居酒屋に行くとつい頼んでしまうポテトサラダ。いつものレシピでも2つの温度を頭に入れておくと、味のレベルが格段にアップします。多少、工程の多い料理ですが、ジャガイモのデンプンをどのように扱うか、乳化ソースの代表であるマヨネーズの扱い方など料理の基本が詰まっているのでマスターして損はなし。
ポテトサラダ
じゃがいも…小4個(350g〜400g、皮を剥いた正味で300gが目安)
きゅうり…1本(60g)
玉ねぎ…1/2本(80g)
ハーフベーコン…70g〜80g(1パック)
オリーブオイル…小さじ2
米酢…大さじ1
マヨネーズ…50g
1.じゃがいもは皮を剥き、四等分に切る。分量外の600ccの水と小さじ1の塩、小さじ1の砂糖を鍋に入れて溶かし、じゃがいもを水から茹でる。沸騰したら弱火に落として10分が目安。
2.きゅうりと玉ねぎは繊維を断ち切るように薄切りにし、重量2%(分量外)の塩を振り、10分〜15分置く。薄切りはスライサーを使うと簡単。
3.ベーコンは細切りにして、オリーブオイル小さじ2と一緒にフライパンに入れ、中火にかけてじっくりと炒める。焦げ目がついたら火を止め、米酢大さじ1を加える。
4.じゃがいもがやわらかく煮えたら鍋の水を捨て、水気を切る。じゃがいもを鍋に戻し、中火にかけて、揺すりながら水分を飛ばす。じゃがいもの表面に粉が吹いてきたら火を止め、お玉の背などで潰し、3のベーコンを汁ごと加えて混ぜる。
5.4のじゃがいもをボウルに移し、2の玉ねぎときゅうりの水気を絞ったものを加えて、混ぜる。じゃがいもの温度が人肌くらい(40℃以下)になったことを確認してからマヨネーズを加え、さっくりと混ぜる。あまり混ぜすぎないこと。好みで黒胡椒を振る。
濃厚さとさっぱりさを併せ持つポテサラの秘密
おいしいポテトサラダは濃厚でありながら口溶けがよく、後味がさっぱりとしたもの。ポテトサラダの難しさはそんな相反する要素を両立させなければならない点にあります。
まずじゃがいもから考えていきましょう。料理が簡単なのはでんぷんの多い粉質のものです。代表的な品種は男爵、キタアカリ、アンデスレッド、ベニアカリなど。粉質のじゃがいもは潰しやすくふんわりとした食感になります。逆にデンプンの少ない「メークイン」などの粘質の品種は潰すのに力が必要ですが、じゃがいもの食感が残りやすく、味もクリーミーに仕上がります。一長一短ですが、オススメはデンプンの多い、粉質のじゃがいもです。
しかし、粉質のじゃがいもであればなんでもいいわけではありません。特に今の時期は「新じゃが」が出回るので注意が必要です。新じゃがはデンプンが少ないのが特徴なので、粉質のじゃがいも、例えばメークインと同様に扱う必要があります。
買ったじゃがいもが混ざってしまった、新じゃがかどうかわからない、という場合には塩水を使います。500ccの水に60gの塩を溶かした塩水を用意し、沈めばデンプン価14%以上です。沈んだじゃがいもだけを使うようにしましょう。
次にじゃがいもの茹で方です。ポテトサラダに使うじゃがいもは『まるごと茹でてから皮を剥く』方法が一般的。しかし、ぼくのオススメは皮を剥き、ある程度切ってから茹でる方法です。まるごと茹でると、茹でムラが必ず出てきます。つまり、中心まで火が通ったときには外側が茹ですぎてしまうわけです。
その点、切ってから茹でれば、均一に火を通すことができます。風味が流れ出てしまうデメリットはありますが、逆にじゃがいものアクを抜き、軽い味にすることができます。
かといってあまりにも小さく切るのは考えものです。日本調理科学学会誌に掲載された『調理法の簡便化が食味に及ぼす影響 : 和え物、浸し物などについて』(松田康子他 女子栄養大学)という論文ではじゃがいもを
・3cm角に切って茹でる
・1.5cm角に切って茹でる
・丸ごと電子レンジ
という条件でそれぞれポテトサラダにし、官能評価を行っています。結果、評価が高かったのは3cm→1.5cm→丸ごとの順でした。小さく切れば早く茹で上がりますが、さらされている表面積が大きくなるので、風味がより失われてしまうのです。妥協点は3cm角くらいでしょう。
この際、塩と砂糖を入れた水で茹でるのもポイント。塩を加えることで組織がゆるみ、細胞同士が離れやすくなるので、あとから潰しやすくなります。また、ポテトサラダはじゃがいもが熱いうちに調味料の味を浸透させることが重要なのですが、あらかじめ塩水で茹でておけば適切な下味がつき、あとからの味付けで慌てないで済むのが大きな利点です。
じゃがいもはしっかりとやわらかくなるまで茹でます。硬いと潰すのに余分な力が必要になり、粘りが出て重たい食感の原因になります。やわらかく茹で上がったじゃがいもは鍋に戻し、再び熱して表面の水分を飛ばします。そこから熱いうちに潰しますが、この作業は鍋のなかで行うと安全です。
じゃがいもはデンプンを含んだ細胞の集合体と考えてください。細胞を固めているのがペクチンというセメントです。じゃがいもを熱するとデンプンに火が通るのとともに、ペクチンがやわらかくなり、おいしい状態になります。しかし、ペクチンは冷めると再び硬くなります。そこに力を加えて乱暴に潰すと、じゃがいもの細胞が壊れ、そこからデンプンが流れ出てくる=粘りが出てきてしまうのです。
熱いうちに潰す──というよりもイメージとしては細胞をバラバラにするつもりで潰してください。潰し過ぎは厳禁です。ある程度、粒感が残っていてもホクホクとして美味しいので、適当なところで炒めたベーコンのドレッシングで下味をつけます。
最後にマヨネーズです。濃厚さを出すためにたくさんのマヨネーズを使うとさっぱり感がなくなり、野暮ったい味になりますし、逆に少なすぎるとぱさついた仕上がりになります。混ぜてみて全体がポロポロにならない程度の量が目安です。ポイントはマヨネーズを加える温度。マヨネーズは水分と油を卵黄のレシチンで乳化させたソースです。じゃがいもが熱いうちにマヨネーズを加えてしまうと乳化が不安定になり、ソースのなかの油滴が大きくなります。油滴が大きいと食べた時に油っぽく感じられるので、味が重たくなってしまうのです。
逆に冷たすぎるとマヨネーズの油滴は小さいままですが、全体に馴染まず一体感が出ません。マヨネーズ最大手、キユーピー株式会社の研究によると最適な温度は40℃。この温度でマヨネーズを和えると油滴の一部が大きくなり、残りは小さいまま残ります。大きな油滴と小さな油滴が混在したこの状態が、濃厚でありつつもさっぱりとした矛盾した状態を作り出してくれるのです。
熱いじゃがいもにきゅうりと玉ねぎを加えて混ぜると温度が下がり、ちょうどこれくらいになるはずです。温度を確かめたらマヨネーズを加え、さっくりと混ぜましょう。ここで混ぜすぎてしまうとさきほど説明した油滴の大きさが均質化した状態になってしまい、またしても味が重たくなってしまいます。
このレシピではベーコンをたっぷりと加えていますが、ハムを使ってもいいですし、あるいは干物を焼いてからほぐしたものや、ほぐしたオイルサーディンの缶詰などを使っても同様につくることができます。最後にポテトサラダは冷蔵庫に入れてはいけません。じゃがいものデンプンがおいしくなくなるβ化が起こりやすい温度は5〜10℃と冷蔵庫の温度と同じ。和えたらほんのり温かいうちに食べるのがオススメです。