ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その17

△月△日 085

 またアインズのやつが訪ねて来た。

 本当にもう、いい加減にアポイントを取ることを覚えてもらいたいのだが、無理なんだろうな。こっちだって忙しいってのに・・・。

 仕方が無いので、また竜王国救援軍派遣延期言い訳検討会議は延期することにする。

 ん? 言い訳検討会議を延期する言い訳を探してないかって? 気のせいだ。

 

 今日はまた何の用かと聞くと、魔導国と周辺諸国との相互理解を平和的に推し進めるため、劇団を作って劇を上演し、文化的な交流を図りたいのだと言う。

 それが本当なら拒否する理由も無いのだが、具体的にどうするのかを聞くと、実はもう、少しずつ準備を進めていて、後は上演できる劇場を用意するだけになっていると言う。

 劇団名も決まっているらしく、アインズのやつ、楽しそうに「劇○死期と言うんだ」と教えてくれた。なにその不吉な名前。

 ていうか、劇団○期はマズくないか? 大丈夫なのか? 見境無く四方八方に喧嘩売って歩くスタイル、いい加減やめて欲しいんだが。

 

 普通、演劇といえば六大神や八欲王の伝説、十三英雄の英雄譚などが定番だが、どんな演目を上演する予定なのかを聞くと、アインズのやつ、「演劇にも色々あるし、演目の候補はたくさんあるんだが、とりあえずは子供向けの御伽噺にしようかと思うんだ。3つほどに絞り込んでみたんだが、凝った難しい話よりも、最初は簡単な話の方がいいだろう?」と言う。

 

「まず、思いつくのは“ごんぎつね”だな。ここからは遠い異国・・・私の故郷の話なのだが、学校でも教えていた教訓を含んだ話で、悪戯を反省した子狐が、お詫びに猟師の元へと食べ物を運んでいたら、その猟師に撃ち殺されてしまうという話だよ」

 

 待て。

 それのどこに教訓があるのか俺には理解できない。ひたすら悲惨なだけの話にしか聞こえないんだが、なんでそんな救いの無い殺伐とした話を学校で教えるんだ?

 

「他には“ジャックと豆の木”という童話で、ジャックという男が、母親に牛を売って生活費を工面しろと言われるんだが、言いつけを破って牛を無価値な豆と交換してしまうんだ。仕方なくその豆を植えると、不思議なことに豆の枝が雲の上まで伸びて登れるようになった。そこで登ってみると、雲の上にお城がある。その城の財宝を盗んで持ち帰り、怒って追いかけてきた大男を返り討ちにして幸せになるという話だな」

 

 そいつ、幸せになったら駄目だろ。

 教訓話なら、そのジャックとかいう外道は絶対不幸にならなきゃ嘘だろ。母親の言いつけは守らないわ、盗みはするわ、オマケに逆ギレで殺人とか、とんでもない極悪人じゃないか。

 

「後は・・・“赤頭巾ちゃん”という話だが、これなんかは劇としては定番だな。赤い頭巾を被った可愛らしい女の子が、お婆さんのお見舞いに行ったら、二人共悪い狼に食べられてしまい、その狼も猟師に撃ち殺されて腹を裂かれるという話で、これも候補に考えているんだ」

 

 なにそのスプラッタ。

 そんなもん子供に見せたらトラウマになるぞ。劇場は阿鼻叫喚待った無しじゃないか。劇場で激情ってか!・・・すまん、今のは忘れろ。

 

 とりあえず、その3本は止めて、他の話にした方がいいんじゃないかとは言っておいたが・・・何でそんな救いの無い話ばっかりなの? イイハナシダナーって涙流すような心温まる話って無いの?

 アインズのやつは、「他にも候補を考えてみよう」と言って帰って行ったが、やっぱりこれは、アンデッドと人類は絶対に相容れないという証左なのだろうと俺は思う。根本的に精神構造が違うので、相互理解など出来るはずもなく、交流や共存など無理な話なのだ。

 

 人類の未来の為にも、一刻も早い、対魔導国包囲網を作り上げねば、と固く心に誓った。

 

 

 

△月◇日 086

 今朝、帝スポを読んでいたら、昨夜の闘技場の武王への挑戦権を賭けた試合の結果が出ていた。

 

 ※ワールドグローバルゴージャスナンバーワン挑戦者決定戦

  ○リ・エスティーゼ王国代表 マスクド・ランポッサ三世

   [3分34秒 タイガースープレックスホールド]

  ×アインズ・ウール・ゴウン魔導国代表 腐王

 

 二度見した。

 

 は? なにこれ? ・・・マスクド・・・なんだって? ・・・なんか嫌な名前が見える気がするんですけどー。試合結果も色々おかしい気がするんですけどー。脳が理解することを拒否するんですけどー。

 

 とりあえず見なかったことにして帝スポを閉じ、深呼吸をして心を落ち着けてから、午前の執務に向かうことにする。

 うん、俺は何も見て無い。何も知らない。

 

 俺が執務室に入ると、後から追いかけるように部屋に入って来た〝雷光〟のやつが、やや興奮した面持ちで朝の挨拶もそこそこに「いやー、昨夜の闘技場の試合凄かったですよー」と、能天気に話題を振って来たから殴っておいた。

 人の努力をなんだと思ってるんだ。これは俺、絶対悪くないぞ。空気読まない〝雷光〟が悪い。

 

 しかし、俺が繰り出す程度のパンチでは、日頃鍛えている〝雷光〟にとっては撫でられたようなものだろう。たいして気にもしてない様子で興奮気味に昨夜の目撃譚を俺に語って聞かせるので、やむなく拝聴することにした。

 

「それがですね、最初に王国のマスクマンが出てきて、黄色いマスクに黒い模様の入ったビーストマンみたいなマスク被ってて・・・名前なんていったけな・・・忘れちゃいましたけど、貧相な体つきでしてね、あれで試合になるのか心配しちゃいましたよー。でもほら、『伝説の武技を操る達人』って触れ込みだったじゃないですか。だから、達人ってのは見かけじゃ判らないんだろうなーって思いましてねえ」

 

 忘れちゃいましたけどって、お前、そこが一番肝心なとこだろうが! 貧相な体つきって、そりゃ単に爺さんだからだろ! そんなランポッサ三世なんて名前のジジイが、そんな都合よくホイホイいてたまるか! ていうか、全然偽名になってないじゃないか!!

 そりゃ王族やら血縁の可能性は0じゃないが・・・俺の勘が危険信号出しっ放しで、全く止まる気配が無いぞ。

 頭痛い・・・何やってんだあのジジイ・・・。何が『伝説の武技を操る達人』だよ、お前、ただの一般人のはずだろ・・・。

 

「それでですね、対戦相手なんですが、着ぐるみテスナイト君が現れましてね、あれが腐王かーって思ってたらそうじゃなくて、闘技場の真ん中でカップ麺作り始めるじゃないですか。それで、何だろうと思ってたら、カップの中からムクムクッと現れたのが、普通のデスナイトの半分くらいの大きさのレッサーデスナイトで、あれが腐王って言うんだから驚いちゃいましたよー」

 

 こっちは呆れちゃいましたよーだ。何だそのレッサーデスナイトって。カップから出てくるからカップ○王ってか。伏字にした方が危ないってどういうことだ作者、おい。

 半分の大きさだから1mチョイだよな。それって強いのか? 強さもデスナイトの半分だとしても、それなりに強いとも考えられるが・・・そういえばこの前、アインズのやつがカップデスナイトの完成品がどうとか言ってたが、これのことだろうか?

 

「そんなこんなで準備が整って、いよいよ試合が始まるじゃないですか。最初は睨みあってたんですけど、腐王が突進した! と思ったら、マスクマンが凄い動きで身を交し様に武技“ローリング・エルボー”を叩き込んで、腐王が怯んだところを担ぎ上げて武技“エメラルド・フロウジョン”、最後は武技“タイガースープレックスホールド”でカウント3!!! あっという間の武技3コンボで瞬殺っすよ瞬殺! いやー、凄かった。2代目タ○ガーマ○クこと伝説の元社長M・ミ○ワ思い出しましたよ。あの王国のマスクマン強いっすねー」

 

 強いっすねーって、〝雷光〟お前、自分で何言ってんのか解ってないだろ。また不穏なこと口走ってるぞ。

 だいたい、なんだよカウント3って。それ、俺の知ってる闘技場の試合と違う・・・そんな武技も聞いたことないって言うか、“ローリング・エルボー”とか“エメラルド・フロウジョン”って、それは武技って認識で本当にいいのか?

 

 しかし・・・謎の多すぎる話だ。

 いったいそのレッサーデスナイトが弱いのか、あのジジイが強いのか・・・これは多分前者の可能性が高いと思うんだが、あのアインズがそんな弱い配下を出してくるだろうか? 単に失敗作とも考えられるが・・・。

 後は、八百長ということも大いに考えられる。その場合は王国と魔導国との間で何かしらの繋がりがあるということになるので、この場合はかなり面倒な話になるが・・・そんなことするメリットが思いつかない。今さら王国を持ち上げても完全に無意味だよな。

 

 最後に残る可能性は・・・ランポッサのジジイが本当に強い?

 

 

 

△月▽日 087

 今日はちょっと趣向の変わった話なのだが、最近、作者が言うには「ジルクニフ日記」というタイトルが気になるのだと言うのだ。

 作者が出てくるくらい、いつものことで何も変わってないだって? うん、俺もそう思うが、話くらい聞いてやろうじゃないか。寛容の精神というのは大切だ。

 

 それでまあ、「ジルクニフ日記」と言いながら、全然「日記」の態を成してないし、ゆるゆるな作風からも「じるじるじるくにふ」の方が良かったんじゃないか、と言い出した訳だな。今さら「ぷれぷれぷれあです」見ましたと宣言してるようなものだが。

 

 確かに「ぷれぷれ」という表現は、あのアニメのゆるゆるな作風を現していて良いタイトルだと思う。あ、もちろん俺は見たこと無いぞ? 皆まで言わずとも解ってるよな?

 しかし・・・「じるじる」って何だよ「じるじる」って・・・。腐ってそうな色の得体の知れない液体が滴ってそうだし絶対ヤだ。よりによって「じるじる」は無いだろ「じるじる」は。異臭もしそうだし・・・。

 

 ただ、そうは言っても決定権は作者にあるので、変えたければ勝手にすればいいと言ったら、今さら面倒だから嫌だと言う。だったら最初から言うな。

 ムカついたので、三騎士に命じて牢に放り込んでおいた。

 

 

 

△月□日 088

 ナザリックのロウネから荷物が届いた。

 えらく大きな荷物だったので、またカップ麺でも大量に送ってくれたのかと思って開けてみたら、中身はアインズの糞野郎の組み立て模型が入っていた。

 以前にも組み立て模型を送ってくれたが、今度のは「1/3スケール PG アインズ・ウール・ゴウン V○r.Ka」となっている。

 

 ふと、「PG」って何だろう? と一瞬気になったが、きっと突っ込んでもロクなことはないだろう。そのくらいは学習しているので忘れることにした。俺も大人になったもんだ。

「Ver.K○」の意味も不明だが同じことだ。きっと、アインズ・ウール・ゴウンばーか、とでも読むのだろうということにしておく。心情的にも是非そう読みたいし。

 

 ロウネの手紙には、いくつか別売りのオプションも同封しておくと書いてある。着せ替えの衣装や、装備させることのできるアイテム類のようだ。

 同封の説明書には、完成すると「目と腹部が光ります」「『絶望のオーラLv.0.1』を再現できるエフェクト付き」「背部のボタンを押すと『騒々しい。静かにせよ』の名セリフが聞けます」「その他ギミック多数搭載」などと書いてある。最後の説明は嫌な予感しかしない。

 

 ざっと見たところ、うんざりするほど部品が多いな。これは作るのに時間が掛かりそうだ。

 基本的には以前作った1/16のやつが大きく緻密になった程度で、特に新たな情報が得られるような要素は見当たらないのだが・・・ロウネがわざわざ送ってきたのだから、きっと何かあるのだろうな。

 

 ただ、今回の荷物にはもう1つオマケがあって、「1/6スケール HG すーぱー炎莉」組み立て模型が入っていた。「HG」って・・・いや、だからもう考えない。危ないからホント。作者のチキンレースに巻き込まないで欲しい。

 中身は何やら可愛らしい女の子の人形のようなものが出来るらしく、ロウネの手紙によると、エ・ランテルでは軽く5000個以上が売れたという大ヒット商品で、近郊の村からわざわざツアーを組んで団体客が購入に押し寄せたのだとか。入手に苦労したと書いている。

 

 でもなあ・・・これ、俺が作るのかぁ? ・・・女の子の人形を? 帝国の皇帝が? ・・・うーん・・・。

 

 

 

□月○日 089

 今日も、昼飯ついでにお忍びで帝都の様子でも見てこようと思い、〝重爆〟を連れて例のカレー・レストランに行って来た。

 

 本当なら三騎士が護衛に付くのだが、いつもぞろぞろ連れ立っては目立つので、帝都の治安は良好であることもあり、共は1人に絞らせた。あくまでもお忍びだからな。

 決して、三人連れて行けば全員分奢りになる俺の負担が大きいから、とか、今月小遣いピンチだから、とかは関係無い。そろそろロクシーに直談判して少し増額してもらわねば・・・せめて減額前の金額に。

 メンバーが〝重爆〟になったのは、三人でジャンケンをして負けたから、らしいが、何で勝ったから、ではないんだろう?

 

 店に入ると、もうすっかり顔馴染みになった店員に「いつもの」と注文する。こういう「いきつけの店」とか「メニューを見ずに注文する常連」って少しカッコイイと思わないか? ちょっと憧れてたんだ。

 ちなみに、お忍びの際は当然変装しているし、店では貧乏貴族の三男坊で「シルさん」と名乗っている。暴れん坊皇帝? 知らんな。

 

 カレーはいつものように美味かったんだが、人がせっかく機嫌良く食べていたのに、〝重爆〟のやつ、俺を見て「シルさん、最近ちょっとお太りになってません?」などと、聞き捨てならないことを言う。

 とんでもない言い掛かりだ。こう見えて見た目には十分に気を使っているのに、太ったなどとは冗談ではない。

 だいたい、太っているというのは王国の皇太子のようなやつのことを言うのだ。あれなら確かにデブだ。「ぽっちゃり」でも「ふくよか」でも「安産型」でもない、「デブ」と言うのだ。だいたいあいつ、影だけで20キロあるって聞いたぞ。

 

 俺は確かにデスクワークこそ多いが、健康にも気を使って一日の運動量は確保しているし・・・まあ、確かにこのところ昼飯の量は多少増えてる気はするが・・・ほぼ日を置かずにカレー食ってることも認めなくはないが・・・だって美味いし・・・。

 いいじゃないか別に! 自分の小遣いの範囲で食ってるんだから、誰にも文句言われる筋合いなど無い!

 

〝重爆〟には断固抗議したが、その責めるような視線にいたたまれなくなって、ふと目を店の奥にやると、なぜか一人の男が目に付いた。

 その男は、ちょうどカレーを食べ終わったところのようで、ゆっくり席を立つと、我々のいる席の横を通り抜け様、ポンと鷹揚に俺の肩を叩いて、「カレーはな、飲み物だよ」と呟くと、俺に向かって親指を立てて見せ、呆然とする我々を尻目に不敵な笑みを浮かべたまま悠然と勘定を済ませて店を出て行った。

 

 なんであのデブ、よその国のカレー屋で一人で飯食ってんだ・・・。

 

 

 


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