□月□日 070
ナザリックにいるロウネから大荷物が届いた。
最近便りが無いもんだから、すっかり存在を忘れていたが、ちゃんと仕事してるんだな。
同封の手紙によると、魔導国で開発された携帯食料「インスタント・カップ麺」というもので、比較的単価が安く保存が利く為、戦後のエ・ランテルで市民に大量に配布され、食糧難から来る治安の悪化防止に一役買ったものらしい。
蓋の部分には魔導国の文字なのだろう、何か文字が書いてあって、その下に我々の読める文字で〈しょうゆ味〉〈みそ味〉などの情報と、〈お湯を注いで3分経ったら出来上がり〉と注意書きが書いてある。バイリンガル仕様と言うわけだ。
軍用の糧秣には常に費用や保管の問題があり、そして何より味の良し悪しは兵の士気に関わる。
試してみて良さそうならば、例え魔導国の発明品であっても我が帝国での導入に何の問題も無い。出自がどうのなどとは小さいこと。要は役に立つか、立たないかだ。
手紙には、「基本的にお湯を注いで3~5分待つだけで食べることが出来る」「各種送るので、ぜひ皆で食べ比べてみて欲しい」とある。
この後は竜王国救援検討会議が予定されていたのだが軍の強化は最重要課題だ。
当然、会議は延期することにして、早速試してみようとメイドを呼んでお湯を準備させるが、傍にいた秘書官が毒見をしないと危険ですと言う。
そんなもの、俺を殺そうと思えば魔導国の連中なら、毒殺などと手の込んだことをせずに、いつでも簡単に殺せるだろう。そんな連中だ。
しかし、何事にも形式は必要だし、秘書官の言うことも正しいので、代わりに秘書官にカップの蓋に〈みそ味〉と書いてある物を食べさせてみたら、「これ、とんでもなく美味いですよ」と言う。
我慢できずに俺にも一口寄越させて食べたが、これは確かに緊急用・軍用の糧食として「恐ろしく美味い」としか言いようがない。
これなら兵の士気は鰻登りだろう。会議は延期して正解だった。
この後は三騎士も呼んで試食会になったが、どれもこれも美味かった。
〝雷光〟は「未知の味に挑戦してみる」とかで〈しょうゆ味〉を、〝重爆〟は「美容に良さそう」と手堅く〈塩野菜スープ味〉、〝激風〟は〈カレー味〉と散々迷った挙句に〈ジンギスカン味〉を選んでいた。
〝激風〟曰く、「これは正直、ハズレです」と言っていたが、ジンギスカンって何だろう?
一口もらって食べてみたが、ちょっと癖があって味が濃かったものの、羊肉風味のような感じで特に嫌いではない味だった。
まあ、味の好みは個人差があるからな。
他にも〈塩野菜スープ味〉と〈豚骨スープ味〉などは何となく味の予想もつくが、〈しょうゆ味〉〈カレー味〉〈台湾ラーメンアメリカン味〉などは食材が一体何なのか想像もつかない。
ただ、気になるのは1つだけ混じっていた、少し大きめのカップだ。
1つだけ大きさが違っているのもそうだが、問題は蓋に〈デスナイト〉と、有り得ない文字が書かれている。デスナイト?
インスタントの?
これ、食っていいの?
デスナイトって食えるの?
まさか魔導国の連中ってデスナイト食ってんの?
しかし、冷静に観察すれば、他の物のように〈味〉と書いてないから違う可能性も高いし、カップの横に手書きの魔導国文字で何か書いてある。
正確に模写すると《ルプーの》となっているが、魔導国の文字は読めないので何と書いてあるのかは不明だ。
ともかく、流石に怪しすぎるので、ロウネに問い合わせるまで厳重に封印しておくように命じておいた。
○月○日 071
帝スポを読んでいたら新しい連載小説・ナザリック殺人事件というものの連載が始まっていた。
カルーネ村という寒村の外れに構えられた洋館で起こった殺人事件の謎を解く話で、まだ導入部分だが中々に面白そうだ。
謎の手紙によって屋敷に集められた、一癖も二癖もある怪しい面々。
俺は最初に殺されるのは、この手の話の定番的に屋敷の主人クリンガの娘夫妻、ダメ夫のブレーンか気の強い妻のポニョコ辺りだろう思ったんだが、意外にも友人バレバレ夫妻の夫、アフィーレア・バレバレ氏がパーティーの最中に毒殺されてしまった。
今のところ犯人候補は、毒を入れるチャンスのあった執事のギャリソン(頭の中で「バンジョー様」という声が聞こえるが、このネタはダイタンすぎないか?)か、グラスをアフィーレア氏に手渡した新聞記者のペーロンだろうか。
ギャリソンの動機は不明だが、ペーロンにはアフィーレア氏の義理の妹であるニム・エモト嬢を狙っていて、アフィーレア氏の存在が邪魔になるという動機がある。
しかし、こういう場合は怪しい人物ほどシロなんだよな。
そうなると対象が散らばって、まだ絞り込むのは難しいが、俺としては主人の友人でカルネ学園教授のアラタか、デミゴスティーニ商会のデミグラスという商人が怪しい気がする。
いずれにせよまだ物語は序盤だ。探偵役もまだ未登場のようだし、これは新たな楽しみが増えた。
○月×日 072
朝の憩いのひと時に帝スポを読んでいた所、突然アインズの糞野郎が訪ねてきた。
無粋にも程がある。
護衛らしい、いつもの邪妖精の姉妹と共に応接室に通し、落ち着いた所で用件を聞くと、エ・ランテルで出したレストランが好評で2号店を出したいが、帝都での出店に許可をもらえないか?ということらしい。確かに帝都内での商店の営業は許可制になっているが、そんなことでわざわざやって来るとは、案外律儀なヤツだ。
秘書官に申請の書類を持って来させ、書き方を説明させた後、もう出店場所の目星はついてるのかと聞くと、いつぞやお忍びで行ったことのある肉料理の店の近所だった。
どんな料理を出すのか聞くと、カレー屋だと言っていた。そう言えば先日食べたカップ麺にもカレー味があったな。
屋号は「ココが1番屋」と言うらしく、随分ストレートな名前だとは思ったが、アインズのやつは「中の人がココ1好きなんだから仕方が無い」とか意味不明なことを言っていた。
話も一段落した所で、カレーで思い出した、先日のカップ麺の中に〈デスナイト〉と書かれた、少し大きめのカップが混じっていたことを告げ、どうすればいいのかを聞いてみた。
念の為に封印させていた物を秘書官に持って来させ、アインズに見せる。
すると、やつは大きく溜息をつき、珍しくガックリと肩を落とすと、片手で顔を覆いながら説明してくれた。
何でもこれはデスナイト召喚アイテムの試作品だそうで、誰でもお湯を注いで3分待てばデスナイトを召喚できるアイテムとして開発したらしい。
しかし、準備にお湯を沸かす時間が掛かること、そして何より召喚後5分ほどで伸びてしまうので使い物にならないとしてお蔵入りにした失敗作だそうだ。
やつはカップの横に書かれた手書きの魔導国文字を指差しながら言った。
「ほら、ここに書いてある文字だが、これは「ルプーの」と読む。恐らくルプスレギナのやつが食べ物だと思って隠してたのが混ざったのだろう・・・が・・・処分しとけって言ったのに・・・あいつ、食べ物を隠すクセが・・・骨埋めたり・・・あっ、そういやこの前シャルティアがスケルトンの数が合わないって・・・」最後の方はもう愚痴に近い。
その後も「これはこっちで処分しとくから」とか「あいつ今晩は飯抜きだ」とか言ってたが、俺の視線に気付くと取り繕うように「それでは出店の件は宜しく頼むよ」などと言いながら、そそくさと帰って行った。
なんか・・・あいつも、ああ見えて色々苦労してるんだな・・・。
○月△日 073
王国のデブからホットラインがあった。ああ、皇太子のことだ。
最初はまた親爺が出奔でもしたのかと思ったが、親爺も妹もいると言うので「そうか」と言って切った。何か問題でも?
すぐまた掛かって来て、「いきなり切るやつがあるか」と言ってたが、こっちには用なんぞ無い。
「妹の時もそんな対応なのか」と言うから、黄金とお前じゃ対応は違うと言ったら、「なんだ、妹に気があるのか?」と言うからまた切った。
黄金の情報は有益な物も多いから我慢して聞くが、デブの戯言に付き合ってやる暇は無い。判断基準は有益か無益か、だ。
しかし、またすぐ掛かって来て、「いちいち切るな、話が進まん」と文句を垂れる。話があるなら最初からそう言えばいいじゃないか。
「なんだ?」と聞くと、「今朝の新聞は見たか?」と言う。もちろん読んだが、特に変わった記事は無かったはずだ。
秘書官に今朝の帝スポを持って来させ、今一度確認する。「特に何も無いな」と言うと、デブは「求人欄だ」と言うので目を通すと、確かに変わった物をそこに見つけた。
【幹部候補募集】
〈求ム!竜王国ヲ救ウ勇者!〉
「対獣人専門勇者若干名・闘技場竜王国代表候補数名」
「報酬応談昇給年2回賞与夏季年末年始休暇有」
「経験者優遇・初心者デモオ気軽ニ」
「アットホームナ職場デス」
確かに求人欄なんて普段全く見ない。見ないが・・・何やってんだあの女王。
全国の新聞に求人広告出したのか・・・。
初心者でもって・・・アットホームな必要あるのか?むしろ仕事内容は殺伐としてると思うんだが。
しかし、何故これをデブが俺に知らせて来るんだろう。不思議に思って聞くと、「いろいろ苦労してるのは読んで知ってるから、これは貸しにしとく」と言う。
何を読んだって? 俺の何を知ってると言うのか・・・悔しいが、その疑問には回答を得られなかった。
デブがエラそうに「わかってる」「わかってるから」と何故か上から目線なのがムカつく。
情報統制の強化は緊急の課題のようだ。
○月◇日 074
今日は久しぶりに訓練を視察した後、三騎士を連れてお忍びで城下に飲みに行った。
以前行った肉料理の店は〝激風〟のやつが、どうしても嫌だと言うので別の店に行くことにしたのだが、代わりに〝雷光〟が案内した店は、丁度アインズの糞野郎が出店するというレストランの隣の店だった。
糞野郎は「店は魔法で建てるから一瞬で出来上がるよ」と言っていたが、そんな非常識な魔法を人目のある帝都内でホイホイ使われても困る。
普通に建ててくれるように言っておいたのだが、実際まだ建築中のようだ。
この状況を確認できただけでも、お忍びで来た甲斐があったというものだが、〝雷光〟が言うには今回行く店は王国で繁盛している店の支店らしく、美味いチキンを食わせるという。
店にたどり着くと、入り口に誰かが直立不動で立ってると思って少し驚いたら、白髪白髭に眼鏡を掛けた小太りのおっさんの人形だった。人騒がせな。
〝雷光〟によると、あの人形のモデルはああ見えて軍人だったそうで「大佐」と呼ばれているそうだ。
あの人形もマジックアイテムらしく、粗末にすると呪われるらしく、「サ○ダース大佐の呪い」と呼ばれて恐れられているそうだ。なんでも王国ではカッツェ平野の敗戦の原因の一つだとも噂されているらしい。
なぜそんな物騒なもんを店の前に置いておくんだろう?
これは撤去を命じた方がいいかも知れんが、〝雷光〟は単なる噂ですからと言う。
いったいお前は迷信深いのかどっちなんだ?アインズ人形には笑うだの歩くだの大騒ぎしたくせに。
店の自慢だというフライにしたチキンは、俺には少し味が濃い気もしたが美味かった。これなら王国で評判になるのも頷ける。
骨無しチキンは食べやすいが、個人的にはやっぱり骨付きの方が美味いな。
フライにした魚もまあまあだったが、ポテトはボソボソしていて少々口に合わなかった。もうちょっとカリカリが好みだ。
まだちょっと酔ってるかな・・・「ケ○タで酒は飲めないだろ」という外野の声が聞こえる気がするが、己の無知を恥じるといい。
中の人もさっきググるまで知らなかったが実在するのだ。先に知った以上は威張らせてもらう。
他の料理も美味かったんじゃないかな?
何せ中の人が食ったこと無いんだから適当な感想しか言えないのは当たり前だな。苦情反論は受け付けていない。
2016/04/16 文章の一部修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。