【長谷川幸洋】激変するコロナ後の時代、中国共産党が恐れる「世界制覇の挫折」 そのとき日本はどうすべきか

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中国政府の「隠蔽」を追及する動き

米国で新型コロナウイルスの発生源になった中国に対する非難の声が高まっている。いずれ感染拡大が一段落すれば、対中批判は、欧州などを巻き込んで大きなうねりになる可能性が高い。そのとき、日本はどうするのか。

米国で始まったのは、まず中国に対する巨額の損害賠償を求める訴訟だ(https://www.insurancejournal.com/news/national/2020/03/26/562460.htm)。

テキサス州やネバダ州など複数の州で訴訟が提起されているが、そのうちフロリダ州では、中国政府を相手取って「当初の対応が遅すぎたために、米国民や米国企業に計り知れない危害を与えた」として弁護士が集団訴訟を起こした(https://asia.nikkei.com/Spotlight/Coronavirus/US-lawsuits-seek-to-pin-coronavirus-blame-on-China)。

原告は訴状で、中国政府は「ウイルスが危険で世界的流行を起こすのを知りながら、経済的利益のために見て見ぬふりをしたり、隠蔽した」と訴えている。

民間の訴訟だけでなく、米国議会でも中国政府の責任を問う動きが始まっている。ジョシュ・ホーリー上院議員(共和党)は民主党の下院議員らも加えて超党派で中国政府の法的責任を問い、米国だけでなく被害を受けた各国に対して賠償金支払いを求める決議案を上下両院に提出した。ホーリー議員は感染の真相を調べる国際的調査も呼びかけている(https://www.businessinsider.com/coronavirus-senator-hawley-calls-for-investigation-into-china-covid-19-2020-3)。

ジョシュ・ホーリー上院議員(Photo by gettyimages)

これらの訴訟や決議案は、いずれも中国政府が新型コロナウイルスの感染初期に重大な事実を隠蔽しただけでなく、告発した医師を摘発するなど非人道的な対応をしたことで、感染が世界中に広がり、多くの人命を損なう結果になった点を非難している。

どのくらいの損害賠償を求めるかとなると、数十億ドルから数兆ドルの数字が飛び交っているが、被害の大きさからみて、天文学的な額になるのは間違いない。とはいえ、実際に法廷、あるいは外交交渉で中国から賠償を取り立てられるか、と言えば、難しい。

高まる中国への不信感

そもそも、中国は新型コロナウイルスの発生源が中国だったことすら認めない可能性が高い。よく知られているように、中国外務省の趙立堅報道官は3月12日に「米軍が武漢にウイルスを持ち込んだのかもしれない」とツイートした。

これに対して、米国のトランプ大統領は3月16日、ツイッターで新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼んで、中国が発生源である点を強調した。ポンペオ国務長官も「武漢ウイルス」と呼んで、中国の責任転嫁を強く非難している。

大統領はその後、26日に中国の習近平国家主席と電話会談した後、ツイッターで「中国はウイルスについて十分、理解を深めている。我々は緊密に連携している」と書き込み、いったん矛を収めたかに見えた。

ところが、4月1日の会見では、中国が公表している感染者や死者数について「少なめの数字のようだ」と語り、中国への不信をにじませている。公式統計で米国の死者数が中国を上回った点について、米政府と議会では「中国の数字は信頼できない」という見方が大勢だ。

いずれにせよ、米国で感染が拡大し、死者がうなぎ上りで増えていく見通しを踏まえれば、米国内での対中非難は強まりこそすれ、弱まるのは考えにくい。

「発生源」をめぐる論争

対中批判は米国だけではない。英国の閣僚は中国共産党による情報隠蔽を批判し、ジョンソン首相に5G(第5世代移動通信システム)の構築でファーウェイの参加を認める計画を見直すよう求めている(https://www.youtube.com/watch?v=bs7PlYtIc1Q&feature=youtu.be)。

新型コロナウイルスの発生源がどこだったのか、については、いまだに確たる事実が明らかになっていない。当初、武漢の華南海鮮市場で取引されていたコウモリが発生源と疑われたが、いまでは海鮮市場説の信頼性は揺らいでいる。当の中国自身も自信がないようだ。

中国政府系機関は「海鮮市場説」を事実上、否定し、最初に発見された患者も「海鮮市場に行っていない」と否定しているためだ(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2002/27/news124.html、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71394など)。むしろ説得力があるのは、武漢にある2つの研究所からウイルスが漏れたという「研究所からの漏出説」である。

研究所説が有力なのは、中国人研究者が論文で発表しただけでなく、その論文が直後に削除され、当の研究者も行方不明になっているためだ(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71310)。まさに「スモーキング・ガン(銃が発射された証拠)」である。論文は削除されたとはいえ、いまもネットで普通に読める(https://img-prod.tgcom24.mediaset.it/images/2020/02/16/114720192-5eb8307f-017c-4075-a697-348628da0204.pdf)。中国の論文といえども、いったん公開されたら、完全には消し去れないのだ。

中国政府は今後も、絶対に「研究所からの漏出説」を認めないだろう。認めてしまったら、膨大な賠償金支払い問題に直結し、立場が不利になる。だが、真の問題は中国が賠償金を支払うかどうか、ではない。世界的に「中国共産党に対する信頼が決定的に失われた」点である。

「コロナ後」日本がとるべき道

米国の対中強硬派は、今回の新型コロナウイルス問題が始まる前から「中国共産党こそが世界の脅威」とみて、対中批判を加速させていた。今後は法廷だけでなく、主要国首脳会議のような国際会議の場で、中国共産党の責任を追及する動きが強まるに違いない。

そうなると、日本はどうするのか。

安倍晋三政権は4月に予定されていた習近平氏の国賓来日にこだわって、来日延期が決まるまで、中国に対する入国制限を湖北省と浙江省に限っていた。中国全土に広げたのは、来日延期を発表した、まさに同じ3月5日だった。

この一事を見ても、安倍政権が中国側に遠慮し、忖度していた姿勢がうかがえる。現段階で、習氏の来日問題はあくまで延期であって、中止ではない。だが、日本で感染が拡大し、米国や欧州のように膨大な数の死者が出るようなら、習氏を国賓で迎えるのは難しくなるだろう。

Photo by gettyimages

米欧が対中批判に足並みをそろえていくとき、日本が中国にすり寄るような対応をすれば、国際的にも国内的にも、世論が怒りで沸騰するに違いないからだ。

新型コロナウイルスによって、世界は完全に変わる。感染が拡大している真っ最中に、変化の全貌を予想するのは早すぎるが、中国が世界の批判を一身に浴びるのは確実だ。まして、中国が「一帯一路」とか「中国製造2025」といった世界制覇の野望をのんきに語っていられる世界は、完全に終わった。

3月29日付の米紙ニューヨーク・タイムズは「コロナウイルスは眠れる巨人の目を覚ませた~中国の若者たちだ」と題する記事を掲載した(https://www.nytimes.com/2020/03/28/world/asia/coronavirus-china-youth.html?searchResultPosition=3)。中国の若者たちが「経済的繁栄と引き換えに容認してきた中国共産党支配に疑問を抱き始めた」という内容である。

いま本当にウイルスの脅威に震えているのは、習近平氏が率いる中国共産党なのだ。