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金曜朝に出勤。土曜の昼に仕事を終えて家に着き、爆睡。今朝も平熱で元気。
金曜は市のお偉方やら大学の専門家やら保健所やらがやってきて3回目の会議があった。
1回目の会議の時は、医師側は院長、男性医師、猫で出席。彼らが来てくれた時は『これで助かる!』と思っていたこともあり、終始和やかなムードだった。しかしその後、当てにしていた派遣チームとやらも来ず、指定医療機関への入院は渋られ、PCRは『一応終了したので』と今後はあまり検査してくれないという方向性を示された。
2回目の会議の時は、院長、女性医師が出席。院長はあまり発言しないタイプ。女性医師は、1回目の時と伝え聞いていた内容が違うと思ったが、1回目に出席していなかったためあまり強く発言できず。大学の先生は、1回目の会議の時は『治療は抗生剤やタミフルを使います』と言ってたのが2回目には『タミフルなんて陽性患者には無駄ですよ』と発言をしれっと翻した。理事長や看護部長の抗議に対し、医監は『これ以上この話題を続ける気ですか。これ以上長引けば長引くほど私は行動に移れなくなりますが、いいんですか?』みたいなことを言ったらしい。言いくるめられたような形で終わってしまった、と女性医師が悔し気に言った。
3回目の会議。院長は欠席。男性医師、女性医師、猫が出席。
まず理事長が吠えた。『自分のところで陽性患者を診続ける限りはいつまでも外来を開けることもできない。他の病院では、陽性患者を全員指定病院に入院させることが出来たため、比較的早く終息宣言をすることが出来ている。どうしてうちの病院の患者を受け入れてくれないんだ!』
男性医師も声を荒げる。『だいたい、精神科で診れることじゃないんです!僕たちはそんなトレーニングも受けていないんです。手探り状態でやってるんです。いきなり違う科の治療をしろって言われてできますか!?』
そこで医監、得意のワードを繰り出す。『これ以上この話、続けますか?今日はせっかく専門家の先生に感染制御の話をして頂く予定なのですが…』
それが男性医師の火に油を注ぎ、ヒートアップ。『感染制御って、一番大変な時に何もしてくれず、いまさら何言ってんですか?』
理事長と男性医師の興奮により議論が紛糾したとして、医監がこの場を終わらせようとしている口ぶりを察して、猫も参戦。冷静にね。
猫が話したこと。
・感染を防ぐことには精神科特有の難しさがある。今の状況に対して患者さんの理解が得られないため、患者さん側の協力が得られない。患者さんは、マスクをしないでうろうろ動き回る、他患の部屋に入る、鼻水の付いた手で壁やテーブルをべたべた触りまくる。こんな状態では、感染を拡大しないために必要な物資やマンパワーの数が他の一般病院の比ではない。物資が足りなくなってきたため、ガウンも1回ごとの使い捨てができなくなっている。医療者が感染に遭うリスクも比較的高い。こうした状況を理解してほしい。
・病床がないということでうちの患者さんがなかなか入院させてもらえないが、そこに精神科患者への差別がないと言えるのか。
医監『その話題、まだ続けますか?』
猫『え、まだ何も回答頂いていませんが(苦笑)』
医監『差別はありません』と即答。
猫『差別がないというのなら、どういう基準のもとに指定病院へ入院させる患者を決めているのか、納得できるデータを出してください』
医監『患者さんのプライバシーがあるからできません』
猫『年齢と基礎疾患の有無だけでよいですし、どこかに公表するわけでもありません。データを提出できないんでしたらいいです。でも例えば12日にうちの80代糖尿病持ちの患者が陽性となりましたが、何日もたってCT上あきらかなコロナ肺炎像を見つけてやっと入院先を見つけてもらえました。その時はまだ県全体で陽性患者が50人に満たず、年齢的にも軽症であると思われる患者が8割、つまり重症患者は県全体で約10名ほどでしたよね。これでは病床が足りていないという説明にはなりません。実際、同じ頃に若く持病もないうちの看護師2名はすんなりと入院できています。これについてどうご説明しますか?』
医監『精神科の患者さんは、身体的な治療だけでなく精神科的な治療もしないといけないので、精神科病院で診ていただいた方が…』
猫『慢性期の精神科疾患の治療と、この感染症の治療とどちらが緊急性が高いとお考えですか?』
医監はその後だんまりを決め込んだ。笑
実際、80代糖尿病持ちの女性患者さんが陽性となった12日の県内の患者さんは、調べてみると
20代 3人
30代 2人
40代 12人
50代 6人
60代 3人
70代 6人(そのうち1人死亡)
80代 5人(そのうち2人死亡)
患者数は少ないが、それでも明らかに年齢による重症度の高さがわかる。
上記の段階で80代糖尿病持ちが入院を何日も待たされるということに精神科差別がないと言えるのか。実際この患者さんは、数日無症状・微熱状態だったが、レントゲンの両側肺の浸潤影→CTにてコロナ肺炎像を確認、専門の先生のお墨付きをもとに交渉してやっと入院させてもらえた患者さん。CTの像が示していたように、その後急激に呼吸状態が悪化し、今はICUにいるようだ。最初から差別なくすんなり早めに入院させてもらえていたらICUに入るような事態に陥らなくてすんだのではないのか。
その後は、保健所の副所長や大学の先生が会話に参加。この大学の先生、今回はうちの男性医師の迫力に押されたのか、感じよいキャラに変わっていた。笑
私は薬についても言いたかったんだけど、薬の名前を度忘れして、手帳に書き残してないか探していた。会議中にスマホ開いて検索しにくいしなぁ…しかしその私の言いたかったことを、女性医師が言ってくれた。
『マスクやガウンの支援もですが、薬を頂きたいんです。他の病院ではすでにオルベスコ(シクレソニド)を使っていることがわかりました。うちの病院の患者さんを入院させてくれないというのなら、せめて薬をうちにも下さい!』
オルベスコは入れてくれるという話になった。今になってやっと!?
オルベスコは当初、入手できないということであきらめていた。これを他の病院が使っているのがわかったのは全くの偶然だった。
よそに入院した2名の陽性患者さんがうちに戻ってくることになった。治ったからではない。二人ともまだ陰性化してないし、一人はまだ熱もある。その二人がよそでオルベスコを使っていて、知るところになった。オルベスコが入手できるのに、支給してくれないどころか知らせてもくれない。支援支援っていったい何の支援だよ!ちなみに2人が戻ってくる理由は、『暴れたから』とのこと。男性の方は、処置をしようとした看護師の手を払いのけようとしたのだとか。女性の方にいたっては、ベッドから落ちただけ。これを『暴れた』と表現する一般病院に驚きしかない。この2人の患者さんはふだん暴力をふるう患者さんではない。環境が変われば誰だって多少落ち着かなくなるだろうに。転院先でひどい扱いを受けたりしなかっただろうか。
指定病院を退院したうちの看護師によると、入院中、バイタルチェックに来る看護師にまるで汚いものに触れるようなやり方で扱われたことに傷ついたという。まして『得体のしれない』精神科の陽性患者とくれば、推して知るべし。男性患者のほうは、うちから入院するときのマスクのまま戻ってきて、マスクが薄汚れていたという。
うちの病院では、21日に陽性が確認された1人を最後に今のところ新たな陽性患者は見つかっていない。他の人たちもなんとか安定している。しかし、その最後の一人が劇症型だったようで、昨日亡くなった。21日の土曜、私は当直から解放され、帰宅した。その後、特に疑い患者でなかった男性患者が急に38度台の熱を出し、翌日PCR陽性。月曜に早々に転院していった。私は月曜から出勤したため、彼の病態を直接知ることはできなかったが、あれだけ入院受け入れが渋られるうちの患者さんがすぐに入院できたのだから、最初から急激に状態が悪くなったのだろう。うちで発症した患者さんを診ていると、よくあるパターンとして発症後あるいは陽性判明後5~7日で急激に呼吸状態が悪くなる。この時期を超えればだいたい安定してくる。ところが21日の患者さんは違った。もしこの時オルベスコがあったら、熱が出たその日のうちにあれが使えていれば…悔しくてしょうがない。
絶対に死者を出さないように…それは私にとって、患者さんの為というよりは、最初に発症した看護師のメンタルをこれ以上悪化させないようにしたいためだった。自分が感染したばっかりに、父親を感染させてしまい、亡くなった父はビニールで覆われ、直接触れることもできず…追い打ちをかけるようにバッシングがあり…。このうえ患者さんの死…。責任感の強い彼女に耐えられるだろうか。
彼女には心のケアの専門家を付けます、と言ってくれたけど、よく知らない専門家よりは、事情をよく知っている看護部長や女性医師が寄り添って、ハグして(この場合はハグもありだろう。免疫獲得しているのだし。)一緒に泣いて泣いて泣かせてあげたほうがいいと思う…と部長と女性医師に話した。
長い一日が終わって、気が付いたら夜になってて、当直室に戻ろうとすると、当直室のドアノブに、ビニール袋がかけてあった。みると…
この筆跡は、心理士のYさんだな…こんなにくれて私をブタにする気か…涙腺がふっと緩んだ。
さぁ、明日あさっては長いお休み前の最後のお勤め。48時間耐久レースだ。感染しませんように!
がんばるぞ!