シャルティアになったモモンガ様が魔法学院に入学したり建国したりする話【帝国編】   作:ほとばしるメロン果汁

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ようやく一日が終わった、ペース上げていこう


『初日の終わりにゴロゴロ』

 ゴロゴロッ、ゴロゴロッ――

 

「ああああぁー……今日も疲れたよー……」

 

 つい数日前にも同じような事をした気がしないでもない。

 

 

 帝都アーウィンタール中央に建つ、皇帝の住まう皇城。

 

 夜になるとモモンガは貴賓室のベッドの上下をゴロゴロと、今日一日の疲れを体中から吐き出すように再び転がっていた。服は存分にゴロゴロできるようにドレスではなくラフな格好に着替えており、もちろん部屋の戸締まりや探知対策は十二分に確認済みだ。

 

「フフフ、我ながら素晴らしいアイディアだな。これは完璧な防御と言っていいかもしれない」

 

 子供のような自慢気な声が部屋に響く。

 

 前回の経験を考慮し、ベッドにはクッションを何枚も重ね枕を胸当てのように両手で抱える。

胸への負担を最大限分散させる妙案は思いの外上手くいったようで、モモンガは童心に返りながら思う存分ゴロゴロしていた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 多くの問題を抱えて疲弊した脳内をひととおりシェイクし終え、ピタリと動きを止める。

抱えていたクッションを放り出し、全身の力を抜きベッドの上で大の字になった。

 

(ハァー……どうなるかと思ったけど、とりあえず無事に初日を終えたな。なんとか友人……人脈に繋がりそうな生徒とは仲良くなれたし)

 

 長いため息を吐きながら放課後の流れを頭に思い浮かべる。

ホスト役のフリアーネ主導による学院案内、モモンガにとってはどれも物珍しく観光ツアーのように楽しむことが出来た。当初同行したネメルはカチコチに緊張しているようだったが、時間が経ち緊張が解けたのか最後には彼女と友人……のようなものになれた気がする。

 

(帝都に来た初日に助けていたのが幸いだったな。フリアーネもいるし、これで明日以降も独り飯は回避できそうだ)

 

 その後馬車で学院まで迎えに来たジルクニフに同乗し、彼が紹介してくれた屋敷へ案内された。

ジルクニフからは『既存の物ですまない』と何度も頭を下げられたが、庶民感覚が抜けないモモンガからすればかなりの豪華さだった。

 床のタイルにはホコリや汚れ一つなく、壁や窓も同様に綺麗に掃除されていた。各部屋には見事な――美術的価値はサッパリわからないが――調度品が置かれ、まるでホテルのスイートか社長室のような部屋が屋敷の中に幾つも用意されていた。少なくとも今この貴賓室からその屋敷に生活が移っても、問題ないように準備を整えてくれている。

 

 ゴロゴロッ、ゴロゴロッ――

 

(あー、しかしあの広さは問題だよな。今のままだと八割の部屋が物置になる未来しか見えない。やっぱりもうちょっと小さい屋敷にしてもらおうか、いやでも広い庭はいい感じだったし……)

 

 仮にレイナースやフールーダ、それに今この時間も騎士相手に訓練しているブレインを入れても部屋が多すぎる。それとなく聞いたところによると、通常の貴族家の場合、家族以外の部屋の半分近くは従業員――つまり使用人のための物らしい。他は客間や食堂や音楽や美術品、生活環境や趣味のための部屋で埋まる。

 

(趣味なんて今のところないとしても、つまり金……人件費ということか)

 

 人を雇うには金がかかるのは当然だ。

それに職場での安全をできるだけ整えなくてはならない。あと労働時間もだ。少なくとも自身の下で働く人間でヘロヘロさんのような者を生み出すわけにはいかない。時間割――ではなく、各メイドの労働時間を考慮したタイムスケジュールを考えなくてはならない。

 

 ゴロゴロッ、ゴロゴロッ――

 

(あーもー、人材マネジメントの経験なんてないってのに……一人だったらもっと楽なんだけどなぁ)

 

 眠らずに済む体でなければ睡眠不足で倒れてしまう気がする。

 

(そういえば、メイドって夜勤はあるのか? 警備の人間――俺の場合は何か眷属を使うとして、そっちなら問題ないんだけどなぁ)

 

 何度も頭を捻るが良い案は思い付きそうになかった。

 

(……駄目だ、この辺りの事はレイナースに後で聞くとするか)

 

 元貴族令嬢ということなのでその辺りの知識に期待する他ない。

透明化を解いた彼女も同行して屋敷を一緒に見ているので必要な人数や部屋割り、使用人の生活環境について聞いてみるのが良いだろう。

 

 

(それじゃあ屋敷なんかは後でレイナースに丸投げ、じゃなく相談するとして……今度はこっちか……)

 

 ベッド脇の机からメモを一枚掴み取る。

ハンゾウからの報告内容をモモンガ自身が記した物だ。頭を整理するために乱雑に書いたものだが、自身が読む分には問題ない。そしてその報告に改めて目を通すと、再び頭の中に混乱の感情が湧き出す。

 

「学院長が魔法を使って俺を覗きって、ホントどういうことだよ……」

 

 転入初日からモモンガを標的にした探知魔法、ハンゾウの情報収集によって彼が犯人であることはあっさり判明した。今朝モモンガを歓迎して迎えてくれた人物だったが、人間一皮むければ変わった覗き趣味の一つや二つあるものなのかもしれない。もっとも今はまだモモンガへ探知魔法を使ったのが彼というだけで、その動機が何であるかまでは分かっていない。

 

 何か深い事情や思惑があるのか、それとも学院の最高責任者の趣味が盗撮とかアレ的なものなのか、モモンガとしては当然前者である事を心から願っている。

 

(そもそもシャルティアの設定がアレだしな……ペロロンチーノならあんまり気にしないのかもしれないけど……)

 

 仮に後者だった場合、中の人となってしまった身としてはものすご~く引いてしまう。

学院長の住まいである屋敷の場所なども調べているが、調査のための侵入などはさせていない。そうだった場合、知りたくもない事実を知ってしまうという嫌な予感がするためだ。世の中には知らない方がいいこともあることくらい、モモンガも理解している。

 

 だが、明日以降も防げるとは限らない。

特にモモンガの知らないこの世界独自のタレントを相手が持っていないとも限らない。仮にそんな希少な力まで持ち出してくるのなら、個人の趣味や覗きという可能性は無くなる気もするが。

 

(ジルクニフに相談は……調べた後でも遅くはないかな?)

 

 放課後に屋敷を案内してくれた時もジルクニフの顔色は優れなかった。

それでいて努めて明るく振舞い、彼自身が率先して内装や機能設備の案内をしてくれたのだ。度々彼の顔色をそれとなく指摘して気遣ったモモンガを、逆に安心させようとしてくれたのかもしれない。そんな彼なりの気遣いに、モモンガのアンデッドの心にも温かいものが湧いて出てしまう。

 

(魔法学院は国営だし、組織の不祥事という事になる可能性もあるな。そうなると表に出したくは無いだろうし、こっそり解決してあげたほうがジルクニフも余計な仕事を抱えずに済むよな?)

 

 今朝フールーダと共に学院長室へ挨拶に行った際は、好々爺といった印象を抱いた。

フールーダの師匠自慢話――モモンガの事を聞く時の様子は少々不自然というか、挙動不審ではあったがそれ以外は特に問題は無かった。そんな人物がなぜモモンガ相手に探知魔法を使ったのか、少なくともその辺りはハッキリさせておきたい。

 

(でも、ハンゾウをこれ以上外すのはな……)

 

 土地勘が無い場所で周囲の警戒を緩めるわけにはいかない。

それに一部をガゼフと一緒に王国へ侵入させたため、ハンゾウの人数は限られた状況だ。間違った判断とは今も思っていないが、潜入調査という手段が仕えないのは心許ない。

 

(うーん、人を使うにしてもそんなアテはないしなぁ。またフールーダに相談というのも……)

 

 (フールーダ)一人に頼り過ぎるのも良くない気がする。モモンガは再びゴロゴロとベットの上を転がり始め、煮詰まった問題を頭の中でかき混ぜ始め――

 

「ん?」

 

 分厚い部屋の扉からノックの音が聞こえた。

 

「誰?」

 

 体をベッドから起こしながらモモンガが努めて冷静に低めの声で反応を返すと、外からここ数日聞きなれた声が返ってきた。

 

「レイナース・ロックブルズでございます。お休みのところ恐縮ですが、少々お伺いしたいことがありまして」

(お? いいタイミングだ!)

 

 モモンガは瞬時に九十度体を起こすと、まず自分の身嗜みを確認する。

 

(まずは着替えないとな)

 

 扉の向こうへ待っておくように伝えると、服に手を掛けた。

見た目は女性同士なので問題ない気もするが、相手がレイナースであればそうもいかない。

 

 いつものボールガウンの姿に着替えると月の光が届くベランダにある椅子へ腰かけ、ドレスの中で足を組み、ひじ掛けに腕を乗せ手の甲に顎を乗せる。モモンガが独自に考えた中で三番目に見栄えのいいポーズをとると、入室の許可を出した。

 

 礼儀正しく入室し、そのままいつものようにモモンガの下へ歩み寄るレイナース。

その姿に一切の淀みは無く綺麗な動きだ。いつもの定位置まで来ると、跪いてゆっくり顔を上げる。

 

(今日は大丈夫かな……)

 

 吸血鬼になり真紅となった瞳には、先日とは違い忠誠心に満ちたものが宿っていた。

安堵のせいか、その姿に心の中でホッと一息漏れる。以前ペロロンチーノの趣味丸出しなネグリジェ姿で会った時の情欲に染まった瞳、そしてその時の行いはちょっとしたトラウマとしてモモンガの心に残っていた。

 

「シャルティア様――」

 

 レイナースの長くなりそうな挨拶をモモンガは優雅に――見えるように意識しつつ、ゆっくり手を振って止めさせる。お互い睡眠が必要のない体になったので時間は十分ある。だがそれよりも肩が凝るような時間を過ごすのは出来るだけ避けたいという、ただの小市民的感情からの行いだ。

 

 用件を告げるように言うと、レイナースは無表情ながら少しだけ躊躇うように口を開く。

 

「生意気――いえ、光栄にも学院でシャルティア様の隣の席になった男子生徒ですが……私と同じように眷属になさるのですか?」

 

 隣の席の男子生徒、と言われてモモンガが思い出すのはジエット・テスタニアという眼帯を付けた青年の姿。今日一日接してみた印象では、苦学生ながら頑張っている好青年という良いイメージ持っている。

 授業中チラチラ胸を見てくるのは唯一のマイナス点だが、あのくらいの年齢の思春期の感情であれば笑って許すくらいの寛容さはモモンガも持っている。仮にペロロンチーノがこの場にいても同様だろう。

 

(眷属にって……いきなりどうしたんだ? そういえば透明化したレイナースも途中からジエットのことを見ていたっけ……)

 

 教室でモモンガが話しかけた辺りからだろうか? どこか睨むように強い眼差しを向けていたことを思い出す。

 

(もしかして、後輩ができるんじゃないかと期待しているのか?)

 

 だとすれば精一杯フォローしつつ、そんなつもりはないと断らなければならない。

モモンガが眷属を増やすことにイマイチ踏み込めない原因は、目の前に跪いたレイナース自身にある。その姿は見るからに忠誠心に満ちている。それはもう見ているだけでその瞳がランランと輝いているくらい、一言で言えば異常な程に。

 

(俺としてはジルクニフとバジウッドくらいフランクな上下関係がいいんだよなぁ。なんというか今のレイナースを見てると、ブラック企業で楽し気に働いている人を見て切なくなる心情みたいな……)

 

 ジルクニフに会う時は四騎士のバジウッドやニンブルが付き従っている事が多い。

ジルクニフは皇帝であるのだからその警護として彼らが傍にいるのは至極当たり前なのだが、モモンガが内心でちょっと感心したのはバジウッドの砕けた口調だった。国の統治者であるジルクニフに対しても、その粗暴といってもいい礼儀のない喋り方を許されている。

 だが締めるべき時は締めるというか、公式の場などではちゃんとした口調にするらしい。説明してくれたフールーダ曰く、騎士の本分をまっとうするのであれば砕けた口調でも構わない、とジルクニフ自身が笑って許したそうだ。

 

 できればモモンガとしてもレイナースとはそんな関係になりたかったが、これまでの彼女の行いからしてそれは望めそうもない。

 

(それに眷属化して性格が変わってるんだよな……たぶんだけど。本人の秘めていた性的嗜好なのか、それとも俺が眷属化すればみんなこうなるのか。実験は、増えた時が怖過ぎるし……)

 

 最初にヤバイと思ったのはジルクニフとの会談直前。

四つん這いになったフールーダ相手にした妙な宗教の指導者のような話し方。当然その信仰対象は自らの主人(モモンガ)だった。決定的なのはその会談直後の貴賓室。呼び出したフールーダが来るまでの間の様々なドM発言は、今思い出すだけでも精神の安定化が起こり、モモンガにいろんな意味で重圧感を与えていた。

 

 彼女と同じようにジエット・テスタニアを眷属にした場合『シャルティア様の椅子になります!』と、トンデモナイ事を言うクラスメイトが出来上がってしまう危険性がある。昨日まで好青年だった人間のそんな姿を見ては、モモンガはショックで転入早々登校拒否になってしまうかもしれないし、彼の幼馴染であるネメルにもいろんな意味で申し訳なくなってしまう。

 

(ペロロンチーノ……)

 

 おそらく根本原因であろう友人への呪詛を内心で吐きつつ、言い訳――もとい、説得方法を脳内で必死にリストアップしていった。




ナザリックがないせいか、モモンガ様の上司感覚はまだ1巻~2巻くらいでしょうか
吸血鬼レイナースさんはもっと掘り下げたいのですが、後に回して今はシナリオ進行を優先。

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