アビガンについても同様だ。政府はアビガンを第一治療薬に推しているが、専門家会議は「一定の治験が必要」と釘を刺したし、実際に新型肺炎治療の最前線に立つ「日本感染症学会」は「新型肺炎治療に帝人ファーマの喘息治療薬、オルベスコが効果がある」と発表した。政府の発表と、新型コロナ対策の専門家や医師、厚労省の治療方針に乖離が生じている。
16年の第二の成長戦略で安倍総理は富士フイルムと杏林製薬を、再生医療と遺伝子産業を担う民間企業として列挙するほど信頼を寄せている。またキヤノンの御手洗冨士夫名誉会長と富士フイルムの古森重隆会長は、安倍総理とたびたび料亭での会食や面会を重ねる「首相動静」登場の常連だ。
まさに「李下に冠を正さず」。安倍総理の言動は総理に近しい企業への利益供与を疑われかねない不可解さに満ちている。先の厚労省幹部が再び言う。
「新型肺炎対策の足並みの乱れは前述のように、つい最近まで安倍総理のブレーンだった大坪審議官と和泉補佐官の、数年間にわたる専横体制に原因があります。09年の新型インフルエンザ流行当時、大坪さんは厚労省の結核感染症課長でしたが、審議官になってからは『ターミネーター』と揶揄されるようになった。安倍総理は16年に発表した第二の成長戦略に、医療制度改革を掲げました。これを旗印に和泉さんの命じるまま、大坪さんは医師の省内ポスト医療行政や医療戦略の予算を切り捨てていきました。時には難病対策予算の削減に抗議する患者会をも一喝し、あと1年予算がつけられれば臨床研究や治験に結び付くという段階で和泉さんと大坪さんに研究予算を削られ、研究を断念した研究者もいます」
今から2年前、和泉補佐官が持病の発作で倒れたことがあるというが、
「その場に居合わせた大坪さんの救命措置のおかげで事なきを得たのです。それ以来、和泉補佐官は公然と『私の主治医です』と大坪審議官を紹介するようになり、大坪さんはさらに高圧的になってしまった。その公私混同ぶり、専門家に敬意のかけらも見せぬ無礼な言動で敵を作りすぎました。日本医療研究開発機構(AMED)では、末松誠理事長に名指しで批判されています。医療分野の研究事業の予算振り分けの権限が和泉さんと大坪さんに集中していることが最大の問題なのですが、さらに安倍総理と和泉補佐官の医療制度改革が患者本位でも専門家の意見を汲んだものでもなく、財界主導の素人判断。これが新型肺炎対応の混迷を招いています」(厚労省幹部)
ウイルスの蔓延を放置してきた「検査潰し」はまさに、和泉補佐官と大坪審議官の不貞疑惑コンビ、そして安倍総理による暴挙といっていいのではないか。
官僚や専門家に相談することなく安倍総理と政府の独断で記者発表がされるたび、安倍総理に近い企業が利を得るのは単なる偶然なのか。
万が一にも安倍総理がごく近しい財界人に便宜供与を図るために専門家の意見を無視し続けた結果、東京五輪開催も危ぶまれるほどのパンデミックを引き起こしたのであれば、その罪はあまりに大きい。
那須優子(医療ジャーナリスト)