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【元記者の心身カルテ8】 虫恐怖 背後に厳しい父

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 精神医学では、特定の物や状況を極端に恐れ、生活に支障を来す時、「○○恐怖」と診断する。有名なのが閉所恐怖や不潔恐怖だ。そこで、きょう六月四日は「虫の日」にちなんで、「虫恐怖」に悩む二十代女性の話。

 三人姉妹の真ん中で幼少時からこだわりや人見知りが強く、小学二年から不登校に。食事のカロリーが気になり、十代は摂食障害に苦しんだ。無意味と分かっていながら同じことを繰り返す「強迫行為」が続き、当院受診となった。

 診察室でいすを勧めても「誰が座ったか分からない」と立ったまま。「虫が怖くて外出できない。決死の覚悟で来た」と女性。入浴は六時間以上かけるので脱水予防の水筒二本が必需品。窓から羽虫が侵入すると繰り返し体を洗い、湿疹が悪化した。歯磨きも一時間。必然的に引きこもりが続いた。

 これほど重い恐怖症をどう治療するか。薬やカウンセリングの効果は小さかった。診察に来ない父親の存在を問い直すと、気短な仕事人間で、食事中などよくせかされていた。父親には、母親を通してゆったり接するよう頼んだ。

 それから一年半。「虫嫌いは父親が厳しく接してから」と女性本人も気付き、病状が好転。入浴は一時間半と短くなった。「父が待ってくれる。自分もまあいいかと開き直れるようになった」。笑顔が戻った。 (心療内科医・小出将則)

 

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