ゼロの超越者 作:浜屋良和
大虐殺が終了し帰宅し守護者達を集めそれぞれの報告会を開いているであろう頃からのお話です。
セバス、ナーベ、ルプスレギナも一緒についてきます。
…まぁ、開いているかどうかは、分かりませんが…(´・ω・`)
ーーーハルケギニアーーー
ハルケギニアの一国、トリステインの王立魔法学院では毎年、昇級試験として使い魔召喚の儀式が行われている。
《サモン・サーヴァント》
使い魔は召喚者の能力によって変わり、ドラゴン、フクロウなど、毎年様々な種類の生き物が召喚される。
時には暴れ狂う生き物が召喚されるが、それを鎮めるのも試験の内である。
そして今もその儀式が行われている最中、なのだがーーー
「次、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
そう呼ばれて、ルイズは立ち上がる。
「はい!」
皆の前から一歩前へ出た。
今日は自身にとって大切な儀式、自分の一生の召使いである使い魔を呼ぶ神聖な日だ。
「ルイズの奴何を召喚するかな?」
「どうせ爆発して終わりさ、賭けたっていいぜ」
などとざわつく周囲の言葉をなるべく無視して、今はこの瞬間に全身全霊を尽くす。
生まれてこの方、あらゆる魔法を爆発という形で失敗させ続け、系統魔法どころか、未だに基礎的な魔法まで扱うことができない。
家族からは才がないと言われ、生徒たちからは『ゼロのルイズ』という不名誉なあだ名が通ってしまい、その屈辱に耐える日々。
そんな生活を、一転して変えることのできる重大な日。それがこの召喚の儀なのである。
(見てなさい、立派な使い魔を呼んでアッと言わせてやるんだから!)
周りの生徒たちは、ほぼ使い魔を召喚し終えた後だった。
皆、それぞれサラマンダーやモグラ、タコやカエル、中にはドラゴンまで召喚しており、それがルイズの焦りを強くする。
もし召喚出来なかったら…
そんな想像をしてしまい、そんな考えを振り払うように頭を振る。
段々とざわめきが薄くなり、静かになっていく中、ルイズは杖を掲げて朗々と唱えた。
「宇宙の果てにある私の僕よ、神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!わたしは心より求め、訴えるわ。我が導きに応えよ!」
詠唱が完了すると、ルイズの目の前が爆発で吹き飛んだ。
土煙が辺り一面に立ち込め、咳き込むと同時に失敗してしまったという思いから涙が流れてしまう。
これでは昇級出来ない。
家に帰される。
私はこれからどうしたらいいの?
私はここまで…こんなにもダメだったの…?
止まらない自己嫌悪で膝が崩れ落ち、地面に手を付きうつ向く。
どこか遠くの方で、爆発音が聞こえるが、知らぬうちに八つ当たりで魔法を使ってしまったのだろう。
きっと注意を受ける。
周りの生徒からも非難されるだろう。
…どうでもいい、どうせ、ここにはもういれなくなるのだから…
「…一体、何が起きた」
「分かりません、周りに人間がいるようですが…」
「魔獣の気配もしますよ!」
「すぐに消しますか?」
「…ハァ…いや、相手の出方が分からない。
まだなにもするな。」
「「ハッ!」」
その声にルイズは顔を上げる。
そして驚愕した。
土煙の中に様々な大きさの影が立っているように見えたのだ。
「とりあえず、この邪魔な土煙を飛ばすか。」
強烈な突風が吹き荒れ、思わず顔を覆う。
少しの後、声があった方に顔を向けるとそこにはーーーー
いままでみたことのないほど美しく、豊満な胸をしている角が生えている、純白のドレスを着ている女性
その女性と同じ位に美しく、その背丈に似合わない豊満な胸をしている赤い目と白い肌で、深紅のドレスを着ている女性
見るからに活発そうで、キラキラした瞳で魔獣を見つめる男の子
見るからにひ弱そうで、オドオドした瞳で杖を抱える女の子
眼鏡をかけ、ジッと回りを観察するような雰囲気を出している、尻尾の生えている男性
執事服に身を包み、鋭い視線で警戒している素振りの男性
まんまるとした形のスカートを履く、これまた美しいメイド
スリットの入ったスカートを履き、キョロキョロと周りを見る赤毛の美しいメイド
キラキラと輝く美しい装甲をした、キチチと音をたてる昆虫の化け物
そして…
ルイズがいままでに見たことがないほどの素晴らしいローブを羽織り、いままでに見たことがないほど豪華な杖を持った、骸骨の化け物
総勢10名(8人と2体?)の奇妙な集団が立っていたーーー
…一体、何が起こっているんだ…?
守護者達に対して余裕の振りをしているがアインズは内心ではかなり動揺していた。
アインズは、ナザリック地下大墳墓で、守護者各員とセバス、《漆黒》モモンの代わりに出向いているナーベラル・ガンマ、カルネ村を担当しているルプスレギナ・ベータを集め、集会を開いていたのだ。
細かい情報など、書類には載せないほど小さな事の確認や自分の考えを皆に再確認させる意味で。
それを怠ったせいで、何度か失敗してしまっているので、なるべく隠し事も引き出すようにしている。
結果オーライだったものもあったが、これからもそうとは限らない。
一つのミスがナザリック地下大墳墓の破滅に繋がっているかも知れないのだ。
そんな、アインズの思いを知ってか知らずか、情報の交換は滞りなく進んでいく。
そんな時、突然部屋の中心に鏡が表れたのだ。
その鏡に、その場にいた全員が、身構える隙もなく、抗う暇も与えられずに吸い込まれていった。
そして、土煙の中である。
…もし私達を狙ったモノであれば即座に攻撃などをされているだろう。
…しかしそういった行動を移す気配は、なにも感じない。
であれば、一体…?
そんな考えを巡らせていると、アルベドが今にも愚か者を皆殺しにしようかと進言してくる。
もし周りにいるのが、友好的なモノや、自分たちよりも強者だった場合、それは余りにも愚策である。
ここは一旦下手に出るべきだ。
これから起こる面倒事を察し、思わず溜め息を付き、皆を宥める。
…しかし、この土煙は邪魔だな。
晴れる様子もなく、ただただ舞い続ける土煙。
…払うにはこの程度で、十分か。
敵対行動だと取られたくないし、久々に使う第一位階の《ウィンド》を使うことにした。
《ウィンド》
周りの土煙は一気に晴れ、周りにいた人間たちの姿が見え始める。
…子供ばかりじゃないか…!?
そういえば帝国にはこんな学園があると聞いたが…
まさかその生徒たちが、強制的に相手を転移させる魔法を使えるだと…?
しかし、その生徒達の顔に写るのは畏怖の顔のみ。
自分たちだと知らずに、意図せずに魔法を使った可能性もあると考え、無言を貫く事にした。
いざとなればジルクニフに会わせろと言えば大丈夫であろう。
全員には《伝言》でそのうまを話し、ダメージを与えるパッシブスキルはすべてオフにし、なにもするなと命令した。
さぁ、どう出る…?
突風の後に土煙が晴れた瞬間から、生徒達に緊張が走る。
誰も動けない。
本能で、動けば死ぬと理解したからだ。
魔法に失敗したルイズを茶化してやろうと一歩踏み出していたキュルケは、どうするべきかと必死に考えていた。
突如突風が吹き荒れ、土煙が晴れた瞬間に表れていた集団を目にして、理解した。
アレらは、ルイズが召喚したのだと。
純粋に、嬉しかった。
ライバルであるルイズの努力がやっと、やっと恵まれたのだ。
友達として、純粋に嬉しかったのだ。
駆け寄りたい気持ちだった。
しかし、それを表に出すことは出来なかったのだ。
アレらが放つ強烈なオーラに身動き一つ取れなくなったから。
…殺されてしまう。
大切な友人が、殺されてしまう。
そんな恐怖が襲うが身体はピクリとも動かない。
当たり前だ、自分の命の方が惜しいのだ。
ルイズ、お願い逃げて…!
キュルケは動かない身体で必死に願う。
大切な大切な親友が、どうか殺されてしまいませんようにーーー…と。
そんな緊迫した中、一人歩み出るものがいた。
コルベールである。
少しでも自分に注意を向かせ、ルイズが、生徒達が逃げる時間を稼ぐために動き出したのだ。
何人かは喋れそうな者もいる。
もしかしたら、交渉できるかもしれない。
私だけが死ぬだけですむかもしれない。
そんな思いだけで、彼は動き出したのだ。
10人の強烈な視線と生徒達の弱々しい視線がこちらを捕らえる。
もう逃げられない。
その先には死しか待ってない。
それでも集団に向かって歩き進める。
ただ、愛すべき生徒達のために。
「私の名は、トリステイン魔法学院の教師、ジャン・コルベールと申します」
膝を付き、見ず知らずのモノに対して最敬礼で名を言う。
愛すべき生徒達のためだ、なんの屈辱でもない。
ほう…と誰かの感心したような声が聞こえる。
「私の名はアインズ・ウール・ゴウン
そしてこちらは私の大切な臣下達だ。」
その一言を聞いて震えてしまう。
見た目は化け物だが、どこかの国…それも様々な種族を従えるほどに強大な国の王を呼んでしまったのではないかーーーと。
しかし同時に、化け物から発せられる理性的な声のトーンに、交渉できる存在なのかもしれないと安堵した。
「しかしトリステイン…聞いたことがないな」
「ど、どういう事でしょうか…?」
声が震える。
「…この付近にバハルス帝国があるはずだが…」
「バハルス帝国…?」
「ん? 知らないのか?」
思わず声に出てしまっていたのだろう。
「い、いえ、そのような国の名前は存じ上げません…」
不快に思われるかもしれないが、正直に答えるしかない。
「…地図は貰えるか?」
思ってもみない提案に
「ハッ!今すぐにでも!」
と飛び付くほどに反応してしまった。
この好機を逃すわけにはいかないのだ。
「しかし、地図は学院長室にしかないのです。
時間を捕らせる訳にもいかないのでついてきていただいてもよろしいでしょうか…?」
「そういうことなら、仕方ないだろう」
よし、後はもう一つ、一番大事な事だ。
「…その間に、生徒達は寮に戻しても…?」
お願いだ…
どうか聞き入れてくれ…!
「あぁ、構わないとも」
コルベールが10名の集団を連れていくと、生徒達の間に流れていた緊張がゆっくりと解れていく。
一体、あの集団はなんだったのか。
ルイズは、魔法に成功したのか。
そんな事は誰にも分からない、が、分かることがある。
あのジャン・コルベール先生が命をとして自分たちを助けてくれたということだけである。
「ルイズ!!」
やっと動けるようになったキュルケはルイズに駆け寄り抱きしめた。
いまだにボーッとしていたルイズは、豊満な胸に包まれた事によって我に帰り、キュルケを引き剥がそうとした。
が、先程までの恐怖のあとの、良かった良かったと騒ぐキュルケの優しい温もりがとても心地よく、少しびくびくしながらキュルケの背中に手を伸ばし、抱きしめ返した。
死の窮地にたたされた二人は、今ある幸せに感謝し、噛み締めるように、ルイズが学院長に呼ばれるまで抱きしめあった。
ーー学院長室
オールド・オスマンがいつものようにロングビルにセクハラを働いていた時、それは起きた。
召喚の儀の様子を写していた《遠見の鏡》が突然大爆発を起こしたのだ。
その威力は固定化のかかった壁を容易く吹き飛ばす程のモノだった。
席を離れていたために被害は被らなかったが、爆風で部屋は大惨事だ。
それを片付けている頃、扉が叩かれる。
返答も待たずに少し扉が開き、その隙間からコルベールが滑り込んできた。
注意しようかと考えたが、コルベールのただならぬ雰囲気に思わず顔をしかめた。
なにか面倒事を持ってきたな…と。
「どうぞ、お入りください」
女性の声と共に扉が開く。
…罠はなにもないな。
探知魔法を使ったがなんの反応もなかった。
…警戒して損したか?
いや、警戒するべきだ。
気を引き締めて入室する。
「私の名は、オールド・オスマン、この学院の学院長をしている者です」
最敬礼で膝まづくが
そんなことよりも目に入ったのはその惨状だ。
散らかり放題で、壁には穴が空いている。
こういうデザインなのか?
つくづく理解できない。
その視線に気付いたのか老人が言う。
「貴殿方が来る少し前に《遠身の鏡》が原因不明の爆発を起こしてしまいましてな、それでこの有り様なのです」
ギクッ。
「生徒達の様子や、監視目的で使っていたのですが、いやはやこれからどうしたものか…」
ギクギクッ。
…それは俺のせいだな、うん。
アインズは集会の際に念のため対情報系魔法の攻勢防壁をはっていたのだ。
そのまま転移したためにそのマジックアイテムに、広範囲に設定した《エクスプロージョン》が発動してしまったのだろう。
それに感付かれたらマズイ、非常にマズイ。
そうか。とだけ告げ話を地図に戻す。
「なんだと…!?」
来客用の椅子に座りー他9人は立っているー地図を広げ
て驚愕した。
自分の知っているあの世界の地図とはまったく異なっていたからだ。
空に浮かぶ都市、アルビオンを初めとする諸外国の名前など、ユグドラシルでもあの世界でも一度も見たことがなかったのだ。
もしかしたら、あの鏡によって異世界に連れてこられたのか…?
ではナザリック大墳墓はどうなる…?
ギルドメンバー達の安否はどうなる…?
色々な考えが錯綜する。
「もしや、貴殿方が東方から来たのでは…?」
「何…?」
話によると、始祖ブリミルがハルケギニアに初めて降り立ったとされる伝説の地域で、遥か東、砂漠の彼方にあるという。
数千年前からそこに住み着いたエルフによって道は絶たれ、今ではどんな場所なのかも分からないそうだ。
エルフとやらの強さも聞いたが、エルフ一人に対して普段の何十倍もの戦力をぶつけねば勝てないほどらしい。
その話をしている最中に視線が後ろに移ったように見えたが、アウラとマーレを恐れての事だろう。
そしてそのエルフを二人も従えるコイツは何者なのか、という視線も感じ取れた。
そんな世界の説明に一段落付いたところでオスマンから「私たちには貴殿方を東方に帰す術はございません…大変申し訳ない」と告げられる。
《サモン・サーヴァント》は一方通行の魔法で、送り返す魔法はないそうだ。
その説明に場が凍る。
後ろにいる守護者達のせいだろう。
これだから
…同感だよ、まったく…
そんな不愉快な魔法があるなんてな。
しかしそのままにしても進まないので、軽く手を挙げ「騒々しい、静かにせよ」と静める。
「私を召喚したのは、一体誰なのかな?」
「入ります…」
まるで死刑執行を待つ囚人のような重い足取りで学院長室に入る。
チラリと後ろを見ると、閉まる扉の隙間から一瞬だけ心配そうにこちらを見ていたキュルケと目があった。
そして共通の想いを抱く。
…せっかく、ちゃんと友達になれた気がしたのに…
もはや、ライバルとしての二人は存在しなかった。
ゆっくりと前を向く。
いる。
あの集団だ。
「ようこそ、ミス・ヴァリエール」
オールド・オスマンの優しい声が聞こえるがそれどころじゃない。
軽く足が震える、が、なんとか持ちこらえて前へと進む。
「ふむ…キミがミス・ヴァリエールか…」
骸骨の化け物ーーアインズがこちらを見る。
びくびくしながらも、こちらもしっかりと目を見る。
すると、目の光が一瞬大きくなったように見えた。
まるで、人間が驚きに目を見開くかのような。
少しの間が空き「キミはどれ程の魔法が使えるのかな?」と質問が飛んできた。
言葉につまる。
恐怖からではない。
『魔法は何も使えません』と自分の口からは言えないからだ。
そんなルイズを見かねて、コルベールが言う。
「彼女は、魔法が使えないのです…」
「なに…?」
チラリとコルベールを見て、またこちらに顔を向ける。
「そんなハズはないと思うが…」
と顎に手を当てる。
「いえ、本当なのです。
これまで何度も魔法に挑戦していますが、結果はすべて爆発。
つまり失敗しているのです」
教え子の辛い現実を告げるコルベールは、苦虫を噛み潰すかのような顔を浮かべる。
「…」
無言でこちらを見るアインズ。
そして
「キミは使い魔がいないと昇級できないそうだね。」
ギクリ。
汗が止まらなくなる。
これを答えるのは、貴殿達を使い魔にーーつまり奴隷にするために召喚しましたと告げるようなモノである。
しかし、不思議と口が動く。
「はい、その通りです。」
殺されてしまう。
せっかく拾った命なのに、どうしてこうなるのか。
「…キミ達『貴族』はずいぶんと野蛮なのだな」
ゴクリ。
軽く息を飲む。
もちろん貴族としてのプライドがある。
だが今回は言われても当然であるだろう。
人間から遠い種族ばかりを召喚していたせいで薄れていたが、彼らにも自分達と同じように家族や友がいたのかも知れないのだ。
今回のルイズによる《サモン・サーヴァント》で全員が痛感しただろう。
そのモノの人生を、自分は知らぬうちに壊してしまっていたのだと。
「キミはどう思う?」
「私は…」
うつむき考える。
“もし”この集団のように誰かに召喚されて、使い魔にされていたとしたらーー
私はきっと、ソイツの事を許せないだろう。
「しかし、それがこの世界の理なのだとすれば
私はこれ以上とやかく言うつもりはない。」
「…」
「さて、キミはその気持ちを知ったうえで、昇級のために私達を使役したいと望むか?」
「…はい」
真っ直ぐと、目を見て答える。
ルイズは必死に考え、二度と戻れないほどに壊してしまったのなら、もう一度最初から、自分が家族として、自分が友として、一緒に作っていくしかない。
と答えを出した。
それは間違っているのかもしれないが、今のルイズの精一杯の答えだった。
「そうか…」
アインズの目の中の光が優しく灯ったような気がした。
「いいだろう、キミの使い魔となろう」
「えっ…」
その場にいた全員が目を見開く。
「使い魔といっても、従属するつもりは一切ない。
あくまでも我々を対等の立場として接してくれ」
そういって、立ち上がり臣下達の方へ身体を向け
「すまない、私のワガママにお前達を巻き込む事になってしまう」
そして頭を深く下げた。
「理由は後で話す、本当にすまない」
頭を下げたままで動こうとしない。
全員がアワアワしていたが、純白のドレスを着た女性「顔をお挙げください」と伝えるとゆっくりと顔を挙げた。
そしてもう一度こちらを向き
「それでは、《コントラクト・サーヴァント》とやらをしてくれないか」
うっ…
使い魔となってくれるのは今にも跳び跳ねたい位に嬉しかったが、それを忘れていた。
《コントラクト・サーヴァント》
呪文を唱え、“ある事”をしなければ発動しない魔法なのだが、その“ある事”が厄介なのである。
…口づけ…接吻…
そう、つまりはキスなのである。
化け物相手とはいえ、相手は人間に近くそして当たり前のように喋る。
どうしようかとモジモジしていると不思議そうにこちらを見る視線を感じとる。
…よしっ!
と覚悟を決め、呪文を詠唱する。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そしてキスをするためにアインズに近付く。
大丈夫…骸骨相手ならファーストキスにはならないわ…
ゆっくりと目を閉じ顔に近付けていくが途中で顔を無理やり横に向かされる。
ムゥ!と頬を鷲掴みにされ変な声を上げるがそれもすぐに塞がれた。
こうしてルイズのファーストキスは
深紅のドレスを着た美しい女性、シャルティア・ブラッドフォールンに奪われてしまうのであった。
「良くやったわ、シャルティア」
ニコニコと、恐ろしい笑みを浮かべる純白の女性。
「アインズ様の唇が奪われるのであれば、私の唇が生け贄になったほうがいいでありんすからね」
妖艶に、軽く唇を舐めるシャルティアと呼ばれた深紅の女性。
自分も唇に手をやる。
も、もしかしてもしかすると…
「貴女の唇、美味しゅういただきましたでありんすえ」
ファーストキスは、女性。
そのキスを思い出してしまい、顔を真っ赤に染める。
「あら、
へなへなと腰を抜かす。
「…まぁ、いい。
どうやら契約が完了したようだな」
彼らの左手の甲が赤く輝いているのが見えた。
どうやら、全員同じルーンのようだった。
コルベールがそれをスケッチにとり、退室していった。
「さて、オスマン学院長
我々はどこに住めばいいのかな?」
「そうであったな…
従来であれば召喚者と一緒の部屋がいいのだが…」
「全員が入れる程に大きいのか?」
「そうでもないのぅ…
空き部屋を使って貰えるかの」
「了解した。
では案内してくれ」
「ミス・ロングビル、お願いできるかの?」
「は、はい、分かりました。」
「…ミス・ヴァリエール、ついていかないのかね?」
したが、したが、と赤くなっているうちに部屋割りが決まっていたようである。
ハッと現実に戻り、ミス・ロングビル達の後を追った。
まさに、王。
それがオスマンのアインズへの評価である。
途中で臣下を鎮めさせたあの態度。
一辺して、ワガママを許してくれと頭を下げるという行為。
臣下に対してそうとう情が厚いのであろう。
そして、得たいのしれなさはトップクラスである。
貴族を責めていたと思えば、ミス・ヴァリエールの使い魔であることを簡単に了承していた点。
あのエルフを二人も臣下に加えている点。
こっそりディテクト・マジックを使ってみたが作動しなかった点。
様々な事が理解できないのだ。
「モートソグニルよ…
ミス・ヴァリエールはとんでもない御方を召喚したようだよ…」
萎縮していたネズミをなでつつ、オールド・オスマンはこれからの学院の事を考えるのであったーーー
ルイズと別れ、空き部屋に入るアインズ。
男子寮、女子寮含め10の空き部屋があったため、それぞれに部屋を持てたのは幸運だった。
「ハァ…謎しかないよ…」
しかし、道はある。
彼女、ルイズだ。
入ってきたときに魔力量を調べたが、とんでもない量の魔力を持っていることに気づいたのだ。
それも、守護者達や自分よりも強大な魔力の量である。
だからこそ、魔法が使えないことが不思議だったのだ。
しかしコルベールの言葉は嘘ではないだろう。
もしかしたら、強大な魔力すぎて力のコントロールが出来ていないのかもしれない。
あの量の魔力であれば未知の魔法…自分たちをあの世界へ帰す魔法も産み出せるかもしれないーーとアインズは考えていた。
飛躍しすぎているかも知れないが、しかし、今はそんな“もしかしたら”にすがるしかないのだ。
一刻も早くあの世界へ戻らなければ…
他のメンバーや、ナザリック地下大墳墓に置いてきた大事な大事な子達にあわなければ…
そして、一割程度の理由だが、彼女の事が気に入ったのだ。
あの目。
あのガゼフ・ストロノーフを彷彿とさせたあの眼差しが、アインズのなくなりかけている心を揺さぶったのだ。
例え勝てないと分かっていても、それでも他の者のために立ち向かう勇気。信念。
そんなものをルイズの瞳から感じたのだ。
ガゼフは失敗してしまった。
もう二度と手に入らないであろう。
しかしルイズはまだまだこれからである。
これからゆっくりと関係を形成していけば、手に入るかもしれない。
そんなコレクター魂を揺さぶったのだ。
守護者達を集め、理由を話した。
驚いてこそいたが、話は飲み込めたようで納得してくれた。
…本当に、いい子達だよ。
「そして、もう一つの理由だが」
大事な事だ、これからのためにも
「お前たちにはここの生活を通して『演技』を覚えてもらいたい」
?が浮かぶ。
「お前達は人間を下等生物と言い見下すが、人間の力を侮ってはいけないのだ」
アルベドやナーベには話したなと付け加える。
「そして、シャルティアの件もある…
あれは私のせいだが、お前たちに同じ失敗を繰り返してほしくはないのだ」
シャルティアが軽くうつむく
「一瞬の怒りに身を任せ、すぐに身体が動かし殺してしまえば、とても大事な情報も得られなくなる可能性もある」
「そんな事を未然に防ぐため、ここでの生活では人に触れ、『演技』を学び、最低限この国内での無益な殺生を禁じる」
「わかったな?」
誰も何も言えない。
「…わかったな?」
「「ハッ」」
二回目でやっと返事が帰って来た。
それで充分だ。
「すまないな、迷惑をかける」
そういって『ゲート』で部屋に戻った。
帰ったあとの部屋では。
「…私達のせいで、あんなに心を痛めていたのですね」
「…そうだね…
私達は人間をゴミとしかみていないが、それにより起きる被害を危惧していたとはね…」
「ウム…反省セネバナルマイ…」
「…でも演技かー、難しいね」
「無理難題を出してこそ、私達の成長に繋がるとアインズ様は考えているのだろうね」
「我モ、アインズ様ノ為ニモヤロウ」
「ぅぅ…自信ないよぅ…」
「それでも、やるしかないでありんすえ!」
「そうね、シャルティアの言うとおりだわ。
失敗してからでは遅いものね」
「うぐ…やめてよアルベド…」
「さて、明日からは人間…生徒達との生活だ。
しかし殺生をしてはいけない…か」
「アインズ様の命令になにかご不満でも…?」
「いや、いや そんなものはないよセバス」
「私達、すっかり蚊帳の外っすねー、ナーちゃん」
「そうね、ルプー。
でも、あの命令は私達にも言っているのよ?」
「それは分かってるっすよー。
それに、演技なら得意っすから大丈ブイっす」
「そう、ならいいけど」
「それよりナーちゃんっすよ?
名前も覚えられないのに、演技なんてできるんすかー?」
「…できるわ」
「あ、目ーそらした」
使い魔が複数など、色々とおかしな所があります。
ゼロの使い魔は二次創作の序盤しか知識がないため、続けられません。
各キャラのイベント
アインズ、教師達を見て『人にモノを教える』事に興味を持ち、いつかは必要になるだろうと学んでいくことに。
ルイズ、ユグドラシルの魔法を使えることが分かり、アインズの元で修行を重ねる。
ある程度コントロールが出来るようになったためコモンマジックを使えるようになる。
キュルケ、そんなルイズが心配で仕方なく、一緒に修行をする事に。
もう離さないとばかりに何があってもルイズに付いていくが、ルイズも満更ではない様子。
コルベール、召喚の儀式の一件で生徒達と同僚達からの株が一気に上がる。
オスマン、遠身の鏡の代わりにと新しい鏡をアインズから貰う。
悪用したら爆発するからと脅されて監視にしか使っていない。
ギーシュ、二股がバレて香水を拾ったセバスに決闘の申し込み。
そして鉄拳制裁。
セバスのその生きざまに感動し、弟子として付きまとうことに。
ルイズ、ナーベとともに剣を買いにいく。コキュートスも行きたがったが、当然お留守番。
デルフが使い手が沢山いることに驚くが、五月蝿いからナーベが使おうとしない。
シエスタ、セバスとルプスレギナとナーベと仲良くなり、ルイズお付きのメイドとして働くことに。
危機は三人によって未然に防がれている。
学園に勤めている平民、召喚の儀式の一件で深く考えさせられた一部の生徒からの当たりが弱くなる。
陰ながらアインズの事を「我らが王」と尊敬するように。
ミス・ロングビル、恐れをなしてフーケを廃業。
近付く白い仮面はデミウルゴスが排除し、情報一つに付き給料の2倍の額で雇う事に(ちなみに元手はゴロツキどもからたんまりと)
ピンチになったらデミウルゴスが表れて助けてくれるため、若干ドキドキ。
タバサ、アウラとマーレを見て母を治す薬は作れないかと訪ねるが、失敗。
失意にくれるタバサを見て、シルフィードの背に乗せてくれる事を条件にアウラとマーレがアインズに進言。
精神系の魔法であったため、アインズが治すことに
その後アウラとマーレとタバサの空の旅
アウラの性別に気付かないまま、淡い恋心を持つ。
タバサ、吸血鬼騒ぎを解決しようと動くが、シャルティアもついてきて解決
エルザはシャルティアの寵姫に
モンモランシー、惚れ薬がシャルティア、アルベドの手に渡るが、なんだかんだで使用されることなく返却される。
解除薬も造ることにしたが材料が足りないことに気付き水の精霊に貰いにいくことに
アルベドが色々と作れるモンモランシーに興味を持ち、ついていくことに
アルベドの説得(物理)もあって指輪の事を聞く。
アンリエッタとルイズ、茶番を演じ、怒られる。
ルイズに正直に語り、ルイズとアルベドとアインズが向かおうとするが、更に話を聞いていたキュルケとタバサとギーシュが恩返しの意味も込めて付いていく事に。
途中、ルイズの許嫁であるワルドが姿を表し、アインズの力に惚れて絶対の忠誠を誓う。
コロコロ変わり身なやつなど使い物にならないからといつかは切り捨てる予定。
ルイズは虚無として覚醒。
アルベドは指輪を手に入れモンモランシーに渡す、そしてこれからも何かしらの薬をつくるお願いをするように。
エレオノール、ルイズの才能を開花させてくれたアインズ達に深く感謝。
ルイズの使い魔達が見せる、見たことのない魔法に興味を持ちそれを研究することに。
カトレア、アインズがカトレアの魔力が少しずつ常に漏れていることを見抜き、ルイズと一緒に魔力のコントロールを学ぶことに。
コキュートスは容姿のせいでほぼお留守番、だったが、ルイズの母であるカリーヌに顔見せをしたさい、お互いに武人の魂を感じ、(死なない程度に)決闘をする事に。
公爵も加わり決闘が始まるが、結果はコキュートスの 圧勝。
だが、二人のコンビネーションにコキュートスの装甲に傷がつく。
その様子を見ていたアインズは、力のみでの戦いは愚かであり、例え力が下だとしても実戦の積み重ねや想いの力がその差を埋めるのだと守護者達に諭し、そしてその力を実際に見せてくれた二人に深く感動し、ヴァリエール家ごとアインズ・ウール・ゴウンの庇護下にいれる。
妄想したのはこれくらいですかね。