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(語り)武家の棟梁である将軍 足利氏は家臣たちの権力闘争と足利家の内紛により 力を失っていた。
幕府は弱体化し争いは各地へ伝染していった。
京から40里離れた 美濃の国にも戦乱の波は押し寄せていた。
待て~!やだ もう待たない!
♪~
♪~
♪~
(藤田伝吾)敵の数 15騎は下りませぬな。
(与八)物見が伝えてきた数はもっと少なかった。 話が違う。
(伝吾)館へ戻り叔父上様に加勢を願いますか。
(明智十兵衛光秀)地の利はこちらにある。手はずどおりでよい。
(一同)はっ!
(指笛の音)(伝吾)皆 手はずどおり 隠れるのじゃ!
与八!(与八)はっ!
ここはお前のじい様が手塩にかけた田畑だ。
野盗どもには 指一本触れさせんぞ。
はっ!
♪~
(頭領)かかれ~!
(喚声)
♪~
うっ!
うわっ!
うわ~っ!
うっ! うわ~!
かかれ~!
♪~
寄るな!
おい! 貴様!
♪~
来い!
♪~
ああ~!
♪~
ううっ…!
うお~っ!
♪~
運べ~!
♪~
来るな…!
うわ~っ!
♪~
覚悟しろ!
(頭領)おい!
(銃声)
(与八)うっ!
与八!
引き揚げるぞ~!
(野盗たち)おお~っ!
(伝吾)与八! 大事ないか!?
何か…火の塊が肩に当たったような痛みが…。
何だ? これは…。
(佐助)十兵衛様!
(伝吾)野盗か?(佐助)いえ 野盗に捕らえられて連れ回されていたと申しております。やつらめ慌てて置き忘れていったものと…。そうだな?
(菊丸)はい。どこで捕らえられた?
三河の山あいで山菜を採っていたら…。近江辺りへ連れていって売り飛ばそうと申しておりました。恐ろしゅうございました。
(伝吾)いかがいたしましょう?
放してやれ。はっ。
おい。 野盗の頭が火を噴く長い筒のようなものを持っていたであろう。
あれは何だ?ああ… 鉄砲ですか。
鉄砲?
(菊丸)あの頭 ずっと自慢してました。鉄の塊を飛ばし鎧も突き破る戦道具だと。 堺でしか手に入らないものだそうです。
鉄砲…。
ありがとうございました。このご恩は忘れませぬ。
(伝吾)安心しろ~! 野盗は追い払った!
♪~
よろしうございました。我らの勝ちにございます。
我らの勝ち?
野盗どもは また来るぞ。その度に このありさまだ!
何度戦えば ここを守れる?
何度戦えば!
♪~
(明智光安)駄目だ 駄目だ!そちが殿に会うて何を申し上げるのじゃ!大事な話があればわしが じきじきに申し上げる。それが この城を預かるわしの務めじゃ。
何を申し上げたいのか言うてみよ!ですから今日 野盗と戦うてみて思うたことをいろいろと…。
いろいろとは何だ?この明智の里は 美濃の国境にあるゆえ野盗に狙われやすい。他国からも すぐ攻め込まれる。
それゆえ 殿も何かと ご配慮下さっている。
どう ご配慮下さってるんですか!我ら明智の一党だけでこの国境を守り切れるとお思いですか!?守り切るのだ!
そなたの父上は強く立派な武士であった。
それゆえ 国が乱れた折もこの城は明智のものと皆が認めたのだ。
そなたも亡き父上に負けぬよう務めを果たせ。
そういうことは…!
では 下がれ。 殿にお会いしたいなどと出過ぎたことを言うでない。
万出過ぎてロクなことはない!
あああ~っ!
♪~
(斎藤高政)おい 十兵衛!
おう。
何用で来た? 下がってよい。はっ。
うむ 今日 殿が鷹狩りに行かれると聞きここにおればお目にかかれるかと思うてな。
何だ 父上に用か。それなら 中へ入ればよかろう。
いや それが 叔父上からじきじきにお会いするのは恐れ多いと止められておる。
ここで偶然お目にかかれるのであればお許し下さるかと思うてな。
我が学びの友は 相変わらず堅物じゃのう。
まあ 中へ入れ。 わしが許す。
そうか。 お主が許すか。
実はな このところ小見の方が難しい病にかかって今日もよくないという。 それで父上の鷹狩りは やめになったのだ。
小見の方? 奥方様が?(高政)ああ。それゆえ 父上は暇を持て余しているはずだ。
(斎藤山城守利政)よいな?大ぶりでよいものは 右側じゃ。
そうでないものは 左側に置け!
♪~
おっと…。
よかろう それでよい。では 皆 下がれ。
(小姓衆たち)はっ!
(利政)高政。(高政)はっ。
常在寺の和尚が 我が家中の女たちに数珠を作ってやってくれとこの珊瑚の玉をよこしたのじゃ。一体 何個の玉があるか 当ててみよ。
(高政)ざっと 1,500~1,600ぐらいかと。
遠くの敵兵は このように見える。
お前は 必ず 敵の数を見誤り戦は苦戦する。困った若殿じゃの。
なんじも申してみよ。 いくつある?
はっ。
2,000を少々超えるかと…。
数珠ならば一連で108個20人分として 2,160個となります。
なんじの名は?
明智十兵衛と申します。
おお。
父上 お忘れなさいますな。十兵衛は小見の方の甥御。
大仙寺で私と机を並べて学んだ仲でもある。
そのころ 城へ何度も来ておりますぞ。(利政)覚えておる。四書五経を僅か2年で読み終えたと大仙寺の者が驚嘆した子であったな。お前は 7年もかかったが。
6年です!
十兵衛が 父上にお話ししたき儀があるというので連れてまいりました。
私はこれにて。
数を当てた褒美じゃ。市場へ持っていけば よい値で売れるぞ。
お願いの儀があり 参上いたしました。
本来 叔父 光安より殿にお願いいたすべきところじきじきにお願いいたす不調法平にお許し下さい。
願いの儀?
昨日 領内に野盗が襲来いたしました。今年に入って 3度目となります。
そのつど 光安殿から知らせを受けておる。
毎度 追い払うておりますが昨日は肝を冷やしました。
敵が 新しい戦道具を持っていたのです。
鉄砲という道具です。
鉄砲? 野盗が?ご存じでございますか? 鉄砲を。
南蛮のものが 堺へ持ち込まれ高い値で売り買いされてるという。
興味深い話と思うていた。その堺で手に入れたらしいのです。
長い筒で火を噴き そばにいた者の小手を射ぬき 重い傷を負わせました。
それが 戦で どれほど役立つものなのかしかとは存じませぬ。
が あのようなものが 美濃の外で作られ野盗どもが持ち歩いている。
私は 美濃の外に出たことはありませぬ。
都のことも 堺のこともこの美濃が どうあればよいのかまるで見当がつきませぬ。ただ はっきりしているのはこの先 野盗は何度でも来るということです。
そして 野盗は ほかの国々を知っている。鉄砲を知っている。
我々は それを知らないということです。
だから?
私は野盗に負けたくない。
外の国々が見てみたいのです。
堺がどういう所で鉄砲がどういうものなのかこの目で見てきたいのです。この美濃のために!
どうか 旅をさせて頂きたいのです!
旅か…。 光安殿が何と言われるかの。
叔父は よせと申しましょう。我ら明智の者は父祖伝来の領地を死守すればそれでよいほかの国のことなど殿がご存じであれば それでよいと。
旅は 金がかかるぞ。
は?光安殿は頑固者ゆえ 金は出すまい。
そなたに蓄えはあるのか?
少々は…。少々か。
そもそも 旅の許しを出してわしに何の得があるというのだ。
得… ですか?
わしは 得にならぬことはやらぬことにしておる。
得?
そなたは旅をして学ぶことがあろう。
しかし わしにはこの珊瑚ほどの値打ちもない!
何かあるか? 得になることは。
鉄砲を買うてまいります!
その大事な金をお預け下されば 必ずや殿のために鉄砲を手に入れてまいります!
殿 お待ち下され。
京には立派な医者もいてさまざまな難病を治すと聞いております。
それがどうした。奥方様がご病気と伺いました。
名医にお診せになられてはいかがでございましょう。
私が京より連れてまいります。
それでいかがでございましょう。
旅のかかり いくら欲しい?
ハッハッハッハッハ…!
ハッハッハッハッハ…!
(常)お帰りなさいませ。ただいま帰りました。
(2人)お帰りなさいませ。(牧)お帰り。何故 背を向けておるのじゃ?子どもの頃 よく母上に言われました。
悪いことをして帰ってきたらお尻から入っておいでと。
頭はたたかぬ お尻をたたくと。
フフフ… お上がりなさい。 今日はどんな悪いことをしでかしましたか?
母上に相談もせず殿に旅に出たいと申し出ました。
堺や京の都へ。
申し訳ありませぬ。
殿は…?「行ってよい」と。
いつ発ちます?一両日中に。
それは… お尻をたたかねばなりませんね。
(常)さあ わらじをお解きいたします。うん…。
お湯が沸きました。
あの… 梅干しはお詰めいたしましたが干し餅は…?
後で。はい。
そなたが旅に出ると聞いてもう 常たちは大騒ぎですよ。
何を持っていかれるのかあれも要る これも要ると言うて。
身軽でよいとお申しつけ下さい。そうは言うても長旅ゆえ。
あっという間です。 ひとつきなど。
父上も そう仰せられてよく旅立たれましたよ。
土岐様が目をかけて下さり将軍様のお呼びで都へ上がる時は 必ず 供に加えて頂き…。
我ら明智の者は土岐家の血が流れているゆえ亡き父上は 殊の外 大事にされていたと。
旅先でもそのことは忘れてはなりませんよ。
そなたは 土岐源氏の誉を身に受けているのですから。
はい。
♪~
(職人風の男)堺で刀といえばまず宗次郎の辻屋でございますな。
名だたるお大名が我も我もと太刀を注文している。
ほう 辻屋…。
♪~
広いのう…。
♪~
・ここを通りたければ1人15文 置いていけ!
1人15文だ。 15文 置いていけ!
ここを通りたければ 15文置いていけ。
先ほども支払ったというのに 何故?ほう~。
ううっ…!
15文 置いていけ。 払わぬ者は通さぬぞ!
ここを通りたければ 15文置いていけ!15文だ!
通してくれ。
や~っ!
返す。
・ほら ちゃんと歩け!
急げ!早くしろ!
さっさと歩け! ほら!
何だ? ここは!
♪~
うおっ!
遊んでいかない?いやいや…。
いいじゃないか。今日は そのような用はないんだ。
ちょっと おにいさん。ああ… いやいや…。
おっ ここだ。
お尋ね申す。 ここは宗次郎殿の辻屋とお見受けしたが相違ございませぬか?(三上)御用の向きは?
こちらに鉄砲を売っておられるかどうか伺いたいのだが…。
(三上)鉄砲…? はて…そんなもの ここで売っていたかな?
(三淵藤英)鉄砲にご興味がおありかな?
手に入れて帰りたいのです。我が主が所望しておりますので。
(三淵)御主?美濃の国の守護代斎藤山城守にございます。
(三上)ああ 成り上がりの田舎大名だな。
ハッハッハ…。(三淵)三上殿 言葉がすぎるぞ。
(宗次郎)三淵様。
おっ…!
(宗次郎)ご用意ができました。試し撃ちをなさいますか?
うむ。
ついてまいられるがよい。
はっ!
・(いななき)
♪~
(銃声)
(一同)おお~!
弓矢ならすぐに次の矢を射ることができる。
しかし これは それができん。筒を掃除し 弾を込めねば 次を撃てぬ。
私から見たら 戦には不向きだ。
宗次郎 美濃の国から来られたお方だ。
これを買いたいとお望みだ。はあ…。
美濃の守護代であり 稲葉山城城主斎藤山城守が是非 是非にと所望しております。何とぞ。
それは ありがたきお話。なれど 何分 手に入れ難き代物。
既に何件ものご注文を頂いておりますのでふたつき… あるいは みつきほどお待ち頂くことになりますが。
三淵様は将軍家じきじきのお声がかりでご用意いたしましたがそれでも ひとつき かかりました。
店主の前で申し訳ないが これは手がかかる割に 使い勝手が悪すぎる。
まあ 飾って眺めるにはよいがな。
(三上)美濃は山奥ゆえタヌキを撃つにはよいかもしれぬ。
(笑い声)
ご主君には見たとおりをお伝えすればよろしかろう。
ささ…。
♪~
(松永久秀)宗次郎。
今日 わしが来るのを知りながらなぜ あの将軍の家来どもを客に呼んだ?
この堺では商人は客を分け隔てなく扱う。
それが流儀と わしも認めてはおるが…。
あの連中は例外ぞ。それを知らぬお前でもあるまい。
このわしを怒らせて無事に生き延びた者は堺といえども一人もおらん。
間が悪いぞ 宗次郎。
お許しを…。
(松永)山城守様が鉄砲を所望と仰せられたのか。
はあ…。ああ 案ずるではない。
あの宗次郎は 己のために2~3丁は所持しておるはずだ。
それを吐き出させてやる。 フフッ…。
そうか! おお 美濃から来たのか。
わしは 美濃の国が好きだ。美濃の者も好きだ。何故か分かるか?いえ…。
斎藤山城守様の国だからだ。ハッハッハ…。
存じておろうが 山城守様のお父上は京の西ノ岡という所で油売りをしていた商人であった。 わしも何度か西ノ岡には行ったことがあるが町の者たちは 皆 褒めたたえておったぞ。
僅か二代にして美濃一国を意のままにする大身となられた山城守様は夢のようなお方じゃと。名は?は?その方の名は?
ああ… 明智十兵衛でございます。
わしは 松永久秀じゃ。
う~ん しかし鉄砲を買うとなると大金が入り用になるが持参しておるのか?
はあ。 殿からこの金を預かってまいりました。
そうか ああ ならばよい。 ハッハッハ…。後で わしが話をつけてやる。
まあ 腹を立てると腹が減るな。飯でも食うか。 ついてまいれ。
あ… いや…。(松永)いいから。 さあ さあ!
これ以上は… これ以上は…。(松永)ハッハッハッハッ!
宗次郎の店にいたのは 奉公衆と申してな将軍の側近たちだ。
わしの首を取れば鉄砲3丁分の褒美が出るそうじゃ。
この堺の町も居心地の悪い町になった。
誰がそのような褒美を出すのですか?
足利義輝という将軍じゃ。フッフッフッフ…。
今 京の都は 将軍とわしが仕えておる三好長慶様が角突き合わせて争うておる。その余波が この堺にも広がっておるのだ。
何故 争うのですか?
(松永)な… 何も知らんのじゃな お主は!
よいか? あの一派は代々続いた家柄の上にあぐらをかき領地を広げ 上前をかすめ取ってきた。力も能もない連中だ。
何べんも言うがわしは 山城守様は偉いと思う!
古くさい名ばかりの大名どもをたたき潰し力さえあれば腕一本で世を変えられることを示されたのじゃ。
見習うべきお方じゃ!それに従った美濃の国衆も偉い!
お気持ちはありがたいのですが…。ん?
美濃の国の者が全て殿に従ってるわけではありません。
うん?
殿に不満を持つ者も多いはず。
守護の土岐家とは まだいざこざがあり国は一つにまとまっていない。
それを見越して 野盗どもが国境を荒らす。
隣国も何かというと 戦の構えを見せる。
それに呼応し 裏切る国衆もいる。
今 美濃はそういう国なのです!
それだけは申し上げておきたい!う~ん。
では お主は山城守様をどう思っておるのじゃ?
どう思う?(松永)うん。
どう思うも こうも…。
正直に申し上げてああいうお方は好きにはなれん!
はあ?あの ケチくさいところが…。
ケチなのか!?何事も損得勘定をされる。
それをご自分で申され恥じるところがない!
「恥有りて且つ格る」と「論語」にはある。
つまり 恥じる心のない者はよい政はできぬというわけです。
松永さん!おおおお…。
これ まずいと思いませんか?う~ん… ああ…。
しかし… 好き嫌いで主君に仕えるわけではない。
ああ そうじゃ。それが難しい。
そうじゃ!
分かって頂けますか?分かる!松永様も?そうじゃ!
ハッハッハ…。おっ… おい おい 十兵衛!
十兵衛! 十兵衛 寝るな! 十兵衛!
(鐘の音)
うう… わしは何をして…。
あっ!
ん?
ああっ!
おお…。
おおお~! ハハハハッ!
鉄砲だ!
ハハハハ…!
お… おお…! ハハハハ!
鉄砲だ! 鉄砲だ~!
久秀様~!
おはようございます。お世話になりました。
お気を付けて。
♪~
(犬の鳴き声)
光秀が向かった京はかつて誰もが憧れる 美しき都であった。
しかし 度重なる戦や内乱で町は荒れ果て人々は住まいを追われていた。
都は 貧しい者たちの巣窟となっていたのである。
名医です 京で一番の。
(僧侶)京で一番の?はい。
(僧侶)今はご覧のとおり。 京は将軍様も近江にお逃げになるほど戦で すさんでおる。 偉い先生方も京にとどまってはおられまい。
(僧侶)その先の六角堂の近くに望月という名医がおられたはずじゃ。
が 今は どうか…。望月東庵というお方じゃ。
望月東庵。
かたじけない!
おっ!
(駒)今日は東庵先生はいません。
治療はいたしませんから お帰り下さい。
治療…? いや 治療ではない。
お願いの儀があって参った。
お借りしたお金なら返せません。先生は 今 一文無しですから。
お金? いやいやいや 私は…。昨日も別の金貸しの者が来て銭が払えないのなら薬をカタに持っていくと言い大事な人参丁香散と愛州薬を全部持っていったのです。
それじゃ 治療できないでしょ?私は 薬を預かる者として大変困っております。
私が銭の取り立て人に見えますか?
見えますか?
(せきばらい)
私は 美濃の国の城主 斎藤山城守より京の名医を美濃へお連れするよう命じられた 明智十兵衛と申す。
あっ…。美濃に重い病の方がいるのだ。
こちらにおられる先生は名医と伺いました。
是非 来て 診てもらいたいのだ。名医? 誰が そう言いました?
ん? 先ほど 通りで お坊様に。
確かに 以前はそう言われたけれど…。ん? 今は名医ではないと?
あっ 名医ですよ。 昔ほどではないと。
おっ… どこへ行かれる?(駒)質屋。
(牛蔵)蚊帳か…。夏ならいざ知らず秋も終わりとなると30文がよいところだな。30文!?
それ いくらで手に入れたと…。(牛蔵)嫌ならお帰り。
今日の米代にはなる…。
ちょっと待たれよ。
(駒)あの質屋 5年前 重い黄疸治してやったのに 恩知らずめ!
(泣き声)
美濃のご城主様は 行くといかほど見立て代を下さるのですか?
ん? まあ… それ相応にと。
相応に? 100貫ぐらい?
100貫…!?
相応にと…。ああ…。
じゃあ 先生に相談して…。一緒に来て下さい。
先生は?(駒)家にいます。
(望月東庵)よっ お~!重六じゃあ!(ウメ)アハハハ!
よし じゃあ 次は わしだぞ。
ただいま帰りました。(東庵)お~。
どうぞ。
(駒)先生!(ウメと東庵の笑い声)
(東庵)いやいや おウメちゃんがなゆうべから歯が痛いと言うそうでさっき連れてこられたのじゃ。(駒)駄目ですよ。こんな小さな子にサイコロ教えて!(東庵)いやいや鍼をうつ代わりに双六をしようと約束したのじゃ。
銭は賭けとらんよ。
おウメちゃん もう 帰ろっか?
はい! 鍼 痛くなかった。 さようなら。
はい さようなら。
どうぞ 中へ。はっ。
わしは 美濃などには行かん。はっ?
100貫だろうが 1,000貫だろうがわしは金では動かん。
いや… 私が仰せつかりましたのは…。
わしは自分を名医とも思わん。
名医なら 御所の周り将軍様の周りに わんさとおられる。第一 わしが京からいなくなると双六仲間が寂しがる。
ヘヘヘヘ…。賭けに負けて夜逃げをしたと勘ぐられるのも しゃくだからな。ハッハッハッハ…!
(駒)先生!
ご本心をおっしゃって下さい!
本当は 先生も私も 100貫が喉から手が出るほど欲しいのでしょ?
そのお金があれば 薬問屋にも銭が返せてもっといい薬草が集まるし道具も もっと新しくしてどこにも負けない治療ができる!
こちらに余裕があれば お金に困っている人でも診てあげられる。京を空けるとしても 半年かそれくらいのことじゃありませんか。そうですよね?
そうです。
わしはな…ある時 お公家や大名の脈をとるのをやめようと決めたのだ。
具合が悪いから診に来てくれと言われ多くの病人をここへ残して出かけた。
まあ 見事な広間に通されたが病人は どこにもいない。しばらく待つとそこから 中庭に連れていかれた。
そこに… 犬が一匹いた。「大事な犬ゆえ 金はいくらでも出す」。それで 申し上げた。
「犬にうつ鍼はありませぬ」。以後二度とお呼びはかかるまいと思うた。フフッ… それでよいと。
分かりました。
私の父は 私が幼き頃病で亡くなりました。
生前の父を知る者は皆 口をそろえて立派な武士であったと言われます。
その父がよく私に申していたことがあります。
大事なのは一つ。 ただ一つ。
誇りを失わぬことだと。
今のお話を伺い ふと そのことを…。
これ以上は申しませぬ。お気持ち 腑に落ちました。
私はこれで。
・逃げろ~ 逃げろ~ 火事だ~!(悲鳴)
盗賊だ!盗賊が火をつけて回ってるぞ~!
駒! 薬じゃ!
はい!
♪~
火をつけい!はっ。
(東庵)あっ!
ああ…。おい!
ああっ!
やるか!?おい 逃げるか?おう!
♪~
先生~!
あ?酒屋の娘が 火の中に取り残されている!
おウメちゃんが!?
♪~
あ…。
(ミキ)先生~!ウメが… 死んでしまう~!
(竹造)柱が…押しても引いてもビクともしない!
(駒)もう一度 行きましょう!
待て。
子どものいる所へ!はい!
お侍様!
これを…。
(竹造)ううっ… ああ… ウメ~!ウメ~!(せきこみ)
気を付けろ!(竹造)こっちです!
熱っ!
(せきこみ)
ウメ… ウメ~!
落ち着け!はい!
(せきこみ)
熱っ!
(爆発音)
うあっ!
おい! その棒をこちらに!
早う!
くっ… うりゃ~っ! ぐうっ!
どうじゃ!?もっと上げてくれ!
うう~っ! うっ!
うっ…!
うわ~! ああっ!
(ミキ)ウメ~!
(泣き声)
♪~
あっ…。ウメ… ウメ!
気を失ってます。 息はある。
駒! 気つけ薬じゃ!はい!
(ミキ)ウメ! ウメ! お母さんですよ。分かりますか?ウメ!
(せきこみ)ウメ!
ウメ ウメ!
う~ん 大したものだ…。
体のどこにも大きな異常はない。
(竹造)ああ…!
先生…!ありがとうございます!
ウメ!ウメ! ウメ よかったな。ウメ もう大丈夫だ。
(駒)麝香 牛黄 竜脳 甘松 人参 沈香 香附子。
おまじないですか?
先生から教わった気つけ薬の中身です。
全て混ぜたものをおウメちゃんに 飲ませました。
飲んだか?
先生の薬は よく効きます。きっと元気になります。
本当に みんな喜んでいます。ありがとうございました。
先生が わしの分も礼を言っておけと。
フフッ 変な人ですね。うれしいのなら 自分で言えばいいのに。
子どもの頃から ずっと一緒なのにやっぱり 変な先生だと思います。
子どもの頃から?
私 子どもの頃 先生に拾われたんです。
それから ずっと 薬のこと 教わって…。
私… 親が…戦の巻き添えで死んでしまって… 火事で。
だから さっき それを思い出して…。
おウメちゃんとおんなじだったんだって…。
私も 火事の中で親と死ぬところを助けられたんです。
常楽寺の近くにあった家で…。
3つの時です。
まだ何も分からなくて…。
でも 助け出してくれた人の大きな手だけは覚えているんです。熱くて もう駄目だと思っていたのにその大きな手が 私を抱き上げてくれて火の外へ連れていって…「もう大丈夫だ」って…。
私 ずっと泣いていたんです。
「戦は怖い 戦は怖い」って。
そうしたら その大きな手の人がこう言って慰めてくれたんです。「いつか 戦が終わる」って。「戦のない世の中になる。そういう世を作れる人がきっと出てくる。その人は麒麟を連れてくるんだ。麒麟というのは 穏やかな国にやってくる不思議な生き物だよ」って…。「それを呼べる人が 必ず現れる。麒麟がくる世の中を…。だから もう少しの辛抱だ」。
麒麟か…。
その大きな手の人は どういう方ですか?
知りません。
通りがかりの人だったって…。
私が泣きやむまで あやしてくれて引き取ってくれる人が出てきてそれで行ってしまったって後で聞きました。
立派なお武家様だったそうです。
明智様は おウメちゃんを助けた大きな手の人ですね。
私の手は そんなに大きくない。
♪~
旅をして よく分かりました。
どこにも麒麟はいない。
何かを変えなければ…誰かが…。
美濃にも 京にも… 麒麟はこない。
(東庵のせきばらい)
(東庵)おウメちゃんは 元気になりそうだ。わしの顔を見て 双六をしようと言ったぞ。(駒)よかった!
困ったものだ。
家が焼けた。
あれでは治療などできぬ。
直すには金がかかる。
いっそ 美濃にでも行くかと…。
「善は急げ」と申すからな。
美濃へ…。
帰れる。
(いななき)
そのころ尾張の織田信秀が 大軍を率いて隣国 美濃に攻め込む構えを見せていた。
♪~
国境に 急ぎ 兵を集めるよう触れを出せ。
(一同)はっ!
(利政)帰蝶。 何用じゃ?
(帰蝶)父上が戦を始めるとの噂があり馬を飛ばして帰ってまいりました。
(利政)帰ってどうしようというのだ。
御陣にお加え頂きまする。
わしは 嫁に出した娘に加勢を頼むほど落ちぶれてはおらぬわ。
父上!
明智の叔父上。あっ はい これは…。
十兵衛は息災でいますか?まだ旅から戻りませぬ。
旅?
時は 天文16年 冬間近である。
こたびは苦戦じゃ。敵の数は2万。
我が方は僅か4,000ほど。
もはや勝ちは疑いない!
全軍を集めよ! 門を開け!織田軍を追い打ちにするのじゃ!
この美濃をのみ込まんとする蝮が…。この成り上がり者!蝮…?
勝たなければ自分が討たれる。戦がある限り勝つしかない。
誰じゃ?明智十兵衛と申します。
明智…?あの成り上がり者から取り返すのじゃ!
手だては選ばずじゃ!
将軍は武家の棟梁であらせられるということです。
世を平らかに治めるお方であると。
動くな~!美濃に明智十兵衛という若い家臣がいるそうですけどお会いになりました?
この世には見てはならぬものがあるのです。
あれが父親なものか!それで満足ならそう思えばよい。
この十兵衛の嫁になりませぬか?
わしが手を貸す。
松平家の汚辱をはらすのは今ぞ!
そうだ 麒麟がくる国になる。(銃声)
明智光秀の前半生は 謎に包まれています。
かつて明智荘が広がっていた可児市。
光秀のふるさとと伝わる場所の一つです。
光秀は 明智荘を治めた 土岐明智氏の出身ではないかと伝わっています。
鎌倉時代後期に この地に土着し東美濃に 強い影響力を持った一族でした。
今は水田が広がるこの辺りに明智家の屋敷があったといい光秀はここで生まれたと語り継がれています。
明智荘を見守るようにそびえる 長山。
ここに 明智城がありました。
光秀の叔父 光安が城主を務めたといわれるこの城は自然の地形を生かした山城です。
今も 曲輪の跡と見られる遺構などが残っています。
光秀が青春時代を過ごしたと伝わる可児市。
波乱に満ちた人生がこの地から始まろうとしています。