響で入り口も天井もほぼ丘に埋まっちゃって地響き起こしちゃった的展開です
正直敬語とかよくわからないからセバスのセリフ変かもしれないですね
↓以下細かい設定
レイナースを起用したのは私の趣味です。最初から帝都に転移したら初期モモンガはジルに手玉にとられそうなんで、独り身で?交友関係薄そうなレイナースさんに任せちゃいました
今回ソリュシャンのセリフがないのは命令で戦闘に入ったら即逃げる役目負ってるの見直してわかったんで、変に喋らすよりはマシかな?的な
この後の展開としては、ナザリックのいない王国vsナザリックに暗躍される帝国という図式ですね。続きは――早くて三期始まる7月?にやれたらなー的な、期待はしないで
蟻人は書籍やweb版でもちょっと出てるんで使いました。ちょっと検索したけどD&Dのフォーミアンってのが元ネタなんですかね?続き書くまでにそこら辺も調べたいなー
あ、あとレイナースの範囲系武技が得意とかは捏造設定です。まぁ二つ名それっぽいし
感想、評価、共に励みになります。誤字脱字報告あれば直します。
読んでくれてありがとーねー!
「村娘の恩返し」と「魔導国冒険者組合史」、「ナザリック陥落」もあるので興味もてたらどうぞ