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【コラム】

筆洗

 一九四一年十二月の対米英開戦の知らせに対し、当時の日本人はどう受け止めたか。戦争の結末を知る世代からは想像しにくいが、作家、半藤一利さんによると解放感が強かった▼「日本人のだれもが一種の爽快感といった、頭の上の重しがとれたような喜びを感じたのである」(『十二月八日と八月十五日』)。国際緊張による重圧と八方ふさがりの状況の中、対米英開戦はむしろ重い雰囲気をぬぐい、独特な解放感へとつながった▼新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相は「緊急事態宣言」を出す腹をついに固めたようである。解放感とまでは言わないが、国民には冷静に受け止める空気がある。感染拡大との闘いのためとはいえ、移動や経済活動の私権をある程度制限することにもなるが、それでも国民が目をつぶるのはそれまでの重苦しい空気のせいだろう▼日に日に増えていく感染者の数と自分も感染するかもしれぬ不安の中で「宣言」による荒療治を求めたように見える。欧米の深刻な状況は絶対に避けたいという願いもある▼その期待を裏切ってはならぬ。私権を預かる以上、丁寧な説明と慎重な運用が求められるのはもちろん、休業を要請される事業への補償もきちんと約束したい▼勝たねばならぬ敵はウイルスである。間違っても、ウイルスと一緒に国民をかえって苦しめる「宣言」にしてはならぬ。

 

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