東京都内のコリアンタウンというと、新大久保を思い浮かべる人も多いでしょう。でも、東京で一番古いコリアタウンは上野・御徒町エリアにあるということをご存知でしたか?
その名も「キムチ横丁」。
コリアンタウン=キムチ、というストレートなこのネーミングに時代を感じてしまいます。さて、そんな「キムチ横丁」は、今はどうなっているのか、ちょっと探索してみました。そこにはすっかり観光地化してしまった新大久保とは一味違うちょっとディープな世界が広がっていました。
キムチ横丁がある上野・御徒町エリアというとどんなイメージを持っていますか?
上野動物園、不忍池、アメ横などがあるものの、新宿、渋谷、六本木などに比べるとやや地味なイメージがあるかもしれませんね。ちなみに御徒町という名前は、江戸時代、徒歩で先駆けをして、将軍の護衛などをした徒歩組と呼ばれる役職の組屋敷が多くあったことに由来しています。
キムチ横丁に行くにはJR御徒町北口改札を降りて、上野広小路側を背に首都高の下を走る昭和通りを越えて、ひとつ目の角を左に曲がれば、もう目の前です。上野駅からも行けますが、こちらのルートのほうが断然分かりやすいと思います。
さて、この「キムチ横丁」のその歴史は戦後間もない混乱期の1948年(昭和23年)頃までさかのぼり、この一帯にキムチ専門店・焼肉店・精肉店・民族衣裳店などが集まったことに端を発しています。
現在も焼肉店、韓国料理店、キムチ専門店、精肉店などが軒を連ねています。店先からはニンニクやゴマ油の香りが漂い、ランチ時になると肉が焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐります。表通りから一歩奥に入ると新宿の思い出横丁を彷彿とさせる路地があり、そこにも小さな店舗が立ち並んでいます。人がすれ違うのもやっとの路地裏の小さな店で食べる焼肉は一体どんな味なのだろうかと、誰もがそう思わずいられなくなる不思議な空間です。
さて、そんなキムチ横丁において親子三代続いた伝統的なキムチを味わえると評判なのが「第一物産上野本店」です。定番の白菜キムチ、オイキムチ、カクテキのほか、さきいかキムチ、ごぼうキムチなど常時10種類以上のキムチが用意されています。
「当店のキムチは白菜などの野菜を切るところから手作りにこだわっています。キムチの味の決め手となる薬念(ヤンニョム)に使う材料も唐辛子、にんにく、アミの塩辛、ゴマ、ショウガなど10数品目の天然材料を使っています」というのは、三代目の姜恵蘭さん。
本来のキムチは、野菜の甘味、唐辛子の辛味、そして乳酸発酵による酸味とうま味が渾然一体となった複雑でコクのある風味が特徴で、乳酸菌やビタミンも豊富で健康にもとってもよい食品です。こんな本格的キムチを味わえるのがここ「キムチ横丁」のひとつの魅力です。
そんな韓国の食文化を通しての多くの人たちと交流したいと、姜さんはキムチや韓国料理をテーマにした料理教室も開いています。「最近は日本人の若い女性の間でも韓国料理やキムチに興味を持ってくれる人が増えてうれしいですね」
伝統的なキムチばかりではありません。同店は他店にはない新感覚のキムチにも果敢に挑戦しています。この時期におすすめなのが「果実みたいなトマトベリー」です。
試食させていただくと、肉厚でジューシーなトマトと、キムチならではの辛味と旨みがからみあい、爽やかですっきりとした味わい。まさにこれからの暑い時期にピッタリの一品です。
さらにおすすめという「カレーにんにくキムチ」を一口。カレーの香りがするためかニンニク独特の匂いもほとんどしません。
ニンニクを食べたいけれど匂いが気になる、というときにもバッチリ。芸能人にもファンが多いというのも納得です。
「キムチ横丁も世代替わりして、ベトナム料理店など色々な店も増えています。キムチにしても焼肉にしても、たとえばカルビを食べるならこの店、ハラミならこの店、白菜キムチならこの店、カクテキならこの店といったように、その店その店で特徴があり、色々と食べ比べてみるのも楽しいですよ」
姜さんがいうように、キムチ横丁は観光客気分で一度だけ行くよりも、何度も足を運んだほうがきっと楽しくなる、キムチのように奥が深い商店街なのかもしれませんね。
昭和の雰囲気を色濃く残す「キムチ横丁」の後は、上野・御徒町エリアの話題のスポットにも立ち寄ってみましょう。
場所は御徒町から秋葉原に向かうガード下。少し前まではどことなく寂れた印象がするエリアでしたが、今大きく変わろうとしています。その先陣となったのが2010年にオープンした「2k540」です。ユニークな名前ですが、これは東京駅を起点にした距離(キロ程)を表す鉄道用語。つまり、東京駅から2キロ540メートル付近にあるという意味なのです。
このエリアにはギャラリー、工房、ショップなど「ものづくり」の店が集まっています。もともと上野、御徒町がある台東区は古くから職人が住んでいた土地だったことから、新しいものづくりの発信基地としてオープンしたそうです。
ちょっと見渡すと個性的な手作り帽子の店や、木彫り工芸品、電車をモチーフにしたチャームなどを扱う店など、他ではあまり目にすることができないショップがずらり。これだけ「ものづくり」の店が集まっているエリアは、全国でもそうはないでしょう。まさに21世紀の“職人の街”といってよいかもしれません。
ショッピングはもちろん、ものづくり体験ができるワークショップが定期的に開催され、ただ眺めるだけではなく、体験ができるのがこちらの特徴です。
さらにこの御徒町-秋葉原間のカード下には、開発第2弾として全国の逸品を集めた食のテーマパーク「ちゃばら」が2014年7月に、そして今年2015年夏には「B-1グランプリ食堂」がオープンします。こちらはその名の通り、全国各地のB-1グルメが食べられる専門店街。「B-1グランプリ」公認の常設店は都内で初めてになるので、この夏、人気を呼ぶのは間違いないでしょう。
「キムチ横丁」という昔ながらのコリアンタウンと、大きく生まれ変わろうとしているガード下。古い街と新しい街が同居する上野・御徒町エリアを、この週末あたりに探索してみてはどうでしょうか。新しい発見が見つかるかもしれませんよ。