介護の特定技能試験に合格したジェレミー・クルーズさんは「台風で被災した自宅の修理費や亡くなった姉の子供の生活費を稼ぎたい」と話す。6人兄弟の末っ子で兄はカタールで働く(2月、フィリピン・リサール州)
「早く日本で働き、家族に生活費を送りたい」。フィリピン・リサール州で暮らすジェレミー・クルーズさん(30)は介護の特定技能試験の合格者だが、いまだ来日できずにいる。
ジェレミーさん家族が暮らす自宅
在留資格「特定技能」を新設した改正出入国管理法の施行から1年を迎えた。出入国在留管理庁の発表によると、昨年末時点で介護の特定技能の在留外国人数は19人。政府は初年度に5000人の受け入れを見込んでいたが想定に及ばない。
レジー・アーナンさん(32)は夫とともに特定技能資格での来日を目指す。いまは夫婦別々で暮らしているが、一緒に住める家を建てたいという(2月、マニラ)
海外で行われた介護の技能評価試験の合格者はフィリピンが最も多い。1400人を超えるが、ほとんどが足止めされたままとみられる。
人材受け入れのため、フィリピンの送り出し機関マザーズウェイの担当者(左)と契約手続きの調整をするメディカ出版の担当者(2月、マニラ)
合格者が日本で働くにはフィリピン政府が認めた送り出し機関を仲介する必要がある。特定技能人材の受け入れ事業などを手掛けるメディカ出版(大阪市)は特別養護老人ホームなど全国の18施設から要望を受けている。昨年10月からマニラで複数の送り出し機関と調整を重ねてきた。同社国際事業部の長谷川翔部長は「フィリピン側のルールが発表されても関係者によって解釈が違う。確認に時間と手間がかかった」と振り返る。
マニラ国際アカデミーでは特定技能試験の対策授業を行う。これまでに100人以上の合格者を輩出してきた(2月、マニラ)
介護分野の外国人労働を研究してきた日本大学の塚田典子教授は「技能実習と比べて特定技能は試験のハードルが高く即戦力になる」としつつ、世界で人材の奪い合いが起きている現状から「今後も受け入れが伸び悩めば優秀な人材が日本を素通りするリスクもある」と指摘する。
入所者の食事の世話をする特定技能のフィリピン人女性。国内にいる特定技能19人のうちの一人で、介護現場で貴重な人材となっている(1月、大阪市住之江区の特別養護老人ホーム「健祥会エンリケ」)
新型コロナウイルスの影響は労働者の流れに影を落とす。ジェレミーさんは3月にマニラで日本の介護事業所の担当者と面接したが、手続きは止まったままだという。政府は原則としてフィリピン人の入国を拒否している。関係者からは「人材受け入れは新型コロナが終息するのを待つしかない」との声が漏れる。
文・写真 山本博文
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