【海外アニメ】アラビアンナイト/The Thief and The Cobbler( The Thief and the Cobbler: The Recobbled Cut (2006))【感想】
The Thief and the Cobbler
( The Thief and the Cobbler: The Recobbled Cut (2006))
監督:リチャード・ウィリアムズ
CAST(声優):
タック/
ヤムヤム/ヒラリー・プリッチャード
ジグザグ/ヴィンセント・プライス
傑作か?カルトアニメか?未完の超大作
この「The Thief and the Cobbler」という作品は
他にも「The Princess and the Cobbler」「Arabian Knight」
など色々なタイトルがついてソフトが発売されていたりするのですが
どれも元々は同一作品です。
どうやら昔ディズニー・チャンネルか何かで放送されたらしく、ディズニーのアニメだと思われている方もいるようなのですが、制作国はイギリスであり、配給もディズニーではありません。
このアニメを作ったのはロジャー・ラビットのアニメーション監督で有名なアニメーター、リチャード・ウィリアムズ氏。
彼が自身のアニメーター生命を掛け、最高のアニメーションを作ろうと企画した映画で
その制作期間は実に28年間に渡ります。(※2)
が
あまりにも時間が掛かったために制作を打ち切られてしまいます(なんという…)
しかし莫大な時間と費用を費やしたせっかくのアニメ映画、お蔵入りさせるわけにはいかない、と
なんとか出来上がった部分の動画に登場人物の歌と該当部分のアニメーションが追加されて
マジェスティック・フィルム配給で上映されたのが「The Princess and the Cobbler(1993)」

そこからさらに台詞が変更されたり、喋らないキャラが喋るようになったり、シーンが削られたりして
ミラマックス配給で上映されたのが、「Arabian Knight(1995)」
※このアラビアン・ナイト版は日本でもDVD購入が可能です

そんな不遇の作品なのですが、不幸中の幸い、なんと完成した動画部分と未完成の動画部分(絵コンテやビデオコンテ)を繋げ合わせて作った、本来監督が作ろうとしていたものにおそらく一番近いであろう「The Thief and the Cobbler:The Recobbled Cut」と呼ばれるファンメイド・オリジナル・カット版も存在しています。
この記事では「アラビアンナイト」(Arabian Knight)の邦版DVDとThe Recobbled Cutを見つつ、本来のThe Thief and The Cobblerの内容をある程度推察しながらレビューしていきたいと思います。
------------------
主人公のタックは城下町の靴修理職人。
ある日、自分の家に盗みに入った泥棒と取っ組み合ううちに
修理用具のクギ(英語でtack)が通りにちらばり
ちょうどそこを通ろうとした、邪悪な大臣ジグザグの足に刺さってしまう
ジグザグの怒りを買ったタックは捕まって、お城に連れて行かれてしまいます
<

この悪大臣ジグザグですが、
声優がなんと怪奇俳優ヴィンセント・プライス。

作画の段階からプライスを意識してキャラクターが作られたそうなので
確かにちょっと顔が似てるかも。
そんなタックを助けたのはお城のお姫様ヤムヤムでした
タックとヤムヤム、ふたりは劇的な出会いを果たします


そして泥棒も泥棒で、お城の塔の天辺に飾られた黄金の玉と劇的な出会いを果たしたのでした
この黄金の玉、この物語のキーアイテムで
この玉がこの都市を守っていて、これがなくなると王国の平和が乱れるという伝説があるのです。


ヤムヤム姫が(タックを職人として雇ってジグザグから助けるために)わざと壊した靴を直すタック。
紐を綾取りのように使って、ハートを作っちゃったり、可愛いぞおまえ。
タックくんは喋らないキャラクターなので、動作やクチに加えたクギで表情を変えて感情表現をします
クギを口っぽく見せるのがイイ!

ちなみにこの時、王は奥さん?愛人?とお楽しみ中…
これ子供向けアニメじゃなかったんだ!?
ロジャーラビットのスタッフだもん、しょうがない。あそれ、せっせっせーの、よいよいよい!
そんな中、黄金の玉目当てでお城に忍び込んだ泥棒が
修理中のヤムヤムの靴を奪って逃亡!
タックは必死で追いかけます


このチェイスシーンがすごい。思わずGIFを自作してしまった。
モザイク画で描かれたトリックアートの中を動き回るような不思議な感覚
そしてこれでもかというほどのスピード感!
こんなことやってるから作品完成しないんだよ!(小声)
靴は取り戻したものの、修理が終わったなら用無しだということで、タックはまたジグザグに捕まり、今度は牢屋に入れられてしまいます。
時を同じくして砂漠の果て、ワン・アイ(1つ目)なる悪党と、その軍勢が勝ち鬨を上げていました
えっ悪役ってジグザグじゃなかったの!?もっとヤバイのがいるの!?
という疑問はひとまずおいといて…
その夜、相棒の鳥と悪事を企むジグザグ。
ジグザグのたくらみはヤムヤムを我が物とすることであるということがここで明らかに。
まあ予想通りですよねー
ワン・アイが攻めてくるという予知夢を見る王様。
ジグザグは、3つの黄金の玉さえあれば大丈夫だと王様を宥めますが
例の泥棒が黄金の玉を盗んで…正しくは盗もうとして飛び散らせてしまったからさあ大変。
ワン・アイの恐怖がいよいよ現実のものに。
飛び散った3つの玉はジグザグの手中に。
玉と引き換えにヤムヤムを自分にくれと王様に交渉しに行きますが、
邪悪なお前になんかうちの娘はやらん!と断られてしまう。
困り果てた王様は砂漠の果てにいる魔女の知恵を借りるしかないと考え
ヤムヤムとタックを魔女の元に送ります
砂漠を旅するヤムヤムとタック…

って、お前は誰だ!?
いきなり肌の色が変わるタック。
一体どうしたの!?日焼け?色指定ミス?予算不足?スタッフ変更!?
残念ながらここからのシーン、タックはずっと褐色肌です。
おお…
王様が自分の思い通りにならないので、ワン・アイ側に加勢することにしたジグザグは
ワン・アイのアジトへ単身乗り込みます
このワン・アイはさすが極悪人だけあって、エロい恰好した奴隷を侍らせたり、イスにしたりしているという…
やっぱりこのアニメ子供向けじゃない!
旅の末、魔女の元にたどり着いたヤムヤムとタック
魔女にぜんぜん役にたたなそうな助言を貰う。
そしてついに最終対決!
ジグザグと、ワン・アイ率いる、作画スタッフの健康と精神状態が心配になるようなトンデモ兵器軍団がタックたちに迫る!



タックがジグザグに放ったクギが原因で
死のピタゴラスイッチが開始。
崩壊していくワン・アイの兵器。
どうでもいいけどタックくんのキャラデザが肌の色どころか骨格や人相まで別人と化して
最早序盤の色白ヒーローの見る影無し状態に…合掌。

例の黄金の玉も兵器の崩壊に巻き込まれてしまいますが、泥棒が執念で追いかけて奪取。
王国を救ったタックはヤムヤムと結婚、黄金の玉を救った(ということにされた)泥棒も、王国のヒーローに!
めでたしめでたし!

------------------
…というお話でした。
アラビアン・ナイトの「靴直しのマアルフとその女房ファティマーの話」(第989夜‐第1001夜)をなんとなく下敷きにし、
ヒーローものに直した感じでしょうか。
お話はよく言えば王道、悪く言えば意外性が無くて退屈、分かりやすく言えばジーニーの居ないアラジンなのですが、
やはり動画と、作品から伝わってくるパワーがすごい。
未完成作品とはいえ、その28年に渡って作られたアニメーションの
まさに狂気としか言いようの無い描き込みと動画枚数、デザインの奇抜さに
サグラダファミリアなどの未完成の巨大な建造物や、シュバルの理想宮やコーラルキャッスルなどの個人の執念が生み出した芸術を見た時と同じ感動と恐怖感を覚えます。
芸術ってすごいや…
最後のワン・アイのマシーンなんかピラネージの牢獄の銅版画をそのまま動かしたみたいな感じ。
これはもう、芸術です。とんでもない芸術作品です。アニメを見るというより、美術館に行く感覚で見るのが正しいと思います。
泥棒が映画のフィルムを盗んでThe Endっていうのがお洒落。
タイトルロールである泥棒とタックに台詞が無く、喋らないのも好きです。
参考資料・文献
画像は全て「アラビアンナイト」DVDより引用させていただきました。
米wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Thief_and_the_Cobbler
※1
確かにタックの声優としてショーン・コネリーが予定されていたらしいのですが、結局実現されなかったようです。
米wikiの内容が更新されていたので訂正(2015/5/2現在)
※2
およそ30年間。未完成アニメなので、どこを起点・終点にするかで期間が多少変わってきます。28年は私が個人的に計算した期間で、25年とも30年とも言われています。
誠に残念ながら、当記事の画像や一部文章表現をそのまま転載しているブログがあるようです。
当記事のキャプチャ画像やGIF動画は批評目的に引用・作成・使用しています。
当記事をご紹介いただける際は、リンクを貼っていただけると嬉しいです。
他にも「The Princess and the Cobbler」「Arabian Knight」
など色々なタイトルがついてソフトが発売されていたりするのですが
どれも元々は同一作品です。
どうやら昔ディズニー・チャンネルか何かで放送されたらしく、ディズニーのアニメだと思われている方もいるようなのですが、制作国はイギリスであり、配給もディズニーではありません。
このアニメを作ったのはロジャー・ラビットのアニメーション監督で有名なアニメーター、リチャード・ウィリアムズ氏。
彼が自身のアニメーター生命を掛け、最高のアニメーションを作ろうと企画した映画で
その制作期間は実に28年間に渡ります。(※2)
が
あまりにも時間が掛かったために制作を打ち切られてしまいます(なんという…)
しかし莫大な時間と費用を費やしたせっかくのアニメ映画、お蔵入りさせるわけにはいかない、と
なんとか出来上がった部分の動画に登場人物の歌と該当部分のアニメーションが追加されて
マジェスティック・フィルム配給で上映されたのが「The Princess and the Cobbler(1993)」
そこからさらに台詞が変更されたり、喋らないキャラが喋るようになったり、シーンが削られたりして
ミラマックス配給で上映されたのが、「Arabian Knight(1995)」
※このアラビアン・ナイト版は日本でもDVD購入が可能です
そんな不遇の作品なのですが、不幸中の幸い、なんと完成した動画部分と未完成の動画部分(絵コンテやビデオコンテ)を繋げ合わせて作った、本来監督が作ろうとしていたものにおそらく一番近いであろう「The Thief and the Cobbler:The Recobbled Cut」と呼ばれるファンメイド・オリジナル・カット版も存在しています。
この記事では「アラビアンナイト」(Arabian Knight)の邦版DVDとThe Recobbled Cutを見つつ、本来のThe Thief and The Cobblerの内容をある程度推察しながらレビューしていきたいと思います。
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主人公のタックは城下町の靴修理職人。
ある日、自分の家に盗みに入った泥棒と取っ組み合ううちに
修理用具のクギ(英語でtack)が通りにちらばり
ちょうどそこを通ろうとした、邪悪な大臣ジグザグの足に刺さってしまう
ジグザグの怒りを買ったタックは捕まって、お城に連れて行かれてしまいます
<
この悪大臣ジグザグですが、
声優がなんと怪奇俳優ヴィンセント・プライス。
作画の段階からプライスを意識してキャラクターが作られたそうなので
確かにちょっと顔が似てるかも。
そんなタックを助けたのはお城のお姫様ヤムヤムでした
タックとヤムヤム、ふたりは劇的な出会いを果たします
そして泥棒も泥棒で、お城の塔の天辺に飾られた黄金の玉と劇的な出会いを果たしたのでした
この黄金の玉、この物語のキーアイテムで
この玉がこの都市を守っていて、これがなくなると王国の平和が乱れるという伝説があるのです。
ヤムヤム姫が(タックを職人として雇ってジグザグから助けるために)わざと壊した靴を直すタック。
紐を綾取りのように使って、ハートを作っちゃったり、可愛いぞおまえ。
タックくんは喋らないキャラクターなので、動作やクチに加えたクギで表情を変えて感情表現をします
クギを口っぽく見せるのがイイ!
ちなみにこの時、王は奥さん?愛人?とお楽しみ中…
これ子供向けアニメじゃなかったんだ!?
ロジャーラビットのスタッフだもん、しょうがない。あそれ、せっせっせーの、よいよいよい!
そんな中、黄金の玉目当てでお城に忍び込んだ泥棒が
修理中のヤムヤムの靴を奪って逃亡!
タックは必死で追いかけます
このチェイスシーンがすごい。思わずGIFを自作してしまった。
モザイク画で描かれたトリックアートの中を動き回るような不思議な感覚
そしてこれでもかというほどのスピード感!
靴は取り戻したものの、修理が終わったなら用無しだということで、タックはまたジグザグに捕まり、今度は牢屋に入れられてしまいます。
時を同じくして砂漠の果て、ワン・アイ(1つ目)なる悪党と、その軍勢が勝ち鬨を上げていました
えっ悪役ってジグザグじゃなかったの!?もっとヤバイのがいるの!?
という疑問はひとまずおいといて…
その夜、相棒の鳥と悪事を企むジグザグ。
ジグザグのたくらみはヤムヤムを我が物とすることであるということがここで明らかに。
まあ予想通りですよねー
ワン・アイが攻めてくるという予知夢を見る王様。
ジグザグは、3つの黄金の玉さえあれば大丈夫だと王様を宥めますが
例の泥棒が黄金の玉を盗んで…正しくは盗もうとして飛び散らせてしまったからさあ大変。
ワン・アイの恐怖がいよいよ現実のものに。
飛び散った3つの玉はジグザグの手中に。
玉と引き換えにヤムヤムを自分にくれと王様に交渉しに行きますが、
邪悪なお前になんかうちの娘はやらん!と断られてしまう。
困り果てた王様は砂漠の果てにいる魔女の知恵を借りるしかないと考え
ヤムヤムとタックを魔女の元に送ります
砂漠を旅するヤムヤムとタック…
って、お前は誰だ!?
いきなり肌の色が変わるタック。
一体どうしたの!?日焼け?色指定ミス?予算不足?スタッフ変更!?
残念ながらここからのシーン、タックはずっと褐色肌です。
おお…
王様が自分の思い通りにならないので、ワン・アイ側に加勢することにしたジグザグは
ワン・アイのアジトへ単身乗り込みます
このワン・アイはさすが極悪人だけあって、エロい恰好した奴隷を侍らせたり、イスにしたりしているという…
やっぱりこのアニメ子供向けじゃない!
旅の末、魔女の元にたどり着いたヤムヤムとタック
魔女にぜんぜん役にたたなそうな助言を貰う。
そしてついに最終対決!
ジグザグと、ワン・アイ率いる、作画スタッフの健康と精神状態が心配になるようなトンデモ兵器軍団がタックたちに迫る!
タックがジグザグに放ったクギが原因で
死のピタゴラスイッチが開始。
崩壊していくワン・アイの兵器。
どうでもいいけどタックくんのキャラデザが肌の色どころか骨格や人相まで別人と化して
最早序盤の色白ヒーローの見る影無し状態に…合掌。
例の黄金の玉も兵器の崩壊に巻き込まれてしまいますが、泥棒が執念で追いかけて奪取。
王国を救ったタックはヤムヤムと結婚、黄金の玉を救った(ということにされた)泥棒も、王国のヒーローに!
めでたしめでたし!
------------------
…というお話でした。
アラビアン・ナイトの「靴直しのマアルフとその女房ファティマーの話」(第989夜‐第1001夜)をなんとなく下敷きにし、
ヒーローものに直した感じでしょうか。
お話はよく言えば王道、悪く言えば意外性が無くて退屈、分かりやすく言えばジーニーの居ないアラジンなのですが、
やはり動画と、作品から伝わってくるパワーがすごい。
未完成作品とはいえ、その28年に渡って作られたアニメーションの
まさに狂気としか言いようの無い描き込みと動画枚数、デザインの奇抜さに
サグラダファミリアなどの未完成の巨大な建造物や、シュバルの理想宮やコーラルキャッスルなどの個人の執念が生み出した芸術を見た時と同じ感動と恐怖感を覚えます。
芸術ってすごいや…
最後のワン・アイのマシーンなんかピラネージの牢獄の銅版画をそのまま動かしたみたいな感じ。
これはもう、芸術です。とんでもない芸術作品です。アニメを見るというより、美術館に行く感覚で見るのが正しいと思います。
泥棒が映画のフィルムを盗んでThe Endっていうのがお洒落。
タイトルロールである泥棒とタックに台詞が無く、喋らないのも好きです。
参考資料・文献
画像は全て「アラビアンナイト」DVDより引用させていただきました。
米wiki
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Thief_and_the_Cobbler
※1
確かにタックの声優としてショーン・コネリーが予定されていたらしいのですが、結局実現されなかったようです。
米wikiの内容が更新されていたので訂正(2015/5/2現在)
※2
およそ30年間。未完成アニメなので、どこを起点・終点にするかで期間が多少変わってきます。28年は私が個人的に計算した期間で、25年とも30年とも言われています。
誠に残念ながら、当記事の画像や一部文章表現をそのまま転載しているブログがあるようです。
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