ジルクニフ日記   作:松露饅頭

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その13

□月○日 065

 久しぶりに王国からホットラインがあった。

 最初は「ザナックだ」などと名乗るから、「そんなやつは知らん」と言って切りかけたが、慌てて「皇太子だ」と言い直していた。

 そういやデブの第二王子がそんな名前だったか。最初からそう言え。

 

 第一王子が先だっての戦争で戦死したとかで、今や皇太子って訳だ。

「皇太子即位の礼ならいらんぞ?」とからかうと、不機嫌そうに「違う」と言っていた。

 じゃあ何の用だと聞くと「うちの親父を知らないか?」と言う。

 そりゃ敵国の王なんだから知ってるに決まってるじゃないか。敵国の王も知らずに戦争してると思ってるのか、このデブは。

「もちろん知ってる」と答えたが、デブは慌てたように「今どこにいる」「居場所を教えろ」と重ねて聞いてくる。

 え?

 あの爺、行方不明なの?

 とうとうボケて徘徊でも始めた?

 だいたいランポッサの爺は知ってるが、居場所なんぞ知るわけがないじゃないか。俺は爺のママじゃない。

 そう言うと納得していたが、「黄金には聞いたのか?」と言うと「妹もいない」と言う。

 何やってんだあの父娘。

 でもそれ、俺に言っちゃっていいのかね?

 うち、敵だって忘れてない?

 

 兎にも角にも、デブには「お前も色々大変だろうが、まあ頑張れ」と激励して切ったが、考えてみたら何で俺が激励してやらなきゃならん。

 しかし、あの父娘相手じゃ思わず同情してしまうのは、人間ならば仕方ないよな。

 アンデッドではないのだし、鮮血帝にも情はある。

 

 

 

□月×日 066

 午前の会議が予定より早めに終わったので、今朝読み損ねていた帝スポを読んでいたら、〝重爆〟のやつに「暇そうですね」と言われた。失礼なやつだ。

 だいたい、聞くところによると王国の黄金などは、情報から隔絶された環境にあっても、メイドの会話などから事実を推察し正確に把握すると言うではないか。

 俺とて、貴族の使用する香水から内通を見破ってみせたこともある。情報はいたる所に散りばめられており、暇そうに見えても、無駄に見える情報の中に埋もれる重要な事実に網を張っているのだと教えておいた。

 〝重爆〟は、「そういうものですか」と感心していたが、彼女にはもっと観察眼というものを養ってもらいたいな。

 

 それはそれとして、少し気になったのは、闘技場最強の亜人剣士・武王への挑戦権を賭けての、挑戦者を決める試合の参加者が決まらなくて困っているという記事だ。

 今回は魔導国と王国、それに竜王国から挑戦者が来るということになっているのだが、その人選が滞っているらしい。

 魔導国からは例の「スケルトン死国」が十二指腸潰瘍(突っ込まないぞ)の為の入院を余儀なく(我慢だ我慢)されており、代わって「腐王」とか言う戦士の名が挙がっているらしい。

 なんだ「腐王」って。しまった、突っ込んだ。

 しかし、こんなもん突っ込まずにおれるか。やっぱり腐ってるのか? ゾンビ? グール? やっぱりアンデッドなんだろうか。

 

 王国からの挑戦者は決まっていて、「伝説の武技を操る達人」とか言う触れ込みの、謎のマスクマンらしい。なんだろう、小物臭がする・・・すっごい小物臭がする。この予想は多分当るな。

 そして竜王国からの挑戦者なんだが、これが全く決まらないという話。当たり前だろ。

 だいたいあそこは滅亡寸前なんだから、闘技場で遊ばせる戦力あるならそっちで使え、と。連中、滅亡寸前の自覚あるのか?

 記事によると最初は「なけなしのワーカーチーム「豪炎紅蓮」が候補」だったらしいが、戦況が思わしくなく却下。挙句、「侵略中のビーストマン軍から選手派遣を検討している」・・・って脳ミソ膿んでんのか連中は。

 散々うちに援軍頼んでおいて、これで選手出して来たら、援軍の代わりに俺が全軍率いて滅ぼしに行ってやりたい。

 

 

 

□月△日 067

 珍しくスレイン法国から使者が来た。

 なにやら随分と進物を持って来てるみたいだが、俺には「ルビクキュー」という六大神から伝わったというアイテムを寄越してきた。

 これだけ? これ1個?確かに精巧な物だとは思うが、皇帝にマジックアイテムですらない色を合わせるパズル1個だけってどうなの?

 

 まあ、くれると言うから貰っとくが、本筋は機嫌取りを装った情報収集といったところだろう。

 こちらだって馬鹿じゃない、与える分に見合う情報は、こちらも使者から取り立てさせてもらうさ

 どうやら御自慢の陽光聖典は壊滅、最強と言われる漆黒聖典も半壊しているそうじゃないか。そのくらいの情報はうちの情報部も掴んでいる。

 

 当たり障りの無いところで挨拶を切り上げさせて、逆に近頃の法国の様子などを聞いてみた。

 使者は最初、のらりくらりと尻尾を掴ませなかったが、こちらが聖典部隊の様子を掴んでることを匂わすと、観念したのかこちらの期待以上の情報をくれた。

 陽光聖典については法国でもまだ詳細を把握していないそうだが、漆黒聖典は謎の吸血鬼によって死者を出し、その吸血鬼も冒険者のモモンによって退治されたと言う。

 モモンといえば王国のアダマンタイト級冒険者ではないか。

 その話が本当なら、かの冒険者は魔王ヤルダバオトを凌ぎ、最強と言われる漆黒聖典をも上回る実力の持ち主ということになる。

 これは対魔導国の戦力として、なんとしても絶対に不可欠な人材のようだ。

 

 たまに真面目にやっとかないと、どうも皇帝はアホの子じゃないかと疑う愚か者がいるようなので、ちょっと本気出してみた。

 

 

 

□月◇日 068

 ちょっと熱が出て数日寝込んでしまった。神官と薬師は軽い風邪だと言っていたが、働きすぎだろうな。

 まあ、それも全快した所で王国の王女からホットラインがあった。

 いつぞやは兄が失礼しましたと言う。

 親父は一緒だったのかと聞くと、そうだと言っていた。

 どこに行ってたのかと聞くのも変な気がして、こちらからは聞かなかったが、この所塞ぎ気味だったので気分転換に友人の所へ連れて遊びに行っていたそうだ。

 まあ、あの敗戦の後では落ち込みもするだろう。俺は悪くないが。

 だったら一言ぐらい兄に声を掛けて行け、兄を心配させるなと諭しておいたが、考えてみたら何で俺がこんなこと言わなきゃならんのだ?おかしいだろ、絶対。

 

 そんなことを考えていた俺を無視して、当の王女は最近王国で流行っているという物語を俺に(無理矢理)聞かせた。

 なんでも「アキュラ」さんとか言う八百屋の息子が、攻撃にも防御にも最強のアイテム「普通の丸太」を使って、グールやヴァンパイアを倒しまくる話だそうだが、何だそれ。

 マジックアイテムでもない、ごく普通の木の丸太が最強の防具であり武器?よくわからん。

 まあ、荒唐無稽な物語にいちいち突っ込むのは野暮だろうし、どうでもいいが、相変わらず王国では変わったものが流行るんだな。

 

 適当に相槌を打って話を切り上げさせたが、何で俺がそんな話に長々とつき合わされなきゃならんのだろう。精神攻撃のつもりなのか?

 だいたい、敵国同士なんだから、もう少し真面目にやって欲しいのだが。

 

 

 

□月▽日 069

 法国の使者が帰ると言うので送り出した後、時間があったので自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、空き部屋の前で中から何やら奇怪な音と声がするのに気付いた。

 なんだろうと思って部屋の中を覗くと、四角いテーブルを囲んだロキシーと三騎士が、たくさんの白い四角い駒をテーブルの上でジャラジャラと掻き混ぜながら雑談していた。

 

 俺はこれを知っている。

 確か、法国に伝わる魔法儀式の一種で、「マ・ジャーン」とか言うものだ。いつぞや法国を訪れた際に見せてもらった記憶がある。

 火属性を上昇させる効果があるとかで、儀式の最中に泣き続けると背中が煤けるらしい。意味は俺にもわからん。

 法国の伝説では、年端も行かぬ魔法詠唱者の少女達がこの儀式を操ったとかで、「ア○ガのレジェンド」や「アチ○のドラゴンロード」と呼ばれる者さえいたと言う。

 しかし、何でそんな儀式をロキシーと三騎士がやってるんだ? ていうか出来るの?

 

 驚いて声を掛けると、ロキシーのやつが言うには、今回来ていた法国の使者が道具一式をくれて、ルールも教えてもらったのでやってみてるのだと言う。

 魔法詠唱者じゃなくても出来るのかと聞くと、きょとんとした表情でルールを覚えれば誰でも出来ますよと言っていた。

「マ・ジャーン」という法国の魔法儀式じゃないのかと言うと、これは「マ・ジャーン」から発展した「ドン・ジャーラ」という絵を合わせて役を作り、得点を競うゲームの一種だそうで、やってみたら面白くて、4人ですっかり徹夜してしまったと言う。

 なるほど言われて良く見れば、儀式に使っていた駒には南方の物だと言う異国の古代文字が描かれていたのに、この駒には間抜け面した青い丸顔モンスターや、冴えない眼鏡の男児と思われる絵が描かれている。

 法国の使者が携えて来た駒には他のセットも有り、黄色い雷撃モグラ?だか、雷撃ネズミ?だかのセット、化け猫セット、麦藁海賊王セットなんかも今回置いていったそうだ。俺にはパズル1個だったんだが。

 セットによって何がどう違うかはよくわからんが、それを聞いて納得がいくと共に、ふと思った。

 

 俺に使者の見送りさせといて、お前ら何やってんの?

 

 




2016/04/16 文章の一部修正を行いました。
2016/05/02 文章の修正を行いました。

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