不倫叩き、不謹慎狩り…他人を許せない“正義中毒”を、中野信子氏が斬る
あなたは、どんなときに他人を「許せない」と思うだろうか。
「恋人や配偶者の浮気」「上司からのパワハラやセクハラ」「信頼していた仲間の裏切り」…。ここで生じる「許せない」感情は、自分や自分の近しい人が何らかの被害を受けたことに対する憤りであり、強い怒りが湧くのは当然だろう。
しかし近年、有名人の不倫スキャンダルやアルバイト店員の不適切動画の投稿、不謹慎だとみなされる行動など、自分とは関係のない人物・事象に対して「許せない」感情が集中するという現象が数多く見られるようになった。
◆不倫叩き、不謹慎狩り…「正義中毒」におちいった私たち
自分や自分の身近な人が直接不利益を受けたわけではなく、当事者と関係があるわけでもないのに、強い怒りや憎しみの感情が湧き、相手に非常に攻撃的な言葉を浴びせ、完膚なきまでに叩きのめさずにはいられなくなってしまう――。これは、なぜなのだろうか。
脳科学者の中野信子氏によれば、「我々は誰しも、このような状態にいとも簡単に陥ってしまう性質を持っている」という。
「人の脳は、裏切り者や、社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。他人に『正義の制裁』を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。この快楽にはまってしまうと簡単には抜け出せなくなってしまい、罰する対象を常に探し求め、決して人を許せないようになるのです」(中野氏)
こうした状態を、中野氏は正義に溺れてしまった中毒状態、いわば「正義中毒」と呼んでいる。この認知構造は、依存症とほとんど同じなのだという。
自分には何の被害もないのに、タレントの不倫スキャンダルを叩きたくなったり、不適切な動画の投稿などに対して、対象者が一般人であっても、本人やその家族の個人情報までインターネット上にさらしてしまうなどの「許せない」感情の暴走は、この脳の構造が引き起こしているのである。
「こうした炎上騒ぎを醒めた目で見ている方も多いと思います。しかし、正義中毒が脳に備わっている仕組みである以上、誰しもが陥ってしまう可能性があるのです。もちろん、私自身も同様に、気を付ける必要があると思っています」(同)
◆ネットで加速する正義中毒から抜け出す手はあるのか?
このように、誰もが無関係とはいえない「正義中毒」。しかし、他人を糾弾することで一時の快感を得られたとしても、日々誰かの言動にイライラし、許せないという怒りを感じながら生活をしていくのは苦しいものである。
「人を『許せない』という感情の発露には、脳の仕組みが大きく関わっています。許せない自分を理解し、人をより許せるようになるためには、脳の仕組みを知っておくことが有用なのは確かです」(同)
ここでは、中野氏の近著『人は、なぜ他人を許せないのか?』をもとに、「正義中毒」から抜け出し、人を許せるようになるためのヒントを探りたい(以下は、中野氏による解説)。
◆バイアス(偏見)は脳の手抜き
人間は誰でも、どんなに気を付けていても、集団を形成している仲間を、その他の人より良いと感じる内集団バイアスを持つものである。するとグループ外の集団に対しては、バカなどというレッテルを簡単に貼り付けてしまうのだ。ある集団にとって、グループ外の人々をあれこれ細かいことを考えず一元的に処理できるというのは、脳がかける労力という観点からは、コストパフォーマンスが高い行為といえる。「あの人たちはああだから放っておけ」とひと括りにしてしまうことで、余計な思考や時間のリソースを使わずに簡単に処理することができるわけである。
「恋人や配偶者の浮気」「上司からのパワハラやセクハラ」「信頼していた仲間の裏切り」…。ここで生じる「許せない」感情は、自分や自分の近しい人が何らかの被害を受けたことに対する憤りであり、強い怒りが湧くのは当然だろう。
しかし近年、有名人の不倫スキャンダルやアルバイト店員の不適切動画の投稿、不謹慎だとみなされる行動など、自分とは関係のない人物・事象に対して「許せない」感情が集中するという現象が数多く見られるようになった。
◆不倫叩き、不謹慎狩り…「正義中毒」におちいった私たち
自分や自分の身近な人が直接不利益を受けたわけではなく、当事者と関係があるわけでもないのに、強い怒りや憎しみの感情が湧き、相手に非常に攻撃的な言葉を浴びせ、完膚なきまでに叩きのめさずにはいられなくなってしまう――。これは、なぜなのだろうか。
脳科学者の中野信子氏によれば、「我々は誰しも、このような状態にいとも簡単に陥ってしまう性質を持っている」という。
「人の脳は、裏切り者や、社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。他人に『正義の制裁』を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。この快楽にはまってしまうと簡単には抜け出せなくなってしまい、罰する対象を常に探し求め、決して人を許せないようになるのです」(中野氏)
こうした状態を、中野氏は正義に溺れてしまった中毒状態、いわば「正義中毒」と呼んでいる。この認知構造は、依存症とほとんど同じなのだという。
自分には何の被害もないのに、タレントの不倫スキャンダルを叩きたくなったり、不適切な動画の投稿などに対して、対象者が一般人であっても、本人やその家族の個人情報までインターネット上にさらしてしまうなどの「許せない」感情の暴走は、この脳の構造が引き起こしているのである。
「こうした炎上騒ぎを醒めた目で見ている方も多いと思います。しかし、正義中毒が脳に備わっている仕組みである以上、誰しもが陥ってしまう可能性があるのです。もちろん、私自身も同様に、気を付ける必要があると思っています」(同)
◆ネットで加速する正義中毒から抜け出す手はあるのか?
このように、誰もが無関係とはいえない「正義中毒」。しかし、他人を糾弾することで一時の快感を得られたとしても、日々誰かの言動にイライラし、許せないという怒りを感じながら生活をしていくのは苦しいものである。
「人を『許せない』という感情の発露には、脳の仕組みが大きく関わっています。許せない自分を理解し、人をより許せるようになるためには、脳の仕組みを知っておくことが有用なのは確かです」(同)
ここでは、中野氏の近著『人は、なぜ他人を許せないのか?』をもとに、「正義中毒」から抜け出し、人を許せるようになるためのヒントを探りたい(以下は、中野氏による解説)。
◆バイアス(偏見)は脳の手抜き
人間は誰でも、どんなに気を付けていても、集団を形成している仲間を、その他の人より良いと感じる内集団バイアスを持つものである。するとグループ外の集団に対しては、バカなどというレッテルを簡単に貼り付けてしまうのだ。ある集団にとって、グループ外の人々をあれこれ細かいことを考えず一元的に処理できるというのは、脳がかける労力という観点からは、コストパフォーマンスが高い行為といえる。「あの人たちはああだから放っておけ」とひと括りにしてしまうことで、余計な思考や時間のリソースを使わずに簡単に処理することができるわけである。