以前、とある媒体から仕事の依頼メールが来たのだが、そこには「DJあおいさんに執筆をお願いしたい」と書いていた。
私は多分DJあおいさんじゃないが、他にも「アイシテルさんに執筆をお願いしたい」とドリカム風に間違われたこともある。
また、領収書をお願いしたら「アルペーシア」「アルテイ社」と間違われることもよくある。
無論そんなのは全然気にならないし、むしろ笑えるので感謝である。周りのJJ(熟女)たちも「昔は他人がミスするとムカついたけど、今は気にならない」と声をそろえる。
私も「そりゃ失敗するよな、人間だもの」と他人を許せるようになったし、「そりゃ失敗するよな、自分だもの」と自分も許せるようになった。
「私、失敗しないので」と思ってるより「私、メッチャ失敗するんで」と思ってる方が気が楽だし、寛容でいられる。
若い頃は「年をとると寛容になる説」に懐疑的だったが、いざ40代になって「ラピュタもSTAP細胞も本当にあったんだ!」という気分である。
特に若い子に対しては、若い子がみんな自分の産んだ子どもに見える現象により、「ええよええよ」と目を細めるババアである。
かといってマザーテレサになったわけじゃなく、偉そうなおじさんには「マザーファッカー!!」とサミュエル先輩ばりにキレている。
若い頃を振り返ると、おじさんから偉そうにされたり、失礼な発言やセクハラをされた時、許せたんじゃなく怒れなかった。
相手の方が年齢も立場も圧倒的に上だったので、本音なんて言えなかった。また「無力で未熟な若い女」とナメられて、自身もそう刷り込まれていたため、「こんな自分に怒る権利などないのでは?」と思っていた。
さらに敬老精神から「年寄りの話はちゃんと聞いてあげなきゃ」とも思っていた。
一方、自分がおばさんになると、おじさんが脅威じゃなくなる。メンもごんぶとになるため「うるせえダボが!!」とジョジョの億泰のようにキレられる。
我が家には「いつも心に億泰を」と女友達がくれたグラスがある。これでコーラを飲みつつ「ウザいおじさんに遭遇したら、ザ・ハンドで頭部を削り取ってやる」とイメトレしているが、JJになるとおじさんがあまり寄ってこない。
彼らが若い女に寄っていくのは、女の価値=若さだと思っているから。また若い女は立場的に怒れないため、(表面上は)愛想よく接してくれるからだ。
この(表面上は)を理解してないおじさんが「俺はセクハラなんて言われたことない」「むしろ若い女に好かれてる」と語りがちだが、それはセクハラ加害者が「相手が嫌がってると思わなかった」「むしろ喜んでると思った」と語るのと同じだ。
特に仕事の利害がからむと、どんなにイヤでも愛想よく接するしかない。そして女同士で「あのおじさん、マジウザい」「キモい」と本音を語り合うのだ。
もちろん、おじさん=悪じゃない。迷惑なおじさんたちのせいで、おじさん全体のイメージが悪くなるのだろう。
私のもとには「迷惑おじさん被害」の報告が多数寄せられる。セクハラ等のわかりやすい被害の他にも、説教おじさんや接客おじさんによる被害も多い。
説教おじさん、いわゆるマンスプレイニング系のおじさんは、自身のウザさに驚くほど無自覚だ。
新聞記者の女子から聞いた話だと、女性問題のセミナー等にマンスプおじさんが出没して、質疑応答タイムに1人でしゃべりまくるらしい。
「専門家に向かって素人のおじさんが偉そうにしゃべりまくって、恥ずかしくないのか? と呆れますけど。でも本人は迷惑がられてることに気づかないんですよ」と彼女は話していた。
私も若い頃、おじさんに「ボトムズ見ずにガンダム語っちゃダメでしょ」とかドヤられて「語ってるのはお前や!」と何度もキレそうになった。
たまたま飲み屋で隣り合わせた客なら、グレッチで頭部を撃ち抜き「これが本物のガンダムラストシューティングだぜ」とキメることもできる。だが仕事の利害がからむ相手だとそうもいかない。
飲み会で女子が「すごいですね~」と話を合わせると「キミはみどころがあるね」と勝手に上から評価して、さらにからんでくるおじさんも多い。
接客おじさんも同様に迷惑である。「飲食店で話しかけてくるおじさん問題」がツイッターでよく話題になるが、1人でくつろいでる女子に話しかけて、「なんで接客しなきゃいけないんだ、キャバクラじゃねえんだぞ」と女子が塩対応すると不機嫌になる、というおじさん問題。
彼らは「女は愛想よく話を聞いてくれて当然」「女は気づかって、ケアしてくれて当然」「男の俺にはその権利がある」と認知が歪んでいるため、女が思い通りのリアクションをしないと、権利を奪われたかのように被害者ぶるのだ。
私はその手のおじさんにからまれたらプーチン顔をキメる、もしくは「パードゥン?」と日本語がわからないフリをする。そして「ご馳走さまでした、お会計お願いしまーす!」と流暢に言って店を出る。
小柄でおとなしそうな女子からは「道でおじさんに突然話しかけられて、怖くて無視したらキレられた」という話もよく聞く。そんな彼女らにはサングラスを推奨している。
というのも、複数の女子が「サングラスをかけて通勤するようにしたら、痴漢に遭わなくなった」と話していたから。
見た目を強そうにすることで、痴漢や迷惑おじさんをブロックできる。鉄道会社はキオスクでトゲつきドクロ柄のサングラスを販売してほしい。
無論、このように女子が自衛しなきゃいけない社会が狂っている。
70~90年代の男性誌には「痴漢のススメ」「スレスレ痴漢法」といった記事が載っていて、性犯罪を娯楽として消費する文化があった。そんな感覚が麻痺したヘルジャパンでは、数年前に「ちょいワルジジ」の記事が炎上した。
その記事では、高齢男性に「美術館にいる女子にウンチクを語ってナンパしろ」とアドバイスして、「焼き肉屋で牛肉の部位について語り、『キミだったらこの辺かな』とお尻をツンツン」とセクハラもセットで提案していた。
もし私が美術館でおじいさんに声をかけられたら、「孤独なお年寄りなのかな」と民生委員の気分で話し相手になるだろう。こちらは福祉の精神で接してるのに「イケるかも」と勘違いされて、おまけにケツまで触られたら、うっかり殺してしまうと思う。
JJになると「迷惑おじいさん」が寄ってくる。40代の女友達はバーで飲んでいる時、1人暮らしの高齢男性に話しかけられ、福祉の精神で相手していたら「僕の家で飲もうよ」と手を握られたという。
彼女がギョッとして断ると「こんな夜遅くに女が飲み歩いて」と説教をかまされたそうだ。
「ぶっ壊すほど……シュートッ!」と棺桶にぶちこみたいが、そうすると自分が牢屋にぶちこまれる。
ポリス沙汰を避けるには、年下好きアピールがおすすめだ。「アベンジャーズでは断然トムホ推し! あんな20代の独身男子いませんか?」と聞いてみるとか。
それでもひるまないジジイには「それうちの97歳の祖父もよく言ってました!」とおじいさん扱いして「その祖父が危篤なので帰りますね」とさっさと席を立とう。
とはいえ、仕事の利害がからむと難しい。そんな場面では、積極的にセクハラの話題を出すのがおすすめだ。「我が社も最近はセクハラに厳しくて、この前も女性社員が上司を訴えたんですよ~!」とビビらせよう。
「若い女はおっさんにメシを奢ってもらえ」とクソバイスするおじさんがいるが、私は若い頃、仕事関係のおじさんから食事に誘われて、イヤでも断れないのが本当につらかった。
「なんでプライベートで接待しなきゃいけねえんだ」と思いつつ、ヘイヘイホーと相づちを打ち、ようやく解放されたと思ったら帰り道にホテルに誘われたり、無理やりキスされたこともある。
ヘイヘイホー!! と斧で頭部をかっ飛ばしたかったが、当時の私は「我慢しなきゃダメだ」と思っていた。
相手を怒らせて会社に迷惑がかかるのも怖かったし、セクハラを笑顔でかわすのが大人の女だと刷り込まれていた。「こんなことで傷つくなんて弱い、気にしないのが強い女だ」と勘違いもしていた。
当時の自分に言いたい、「我慢しなくていい!!」と。イヤなことをされたら怒っていいし、あなたには怒る権利があるのだと。
そんなわけで、40代の私はブリブリ元気に怒っている。女が性差別や性暴力に怒りの声を上げると「攻撃的なフェミニスト」と言われたり、「まあまあそんな怒らずに」とトーンポリシング勢にからまれたりする。
フェミニストを批判する暇があったら、性差別や性暴力をする側を批判したらどうか、そっちの方がよっぽど攻撃的で有害なのだから。
それに、いじめられっ子に「いじめをやめてもらうために、いじめっ子に優しく丁寧に説明しろ」なんて言うだろうか? いや言わない(反語)。会社のパワハラと戦う人に「まあまあそんな怒らずに」なんて言うだろうか? いや言わない(反語)。
という文章に「ほんまやで」と頷くのは、性差別や性暴力をなくしたいと思っている人たちだ。一方、こちらが何を言おうが聞く耳を持たず、フェミニストを執拗にバッシングするのは、単に怒る女が気に入らない人たちだ。
彼らは「女は男に従うべき」と思っているから、声を上げる女を叩きたい。「女は笑顔で愛想よく、男の話を黙って聞け」と思っているから、対等に話し合う気などさらさらない。従うべき女たちが怒りを表明すると「女は感情的」「ヒステリーババアw」「更年期w」と揶揄してくる。
そんな人々が何を言おうが、私は痛くも痒くもない。彼らに認めてもらう必要などないからだ。
私にとって大切なのは、性差別や性暴力をなくすこと。次世代のために、ヘルなジャパンを変えることだからである。
というわけで「うるせえダボが!!」と元気にコラムを書いている。それを読んだ女子から「自分も怒っていいんだと気づいた」「セクハラやモラハラにNOと言えるようになった」と感想をもらって、とっても嬉しい日々である。
女子はいつも心に億泰を飼って、ムカつく奴らをザ・ハンドで刻んでほしい。まっとうに怒れることは、心が健全な証拠なのだから。
ちなみにダボとは関西圏で使われる罵り言葉で、アホボケカスと同義である。
関西はフレンドリーな土地柄なので、見知らぬおばちゃんに「ごっついええセーターやんか」と話しかけられて「ZARAですわ」と笑顔で返す私である。ニットをセーターと呼ぶJJ仕草に親近感を抱きつつ。
それがおじさんだと警戒してしまうのは、おじさん被害にさんざん遭ってきたからだ。おじさんのイメージアップのためには、迷惑おじさんの意識改革が必要だろう。
が、このコラムを読んで「俺も迷惑おじさんになってないかな? 気をつけないと」と思う人は、善きおじさんである。当事者は「迷惑なおっさんもいるけど、俺は違う」と本気で思っているから厄介だ。
この手の老害に共通するのは「鈍感力」だ。鈍感力ゆえに、相手が不快に思っていることに気づかない。時代の変化にも鈍感だから、アップデートもできないし、それに本人が全く気づいていない。
そんな彼らに敏感力を磨いて、人の話を聞くエクササイズをしてほしいが、まあ無理だろうな。はなから聞く耳を持たない相手と対等な対話などできないし、こっちが疲れるだけである。
なので今後も迷惑おじさんにからまれたら「パードゥン?」と返すか、「バルス!」と唱えて眼鏡をケツで踏みつぶそうと思う。
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アルテイシアの熟女入門
人生いろいろ、四十路もいろいろ。大人気恋愛コラムニスト・アルテイシアが自身の熟女ライフをぶっちゃけトークいたします!
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