1 内容
最も多いのは軍勢の狼藉行為を禁じたもので、これは戦乱の際に、進駐してきた軍勢から安全の保障のために発給してもらったもの、ないしは軍勢の側が保護下においた対象に発給したものである。安全保障の根拠となる制札が多く伝存しているのは理解しやすい。また、宛所ないし所蔵者は大部分が寺社だが、戦乱などの際に被害を被りやすく、軍勢とも比較的制札を受け取りやすい関係にあったと思われ、さらに文書自体が残存しやすい寺社に制札が多く残されているのも自然であろう。
唯一民間の制札と言える大島奥津島文書の二点(10・12)は、神社の座における酒配分の定めや徳政の規定に関するもので、この他、事実かはともかく、狂言にも婿取りのために高札を掲げる曲があるなど、多様な内容の制札が、権力者からばかりでなく出されていたであろうことは十分考慮する必要がある。
16世紀後半ころからは、47・58など武家領主から戦後の村への還住の奨励が見られ、また一方で市場や都市の秩序維持や特権付与による市立て、集住などを図るものも見られるようになる。信長の楽市場宛て46、秀吉の三木宛て57などは戦後処理の側面が強いが、後北条氏の荻野新宿宛て77などは新たな市立ての際に出されたものであろう。さらに80・81等の大津船仲間の特権付与など、領主の様々な面での積極的な関与に制札が用いられるようになっていることがうかがえる。
2 形状
武家制札に限られるが、かなりはっきりした時代的な変遷がうかがえる。まず鎌倉期のものは概してかなり縦長で、縦横比では1,8~1,9台のものがあり、またかなり大きなものがあるが、室町期には縦が短くなって縦横比1,5程度のものが多く、大きさも縦40センチ程度になって定型化してくる。そして織豊期ころにはさらに縦が短くなり、縦横比は1,1~1,2程度になる。いずれにしても、いくつかの例外を除けば、板を縦方向に使った縦長の形状であることは一致している。
また、条数を見ると、文明14年(1482)の細川政元17以降は三ヶ条のものが多く、特に軍勢の狼藉停止を命じたものは、大部分が三ヶ条で出されている。木札の制札のみでなく、紙に書かれたものも同様の傾向を示すことから、この時期に、室町幕府の書札礼(しょさつれい)として、禁制の書き方が、そして禁制を主要な内容とする制札についても、「縦長・三ヶ条」という規範が成立したのだと思われる。20・21の山名氏の制札が三ヶ条様式になっていないのは、山名氏が西軍すなわち反幕府方の武将であったため、この規範に従わなかったためだと思われる。使用した板も、幕府系では正目のものを使う傾向があるが、山名氏のものは板目である。
この縦長・三ヶ条という室町幕府の書札礼は、かなり強い影響力を持っていたようで、信長や秀吉などもかなり従っている。
しかし、板を縦位置で使う縦長の様式は、大きさに限界があり、多くの条数ないし行数を盛り込むことができない。特に幅が30センチ程度に限定される正目板の場合制約が大きい。しかるに、前述のように制札の内容は、織豊期ころには狼藉停止を中心とする内容から、都市法など多様なものになり、条数・行数も三条・三行では済まないケースが多くなってくる。
行数を増やすためには、1)板を継ぎ足して幅を広くする、2)板自体を大きくする、3)板を横位置で用いて横長にする、の三つの方法があり、1)伝統的な縦位置と正目板にこだわって板を継いだのが岐阜楽市場宛の信長46、2)正目にはこだわらず、板目板を使って大きな制札を作ったのが三木宛ての秀吉57など、そして3)室町幕府系の板の使い方を全く無視して、横位置・横長の制札を作ったのが、後北条氏の35、77であり、一点づつしか確認できないが、武田(56)・徳川(41)も横長であることから、室町幕府の権威が直接及ばない東国に普遍的な現象だったと考えることができる。今川氏は原本で確認できるものがないが、36が原本の様式を伝えているとすれば横長の可能性もあり、「縦」と「横」の地域がどこで分かれるのかは興味がもたれる。
条数・行数を増やすために最も合理的なのは3)の横位置・横長化で、これならほとんど際限なく多くの内容を盛り込むことができる。江戸時代の幕府系制札は一般的にこの横位置・横長の形態をとっており、これは東国流の様式を受け継いだものとも言えるが、豊臣政権下でも80・81など条数が多いために横長化しているものが見られることからすれば、領主の関与する事項が増大し、いわばおせっかいになって盛り込む内容が増えたために、必然的に横位置・横長になったと考えた方がよいかもしれない。中世的な権力から近世的な権力への変化とも言えよう。
ただ、寺社関係のものには、近世でも縦長、また三ヶ条といった伝統的な形式で出されているものがある。これは、中世以来の故実に則ったもの、という意識によるものであろう。
中世制札一覧(2001年1月12日更新)
(「中世の制札―現存資料の検討から―」大阪人権博物館特別展図録『高札―支配と自治の最前線―』1998年4月を改訂。)
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