「ドリフはきつい」痛感…でも鍛えられた
放送作家・海老原靖芳さん聞き書き連載(3)
私がコント台本を手掛けた「ドリフ大爆笑」には、アイドルがザ・ドリフターズのメンバーと絡むコーナーがありました。その一つを紹介します。
いかりや長介さんが実直なサラリーマン役。そこにグレた娘の女子高生が登場します。あれは中森明菜さんだったか、松田聖子さんだったか。派手な化粧、いわゆる非行少女、スケ番です。「おやじにあたいの気持ちなんか、分かるかよ」と話す言葉もオラオラ口調。
どうしたらこの非行が直るだろうか。手を焼いた父親の長さんは思案します。結論は、子どもと同じ気持ちになることでした。
現れたのはセーラー服姿の長さん。ど派手なメークもバッチリ。例のだみ声で「行ってくるわよ」と出社するっていうオチでした。
リハーサルのときは「エビちゃん(私)、こんなことできねえよ。オレ、何歳だと思う。50だよ。ご、じゅ、う」と長さんに言われました。でも本番でやってくれたのです。
番組を終えて長さん、ぼそっと「考えたら、これ面白いな」って。どうすればお茶の間が喜ぶかを知っていた方だったと思います。ど派手メークのセーラー服姿で感謝され、噴き出しそうでしたが。
ドリフの5人全員がコント台本に納得するわけではありません。加藤茶さんと志村けんさんはお笑いの志向が似ていて、長さんは少し違っていました。その調整が大変。個別に話しながら納得してもらいますが、歯向かえない雰囲気の長さんに意見して、場を凍らせたこともあります。これは別の機会に話しましょう。
「ドリフ大爆笑」の台本は本番まで4、5回は書き直し。「ドリフはきつい」って業界の先輩に言われたことがよく分かりました。
長さんはやがてお笑いから役者へとシフトし、「踊る大捜査線」などで活躍しました。15年前に他界。生前、長さんが故郷静岡で講演する機会がありました。「エビちゃん、ネタ作ってよ」って依頼を受け、全員集合のオープニングのセリフ「おいーす」で始めてみてはとアドバイスしました。「次、いってみよう」のセリフも交えて。その通りに進めてくれました。
番組もこんなふうにオッケーを出してくれたら良かったのに。厳しい人だったなあ。鍛えられました。
ドリフとの思い出はちょっと横に置き、次回は佐世保に生まれた自称紅顔の美少年(笑)の話をします。
次、いってみよう!
(聞き手は西日本新聞・山上武雄)
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海老原靖芳(えびはら・やすよし) 1953年1月生まれ。「ドリフ大爆笑」や「風雲たけし城」「コメディーお江戸でござる」など人気お笑いテレビ番組のコント台本を書いてきた放送作家。現在は故郷の長崎県佐世保市に戻り、子どもたちに落語を教える。
※記事・写真は2019年06月19日時点のものです