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【社会】

元看護助手、再審無罪 西山さん 「潔白」に涙 逮捕から15年9ヵ月

再審判決で無罪となり、支援者らと万歳三唱して喜ぶ西山美香さん(右)=31日午後、大津地裁前で

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 逮捕から約十五年九カ月を経て、やっと手にした「真っ白な無罪」-。大津地裁で三十一日に開かれた「呼吸器事件」の再審判決で、長らく「殺人犯」の汚名を着せられてきた元看護助手の西山美香さん(40)=滋賀県彦根市=の名誉が回復された。長い苦しみから抜け出した西山さんや支援者らは、喜びに浸った。 (岡屋京佑)

 西山さんは同日朝、再審公判に向け訴えてきた「真っ白な無罪判決を」という思いを込めた白いワンピースを身に着け、桜をデザインしたネイルアートを施して入廷した。入廷前には、支援者らに「どんな判決がもらえるのか、どきどきしている。弁護団と今まで頑張ってきたので、緊張する」と打ち明けた。

 午前十時半に始まった法廷で、裁判長は「西山さん」と名字で呼び続け、西山さんは無罪を言い渡されると小さくうなずいた。閉廷すると深々と頭を下げ、書記官に手渡されたティッシュペーパーで涙を拭いた。

 同地裁には、共に冤罪(えんざい)を晴らそうと闘ってきた仲間や支援者も多く駆け付け、三百二十六人が一般傍聴席の抽選に並んだ。同十時三十五分ごろ、法廷から飛び出した弁護士が「再審無罪」と書かれた紙を広げると、支援者らは万雷の拍手で出迎え、「みかちゃん おめでとう」と書かれた手製の旗を広げた。

 西山さんと共に刑務所で服役し、二〇一六年に「東住吉事件」で再審無罪となった青木恵子さん(56)=大阪府=は「刑務所で一緒に作業までしていた仲なので、特別な喜びがある。良かったね、おめでとうと言いたい。これからは楽しく自分の人生を歩んでほしい」と喜んだ。

 西山さんの中学時代の恩師で「西山美香さんを支える会」の代表を務める伊藤正一さん(72)は「何としても冤罪を晴らしたいと思って活動を続けてきて、ようやくこの日が来た。美香さんには、正々堂々と人生を送って、幸せになってほしい」と喜び、「美香さんの大事な時期を奪った取調官や検察官、真実を見抜けなかった裁判官には反省してほしい」と語気を強めた。

◆障害と向き合い 前へ

 西山さんの道のりは汚名をすすぐ闘いだけでなく、本人も家族も気付いていなかった障害と向き合う日々だった。

 獄中で「うその自白」の背景に軽度知的障害と発達障害があることが分かったものの、本人は受け止めきれずにいた。出所間もない二〇一七年秋の冤罪を訴える集会では、講演で自らの「障害」に触れることはなかった。

 当時から、取材班の一人として、同僚たちと自宅に何度も通うなどして西山さんと交流した。講演で障害に触れない理由を聞くと、「障害のせいで就職ができなくなる」と打ち明けてくれた。

 貫いたのは「両親にたくさん迷惑かけたから、早く働いて支えてあげたい」との思いだった。そして、一八年末、リサイクル工場の社員になった。面接試験で何社も不採用となった末、障害者枠で就職を決めた。

 ただゴールの見えない再審と仕事の両立に「裁判疲れました」「早くふつうに暮らしたい」と苦しんだ。それでも、一九年秋に軽乗用車を購入し、週末には同居する両親のために買い物に出掛けているという。

 二月、名古屋市であった講演会で「障害」を自らきっぱりと語っていた。「精神鑑定で分かって、そのおかげで前より生きやすくなった。周囲に感謝したい」 (成田嵩憲)

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