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【社会】

犠牲者、加害者の思い 絵に 事故描く34歳画家

「あいちトリエンナーレ」で自身の展示作品を説明する画家の弓指寛治さん=2019年10月、名古屋市で(本人提供)

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 事故で亡くなった人の遺族だけではなく、加害者側にも取材し、犠牲者の横顔や当事者の思いを描く異色の画家がいる。名古屋市の弓指寛治(ゆみさしかんじ)さん(34)だ。二〇一五年、交通事故に遭った母親の自殺がきっかけで、人の死がテーマに。「被害者と加害者それぞれの人生を取材でくみ取り、事故を忘れないよう作品として残したい」と話す。

 三重県伊勢市で生まれ、県内の高校を卒業後、名古屋学芸大大学院を修了。画家を志して一五年、東京のアートスクールに入校した。

 入校後の一五年七月、母親が交通事故で負傷。懸命にリハビリをしていたが、うつ状態になり、同十月に自殺した。つらさを紛らわそうと訪れた交通事故の遺族会で、亡くした家族への遺族の深い思いに触れ「人の死について描こう」と決意。自殺者の旅立ちをイメージした火の鳥の絵が、スクールで認められた。

 スクール時代、過去に交通事故で相手を死亡させた女性らと絵画展を企画。留置場の様子や、自身に向けられた遺族の目を描く女性を見て「被害者側は加害者に対し、どこまで憎しみをぶつけていいのか」と悩んだ。

 昨年夏~秋に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」。弓指さんは栃木県鹿沼市で一一年、てんかんの発作を起こした男性のクレーン車が登校中の小学生の列に突っ込み六人が犠牲になった事故を題材に、複数の絵を展示した。

 「亡くなった一人一人の人生に光を当てたい」。小学生二人の遺族と現場や通学路を歩き、子ども同士の関係やエピソードを細かく聞いた。部屋のロフトからの大ジャンプ、バットを構える真剣な表情、みんなで登校する姿…。生き生きとした子どもたちの様子を見て遺族は喜んでくれた。

 「加害者目線から事故を考えること」にも挑戦。支援団体を通して加害男性や家族の思いを聞き取り、メールでのやりとりを展示した。

 事故被害者の家族である弓指さんにとって、加害者側の思いは最も聞きたくないものという。だが「責めるのでも許すのでもなく、見聞きしたものを写し取っていきたい。それが画家の役割」と話す。

 

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