毎日のみそ汁をグンと美味しくする秘訣

今回のテーマは、日々の食卓に欠かせない「みそ汁」。多種多様なみそ汁がありますが、味噌を入れるタイミングに気をつけると、いつものみそ汁が一味も二味もおいしくなります。

先月から「連載で取り上げて欲しいメニュー」というアンケートにご協力いただいています。そのなかで複数の要望があったのが〈みそ汁〉。みそ汁は当連載3回目に取り上げた料理ですが、具材や味噌を入れるタイミングなどについては掘り下げていませんでした。今回はみその特性に焦点を当て、みそ汁について解説していきます。

有名なグルメ漫画の主人公は「俺はみそ汁の実は一種類だけのほうが好きだ。実をいくつも入れると、味が濁る」と言っていますが、みなさんはいかがですか。
『郷土料理・行事食における汁物の分類』(下村道子ほか)という論文によるとみそ汁の具材の多さには地域差があり、関西、中部、北陸地方のみそ汁は昆布だし主体で具材が少なく、これらの地域から遠くなると具材の旨味を活用したり、実の量が増える傾向にあるそうです。

私見ですが、関西、中部、北陸などのみそ汁は「汁」を味わうものであり、距離が離れると「具材」を味わうものであるといえるか、と思います。具材の多いみそ汁にはおかずとしての存在感が求められるわけで、自然とみその扱い方も変わってきます。今回はまず「汁」を味わう蟹のみそ汁、次に「実」を味わうベーコンとなめこの豚汁をご紹介します。


蟹のみそ汁

材料(2人前)

蟹の缶詰…1缶(50g)マルハニチロ「まるずわいがにほぐし身」を使用
水…360cc
みそ…30g
長ネギ…30g(20cm程度)


1.水と蟹の缶詰を汁ごと鍋に入れて、強火にかける。そのあいだに長ネギを縦四等分にし、端からこまかく切る。(粗みじん切り)

2.沸騰してきたら火を弱火に落とし、みそを溶き入れる。みそが溶けたら長ネギのみじん切りを加えて、火を止める。


みそはどのタイミングで入れるべきか

最初にみそ汁の割合を復習しておきましょう。一人前の水量は180cc前後、それに対してみそが大さじ1(18g)というのが基本の割合です。これを頭に入れておけば1人前でも20人前でも同様にみそ汁をつくることができます。

以前「みそ汁に出汁は必要か?」という記事で、出汁とみその関係について検討しました。みそ汁には出汁が必要ですが、わざわざ別に準備する必要はありません。例えば鰹節を器に入れ、そこに湯を注ぎ、みそを溶けば鰹だしのみそ汁になりますし、火にかける前の鍋に昆布をひとかけら入れれば昆布だしのみそ汁になります。

鰹節や昆布、煮干しなどだけでなく、具材としてそのまま食べることのできるベーコンや魚の水煮缶なども活用したい出汁素材。今回は贅沢にカニ缶を使いましたが、さば水煮缶でも同様につくれます。

水と出汁素材を鍋に入れ、加熱します。ここで選択肢が分かれるのが「どのタイミングでみそを投入するべきか?」ということです。「火を止めてからみそを溶き入れる派」もいれば「みそを溶いてから火を止める派」もいますが、どちらが正しいのでしょうか?

この問いに答えるにはみその特性を理解する必要があります。鍵を握るのはみそに含まれる5つの香気成分グループです。

香気成分には揮発しやすいものとそうでないものがあるのですが、みそを水で溶いて火にかけるとまず「アルコール類」が揮発します。次に出てくる成分が「アルデヒド」や「エステル」「炭化水素」といった香気成分です。さらに加熱を続けると最後に「有機酸」が揮発していきます。

みその温度が低いと香りは出てきませんが、温めていくうちに順番に香気成分が揮発していきます。複数の香気成分が混ざったバランスのいい状態が沸騰直前(80℃)とされています。さらに加熱を続けると有機酸が揮発しはじめ、いわゆる「酸っぱい」匂いがしてきてしまいます。昔から「みそ汁は沸騰させてはいけない」と言われているのにはちゃんとした理由があるのです。

とはいえ、例外もあります。例えば大豆100%で醸された豆味噌は酸味のある味からもわかりますが、有機酸が多いのが特徴。したがって豆味噌のみそ汁は弱火でことこと長い時間加熱し、できるだけ有機酸を飛ばしたほうが、味に丸みがでておいしくなります。しかし、加熱することでみそらしい香りは失われてしまいます。

つまり、最終的にどういう味のみそ汁にしたいのか、で加熱時間やみそを投入するタイミングは変えていくべきなのです。いずれにせよ、みそはある程度加熱しなければ香りが立ってきません。フレッシュな香りが好みという方もいるのであくまで好みですがここではみそに熱を加えるべく、みそを溶いてから火を止める、レシピにしています。

この長ネギの切り方は薬味として使うためです。長ネギの香りも加熱をすることで揮発していくので、最後に入れることで風味が生きてきます。長ネギを薬味として使わず、具材として味わいたい場合は水の段階から鍋に入れて、味を出しましょう。その場合はあまり小さく切らないほうがおいしく味わえると思います。



ベーコンとなめこの豚汁

材料(2人前)

ベーコン…20g〜30g ※ハーフベーコン2枚程度
大根…3cm(100g)
なめこ…1パック(ザルなどを使い水で洗っておく)
水…380cc
みそ…30g
長ネギ…10cm(15g)
醤油…小さじ1/2


1.大根は皮を剥き、いちょう切りにし、ベーコンは1.2cm幅に切る。長ネギは薬味用の粗みじんにする。鍋に水、大根、ベーコンを入れ、みその半量を溶かしてから、中火にかける。沸いたら弱火に落とし、5分煮る。

2.なめこを1の鍋に加える。残りのみそを溶き入れ、長ネギを加えたら、火を止める。仕上げに醤油で味を整える。


具沢山のみそ汁の考え方

汁を味わうみそ汁の場合には具材やみその加熱は最小限にとどめました。さきほど説明した通り、みそは加熱を続けると揮発する香気成分が変化しますが、味もまた変わっていきます。味噌炒めが典型的な例ですが、加熱を続けると香りがなくなり、代わりに特有のコクが出てくるのです。

ここでははじめにみその半量を具材と一緒に加熱し、残りを仕上げに加えています。こうすることで、コクを出しつつ、みそ汁らしい香りを残すことができるからです。この方法には他にもメリットがあります。みその味が具材(ここでは大根)に浸透するのです。具材の多いみそ汁の場合にはこの「半量ずつ加える」手法は有効で、おかずとしての存在感を出すことができます。

みそ汁の味を見て、もしも「味が足りないな」と思ったら、醤油を少し加えてみましょう。味がぴたりと決まります。醤油とみそは同じ大豆でつくられた調味料なので、混ぜても違和感はありません。

このようにみそ汁は具材や味の方向性など考えるべきポイントがいくつもありますが、みそ汁をつくること自体はむずかしくはありません。ご飯、醤油、みそ汁。これが日本の食卓の基本です。つまり、日本の食卓は大豆でご飯を食べる文化なのです。世の中がざわついたときこそ、温かいお味噌汁で、日常を守りましょう。


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    コメント

    a_s_i_m1 料理は化学だな。 約1時間前 replyretweetfavorite

    ts7i ベーコンは自分もたまに出汁枠で味噌汁に使っていた。なめことの組み合わせは試してみよう。 https://t.co/qBNjkFI3eV 約4時間前 replyretweetfavorite

    adventurousjun 高級食材(カニ缶・家庭による)、肉の脂入れたら美味しいに決まっている 約5時間前 replyretweetfavorite

    JohnIll 深いね。試してみよう。 約5時間前 replyretweetfavorite