洛東化成工業株式会社

繊維加工

酵素と繊維の関わり合いは、一般消費者にとっては酵素入り洗剤等を除いてはあまり馴染みがないと思います。繊維工業、とりわけ染色整理工場での酵素の応用が、現在の繊維製品の完成までの道程に、どれだけ貢献し、付加価値向上や消費者に機能性を与えているかを、以下の4種の酵素を例にご紹介します。

アミラーゼ 織物の経糸糊料の澱粉を分解除去
プロテアーゼ 絹の酵素精練、羊毛の改質
カタラーゼ 漂白後の残留過酸化水素を分解
セルラーゼ 捺染糊の分解除去、綿、レーヨン等セルロース系繊維の毛羽取り、減量、
風合い改善、ジーンズの脱色

アミラーゼ

糸を製織し、織物にする場合、糸の経方向は強度保持と毛羽伏せなど製織性向上の目的から、必ず糊付け(サイジング)を行います。そしてこの糊料は、後の精練、染色工程で染めムラや風合い硬化の原因となるので、必ず除去する必要があります。
サイジングに使用される糊料は、織物の素材や組織によって種類、付着量が異なっていますが、澱粉は非常に安価な糊料なので、特にセルロース系織物やたんぱく系織物のサイジング剤として多用されています。澱粉は主にコーンスターチが使われ、小麦粉やジャガイモ澱粉も一部使用されます。サイジングは異種の糊料を混合した方が強度、接着力が強いので、通常PVAやアクリル系糊料が併用されます。

織物の連続糊抜きには、澱粉とPVAの両方に分解効果持つ酸化糊抜き剤(当社ラクトーゲンなど)が多用されていますが、その他一般的な糊抜きには、澱粉分子をデキストリン~マルトース単位にまで分解する効力と、pH5~8、温度50~100℃の広い活性領域で、しかも布地に対しては全く影響を及ぼさないことから、アミラーゼが使われています。

糊抜き効果を発揮させるアミラーゼとしては、澱粉のα―1、4グルコシド結合をランダムに加水分解するα―アミラーゼが充分且つ最適です。これは別名液化酵素とも呼ばれ、細菌を培養して工業的に生産されたものです。アミラーゼによる糊抜きは織物の素材別、糊抜き機械の高速化、油剤を含む糊付けの多様化に伴い、様々な改良、応用へと転じてきました。アミラーゼは現在、あらゆる織物(ニットは糊付けされない)の糊抜き剤として、精練、染色の前工程として重要な役割を果たしています。

プロテアーゼ

プロテアーゼはたんぱく質の汚れを分解除去することにより、洗剤成分として多大の消費をされていることは周知の通りですが、繊維との関連に絞れば、たんぱく繊維としての絹の精練への応用が挙げられます。

絹繊維(フィブロイン)は蚕の繭から作られますが、独特の光沢を持つフィブロイン繊維は元々セリシンというタンパク質に覆われています。このセリシンを除去(精練)するために、プロテアーゼが使われています。絹の精練には従来、石鹸を主体に珪酸ソーダ、炭酸ソーダ、重曹等のアルカリが使われてきました。この方法は古くからある伝統的な処方ではありますが、石鹸使用による石鹸カスや悪臭の問題、アルカリによる過精練の問題がありました。その点酵素による精練は、非結晶タンパクのセリシンのみを分解し、絹本来の光沢、風合いを持つ結晶蛋白のフィブロインのみを残す最適な精練です。プロテアーゼは非結晶タンパクをアトランダムに水溶性のアミノ酸に加水分解します。酵素による精練は風合いの向上、絹繊維の強度の維持という点から効果的で、近年、家蚕糸よりも野蚕糸が増加し、益々精練に難度が加えられたことでも発展に輪をかけました。

カタラーゼ

カタラーゼは、過酸化水素を水と酸素に分解する酵素です。繊維の染色加工工程における漂白には、過酸化水素を使用するのが一般的ですが、漂白処理後、布地にこの過酸化水素が残留していると、後の染色に阻害をきたします。特に、精練漂白と染色をバッチ方式(チーズ染色機、ワッシャー、液流染色機など)で行う場合、脱過酸化水素は絶対に必要です。この顕著な例は、綿の反応性染料染色であり、通常漂白剤として5~10g/L(5,000~10,000ppm)使用する過酸化水素が、染色時に50ppm程度残留していると大きな染色阻害が生じます。以前はこの過酸化水素を中和するのに亜硫酸ソーダ、チオ硫酸ソーダなどの還元剤が使用されてきましたが、逆に還元剤自身の残留が染色に影響を及ぼしてきました。触媒として作用するカタラーゼなら、無害な水と酸素に分解されるだけなので、分解に必要な酵素量さえあれば過剰に添加されても問題ありません。カタラーゼの出現により染色性のアップ、水洗の省力化に大きく貢献しました。

セルラーゼ

繊維工業への酵素の利用が脚光を浴びた発端は綿、レーヨンなどのセルロース系繊維にセルラーゼが使用されたことに尽きるでしょう。セルラーゼは工業的には微生物の培養により生産されますが、アミラーゼやプロテアーゼと大きく相違する点は、前者が細菌の増殖に由来されることに対して、トリコデルマに代表されるカビの増殖、培養により生産されることです。一般的にセルラーゼは複合酵素で、セルロースの非結晶部分をランダムに加水分解するendo-セルラーゼ、セルロース鎖の非還元性末端からセロビオースを単位に加水分解するexo-セルラーゼ、さらにはセロビオース、セロオリゴ糖に作用し、グルコースを生成するグルコヒドラーゼにより構成されています。

繊維加工におけるセルラーゼの利用は通称「バイオ加工」と呼ばれ、セルロース系繊維の改質に使われます。一口にバイオ加工と言っても、対象素材によって効果や目的が異なります。主な加工例は以下の通りです。

綿の減量加工

ポリエステルのアルカリ減量に対して、綿を3%程度減量し、風合いを柔軟化します。また、減量されたセルロースの空洞に柔軟剤等が入り込み、仕上剤の効果も相乗的に高まります。織物、ニット、製品すべてに適応できるため、今や世界中で綿の定番加工になりました。

ジーンズのバイオウォッシュ加工

ケミカルウォッシュ、ストーンウォッシュ加工に変わり、ジーンズの流行の一時代を築き、現在も続いています。製品をワッシャーなどで叩き洗いすることで、部分的にインジゴ染料が脱落し(アタリが出る)、自然なユーズド感が表現できます。脱落したインジゴによる再汚染と強度低下の防止から、従来の酸性セルラーゼだけでなく、中性タイプのセルラーゼも使用されます。

レーヨン、ポリノジックのピーチスキン加工

風合いの柔軟化と共に、レーヨンのフィブリル化現象(一本の繊維が枝分かれに分繊すること)を利用して、繊維の表面をピーチスキン調にします。セルラーゼの働きにより極短いフィブリルのみを残す加工法で、レーヨン、ポリノジックの付加価値を大いに高めました。

テンセル (リヨセル) の毛羽取り加工

再生セルロース繊維であるテンセルの高フィブリル性を利用し、テンセルと共にセルラーゼによるバイオ加工の名を高めました。あらかじめ前処理(モミ洗い)してフィブリル化した毛羽をセルラーゼで綺麗にカットし、テンセル特有のドレープ性、優しい手触り、上品な光沢、優れた吸湿性を引き出します。

セルラーゼの応用技術は、酵素の作用に通常30分から1時間を要することや、酵素と繊維の作用接触面をより多くする工夫などが必要で、その装置やシステムに負うところが大きい加工といえます。またバイオ加工の前後の工程は非常に重要です。例えば綿の減量加工の場合、酵素の効果を最大限に発揮するために、シルケットなどのアルカリ処理を加えたり、テンセルではバイオ加工の前に目一杯のフィブリル化を行う毛羽出し工程が必要です。またバイオ加工後には残留酵素の失活工程もあります。

洛東化成は、糊抜き剤を始め繊維加工における酵素薬剤のトップセラーとして長年試行錯誤を重ねてきました。近年、各種酵素自体も改良が加えられ、従来のバイオ加工では困難とされてきたテンセルA-100、LFにも対応した製品など、加工の狙いに応じた製品をラインナップしております。詳しくは当サイトの製品案内、または当社営業担当までお問い合わせください。