グループ外の集団の人々にも当然、個々にさまざまな違いがあり、その人の歴史や独自の考えもあるわけで、本来はその一人一人に対して丁寧に判断をしていく必要がある。しかし、このバイアスが働くと、手間をかけずに一刀両断できるのである。
「○○人とはそういうものだ」、「男性(あるいは女性)はだいたいそんな感じだ」などと、決めつけてしまうときには、気を付けた方がよいだろう。

◆ネット社会は確証バイアスを増長させる

 SNSでは似たもの同士でつながることが多く、自分と同じような思考をするグループから、自分が欲している情報だけを取り入れ、受け取るようになる。日々それを繰り返しているといつのまにか、自分は正しい、自分の主張こそが正義だ、これが世の中の真実だと考えるように仕向けられてしまう。この現象を確証バイアスという。

 インターネットの世界でのビジネスとは単純化すれば、広告媒体としてネットユーザーたちにいかに「クリックしてもらうか」である。そのために個々の検索の傾向を収集し、それに合わせて関心のありそうな情報や広告を提供する。ユーザー本人としては、毎日ネットの世界と接し、新しい情報を補給しているつもりが、しばしば自分の嗜好をもとに構成された、自分好みの偏った情報が示されているだけになってしまうのだ。

 私たちがネットで新しい知識を得た、新しいニュースを知った、と思っていても、実はそれはフィルターにかけられた情報ばかりで、自分の世界は非常に限定的であるかもしれないということを、意識する必要があるだろう。

◆「なぜ、許せないのか?」を客観的に考える

 まずは、自分が正義中毒状態になってしまっているのかどうかを、自分自身で把握できるようになることがとても重要だ。「このテレビ番組は馬鹿ばかしい」「○○党は許せない」「最近の若い連中はなっていない」などといった怒りの感情が湧いたときは、その感情を増幅させてしまう前にひと呼吸置いて、「自分は今、中毒症状が強くなっているな」と判断するようにする。
 どんなときに「許せない!」と思ってしまうのかが自身で認識できるようになれば、自分を客観視して正義中毒を抑制することができるようになる。

◆ネットで知的偏食を防ぐには

 個人の嗜好や考え方は「どんなキーワードを検索したか」「どんなニュースをクリックしたか」によって、かなりの確度で把握されており、そのデータはターゲティング広告の素材としても使われている。個々に好みやすい情報ばかりが表示されるため、仮想的な閉鎖環境にいるのと同様の状態に置かれたようになって、自分の嗜好とは異なる意見や情報に接する機会が減ってしまい、他者への共感や理解がますますしにくくなってしまうのだ。

 そんなときは、あえて興味も関心もないキーワードを検索してみたり、普段は見ないようなニュースや記事を積極的に閲覧してみることをおすすめしたい。自分の属性とは離れた人の考え方、悩み、関心事などを検索することで、ネット企業のおすすめとは全く関係ない情報にあえて触れていくわけである。これによって知的偏食も防ぐことができ、場合によっては思わぬ新しい世界や知識を得られ、有益な思考パターンが学習できることもあるだろう。

 脳に備わっている「正義中毒」という仕組みは、ネットの普及とネットへの依存により、さらに顕在化してきている。しかし、ネットは結局ツールに過ぎない。知的偏食を一層加速させ、「正義中毒」に溺れてしまうのか、その予防に使うのか、閲覧者の意識のありよう次第で変わってくると言えるだろう。

【中野信子氏 プロフィール】
東京大学工学部卒、同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年、フランス国立研究所にて博士研究員として勤務。2010年に帰国後は、執筆・テレビ出演などで活躍、著書多数。近著は『毒親: 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』『人は、なぜ他人を許せないのか?』など

<文/日刊SPA!取材班>