遠くからパソコンをスパイできる『テンペスト』技術

米国政府のスパイは、君のメールを読まなくたって君のことを調べられる。新たに公開された元機密文書によると、彼らはパソコンから出る電磁波を読み取ることができると言う。

Declan McCullagh 1999年10月28日

ワシントン発――オンライン上のプライバシー流出を心配する人々は大勢いるが、自分がコンピューターに入力している内容を、その場で――隣の部屋から、または通りの向こう側から――誰かが盗み見しているかもしれない、と考える人はまずいない。

ところが、米国家安全保障局(NSA)が新たに公開した文書によると、政府のスパイにはそんなことが少なくとも10年前から可能だったらしい。スパイ機関はこの概念を『テンペスト』(TEMPEST)と称していた。これは、すべてのコンピューターが発する電磁信号を傍受して解読するための技術につけられたコードネームだ。

スパイたちはテンペスト技術のことを1960年代にはすでに知っていた――なかには、コンピューターを保護する方法の特許を取得した者さえいる。しかし、その詳細のうち、機密扱いにされていない情報は比較的まれだ。

こんな状況を全面的に変えたいと望んでいるのは、ジョン・ヤング氏(英文記事)。彼は、情報自由法に基づく要求によりNSAから得たテンペスト文書の内容を、今週自分のウェブサイトで公開した。

「テンペストを使ってスパイ行為が行われているのを、世間は知らないのだ」と、元建築家で暗号関連文書を収集しているヤング氏は言う。「防衛産業がテンペスト技術を手にしていることは公開されていない。かなり慎重に保護されている」

英国の研究者、ロス・アンダーソン氏とマーカス・クーン氏の行なった研究は、機密扱いにされていない数少ないものの1つだ。2人は、離れたところにあるコンピューター・ディスプレーの画面をキャプチャーしてくることは可能であると明らかにした。政府仕様の防護システムではこれを防ぐようになっているが、民間でこれを行なうのは高くつく上に、供給されているシステムも限られている。

ヤング氏がNSAから提供を受けた184ページに及ぶ文書は、技術標準と専門用語ばかりだった。ここからヤング氏が発見した最も興味深いものは何だったのだろうか?

「彼らは、有線の傍受を行なわずに遠隔監視することができる」とヤング氏は述べた。「これが、書かれていた中で最も決定的なことだった」

約半数のページが太い黒線で塗りつぶされており、ほとんどすべての重要な数字――信号強度、最大データ帯域幅、周波数――には手が加えられていた。「国家の安全保障」という理由から、ヤング氏が要求した24の文書のうち、NSAが公開したのはたった2つだ。

そのうちの1つ、『信号危険漏出試験必要条件、電磁気学』(Compromising Emanations Laboratory Test Requirements, Electromagnetics)を作成したのは、NSAの通信・情報システム安全保障グループだ。同文書には、コンピューターからの放射される電磁波を測定する試験手順が記されている。電波を使う測定法と、コンピューターに繋がれた電話線やシリアルケーブル、ネットワークケーブル、電源ケーブルを使う測定法の両方の手順が記されている。

このマニュアルには、「本文書のレベル1制限を満たす機器は、許容できる範囲で機器単体で伝導・放射テンペスト・セキュリティーを満たしている。本文書のレベル2、レベル3制限を満たす機器は、適切に保護された環境に設置された場合に、許容できる範囲で機器からの放射によるテンペスト・セキュリティーを満たしている」とある。

この文書が条件としているこれらの放射制限は明らかに、軍事基地や下請け業者、大使館、その他の政府機関で、コンピューターを監視から守るために使われているもののようだ。

NSAが提供した2つめの文書は、同局の『技術セキュリティー・プログラム』について記したものだ。このプログラムは電子的安全性を査定し、「技術的安全設備対策」を提供するためのもの。

このプログラムでは、NSAとその下請け業者のための安全基準を設定し、必要な研修を考案し、さらに同局の専門技術の「米国防総省の他の部局や、米国の他の政府部局への」の貸し出しも行なう。

電子フロンティア財団の共同設立者であるジョン・ギルモア氏によると、NSAに残りの22の文書も提出させるには訴訟が必要になるだろうと言う。「NSAは例によって、とことん時間をかけるという戦術に出ている。これは法律に違反する行為であり、法律に従わせるためには市民が訴訟を起こさなければならない」

ヤング氏は、NSAが機密扱いに分類するのが「ふさわしい」とする文書に対して、異議があるとする訴えをNSAに送った。「これらの文書は、公開することによって国家の安全保障に深刻な損害を引き起こすことが十分に予想されるため、機密扱いにされている」というのがNSAの言い分だ。

スパイ部局はテンペスト技術をしょっちゅう使っているが、刑事訴追においてそれを証拠として扱うことについてはおそらく法律による規制が行われるだろう、とプライバシー専門家は言う。

「これを用いるには相当の根拠に基づいた裁判所命令が必要となるだろうが、扱っている内容が非常に似ているという理由から、裁判所はおそらく電話盗聴法に従うことを求めるだろう」と、『エレクトロニック・プライバシー・ペーパーズ』の共著者、デーブ・バニサー氏は言う。

一方、NSAにだってユーモアのセンスはある。文書の1つには、今まで公開されていなかった新しいコードネーム、『ティーポット』(TEAPOT)が記載されているのだ。[英語にa tempest in a teapot(=空騒ぎ)という言い回しがある]

「ティーポット」とは、「通信や自動情報システム機器からの故意の信号危険漏出(敵意を持って誘導または誘発したもの)に対する捜査、研究、管理を指す略称」とされていた。

[日本語版:中嶋瑞穂/岩坂 彰]

WIRED NEWS 原文(English)

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ハイテク株がダウ平均の銘柄入り

103年の歴史を誇るダウ・ジョーンズ工業平均株価指数だが、開設当初の12銘柄のうち今日もリストに残っている企業はたったの1社にすぎない。これはダウ指数が、イメージほど古臭いわけではないことを示す数字だ。


ロイター 1999年10月28日

ニューヨーク発──ダウ・ジョーンズ平均株価(工業株30種平均)を構成する30の銘柄は、かつての石炭、牧畜、重工業から、現代的な電子機器やマイクロチップへと、産業界の大きな移り変わりを反映している。

1896年5月26日に始まり、103年の歴史を誇るダウ工業平均株価指数だが、開始当時のリストにあった12銘柄のうち、現在もリストに残っているのはゼネラル・エレクトリック社1社のみだ。しかしそのゼネラル・エレクトリック社でさえ、指数が微調整されるなかで、過去に何度かリストから消されてはまた復活するという経緯をたどっている。

米ダウ・ジョーンズ社は26日(米国時間)、新たなリストの入れ替えを発表した。全30銘柄のうち1社を合併のために抹消し、さらにもう3社が削られることになった。1997年にも、4社を新しくリストに加えるために同様の調整が行われている。

「最大のニュースは、ダウ・ケミカル社が加えられなかったことだ」と語るのは、ストーバル/トゥウェンティ・ファースト・アドバイザーズ社のロバート・ストーバル氏。ダウ・ケミカル社は、ダウ平均の30銘柄に名を連ねているユニオン・カーバイド社をまもなく買収する予定なのだ。買収は来年初頭に完了すると見られている。

しかし、ダウ・ジョーンズ社が所有する『ウォールストリート・ジャーナル』紙の編集者たちは、ユニオン・カーバイド社の代わりにダウ・ケミカル社を採用しなかった。そして、新たに加える4社をマイクロソフト社、インテル社、SBCコミュニケーションズ社、ホーム・デポ社と決めた。11月1日付けで抹消されるのは、ユニオン・カーバイド社のほか、シアーズ・ローバック社、グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー社、シェブロン社の3社。

「ウォールストリート・ジャーナル紙の編集者たちには拍手が送られるべきだ」と、AGエドワーズ&サンズ社の市場戦略主任、アル・ゴールドマン氏は語った。「これでダウは米国経済のよりよい指標となり、テクノロジーおよびサービス産業の高まりつつある重要性をさらに強調するものとなるだろう」

1980年代半ば以降、30銘柄のうちおよそ半分近くが新しい企業に入れ替わっているダウ平均は、今や平均株価の終値が初めて1000ドルを超えた1972年の時点とはまるで別の指標となっている。

しかしアナリストたちによると、世界でもっとも注目されている株価指数であるダウが、経済界全体で起こっている変化を反映するものであるためにはこうした入れ替えは必要なものだという。

「これでダウは現代に追いついた」。今回の入れ替えについて、ストーバル氏はこう語る。「もうダウを古臭いなどとは言えない」

ゴールドマン氏は、今回の入れ替えの結果、ダウ指数は今後より流動的になるだろうと言う。そのため同氏は、ダウの今年末の終値が1万1300ドルから1万1500ドルの範囲になるだろうと予想を引き上げた。

ゴールドマン氏は、流動的といっても上向きばかりではないと念を押しながらも、このところ市場でもっとも健闘しているのはテクノロジー株だと語った。

ダウ・ジョーンズ社は1997年3月にも、数銘柄の入れ替えを行なっている。トラベラーズ・グループ社、ヒューレット・パッカード(HP)社、ジョンソン・アンド・ジョンソン社、そしてウォルマート・ストア社を新たにリストに加えたのだ。代わりに削られたのが、ウェスティングハウス・エレクトリック社、テキサコ社、ベツレヘム・スティール社、ウールワース社の4社だった。ただし、トラベラーズ・グループ社は現在、同じく大手金融サービス企業のシティコープ社との合併に伴い、シティグループに取って代わられている。

1991年にはキャタピラー社、ウォルト・ディズニー社、JPモルガン社が、1985年にはマクドナルド社とフィリップ・モリス社が、それぞれリストに加えられている。

ダウ・ジョーンズ社は声明の中で、ウォールストリート・ジャーナル紙の編集者たちが、市場全般および米国工業を代表する企業を選定しようと試みた結果、今回の入れ替えに至ったと述べている。

1896年当時のリストには、アメリカン・コットン・オイル社やディスティリング&キャトル・フィーディング社、ナショナル・レッド社、テネシー・コール・アンド・アイアン社、そしてUSレザー社などの名前が見られる。

今現在、ダウのリストにかなり長くとどまっている銘柄は、インターナショナル・ペーパー社、IBM社、そしてゼネラルモーターズ社。IBM社は、一度リストからこぼれ、のちに復活した。このような企業も数社ある。

ウォールストリート・ジャーナル紙の編集者たちは、今回のリストに変更を加えるにあたり、ダウ工業株30種平均という名前から「工業」を取ってしまおうと考えはしなかったのかとの質問に対し、ダウ・ジョーンズ社の広報担当リチャード・トーフェル氏は、それはなかったと答えた。

[日本語版:高橋朋子/湯田賢司]

WIRED NEWS 原文(English)

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