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 新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済に未曽有の打撃を与え始めた。急速で大幅な需要の減少に加え、防疫のために人為的に経済活動を抑えねばならないという、前例のない厳しい局面だ。政策当局は予断を持たずに迅速に状況判断し、国民に発信するとともに、適切な対応策を講ずる必要がある。

 きのう発表された日本銀行の全国企業短期経済観測調査では、大企業・製造業の業況判断指数が7年ぶりにマイナスに転じた。中小や非製造業の業況感も悪化している。先行きもさらに落ち込む見通しだ。

 雇用の指標も弱含んでいる。有効求人倍率が低下し、情勢判断から「改善」が削られた。

 しかも、これらの指標は足元での内外の急速な感染拡大をほとんど織り込んでいない。3月中下旬以降、欧米では外出や移動の制限が強化され、国内でも東京都の外出自粛要請といった動きが広がっている。こうした事態がいつまで続くか見通すことは難しく、経済への影響は一段と深刻になる可能性もある。

 政府も、3月の月例経済報告で、6年9カ月ぶりに基調判断から「回復」の文言を取り除いた。「新型コロナウイルス感染症の影響により、足下で大幅に下押しされており、厳しい状況にある」としている。

 景気の山は18年秋ごろとの見方が多く、「戦後最長の景気回復」は幻に終わりそうだ。昨年初めから景気悪化を示すデータが相次いでいたにもかかわらず、政府は「回復」の表現にこだわり続けた。現下の困難な情勢に対応するためにも、判断の遅れを繰り返してはならない。

 過去7年間、雇用環境の改善が日本経済を支えてきた。しかし、依然、非正規など脆弱(ぜいじゃく)な部分も残っている。雇用減→所得減→消費減→雇用減の悪循環が起きれば、新型コロナによるショックが、さらに増幅されかねない。休業補償や働き手の所得補償を徹底する必要がある。ウイルス禍の収束後に景気を回復させるためにも、経済の基盤を壊してはならない。

 一方で、いまの需要減には、感染拡大防止策の結果という側面もある。通常の景気後退時にとられるような需要喚起策は、必ずしも適切ではない。医療分野への支出の十分な拡大に加え、リモートワークの環境整備といったデジタル化の促進など、防疫と相反しない策を重点的に検討すべきだ。

 今後、感染拡大に歯止めがかからなければ、生産や流通が大きく制約されることもありうる。いろいろなケースを想定し、万一にも必需品に供給不足が生じることがないよう、目配りが欠かせない。

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