新型コロナ拡大で食料生産国 自国優先し輸出制限
2020年04月03日
新型コロナウイルスの感染が世界規模で広がる中、世界の食料貿易に影響が出始めた。大規模な移動規制や物流混乱の広がりを受け、一部の国が小麦や米などで輸出制限措置を導入した。穀類の国際相場は上昇基調になっており、緊急時に自国の食料をどう確保するかが問われそうだ。(金哲洙、齋藤花)
米や小麦、食用油などの基礎的食品の輸出を差し止める動きが出始めたのは3月半ばから。国連食糧農業機関(FAO)が発行するオンライン穀物情報誌MNR最新号の「食料輸出制限情報」によると、ロシアとセルビアが先行し、下旬になってベトナム、カザフスタンなどが追随した。
ロイター通信などによると、世界最大の小麦輸出国のロシアは国内供給を優先し、4~6月の穀物輸出量に制限を設けた。通常は無制限だが、上限を700万トン(前年同時期の輸出実績は約720万トン)に設定。既に穀物加工品などは停止し、輸出業者は一層の規制強化を懸念している。
東欧のセルビアは、ひまわり油やイーストなどの輸出を一時停止した。ブラニスラフ・ネヂモビッチ農相は、日本農業新聞の取材に対し「一時的なもので近く輸出再開する」と回答を寄せた。
世界3位の米輸出国で、毎年約700万トンを輸出するベトナムは、3月下旬に新たな米輸出の契約を停止した。ただ、輸出業者の反発を受けており、政府は生産量や在庫量、輸出申請状況などを見て今後の対応を判断する方針だ。
世界最大の米輸出国であるインドは、国内の貧困層向けの配給を優先し、米や小麦の輸出を制限。カンボジアも、香り米などの一部を除き、米輸出を規制し始めた。カザフスタンは、小麦粉や砂糖、ひまわり油、一部の青果物を4月15日まで輸出禁止する。ウクライナは、新型コロナの感染状況に応じて、小麦などの輸出制限を検討している。
世界銀行の商品相場情報によると、ベトナム米の相場(2月)は、3カ月前に比べて6%値上がりした。国際相場は3月に入って上昇基調だ。
主食の米を輸入に依存するフィリピンは、東南アジア諸国連合(ASEAN)を通じ、30万トンの米を政府が購入する方針を明らかにした。
一方、西側の主な穀物輸出国である米国、カナダ、オーストラリア、欧州各国は現時点で、食料の輸出規制に否定的だ。中国と日米を含む20カ国・地域(G20)の貿易相は3月30日、緊急テレビ会合を開き、新型コロナウイルス感染の終息まで過度の貿易制限を回避し、食料を含め国際的な物品供給を保つ意見で一致した。
また、FAOとWHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)の事務局長は3月31日、「食料供給への潜在的な影響や世界貿易・食料安全保障への意図しない結果を最小限に抑えるように注意を払わなければならない」と過度な輸出制限をしないことを各国に求める共同声明を発表している。
世界中で穀類在庫が減り、食料価格が高騰した2008年と比べ、潤沢な供給力があり、FAOなど国際機関は大きな混乱は避けられていると判断する。農水省も「日本は、これらの国からの輸入実績は大きくない。影響は限定的だ」(食料安全保障室)とみている。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表の話
各国は、国内の食料安全保障を優先に、当たり前のように輸出を規制している。新型コロナウイルスのまん延が深刻化すると、その動きは一層加速するだろう。輸入国の思い通りに食料が手に入らない事態もあり得る。
政府は、こうした最悪の事態を念頭にリスク管理を強化すべきだ。対策として生産性や効率性ばかりを重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する足腰の強い日本農業の確立が急務だ。
露が先行 小麦や米 国際相場 上昇基調
米や小麦、食用油などの基礎的食品の輸出を差し止める動きが出始めたのは3月半ばから。国連食糧農業機関(FAO)が発行するオンライン穀物情報誌MNR最新号の「食料輸出制限情報」によると、ロシアとセルビアが先行し、下旬になってベトナム、カザフスタンなどが追随した。
ロイター通信などによると、世界最大の小麦輸出国のロシアは国内供給を優先し、4~6月の穀物輸出量に制限を設けた。通常は無制限だが、上限を700万トン(前年同時期の輸出実績は約720万トン)に設定。既に穀物加工品などは停止し、輸出業者は一層の規制強化を懸念している。
東欧のセルビアは、ひまわり油やイーストなどの輸出を一時停止した。ブラニスラフ・ネヂモビッチ農相は、日本農業新聞の取材に対し「一時的なもので近く輸出再開する」と回答を寄せた。
世界3位の米輸出国で、毎年約700万トンを輸出するベトナムは、3月下旬に新たな米輸出の契約を停止した。ただ、輸出業者の反発を受けており、政府は生産量や在庫量、輸出申請状況などを見て今後の対応を判断する方針だ。
世界最大の米輸出国であるインドは、国内の貧困層向けの配給を優先し、米や小麦の輸出を制限。カンボジアも、香り米などの一部を除き、米輸出を規制し始めた。カザフスタンは、小麦粉や砂糖、ひまわり油、一部の青果物を4月15日まで輸出禁止する。ウクライナは、新型コロナの感染状況に応じて、小麦などの輸出制限を検討している。
世界銀行の商品相場情報によると、ベトナム米の相場(2月)は、3カ月前に比べて6%値上がりした。国際相場は3月に入って上昇基調だ。
主食の米を輸入に依存するフィリピンは、東南アジア諸国連合(ASEAN)を通じ、30万トンの米を政府が購入する方針を明らかにした。
一方、西側の主な穀物輸出国である米国、カナダ、オーストラリア、欧州各国は現時点で、食料の輸出規制に否定的だ。中国と日米を含む20カ国・地域(G20)の貿易相は3月30日、緊急テレビ会合を開き、新型コロナウイルス感染の終息まで過度の貿易制限を回避し、食料を含め国際的な物品供給を保つ意見で一致した。
また、FAOとWHO(世界保健機関)、WTO(世界貿易機関)の事務局長は3月31日、「食料供給への潜在的な影響や世界貿易・食料安全保障への意図しない結果を最小限に抑えるように注意を払わなければならない」と過度な輸出制限をしないことを各国に求める共同声明を発表している。
日本は「影響限定的」
世界中で穀類在庫が減り、食料価格が高騰した2008年と比べ、潤沢な供給力があり、FAOなど国際機関は大きな混乱は避けられていると判断する。農水省も「日本は、これらの国からの輸入実績は大きくない。影響は限定的だ」(食料安全保障室)とみている。
“最悪”想定を
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表の話
各国は、国内の食料安全保障を優先に、当たり前のように輸出を規制している。新型コロナウイルスのまん延が深刻化すると、その動きは一層加速するだろう。輸入国の思い通りに食料が手に入らない事態もあり得る。
政府は、こうした最悪の事態を念頭にリスク管理を強化すべきだ。対策として生産性や効率性ばかりを重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する足腰の強い日本農業の確立が急務だ。
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私は長年、東北地方を中心に800カ所ほどの農山漁村集落を訪ね歩き、その土地を生き抜いてきた人々から生産活動や日々の暮らしぶりなど、たくさんのことを学ばせてもらってきた。そこで近年、人々から聞かされることが多くなったのは「このままでは、この村、消滅するのではあるまいか」という不安の声である。
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2020年03月30日
TPP・日欧・日米 大型3協定新年度入り 4月 関税さらに下げ 乳製品は輸入枠拡大
日米貿易協定と環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が4月1日、新たな年度に入り、関税率がさらに下がる。牛肉は26%台から25・8%となり、豚肉の関税も下がる。小麦や乳製品の輸入枠は年間数量が拡大。市場開放が進む中、米国との追加交渉やTPP加盟を目指すタイなど新たな交渉の動向も焦点になる。
協定の関税や輸入枠は毎年4月に切り替わる。TPPと日欧EPAは3年目、日米貿易協定は2年目に入る。
牛肉と豚肉は、3協定加盟国からの輸入量が大部分を占める。牛肉は、関税削減ルールを踏まえて19年度は税率が異なっていたが、20年度は25・8%でそろう。TPPのセーフガード(緊急輸入制限措置、SG)の発動基準は上がる。
豚肉は、高価格帯にかける従価税が1・7%に下がる。差額関税制度では、高価格と低価格を合わせて課税額を抑える「コンビネーション輸入」が主流。1キロ当たり524円の分岐点価格に調整した場合の最小課税額は約9円。27年度には無税になる。
小麦はTPPのオーストラリア、カナダ向けと、日米協定の米国向けの輸入枠がそれぞれ拡大。マークアップ(輸入差益)も削減される。
EUが強みを持つソフト系チーズは輸入枠が600トン拡大し、枠内税率も削減。33年度には3万1000トンで、枠内税率は撤廃される。
4月以降、新たな交渉が動く可能性もある。日米貿易協定は、4月末までに追加交渉に向けた予備協議を終える方針を共同声明に示している。日米両政府は事務レベルで「複数回協議している」(茂木敏充外相)が、日程調整程度にとどまっているもようだ。
タイは、4月にTPPへの加盟方針を正式に表明する意向。8月の交渉入りの可能性がある。EUから離脱した英国との自由貿易協定(FTA)交渉が始まった場合、日欧EPAで輸入枠を設けた品目の扱いが焦点だ。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、新たな交渉が動くかは不透明だ。「終息後の各国の動きを見据えて、日本側も準備しておかなければならない」(政府関係者)との声もある。
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2020年03月30日
[新型コロナ]消費喚起、人手対策を 農家らが窮状訴え
農水省は31日、新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急経済対策の策定に向け、農家らから意見を聴取した。需要減退で価格が下落している和牛や果実、野菜の生産者らが窮状を訴えた。外国人技能実習生の入国見通しが立たない問題を受け、労働力確保に向けた支援を求める声も出た。江藤拓農相は、生産現場の支援へ「強大な対策」を講じる考えを示した。
感染拡大の情勢を踏まえ、テレビ会議方式で意見聴取した。……
2020年04月01日
国家が掲げる大義に国民があおられることの怖さを
国家が掲げる大義に国民があおられることの怖さを、米国ブッシュ政権の対テロ戦争で知った▼アフガニスタンに続いてイラクを攻めた。多くの国民が支持した。しかし政権が開戦の理由に挙げた大量破壊兵器は見つからず、一方でテロは世界に拡散した。トランプ大統領は、新型コロナ感染拡大を防ぐ取り組みを「戦争」と称し「戦時下の大統領」を自任、国民に結束を求めた▼〈旗振るな/旗振らすな/旗伏せよ/旗たため(略)/ひとみなひとり〉。作家・城山三郎の詩「旗」の一節である。忠君愛国の旗の下、志願して入った海軍での体験が基にあるのだろう。「ムードに流されず、何をすべきか自分で考えなさい」ということか▼ノーベル賞受賞者の山中伸弥京大教授が、新型コロナの情報を発信するホームページを開設した。行動の判断基準に役立ててもらう。ウイルスとの闘いを「1年は続く可能性のある長いマラソン」に例える。疲れても油断しても止まってしまうと感染が一気に広がる恐れがあり、「一人一人が、それぞれの家庭や仕事の状況に応じたペースで走り続ける必要があります」と呼び掛けている▼先は長い。何をして何をしないか。完走できるよう自分に合った走り方を考えよう。感染と強権発動を防ぎ、命も自由も守るために。
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2020年03月30日
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継続は力である。実に40年以上にわたり産地と食卓を結んできた。JA全農の月刊冊子「Apron(エプロン)」が500号の大台に達した▼500号記念の3月号のページをめくってみた。オールカラー刷で国産農畜産物の豊かな色彩が伝わる。表紙は産地紹介「ふるさと探訪」に関連した品目の花シリーズ。今回は神奈川県小田原市のかんきつ「湘南ゴールド」の華麗な白い花が飾る。果実はやや小ぶりで、色はレモンに近く美しい。今は露地物が食べ頃▼タイトルの「エプロン」は食卓をイメージした。発行部数は36万部で、B6判と小さめなのは女性のバッグに手軽に入れられる配慮から。毎月、JA直売所やAコープ店舗などに無料で配る。スマホで「全農エプロン」と検索すれば、3年分のバックナンバーを読める▼生産者の笑顔を届け、日本農業のファンを一人でも増やしたい。そんな思いがこもる。実用記事が多いのも人気の理由だろう。読者からの応募料理「わが家の味」は実際のレシピを基にプロが再現した写真を掲載する。イラスト入り家庭菜園欄も目玉企画の一つ▼昨年からは新企画で食と農をテーマに作家のリレーエッセーも始めた。500号は直木賞作家の浅田次郎さん。「お米、大好き!」の表題は農家への“応援歌”に違いない。
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2020年04月02日
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各国は、国内の食料安全保障を優先に、当たり前のように輸出を規制している。新型コロナウイルスのまん延が深刻化すると、その動きは一層加速するだろう。輸入国の思い通りに食料が手に入らない事態もあり得る。
政府は、こうした最悪の事態を念頭にリスク管理を強化すべきだ。対策として生産性や効率性ばかりを重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する足腰の強い日本農業の確立が急務だ。
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2020年04月01日
[新型コロナ] 「米の在庫十分」業界は冷静な対応呼び掛け 東京都の外出自粛要請で
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、東京都が週末の外出自粛要請をしたことで、スーパーや米穀店で米を買いだめする動きが起きている。米業界は26日、消費者に冷静な対応の呼び掛けを一斉に展開した。一方で、米の供給を途切らせないように出荷態勢を整え、一時的な品薄による混乱の沈静化に動く。
全農パールライスや米卸の団体・全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)が26日、「国産米の供給力は十分」として冷静な購買行動を呼び掛けるメッセージをホームページに掲載した。「一時的に購入が集中し購入しにくくなっているが、物流が整い次第届く」と説明。精米してから時間がたてば食味に影響するため、大量購入を避けるように求めた。JA全農は同日、原料玄米を途切れることなく卸などへ迅速に供給するよう、各県本部や経済連に要請した。
大手米卸は、買いだめの発生を受けてスーパーなどからの注文が増え、精米生産の効率を高めるため「あきたこまち」など銘柄数を絞って生産する対応も取っている。
別の大手卸も、精米工場はフル稼働状態で「物流が追いつかなくなる懸念はあるが、精米生産は問題ない」と話す。
米穀店の山田屋本店(東京都調布市)は「通常の2、3倍の売り上げになっている」と話す。ただ、会社の倉庫には在庫が潤沢にあり、品薄となる店頭に27日には精米商品を補充できるとみる。
パックご飯の大手メーカー・テーブルマークは「例年を超える注文量を受けており、できる限り生産能力を上げて対応している」とする。買いだめに限らず、休校などにより家庭での消費が増え「元々伸びている市場が、新型コロナウイルスの影響で大きく伸びた」という。
米穀機構の調査によると、2月の家庭消費量は1人当たり3234グラムで前年同月から2%増えた。家庭内在庫量は6・3キロで前月から横ばい。過去5年は1月から2月にかけて在庫量が減る傾向にあったが、今年は横ばいとなっている。
3月は家庭向けの販売がさらに伸びるとの見方があるが、その反動や、業務筋の販売不振など、先行きに不透明感が出ている。
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2020年03月27日
[新型コロナ] 和牛消費へ商品券 経済対策自民が検討
自民党が検討している新型コロナウイルスの感染拡大に伴う農業分野の経済対策の骨格が24日、判明した。和牛などの需要を喚起するため、購入を促す商品券を発行。肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の負担金免除、花きの次期作支援、人手不足解消に向けたスマート農業の推進などを盛り込む方向だ。
党農林幹部での調整を経て、農林部会が26日にも取りまとめる。その後、同党全体で対策を集約し、政府に提言する。これを見据え、安倍晋三首相は27日に予定される2020年度予算案成立後、経済対策の財源となる補正予算案の編成をただちに指示する見通しだ。
インバウンド(訪日外国人)の減少や外食の自粛で、和牛の需要は激減。牛肉など品目を限った商品券で効果的に消費を促したい考えだ。ただ、党内には他の分野でも商品券の発行を求める意見があり、調整が難航する可能性もある。
牛マルキンの負担金免除は、肉牛農家の資金繰りを支援するもの。卒業式などの中止で需要が激減した花きは、次期作の支援、公共施設を活用したPRなども進める。
出入国規制で外国人技能実習生の受け入れの見通しが立たない問題については、スマート農業の推進、JAによる人員派遣などの支援策を盛り込む方針だ。
中国産のタマネギなど加工・業務用野菜の輸入減少を受け、国産への転換も推進する。皮むきなどの一次加工や花きのコールドチェーンといった生産・流通・加工の体制を整備。この他、需要が減った農畜産物の販促活動や在庫増に備えた対策なども盛り込む方針だ。
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2020年03月25日
[新型コロナ] IOC 五輪延期を検討 農業関係者は困惑
国際オリンピック委員会(IOC)は、新型コロナウイルスによる感染拡大を受け、東京五輪・パラリンピックについて延期を含めて検討すると発表した。来年以降に延期となれば、日本経済全体に痛手となるのは避けられない。産地や市場などの農業関係者からは、困惑や消費減の影響を心配する声が出た。
延期で影響が出そうなのが、インバウンド(訪日外国人)特需だ。経済損失は3兆円以上との民間試算もある。
肉用牛の主力産地では、インバウンド消費に期待があっただけに不安の声が上がる。新型コロナ禍や消費税増税で販売環境が厳しい中「五輪需要が見通せなくなれば、さらに打撃になる」(JA宮崎経済連)と懸念する。JA鹿児島県経済連は「延期になれば国内消費が落ち込む他、輸出など国外消費への影響も避けられない」と指摘する。
東京五輪・パラリンピックで使うビクトリーブーケ。花材の大半を東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島産で充てる。花きによる震災復興をPRし、需要を拡大しようと生産者が活気づく中、延期・中止の情報で、産地は困惑している。
トルコギキョウの採用が決定している福島県では、五輪開催に合わせて開花するように逆算し、4カ月前に定植、調整してきた。震災を機に花きを基幹産業の一つに据える浪江町は「時期がずれると定植し直す必要がある。延期の場合は早めに日程を決めてもらわないと開催まで栽培が間に合わない」(農林水産課)と懸念する。
リンドウの採用が決まっている岩手県。JA全農いわては「延期になれば最盛期が過ぎる恐れもある」と困惑。「仏花のイメージが強いリンドウを普段使いで広める最大のチャンスとして、生産者と共に期待している。中止はもっての他だ」(園芸部)と話す。
卸の大田花きは「世界へ日本の花の魅力を示すには、規模を縮小するより、延期してでも想定通りの規模で開催してほしい」と話す。五輪期間中は道路が一部通行止めになり、産地から荷物を早めに送ってもらうなどの対策が必要になるため、開催時期を注視する。
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2020年03月24日
笑顔つなぐ 子ども食堂 活動模索 休校の今こそ 健康も居場所も
新型コロナウイルスの影響で休止せざるを得ない子ども食堂が相次ぐ中、子ども食堂の関係者や農家、飲食店が地域ぐるみで規格外野菜を活用して弁当や食事を提供する取り組みが広がってきた。子どもの居場所を確保し、子どもや家庭に寄り添う活動方法を模索している。(本田恵梨)
飲食店で弁当配布 地域ぐるみ農家が食材 大阪府枚方市
多くの子ども食堂が休止している大阪府枚方市。支援するNPO法人「ひらかた子ども食堂ファンクラブ」は運営者らと話し合い、飲食店で弁当の配布を始めた。地域で一丸となり、子どもの食を支援したいという思いだ。「子ども食堂の使命を考え、休校になった今こそ動くべきだと思った」と、同法人の大橋智洋理事長は強調する。
インターネット交流サイト(SNS)で、子ども向けに弁当を配布する企画を告知。4日間で、当初予定していた100食分が予約で埋まった。急きょ150食に増やし、不足に備えて店で食べられるカレーも用意した。大橋理事長は「子ども食堂に求められている役割の大きさを改めて実感した」と意義を感じる。
弁当を受け取った、同市で6歳、10歳、13歳の子どもを育てる40代の主婦は「休校で給食がない中で、非常にありがたい。こうした機会があると安心できる」と、ほっとした様子だ。
1ヘクタールで年間100品目以上を栽培する同市の農家、上武治己さん(71)は、規格外品のダイコン約30本とサトイモ約50キロを同法人に提供した。「余っていた農産物が役立ったことがうれしい。休校中の子どもを元気づけたい」と話す。
同市の飲食店も調理や配布で協力する。「炭火やきとり とり心」(枚方店)では歓送迎会のキャンセルが相次ぎ、売り上げが前年の半分ほどまで落ち込んでいた。こうした現状を知った地元の知人らが、店を積極的に訪れて支援するようになったという。同店を運営する「TeAmo(ティアモ)炭火やきとり とり心」の白石和也社長は「地域に助けてもらった分を返したいという思いで協力した」と明かす。
農家ら地域の人の思いが込もった飲食店での子どもへの食事提供。同法人は4月にも、他の飲食店で子どもに食事を提供する企画を行う予定だ。
学童保育を週3回 寄付の野菜お裾分けも 高松市
高松市の「かねとう子ども食堂」は、複数の農家有志の支援を受け、子ども食堂を臨時の学童保育にして、週3日運営している。これまでは週1回、金曜日の夜に子ども食堂を開いていたが、子どもの居場所確保や健康的な食事を提供しようと始めた。農家らから規格外の野菜など、多くの支援が集まっているという。
同食堂の金藤友香理代表は「野菜などの寄付がたくさんあってありがたい。ボランティアの人手不足で、寄付された野菜を仕分けするのが大変なほどだ。せっかくなので学童に来られない親にそうした野菜をプレゼントしたら、すごく喜ばれた」と農家に感謝する。親は寄付してくれる農家の気持ちに「ありがたい」と話しているという。
同食堂の他、5カ所の子ども食堂に規格外の野菜などを提供する香川県さぬき市の農家、松田勝さん(75)は「学校休校で大変な状態の子どもが増えた。もともと子ども食堂に野菜を届けてきたが、さらに増やして農家としてできることをしたい」と意気込む。
新型コロナウイルスの渦中にどの程度の子ども食堂が運営しているのかは不明だが、休止を余儀なくされる子ども食堂が相次ぐ。「高齢者が運営やボランティアをする施設も多く、感染の危険性を考えるとやむを得ない」(子ども食堂の交流を支援する滋賀県社会福祉協議会)などが主な理由だ。ただ、集まって食事をすることは休止した子ども食堂でも、弁当や食材の配布など活動の継続を模索するところは多いという。
こども食堂ネットワークの釜池雄高事務局長は「あえて開催するのも、延期・休止するのも、いずれも運営者が悩みながら出した決断。さまざまな方法で、子どもたちやその家庭のための活動を続けている子ども食堂は多くある」と指摘する。
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2020年03月24日
給食中止損失に補助 農家・直売所も対象 文科省
文部科学省は、新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた一斉休校に伴う給食停止で、給食向け食材の売り先を失った関連事業者の支援に乗り出す。キャンセルに伴う損失などに補助を出すもので、農家や直売所なども対象になる。支援に関する相談窓口を24日に開設する。
同省が2019年度予備費で、学校給食の食材納入業者の支援などを目的とした学校臨時休業対策費補助金(182億円)を計上した。窓口は、事業主体である全国学校給食会連合会の中に開設する。
同補助事業では、農家ら食品原料供給者はまず、発注元である学校や給食センター、教育委員会など学校設置者に補償内容を相談する。その相談内容を市町村で取りまとめ、補助金の申請に反映させる。
給食原料の納入や契約内容は、地域や学校によって異なる。学校設置者は、個別事例の取り扱いについて、新設される当該窓口に相談できる。
農家ら納入者側も、発注元との交渉で補償内容に不明点があった場合、問い合わせることができる。各地区の農政局に設置されたコロナウイルスに関する対策本部でも相談を受け付けている。ただ、事業が周知されていない実態もあり、農水省は「ぜひ積極的に活用してほしい」と各相談窓口の利用を呼び掛ける。
文科省は11日、農水省と連名で、各自治体の担当者に向け、学校給食関係事業者に対する補助制度や金融支援を周知するよう依頼。影響を受けた農家など原料供給者や事業者に対し、配慮することを要請していた。
相談窓口は全国学校給食会連合会、(電)03(3401)7311。
漏れ ないよう対応 農相
江藤拓農相は23日の参院予算委員会で、新型コロナウイルスに伴う学校給食の休止を巡り、影響が出た事業者や農家向けに対策は「漏れがないよう対応するのが一番大切」との考えを改めて示した。食材の調達先が多方面にわたることを踏まえ、「契約書はないが、毎年この時期に納入している農家もいる。そうした例もきちんとつかんでいく」と述べた。無所属の芳賀道也氏への答弁。
芳賀氏は、休校措置に伴い米をはじめ学校給食用の食材の行き場が失われていることを受け、政府の対応方針をただした。江藤農相は、地域の農家や青果店などが慣例として、決まった数量を学給向けに納入しているケースがあると指摘。実態を把握し、対応していく考えを示した。
生乳については、酪農家が加工原料乳に仕向けた場合の「差額を埋める」と説明。出荷先の変更に伴う広域輸送に対する補助を含めて、対策の「お金は確保してある」と述べた。一連の対応については「文科省と緊密に連携を取り漏れのないよう対応する」と強調した。
政府は2019年度予算の予備費を活用した緊急経済対策第2弾で、学校給食休止を受けた対策に212億円を計上した。
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2020年03月24日
新型コロナ感染拡大 需要喚起焦点に 自民 週内に農業版経済対策 経営、労力支援も検討
自民党は今週、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う農業分野の経済対策を取りまとめる。外出やイベントの自粛、インバウンド(訪日外国人)の減少で牛肉などの消費が低迷しており、需要喚起策が焦点となる。農産物価格の下落を受けた農家の経営支援対策、外国人技能実習生に代わる人手の確保策なども盛り込みたい方向で検討している。
同党は先週、畜産・酪農や野菜・果樹、食品産業や農産物輸出といった分野への影響を農水省や業界団体などから聴取。党農林幹部は、インバウンドや外食の需要が激減した牛肉への打撃が特に大きいとみる。3月の和牛枝肉の平均価格はA4等級で前年比25%、和牛子牛の平均価格も同16%低下している。
これを受け、同党内からは、和牛肉など国産農産物を購入する際に使えるクーポン券など、強力な需要喚起策を求める声が高まっている。政府は現金給付も検討するが、貯蓄に回るとの指摘があるためだ。給食などへの国産食材の積極利用、加工・業務用で輸入農産物から国産に切り替える場合の支援、国産への切り替えに必要な加工施設や輸出向けの施設の整備などを求める声もある。
農家の経営支援に向けては、肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)の拡充や早期支払い、融資の返済猶予などを求める声がある。
卒業式やイベントの中止で需要が落ち込む花きなどの園芸品目は、営農継続を後押しするため、種子や種苗、資材など次期策に向けた経費の助成が検討されている。
春の農繁期を控え、出入国制限で受け入れのめどが立たない外国人技能実習生に代わる人手の確保も喫緊の課題だ。政府は、在留期間の満了後も帰国が難しい実習生らが継続して日本に在留できる措置を発表。農水省は、JA職員らによる支援の実現に向けて調整している。
経済対策の規模を巡っては、同党の岸田文雄政調会長が「昨年の経済対策(事業規模26兆円)を大きく上回る経済対策を」と述べている。政府・与党は27日の見通しの2020年度予算成立後、補正予算に向けた調整に入る方針だ。
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2020年03月23日
[新型コロナ] 農水省 国産需要を喚起 動画、ロゴで応援
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う学校給食停止やイベント自粛による国産農畜産物の需要低迷を受け、農水省は17日、「国産食材モリモリキャンペーン」を始めた。著名人と協力してインターネット交流サイト(SNS)で国産農林水産物の魅力やレシピを発信。スーパーの商品にキャンペーンのロゴマークの活用を促すなど国産消費を盛り上げる。
江藤拓農相は同日の閣議後会見で、キャンペーンについて「農林水産業への理解を深めていく運動をしていきたい」と強調した。
給食や飲食店の需要が減る中、家庭需要の増加を狙い、特に子どもや子育て世代に働き掛ける。手始めに野菜をテーマにした歌で子どもに人気のお笑い芸人・小島よしおさん、料理芸人・クック井上。さんと連携。18日に東京・大手町のJAビルで料理作りを撮影、同省職員がSNSで動画を投稿する「BUZZ MAFF(バズマフ)」で月内に公開する予定だ。国産の魅力やレシピを紹介する動画も順次発信する。
野菜や果実、食肉、牛乳、花などをあしらった専用ロゴを用意。国産の消費拡大を目指す同省の「フード・アクション・ニッポン」に賛同する卸売会社や飲食店など1万1000社超に呼び掛け、マークを商品に貼って販売することなどを想定する。
同省は、給食の停止で納入予定がキャンセルとなった食品の代替販路の確保にも着手。通販サイト「うまいもんドットコム」に「食べて応援学校給食キャンペーン」のサイトを開き、在庫食品を販売できるようにした。
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2020年03月18日
[新型コロナ] 「しんどい時こそ」農、食、つながり… コロナに負けるな!
「元気」を届け 届けられ
新型コロナウイルスの渦中で社会全体が暗い雰囲気の中、“ほっこり”とする取り組みが農業や農村で広がっている。休校で家にこもりがちな小学生らのストレス解消の場として酪農教育ファームを続ける酪農家や、農家にマスクを届ける消費者、共働きの家庭と農家を救おうと格安でランチを提供する若者……。どれも、感染拡大に最大限考慮しながら、身近な誰かや地域への思いが原動力となっている。
居場所提供、子が歓声 酪農教育ファーム 東京都八王子市
3月半ば。東京都八王子市の牧場、磯沼ミルクファームに子どもたちのにぎやかな声が響く。学校が休校後は、家でテレビを見て過ごすことが多いという小学校2年生の手塚大智君(8)は、放牧地を元気いっぱいに走り回る。母の千鶴さん(41)は「とても癒やされる。体力が余っているので、こういう場所は本当にありがたい」と感謝する。
牧場では、コロナウイルスの感染拡大が問題になる中、葛藤もあった。牧場を開放し続けるのか、閉めるのか。酪農教育の場の提供を20年以上続ける中で初めての経験。学校が一斉休校になったことを受け、スタッフで話し合った。不特定の人が訪れるため、万が一でも発生してしまうリスクを心配したからだ。
悩んだ末に、アルコール消毒や手洗いを徹底することで受け入れを決めた。屋外の公園は開いていることを考慮した。磯沼正徳代表は「牧場公園で子どもが気分転換できればと思った。今こそ牛のいる空間の中で、命と向き合う酪農教育の意義がある」と考えた。
現在は、子どもだけでなく大人も牛を見に来る。平年より訪れる人が多いという。磯沼代表は「食料生産だけでなく、農業には人の心を癒やす、健康にすることも含め多面的な機能がある。こうした農業の役割は、社会がしんどい時期だからこそ多くの人に知ってほしい」と願っている。
地場産使い格安弁当 地域おこし協力隊 鹿児島県長島町
小中学校の一斉休校の影響から学校給食がなくなる中、若者が行動を起こした。
鹿児島県長島町で地域おこし協力隊として活動する甲斐友也さん(26)。町内の学校の休校に合わせて3日から弁当販売を始めた。普段、食べ物付き情報誌『食べる通信』の編集長をしながら、古民家で食堂を経営する甲斐さん。利用客には町内の母親が多い。「子どもの世話のため、起床が1時間早くなったなどの声を聞いた。少しでも力になりたいと思った」と甲斐さん。子どもに町内産の食材を食べてもらう機会でもあることから、弁当の食材は全て町内産にした。
料金は1食300円と格安に設定。1日50食を上限に販売し、10~20個の注文が入っている。
顧客がマスク70枚 トマト農家 長崎県南島原市
マスクの高額転売をする人もいれば、善意で農家にマスクを送る消費者もいる。
長崎県南島原市で、子ども4人を育てながらトマト2ヘクタールを栽培する中村みずきさん(36)は、贈られたマスクに感激している。中村さんはトマトを買ってくれる全国の消費者とインターネット交流サイト(SNS)でつながっている。そのサイトでマスク不足が話題になった。中村さんは何気なく「子どもたちがマスクがないと、スクールバスに乗れない」と嘆いた。すると、3人からマスク計70枚が届いた。そこにはメッセージが添えられていた。「おいしいトマトが食べられるのは、農家の健康があってこそだから使ってね」。胸が熱くなった。
「トマトの売買だけじゃない関係ができたのがうれしい。贈ってくれた人にも孫がいて、みんなマスクがなくて困っているのに。農業を頑張ろうと思えた」と、感謝の気持ちでいっぱいだ。
岐阜県飛騨市市役所職員 給食の牛乳消費「率先」
岐阜県飛騨市では、市の職員有志が牛乳の消費拡大に取り組む。3月の給食用に出荷を予定していた牛乳約7500リットルが行き場を失ったことや、観光客の減少などが続くためだ。有志で牛乳のまとまった購入に取り組む他、地元牛乳の消費を呼び掛ける。
市の会議で出していた茶も、今は牛乳にした。さらに「飛騨市まるごと職員食堂キャンペーン」と銘打ち、職員は飲食店での昼食や出前の注文などで外食を増やす取り組みも始めた。相次ぐイベント中止や観光客の減少、自粛ムード。同キャンペーンを中心となって呼び掛ける同市生涯学習課の吉本優さん(29)は「消費が低迷している地域経済を少しでも元気にしたい」と願う。
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2020年03月18日