大ヒット漫画『ゴールデンカムイ』監修者が「アイヌ文化」を徹底解説

ゼロからわかる「カムイ」とは?
中川 裕 プロフィール

カムイは現代社会でも生きる

よく、アイヌは「自然との共生」を目指してきた人たちだというような言い方がされますが、私はそれはどうかなあと思っています。だとしたら、自然を離れた都会のまっただ中ではアイヌの世界観が実現できないのでしょうか?

そんなことはありません。先ほど言ったように、テレビやパソコンだってカムイであるはずで、カムイとひとつの社会を築いていくというのがアイヌの考え方だったのですから、現代社会の中でそれが生かされないはずはありません。

あらゆる道具は、その道具の機嫌を損なわないように大事に使って、もう使えなくなったら感謝の気持ちを込めて、それをしかるべく処分する。食べ物の大部分は他の生物の命の賜物なので、その動物たち、さらには自分に代わってその動物たちを食べられる形にしてくれた人たちに感謝する。

食料品を無駄に買い込んで、冷蔵庫の中で腐らせたりしない。水を出しっぱなしにする、洗剤を大量に使う、油をそのまま流しに流す――こういった行為はみな、水のカムイを怒らせる行為なのでやめる。このように、私たちが日常生活の中で自然に行っていることは、人間とカムイとの共存ということからすべて導き出されます。

アイヌの伝統的な世界観は、すでに失われた過去の遺物ではありません。現代の生活の中で十分に生かされる――というより、現代人にとって、とても必要で重要な考え方なのです。

 

ここまで「カムイ」というキーワードについて簡単に説明をしてきましたが、より詳しい解説を読んでみたいという方、あるいはアイヌ文化についてもっと知りたいという方は、ぜひ拙著『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)をお読みください。

※黄色に色を付けた箇所は小文字(アイヌ語固有の表記法)