無事に旅を終えた学院の生徒たちが、続々とゴール地点に戻ってくる。その学生たちの表情は千差万別であった。
旅の苦難を表すかのように険しい表情に包まれた者、旅の充実ぶりを表すかのように嬉々とした表情に包まれた者、旅の成果が思ったように得られなかったのか不満げな表情に包まれた者……。
しかし、一様に生徒たちの雰囲気は、旅に出る前と比べて随分と大人びたものへと変わっていた……と生徒たちを出迎える学院長たちは強く実感する。
「今年の生徒たちも、無事にだったようで何よりだ。といっても、全員が思った通りの旅を送れたわけではないようだが」
「おっしゃる通りですね、学院長。いつもの当たり前の平和な日常が、どれほど価値あるものなのか。都市からほとんど出たことのなかった生徒たちは、今回の旅で多くのことを学べたことでしょう」
近代的な魔法が普及したことで、弱小種族だった人間のポテンシャルが大きく上がったとはいえ、その技術を維持し発展させるためには多くの人々、特に高い地位にある権力者の理解と支援が欠かせない。
長年争ってきた王国との決着がほぼ着いたとはいえ、異種族からの圧倒的な脅威に立ち向かうためにも、さらなる固い団結力がこの国には求められる。
強い軍隊、強い帝国。単純な力のアピールは、特に今の時期の帝国には必要なことだった。だからこそ皇帝は闘技場以外でも、騎士たちの強さを臣民にアピールする機会を探っていたのだ。
さらには将来有能たりうる人材や権力者たちを、騎士とともに命の危険のある旅をさせることは、彼らが武官文官どちらの道に進もうとも有意義なことである。
まだ世界を知らない真っ白な生徒らに、恐怖という種を早めに植え付けておくこと。またその恐怖から騎士たちの手で救ってやることは、今後様々な政策を進める上で多くのメリットをもたらすことは疑いようがなかった。
そこには生徒たちを要人と見做した、騎士たちの警護訓練といった目的も含まれていたが、これはあくまでも副次的なものにすぎない。
しばらくすると、学院長らの前方にジエットたちの班の馬車が現れた。
一見他と変わらないその馬車の後ろに、引きずられるように繋がれていたのは、緑色の巨大な体をした一体のモンスター、ギガントバジリスクであった。
「なっ……!? ば、馬鹿な……そんな、そんなことはありえん! 私の目が狂っているのか? あ、あれはもしやギガントバジリスクか!?」
「オリハルコン級冒険者でも倒すのが難しいモンスターを仕留めて帰ってくるとは……さすがはフールーダ様です」
ジエットたちの馬車に繋がれていたギカントバジリスクは、全長十メートルをゆうに超える巨体の持ち主だったものだ。
蛇とも蜥蜴ともいえる胴体を持ち、八本の脚、頭部には王冠にも似たトサカを持つ。石化の視線と猛毒の体液を使って繰り出される攻撃は、熟練の冒険者といえども何か一つの失敗で敗北に直結しかねない怖さがある。
「やはりかなり遅れが出てしまいましたね……。でも、何とか間に合ったようでよかったです。ここまで無事に旅を終えることが出来たのは、フールーダ様とナーベさんのおかげです。ありがとうございました」
「うん、そうだね。フールーダ様とナーベさん、私からも改めてお礼を言わせて下さい。本当に助かりました」
「そう言ってくれると嬉しいぞ、二人とも。それから何度も言うようだが、このギガントバジリスクを倒したのは私ではなくこのナーベさ……ど……のだからな。そこは間違えないように」
ギガントバジリスクのその圧倒的な存在感は、他の多くの学生たちからはもちろん、騎士たちからも注目の的であり、何人かが話を聞くために集まってくる。
「おいおい、いったい何があったんだよ?」
「いや、それがだな──」
優秀な帝国の騎士たちといえども、このギガントバジリスクというモンスターは正直手に余る。帝国最強の魔法使いと周辺諸国でも名高いフールーダでさえ、1人で仕留めることは難しいほどだったのだから。
「フールーダ様、お疲れ様でした。この度の試験いかがでしたでしょうか?」
「……うむ。今年の大森林は、何かただならぬ異変が起こっていたようだな。そのことに学院側は気づいておったかね? 今回のこの班には、たまたまわしとこちらのナーベ殿がついておったから、なんとか無事に終わることができた。しかし、他の班の騎士や生徒たちだけであれを何とかできたとは思えん」
多くの貴族の子弟を預かるこの学院では、安全管理というものは特に重要視されていた。貴族の命は権力争いで敵対貴族から狙われるだけでなく、盗賊や他国の権力者たちからも様々な目的で狙われることが珍しくない。
また、帝国魔法学院は将来の帝国政治を担う立場の者や、帝国の武力や技術力、経済力を上げるための人材を排出するために、様々な勢力を帝国皇帝とフールーダがまとめ上げ創設した、国の教育機関である。
もし万が一にでも、そのような場所で大事件が起きれば、生徒の安全管理もろくにできないのか、という問題に発展しかねない。それが皇帝の力に疑問を投げかける隙となれば、騎士団の武力によって国内の貴族を抑え込み権力を統一してきた皇帝にとって大きな足枷となることは明白だった。
「……異変についてこちらでは把握しておりませんでした。申し訳ございません。現在帰還した班の間では、大きな問題は発生していないようです。異常を感じて早急に旅を切り上げてきた班は、いくつかあったようですが……」
「なるほど……。無事に帰って来れたのなら、何も言うことは無い。残りの班にもしもの事があってはならん。早急に迎えのものを出す手筈を整えよ」
「かしこまりました。フールーダ様」
今の自分の立場から考えて、少し複雑な表情を浮かべるフールーダ。
(本当によろしく頼むぞ、学院長よ。それにしても、この試験は前から学生には少々酷ではないかと感じていた。将来花開くかもしれない才能溢れる卵を、このようなことで失ってしまうのはあまりにも惜しい。私からも安全面への配慮を陛下にお願いしておくとするか)
人間というのは弱い生物である。そのことにフールーダは疑問を感じない。互いに助け合い、協力し合うことで、この厳しい世界で人間という弱者は生き抜くことができる。それはこの世界を少しでも知るものであれば、誰もが思うことであった。
ゆえに、フールーダは常に力を求め続けてきた。
「なぜそこまで強大な力を求めるのか?」
「なぜ逸脱者(昔は英雄など)と言われるほどの存在でありながら、未だに研究を続けるのか?」
今まで多くの者から何度も聞かれた質問である。フールーダが個として過ぎた力を見せた時、先々代皇帝からも、先代の皇帝からも似たようなことを尋ねられた。
それに対してフールーダの答えはいつも決まっていた。
「私は魔法の深淵を覗きたいのです。そのためであれば、私の持つ全てを捧げます。他には何も要りません」
狂気的な魔法への信仰心とも呼べるそれは、皇帝という権力者からは肯定的に受け止められた。
野心や野望を持つ者というのは、力を持ちすぎるといずれ裏切る可能性がある。その点、フールーダは魔法を研究するための最高の環境を提供してやるだけでよい。それだけでこの者は満足する。なんと扱いやすいことか……と。
皇帝に話した言葉には、確かに嘘偽りはない。魔法の深淵を覗くという欲求は、他のあらゆるものにも勝る。権力や女や金など、本気でどうでもいいとさえ思っている。
けれども、フールーダには1つの欲望……というより正確には恐怖があった。それは死への抵抗である。死ぬことに対する恐怖というのは、抗い難いものであったからだ。死ねばそこで終わりであり、深淵を覗くことも、未知なる体験を経ることも叶わない。
その死から抗うために、若い頃のフールーダはその限りある時間を、魔法の研究だけでなくあらゆる外敵から身を守るための訓練にも必死に費やしてきた。
つまり、本来なら魔術の研鑽に当てるべき時間を削って、魔法詠唱者としての戦闘技術を磨くことに当てたのだ。
昔の帝国は今のように治安が良くなかった。そのため、自分の身は自分で守る必要性に度々迫られたのである。特に魔術研究で世界を旅したフールーダは、亜人や魔獣の強さというものを身を持って知っていた。
……当然、人間も時と場合によっては、どのような亜人や魔獣よりも恐ろしいということを、その身をもって深く学んだのだが。
だからこそ己の力を磨き続けた。それだけではない。一人では不十分なことを悟り、弟子や仲間を作った。一人より集団でいた方が強い。己の隙を埋めてくれるし、情報の集まりも早い。
そのような経験があるからこそ、これほどの危険を冒してまで生徒たちに旅をさせることにフールーダは反対しなかった。
今の帝国内にはほとんど亜人はおらず、魔獣でさえ森に近づかない限り見かけることはまずない。そのため、現代の帝国人は少し平和ボケしているとも言えた。
強いて言うなら、鮮血帝が最大の恐怖である。逆にいうと、それくらいしか恐れるものがない。それは幸せな事なのか不幸な事なのか、今のフールーダにはわからない。ただ、この慢心が傲慢さや不和をもたらし、よからぬものを招き入れてしまう危険性はある。
とはいえ、全てはフールーダの推測であり、何も起こらなければ無駄な憶測である。あまり深く考えすぎまい、と思考を振り払う。
するとちょうどそこへ、ランゴバルトたちの馬車が帰って来る。
(……予定よりかなり遅れてしまったな。……まったく、逃げ出した騎士たちが、まさかあれほど遠くに行っていたとは。探し出して、追いかけるのに手間がかかった。まさか彼らの前で、転移を使うわけにもいかんしな)
ギガントバジリスクに遭遇した後、騎士たちは重たい鎧があるにもかかわらず、とんでもない速さで逃げ出していた。
しかも、これがバラバラに散っていたので、一人一人探して追いかけ捕まえたら、また次を探すということをアインズは人数分繰り返すはめになったのである。
正直、途中で置いて帰ろうかとも思ったアインズだが、馬車の中で守ると約束した手前、それを破るのはアインズにはどうしても許せなかったのだ。それにもしこれが原因で試験失格となれば、ここまで尽くしてくれたランゴバルトに申し訳が立たない。
とはいっても、途中からは馬車で追いかけることは止めて、デスナイトに捕まえさせる方針に変えたので、これでもそれなりに早く終わらせることが出来ただろう。もし最後まで馬車で追いかけていたら、とっくに日が暮れていたことは間違いなかった。
しかし、デスナイトに脇に抱えられ高速で走って連れ戻された騎士たちは、半ば放心状態となり失禁までしていたことは、ランゴバルトにもここだけの秘密としている。
「お疲れ様でした、モモン様。報告などの雑務はこちらで済ませますので、モモン様は先にお帰りください。もちろん、騎士たちの件はしっかりと伝えておきますのでご安心を」
「そうか……それは助かる。騎士たちの件は程々にしてやってやれ。これで除隊にでもなれば、少し彼らが哀れだ。それでは、あとのことは任せたぞ」
ランゴバルトに後のことは任せて、一足先に帰ることにしたアインズ。疲れていたのもあるが、それ以上にフールーダやナーベラルたちに、自分がいることを気づかれたくなかった。
(今日はさすがに疲れたから、この申し出はありがたいな。それにしても、本当にこのランゴバルトという学生は優秀だな。騎士がパニックになって逃げ出すような状況でも、冷静に逃げ出さず私に付いていたし、今もこうやって最後まで気を抜かずにきちんと周囲に気を配れている。こういう人材は社会人でもなかなかいない。ぜひとも欲しいものだな)
かつてのサラリーマン時代の記憶から、ランゴバルトを高く評価するアインズ。その一方で、ランゴバルトの心境は解放感に満ち溢れたものだった。
(ようやくモモンから解放されるぞ! いったいこいつは本当に何者だったのだ? こんな得体の知れない危ない存在と付き合うのは、もうこれっきりにしたいものだな!!)
ランゴバルトはモモンを見送ると、教員たちに報告を済ませるため、学院長たちがいるところへ近づく。
「学院長、ただいま戻りました。遅れてしまい申し訳ありません」
「う、うむ……も、モモンさ……どのはどうされたのかね?」
「モモン様は疲れたので、先にお帰りになられるそうです」
「そうか……わかった。では、報告を聞かせてくれ」
「はい。まず、馬車が突然故障したところをモモン様が…………」
◆◆◆
ある日突然、学院長に面会したいという辺境侯からの使いの男がいると、学院の受付のものから連絡を受けた。
(な……なに!? 辺境侯といえば、つまりはあのお方ではないか!)
「今すぐ会うから通してくれ」
受付の人間に伝えると、自分は即座に出迎えの準備をする。昇級試験の準備などで忙しかったが、そんなことは今はどうでもいい。
辺境侯といえば最近新たに帝国の大貴族として迎え入れられた人物である。しかし一部の貴族のみが知るその裏の顔は……骸骨の顔をしたアンデッド。普通の人間ならそれは恐怖の対象でしかない。
けれど、学院長にとってそれは良い意味で衝撃的な話であった。なぜならば、自らが神として崇める姿と話で聞く辺境侯の姿が酷似していたからである。そしてあの場所で授かった奇跡……思い出すだけでも、その感動と興奮で体が震えてくる。もはや彼にとってアインズ様こそが、自らの絶対の忠誠を誓う唯一の存在であった。
しばらくして、平凡で品のない平民のような男が自らの学院長の部屋に訪れた。一瞬、本当に邪神の使いか疑ってしまうが、そんな疑念は即座に振り払う。
「よくぞおいで下さいました。ささっ、こちらへどうぞおかけ下さい」
「いや、このままでいい。まずは突然の来訪を詫びよう。ただ……その前に一応確認の意味も込めて聞いておきたい、私が与えた奇跡はどうだったかね?」
突如、学院長の全身に雷が落ちたかのような衝撃が走る。この平民のような男は邪神の使いであると、完全に学院長は思い込んでいたためだ。受付の者からもそう聞いていた。しかし、今、目の前にいるこの青年こそがなんと邪神ご本人だったのだ。あまりの驚愕と畏怖の念で学院長の体は震える。
慌てて学院長は頭を床につき、自らの神に聞かれたことに答える。
「大変素晴らしいものでした、心より感謝申し上げます」
「……良い。頭を上げよ」
学院長はゆっくりと頭を上げる。そして上目遣いでそっとモモンの顔を視界に入れる。
「それで今日来たのは少し学院長に頼みがあってのことだ」
直接、邪神のお役に立ちその忠誠心を示すための絶好の機会が自ら訪れたと知った学院長は、その驚きと感動のあまり全身が震える。
このお方のためであれば、死ぬこと以外どんな頼みでも引き受けよう。そう心の中で誓いを立て、また他の邪神教徒を出し抜けることに、言葉にならないほどの喜びを感じた。
「フールーダという魔法使いはもちろん知っているな?
この男をこの学院のあるクラスに入学させたい。それも急で悪いのだがなるべく早めにだ。そう……具体的には遅くとも昇級試験が始まる前日までだな」
「ははぁ、かしこまりました。今日にでも入学できるよう手続きを済ませます」
「仕事が早くて助かる」
神に褒められたことで、学院長の喜びは頂点に達し、その口元からは思わず笑みが零れた。
「他になにかございませんでしょうか」
「ふむ……そうだな、とりあえずはよかろう。また何かあれば〈伝言/メッセージ〉で連絡したいのだが構わないかね?」
「もちろんでございます、偉大なる邪神様よ」
それだけ告げると神は満足そうな表情を浮かべて、突如としてその場から消えた。
しばらく学院長はそのままの姿勢でいたが、完全に邪神がいなくなったことを感じ取ると即座に行動に移る。他のあらゆる仕事は後回しにして、まずはフールーダをあるクラスに入学させるための手続きに入った。
昇級試験の直前、それもフールーダというあまりにも有名すぎる人物を、突然入学させるということは、ある意味学院史上始まって以来の異例尽くしであった。けれどそんなことは学院長にとってたいした問題ではない。神がそう命じたのだからそれに従うまでである。全ては己の欲望のために……。
数日後、今度は2名の人物を入学させるように神から告げられた。名前はナーベとモモンという身元不明の人物2人である。いや、正確にはナーベは神の忠実な僕で、モモンは神ご本人だそうだ。身元不明というのは書類上の話である。だがどちらにせよ、彼らがどのような人物であろうとも、神からの紹介であれば入学を拒む理由など存在しない。
フールーダ様もそうだったが、一体何が目的なのか。正直気になるところではあった。しかしそれは己が考えるべきことではない。自分はただ言われたことをしっかりとやればいいのである。そこに疑問や疑念を抱く必要はない。
また数日後にさらに3名の奴隷も入学させて欲しいと頼まれたが、これも喜んで即座に受け入れる。今度の場合、魔法の才能もない奴隷であったため、はっきり言って学院に入学させるのに相応しい人物かと聞かれると、全くそうとは言えなかった。そのため国にその理由を説明するのに頭を深く悩ませることとなるのであった。
◆◆◆
ランゴバルトから報告を聴き終わった学院長の顔は、みるみる血相を変えていく。
多くの苦労をして絶好のチャンスを掴んだつもりでいた学院長にとって、最後の最後で騎士たちのせいでその苦労を台無しにされただけでなく、神への忠誠心をも疑われてしまった可能性があることは、もはや恐怖にも等しかった。神に見捨てられる……その脅迫めいた言葉は、想像を絶する鋭さで学院長の心を抉った。
「ランゴバルト君よ、モモン殿に伝えておいてはくれぬか。今回は騎士たちのみっともない所を見せてしまい本当に申し訳なかった。本当はもっと頼りがいのある者たちなのだが、学院の試験に同行する騎士は帝国の中でも比較的経験が浅いものたちばかりで……。言い訳の用のようで見苦しく申し訳ないのだが、しかしギガントバジリスクが2体同時に襲ってきたというのは熟練の騎士でも絶体絶命ともいえる非常事態。そのような想定外な状況に動転してしまったのだろう……どうか許していただけないだろうか、と。」
「幸いにも怪我人は1人もいなかったわけですから、恐らくお許しになられるかと。ただ今回はたまたまアインズ様が班にいてくださったからなんとかなったようなものの、他の者であったならば、確実に死んでいましたよ?」
「その通りだな……。先程フールーダ様ともお話させていただいたのだが、今後は帝国の魔法省や情報局とも密に連携して今回のような不測の事態が直前に起きても、即座に察知して生徒たちに引き返すよう知らせるための体勢をしっかり整えていく予定だ」
「どちらにせよ、二度とこのようなことが起きないようにしてもらいたいものです」
学院長は苦々しい顔をしながら騎士たちの方へ視線を送っていると、後ろから突然話しかけられる。
「学院長? このモモン……殿という生徒は一体何者なのだね? ギガントバジリスク2体を仕留める学生など聞いたことがないのだがね」
偶然近くで2人の話を聞いていたフールーダが驚くのも無理はない。ギガントバジリスクはオリハルコン級のA++クラス冒険者がなんとか一体倒せるか倒せないかというほどの強力なもの魔物だ。それも回復役の者が最低でも1人はパーティーにいないと厳しいというもの。
それがただの一介の学生が単独で2体も倒したとなれば、もはやそれは疑いようのない英雄と呼ばれる存在である。実際にフールーダでさえ1人で一体倒すことは難しく、ナーベラルがいたから助かったようなものだ。
それに学院長のモモンという生徒への態度にも少し疑問を感じる。
「あぁ、フールーダ様。モモン殿は最近入学したばかりの生徒のことでして……細かい事情などは個人的なことになるのでここでお話しするのは難しいのですが……」
(これほど学院長が気を使うほどの立場の人間、そして最近入学したということは……もしやわしやナーベ殿のようにモモンという人物もアインズ様の配下なのか? だとしたらわしも敬意を払わねばな)
「いい、学院長。無理に個人的なことを話す必要は無い。人それぞれ事情というものがあるからな。それにわしやこちらのナーベ殿も最近入ったばかりであり似たようなものだ。それでランゴバルトくんと言ったかな? 今回は帝国の騎士がご迷惑をおかけしたようで、本当に申し訳なかった。許してもらえないだろうかね?」
「と、とんでもございません、フールーダ様。ただ、自分はいいのですが、モモン様がお許しになられるかはわかりません」
「それもそうだな。後で直接謝りに行くと伝えておいてもらえないだろうかね?」
「かしこまりました」
「ありがとう、ではよろしく頼むぞ」